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はじめての樹林その1
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あの集落から離れて早二か月が経過した。
リアムはノリスの集落から数えて六つ目の集落を目指していた。五つ目の集落までは見慣れた風景、枯れた草木が大半を占める荒野。たまに違う土地に来たのかと思っても、それは災害により発生した亀裂や陥没によって、地形変化しただけで本質的には同じものだった。だが、この先に見える大地はいままではとは明らかに違っていた。枯れた土地から線を引いたかのように切り替わり、緑あふれる大地が広がっていた。その広大な野原の奥には雑木林が見える。
あの雑木林を人間たちは【亡骸樹林】と呼び、第二の禁足地として畏怖している場所だ。過去に生還した人間が一人だけいたらしい。蒼白顔で彼が語った内容が恐ろしかったこともあり、行商人を通じて各集落にあっという間に広まった。伝達されていく際にいつしかあの森は、亡骸樹林と呼ばれるようになった。言い伝えとして残っているのは大まかに三つ、遺棄された数千、数万の白骨死体が今もなお、成仏できずに彷徨っている、落雷のような轟音が聞こえたら地に伏せろ、銀色の木を見たら諦めろ。
数百年前にあったされる逸話のため、年月が経つにつれて徐々に内容は変化し廃れていくのは必然。八十年ほど前に食料を求めて数十人の人間が亡骸樹林に向かったが、誰一人として帰ってこなかった。その人間の子供から直接聞いた話だ、老齢のため多少は改ざんされているかもしれないが、森に入れば戻ってこれない、この一点に関しては合致している。ならば、あの森の中には何かしらの脅威があることは確かなのだろう。だからといって、森に入らないという選択肢はない。理由は簡単、この森を抜けた先に目指す集落がある。ただこの情報に関しては確証を得ていない、あの逸話で集落があったと語られているだけで、当たり前の話ではあるが実際に訪れた人間は一人もいないからだ。
リアムは砂埃が舞う荒野を抜けて、緑の絨毯が敷かれた野原に立った。まずはじめに彼女が感じたのは歩きやすさだった。生い茂った芝生が足にかかる負担を減らすクッションの役割をしている。また歩くたびに雪とは異なる音、感触が彼女の興味を引いた。芝生を踏み鳴らし存分に楽しんだところで、今度は亡骸樹林に向かって野原を駆け抜けた。彼女が速度を上げれば上げるほど、爽やかな風が体全身を撫でて通り過ぎていった。天気は相も変わらず雲ひとつない晴天そのもの、土地が変わったとしても地続きのため、これといった変化はないと思っていた。だが、実際にいま感じているものは全く違った。荒野で耳にしたことがない虫の音、鼻腔をくすぐる草木の香に、緑に映える色鮮やかな百花。そのことに気づいた時には、彼方に見えていたはずの亡骸樹林がもう目の前にまで迫っていた。彼女は人間が徒歩で丸一日はかかるであろう距離をたったの一時間で踏破していた。
リアムはノリスの集落から数えて六つ目の集落を目指していた。五つ目の集落までは見慣れた風景、枯れた草木が大半を占める荒野。たまに違う土地に来たのかと思っても、それは災害により発生した亀裂や陥没によって、地形変化しただけで本質的には同じものだった。だが、この先に見える大地はいままではとは明らかに違っていた。枯れた土地から線を引いたかのように切り替わり、緑あふれる大地が広がっていた。その広大な野原の奥には雑木林が見える。
あの雑木林を人間たちは【亡骸樹林】と呼び、第二の禁足地として畏怖している場所だ。過去に生還した人間が一人だけいたらしい。蒼白顔で彼が語った内容が恐ろしかったこともあり、行商人を通じて各集落にあっという間に広まった。伝達されていく際にいつしかあの森は、亡骸樹林と呼ばれるようになった。言い伝えとして残っているのは大まかに三つ、遺棄された数千、数万の白骨死体が今もなお、成仏できずに彷徨っている、落雷のような轟音が聞こえたら地に伏せろ、銀色の木を見たら諦めろ。
数百年前にあったされる逸話のため、年月が経つにつれて徐々に内容は変化し廃れていくのは必然。八十年ほど前に食料を求めて数十人の人間が亡骸樹林に向かったが、誰一人として帰ってこなかった。その人間の子供から直接聞いた話だ、老齢のため多少は改ざんされているかもしれないが、森に入れば戻ってこれない、この一点に関しては合致している。ならば、あの森の中には何かしらの脅威があることは確かなのだろう。だからといって、森に入らないという選択肢はない。理由は簡単、この森を抜けた先に目指す集落がある。ただこの情報に関しては確証を得ていない、あの逸話で集落があったと語られているだけで、当たり前の話ではあるが実際に訪れた人間は一人もいないからだ。
リアムは砂埃が舞う荒野を抜けて、緑の絨毯が敷かれた野原に立った。まずはじめに彼女が感じたのは歩きやすさだった。生い茂った芝生が足にかかる負担を減らすクッションの役割をしている。また歩くたびに雪とは異なる音、感触が彼女の興味を引いた。芝生を踏み鳴らし存分に楽しんだところで、今度は亡骸樹林に向かって野原を駆け抜けた。彼女が速度を上げれば上げるほど、爽やかな風が体全身を撫でて通り過ぎていった。天気は相も変わらず雲ひとつない晴天そのもの、土地が変わったとしても地続きのため、これといった変化はないと思っていた。だが、実際にいま感じているものは全く違った。荒野で耳にしたことがない虫の音、鼻腔をくすぐる草木の香に、緑に映える色鮮やかな百花。そのことに気づいた時には、彼方に見えていたはずの亡骸樹林がもう目の前にまで迫っていた。彼女は人間が徒歩で丸一日はかかるであろう距離をたったの一時間で踏破していた。
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