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はじめての樹林その2
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全速力で一時間走り続けたにも関わらず、リアムは息切れ一つすることなく、人間が畏怖する森に足を踏み入れた。森の中はあの逸話通り、食用に適した植物が数多く自生していた。八十年間、人間の手が入らずこの状態が維持されたことで、野生動物も大量に住み着いていた。しかも、その野生動物はどれもこれも牙を抜けたように大人しかった。リアムが近づいても逃げるどころか、むこうから近づいてくるほどだ。これほど狩りやすい獲物はそうそういないだろう。
自然の食糧庫、労せずとも安全に食料を手に入れられる場所、全ての生物にとっての楽園。ただ難点があるとすれば、あの話はどうやら真実だったらしく、地面や落葉のような土色以外にも白色の物体がちらほら見える。そのほとんどは動物の骨なのだが、人間らしき骨も散見している。骨に関してはいえば、類人猿も生息しているかもしれないため、彼女としても見間違うかもしれない。しかし、その骨周辺には生前身に着けていたであろう衣類が散乱していた。その時点で、やはりこの亡骸は人間のものなのだろう。
リアムは半分ほど土に埋もれた上腕骨を引っ張り上げると、全体を確認するために手首を回した。
「――骨はあったけど、持っただけでもうボロボロに崩れ落ちてきよるんやけど? これが勝手に動くとか本当にあるんかな? なぁ、おもちはどう思う?」
「チュチュチュ!」
「与太話、作り話、迷信。やっぱおもちもそう思うやんな、リアムもウソやと思う。だって、こんなにボロボロやったら、立つことすら困難。そんなんでウロウロできるはずがない」
おもちと同意見だったことが余程嬉しかったのか、リアムはこれ見よがしにガッツポーズをしていた。実際は意見に相違があるのだが、全身で喜びを表現する彼女を見て彼は、喉まで出ていた言葉を飲み込むと、言い伝えにある残り二つについて注意喚起をした。轟音と銀色の木の意味についておおよそ理解できていたからだ。
落雷のような轟音については散乱する亡骸、衣類を見て分かったことがあった。亡骸には数十発の弾痕が残されていて、衣類にも同様の穴が大量に空いていた。 轟音の正体は銃声と決定づけて問題ないだろう。単発ではなくて連射できるタイプの銃器、尚且つただ乱射できるのではなくて、蜂の巣にできるような圧倒的な装弾数を誇る銃器マシンガン。そして銀色の木というのはそのマシンガンを手にした射手のことだろう。それに周囲を注意深く見てみれば、薬莢や弾丸も落ちている。ただ不思議なことに木々には弾が当たった形跡が一つも見当たらなかった。完治したとしても傷跡が残るはずなのに、この森の植物にはそれが全くない。森自体に何か特別な力があるのかもしれない、そっちのほうを逸話として残すべきではないだろうか。
リアムはおもちの考察に耳を傾けつつも、手の中で砕け散り服に付いた骨の残骸を叩き落としていた。
自然の食糧庫、労せずとも安全に食料を手に入れられる場所、全ての生物にとっての楽園。ただ難点があるとすれば、あの話はどうやら真実だったらしく、地面や落葉のような土色以外にも白色の物体がちらほら見える。そのほとんどは動物の骨なのだが、人間らしき骨も散見している。骨に関してはいえば、類人猿も生息しているかもしれないため、彼女としても見間違うかもしれない。しかし、その骨周辺には生前身に着けていたであろう衣類が散乱していた。その時点で、やはりこの亡骸は人間のものなのだろう。
リアムは半分ほど土に埋もれた上腕骨を引っ張り上げると、全体を確認するために手首を回した。
「――骨はあったけど、持っただけでもうボロボロに崩れ落ちてきよるんやけど? これが勝手に動くとか本当にあるんかな? なぁ、おもちはどう思う?」
「チュチュチュ!」
「与太話、作り話、迷信。やっぱおもちもそう思うやんな、リアムもウソやと思う。だって、こんなにボロボロやったら、立つことすら困難。そんなんでウロウロできるはずがない」
おもちと同意見だったことが余程嬉しかったのか、リアムはこれ見よがしにガッツポーズをしていた。実際は意見に相違があるのだが、全身で喜びを表現する彼女を見て彼は、喉まで出ていた言葉を飲み込むと、言い伝えにある残り二つについて注意喚起をした。轟音と銀色の木の意味についておおよそ理解できていたからだ。
落雷のような轟音については散乱する亡骸、衣類を見て分かったことがあった。亡骸には数十発の弾痕が残されていて、衣類にも同様の穴が大量に空いていた。 轟音の正体は銃声と決定づけて問題ないだろう。単発ではなくて連射できるタイプの銃器、尚且つただ乱射できるのではなくて、蜂の巣にできるような圧倒的な装弾数を誇る銃器マシンガン。そして銀色の木というのはそのマシンガンを手にした射手のことだろう。それに周囲を注意深く見てみれば、薬莢や弾丸も落ちている。ただ不思議なことに木々には弾が当たった形跡が一つも見当たらなかった。完治したとしても傷跡が残るはずなのに、この森の植物にはそれが全くない。森自体に何か特別な力があるのかもしれない、そっちのほうを逸話として残すべきではないだろうか。
リアムはおもちの考察に耳を傾けつつも、手の中で砕け散り服に付いた骨の残骸を叩き落としていた。
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