44 / 84
はじめての樹林その1
しおりを挟む
あの集落から離れて早二か月が経過した。
リアムはノリスの集落から数えて六つ目の集落を目指していた。五つ目の集落までは見慣れた風景、枯れた草木が大半を占める荒野。たまに違う土地に来たのかと思っても、それは災害により発生した亀裂や陥没によって、地形変化しただけで本質的には同じものだった。だが、この先に見える大地はいままではとは明らかに違っていた。枯れた土地から線を引いたかのように切り替わり、緑あふれる大地が広がっていた。その広大な野原の奥には雑木林が見える。
あの雑木林を人間たちは【亡骸樹林】と呼び、第二の禁足地として畏怖している場所だ。過去に生還した人間が一人だけいたらしい。蒼白顔で彼が語った内容が恐ろしかったこともあり、行商人を通じて各集落にあっという間に広まった。伝達されていく際にいつしかあの森は、亡骸樹林と呼ばれるようになった。言い伝えとして残っているのは大まかに三つ、遺棄された数千、数万の白骨死体が今もなお、成仏できずに彷徨っている、落雷のような轟音が聞こえたら地に伏せろ、銀色の木を見たら諦めろ。
数百年前にあったされる逸話のため、年月が経つにつれて徐々に内容は変化し廃れていくのは必然。八十年ほど前に食料を求めて数十人の人間が亡骸樹林に向かったが、誰一人として帰ってこなかった。その人間の子供から直接聞いた話だ、老齢のため多少は改ざんされているかもしれないが、森に入れば戻ってこれない、この一点に関しては合致している。ならば、あの森の中には何かしらの脅威があることは確かなのだろう。だからといって、森に入らないという選択肢はない。理由は簡単、この森を抜けた先に目指す集落がある。ただこの情報に関しては確証を得ていない、あの逸話で集落があったと語られているだけで、当たり前の話ではあるが実際に訪れた人間は一人もいないからだ。
リアムは砂埃が舞う荒野を抜けて、緑の絨毯が敷かれた野原に立った。まずはじめに彼女が感じたのは歩きやすさだった。生い茂った芝生が足にかかる負担を減らすクッションの役割をしている。また歩くたびに雪とは異なる音、感触が彼女の興味を引いた。芝生を踏み鳴らし存分に楽しんだところで、今度は亡骸樹林に向かって野原を駆け抜けた。彼女が速度を上げれば上げるほど、爽やかな風が体全身を撫でて通り過ぎていった。天気は相も変わらず雲ひとつない晴天そのもの、土地が変わったとしても地続きのため、これといった変化はないと思っていた。だが、実際にいま感じているものは全く違った。荒野で耳にしたことがない虫の音、鼻腔をくすぐる草木の香に、緑に映える色鮮やかな百花。そのことに気づいた時には、彼方に見えていたはずの亡骸樹林がもう目の前にまで迫っていた。彼女は人間が徒歩で丸一日はかかるであろう距離をたったの一時間で踏破していた。
リアムはノリスの集落から数えて六つ目の集落を目指していた。五つ目の集落までは見慣れた風景、枯れた草木が大半を占める荒野。たまに違う土地に来たのかと思っても、それは災害により発生した亀裂や陥没によって、地形変化しただけで本質的には同じものだった。だが、この先に見える大地はいままではとは明らかに違っていた。枯れた土地から線を引いたかのように切り替わり、緑あふれる大地が広がっていた。その広大な野原の奥には雑木林が見える。
あの雑木林を人間たちは【亡骸樹林】と呼び、第二の禁足地として畏怖している場所だ。過去に生還した人間が一人だけいたらしい。蒼白顔で彼が語った内容が恐ろしかったこともあり、行商人を通じて各集落にあっという間に広まった。伝達されていく際にいつしかあの森は、亡骸樹林と呼ばれるようになった。言い伝えとして残っているのは大まかに三つ、遺棄された数千、数万の白骨死体が今もなお、成仏できずに彷徨っている、落雷のような轟音が聞こえたら地に伏せろ、銀色の木を見たら諦めろ。
数百年前にあったされる逸話のため、年月が経つにつれて徐々に内容は変化し廃れていくのは必然。八十年ほど前に食料を求めて数十人の人間が亡骸樹林に向かったが、誰一人として帰ってこなかった。その人間の子供から直接聞いた話だ、老齢のため多少は改ざんされているかもしれないが、森に入れば戻ってこれない、この一点に関しては合致している。ならば、あの森の中には何かしらの脅威があることは確かなのだろう。だからといって、森に入らないという選択肢はない。理由は簡単、この森を抜けた先に目指す集落がある。ただこの情報に関しては確証を得ていない、あの逸話で集落があったと語られているだけで、当たり前の話ではあるが実際に訪れた人間は一人もいないからだ。
リアムは砂埃が舞う荒野を抜けて、緑の絨毯が敷かれた野原に立った。まずはじめに彼女が感じたのは歩きやすさだった。生い茂った芝生が足にかかる負担を減らすクッションの役割をしている。また歩くたびに雪とは異なる音、感触が彼女の興味を引いた。芝生を踏み鳴らし存分に楽しんだところで、今度は亡骸樹林に向かって野原を駆け抜けた。彼女が速度を上げれば上げるほど、爽やかな風が体全身を撫でて通り過ぎていった。天気は相も変わらず雲ひとつない晴天そのもの、土地が変わったとしても地続きのため、これといった変化はないと思っていた。だが、実際にいま感じているものは全く違った。荒野で耳にしたことがない虫の音、鼻腔をくすぐる草木の香に、緑に映える色鮮やかな百花。そのことに気づいた時には、彼方に見えていたはずの亡骸樹林がもう目の前にまで迫っていた。彼女は人間が徒歩で丸一日はかかるであろう距離をたったの一時間で踏破していた。
10
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【完結】知られてはいけない
ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。
他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。
登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。
勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。
一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか?
心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。
(第二回きずな文学賞で奨励賞受賞)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》
EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ――
とある別の歴史を歩んだ世界。
その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。
第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる――
日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。
歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。
そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。
「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。
そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。
制刻を始めとする異質な隊員等。
そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。
元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。
〇案内と注意
1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。
2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。
3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。
4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。
5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる