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はじめての寵愛その4

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 グラファスはすぐさま腰に手を回し愛銃に触ろうとするが、それらしき感触がない。エレベーターを降りる時に、自然とあのガスマスクに背中を向けていた。マンションを出てからは、常に一メートル以上離れてついて来ていた。盗める機会があるとすれば、エレベーターを降りた瞬間だろう。動揺していたとはいえ、一キロ以上もある銃が腰からなくなっているのに気づけないとは我ながら情けない。元より抵抗する気力など消え失せてはいたが、とうとう唯一の抵抗手段もなくなってしまった。絶望の淵に追い込まれながらも、まだ生き残る方法はないかと模索するために時間稼ぎをすることにした。

「私からも質問いいか?」
「はい、なんでございましょうか?」
「彼以外にも五十人ほどいたと思うのだが、彼らはどこにいる?」
「グラファス様、私にお尋ねしなくても最初からお気づきではありませんか?」
「ああ……あの一帯がペンキをぶちまけたように赤いのはやはりそうだったのか。それで私も殺すのか?」
「はい、もちろんでございます。あの子に寄り着く害虫は全て駆除しないといけませんので、ご了承ください」
「まだ他にも……」

 グラファスは激痛に襲われ全身は脱力し地面に誘われるように倒れ込んだ。胸元あたりが濡れているのかひんやりとして何とも心地よい。体が冷たくなるにつれて痛みは減り眠気が増していく、このまま意識を手放すのも悪くない。恋焦がれたあの少女がこの集落にさえ立ち寄らなければ、歪み狂った愛情を抱く死神が来ることもなかった。だが、こうなることもまた運命、ならば潔く受け入れることにしよう。心残りがあるとすれば、あの少女に会えずに終わることぐらいか。

「あらまだなにか仰ってる途中でしたか? それは誠に申し訳ございませんでした。それとグラファス様、もうこの銃はもう必要ないものですよね? これいただいていきますね、千九百年代前期の銃器って、貴重なんですよ。定期的に整備もされていて大事に扱っていたのが分かります、その点も非常に評価が高いです。グラファス様、あの聞いてますか? 心臓を撃ち抜きましたが、絶命するにはまだ早いですよ。私はグラファス様を褒めているのです、これほど一つの銃に愛情を注いでいたことに称賛しております。グラファス様があの子に心惹かれなければ、いい愛銃仲間になれたかもしれませんのに、非常に残念です。あらもう聞こえていないようですね、それではこちら……いただいていきますね」

 グラファスの僅かに残っていた意識はそこで途絶えた。
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