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はじめての逃走その1
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おもちの嫌な予感は当たっていた。ノリスがこの集落を飛ばして次の集落を目指せといったのは、こういった面倒ごとに巻き込まれないようにするためだった。だが、この少女はそのことを忘れ、こともあろうか自分から面倒ごとに首を突っ込んでいる。彼女が創造主のことになると、暴走するのは分かっていた。今回は成長のためだと少し手綱を緩めすぎたのかもしれない。ノリスみたいな人間ばかりじゃないんだと、彼女に勉強させるという点においては今回の件は正しいともいえる。ただこの先の状況次第では、強制終了させないといけない。
入室してから十分ほどが経過した頃、グラファスが言っていた人間が来た。脂ぎった肌にだらしなく太った体、いるだけで息苦しくなるほどの不快な臭いを纏わせていた。リアムはこの時はじめて人間に対して嫌悪感を覚えた。ノリスやグラファス、今まで見てみた人間とは別のもの。これが人間なのかと、もし本当に人間だったとしても亜種なんじゃないかと、疑いが最後まで晴れることはなかった。
その人間はリアムを舐め回すように眺めては下品な笑みを浮かべていた。その不快な行動が数十秒続いたところで、見張りに向かって「おい!」と叫ぶと、見張りはドアを閉めて部屋から離れていった。
「ぶひひ、君のその髪、瞳、肌、そのどれもがまさに芸術、神が作りし最高傑作。その未発達の体を私の思うがままにできるなんて、私は本当についている!」
リアムはその虫唾の走る声と両手をわしゃわしゃと動かす人間に、身震いし軽蔑のまなざしを向けた。今すぐに存在ごと抹消してやろうかという拒絶反応すら起こしているのだが、この仕事を全うしなければ、お母さんに会えないため歯を食いしばり自制した。その行動が余計に化け物の劣情を刺激してしまう。
「あぁあああ~、そんな目で見られたら我慢できないじゃないか! 存分に私を楽しませてくれよぉ~!」
それが醜悪な人間の遺言となった。過去にリアムを正気に戻したあの一撃、おもちの目にも留まらぬ音速の掌底が放たれた。ついさっきまで人間だったそれは、首から上がなくなっていた。頭部だったものは、天井にこびりつき等間隔でポタポタと赤い雫を落とし、肉塊を包むスーツがその雫を受け止めていた。
赤く染まっていくスーツを眺めつつリアムはため息をついた。足元では真っ白なハムスターが満足げに残心をとっていた。
「――おもち、これどうすんのよ?」
「チュウ!」
「スッキリしただろって? いやまあ気分爽快ではあったけど、これじゃ仕事失敗。お母さんに会えへんやん」
「チュ、チュチュウ~」
「あの人間は嘘つき。本当に創造主の知り合いであれば、娘のお前に監視をつけてまで部屋に閉じ込めない。それにそのお前がさっき感じた、その感情が何よりの証拠。つまり、リアムはグラファスに騙されたってこと?」
「チュチュ、チュチュ!」
「何度もそう言っただろって、そう言われても全然記憶にない。あと、ノリスのような人間ばっかじゃないことを教えるためにあえて黙ってた? な~るほど、そっちは別に教えてくれても良かったやん!」
リアムのなかではこれで会話は終了していた。だが、おもちはまだ言い足りないのか説教じみた小言を吐き続けていた。最初は返事をしていたリアムだったが、さすがに限界が訪れたようで大声で言い返してしまった。その結果、警報のように彼らを呼び寄せることとなる。
入室してから十分ほどが経過した頃、グラファスが言っていた人間が来た。脂ぎった肌にだらしなく太った体、いるだけで息苦しくなるほどの不快な臭いを纏わせていた。リアムはこの時はじめて人間に対して嫌悪感を覚えた。ノリスやグラファス、今まで見てみた人間とは別のもの。これが人間なのかと、もし本当に人間だったとしても亜種なんじゃないかと、疑いが最後まで晴れることはなかった。
その人間はリアムを舐め回すように眺めては下品な笑みを浮かべていた。その不快な行動が数十秒続いたところで、見張りに向かって「おい!」と叫ぶと、見張りはドアを閉めて部屋から離れていった。
「ぶひひ、君のその髪、瞳、肌、そのどれもがまさに芸術、神が作りし最高傑作。その未発達の体を私の思うがままにできるなんて、私は本当についている!」
リアムはその虫唾の走る声と両手をわしゃわしゃと動かす人間に、身震いし軽蔑のまなざしを向けた。今すぐに存在ごと抹消してやろうかという拒絶反応すら起こしているのだが、この仕事を全うしなければ、お母さんに会えないため歯を食いしばり自制した。その行動が余計に化け物の劣情を刺激してしまう。
「あぁあああ~、そんな目で見られたら我慢できないじゃないか! 存分に私を楽しませてくれよぉ~!」
それが醜悪な人間の遺言となった。過去にリアムを正気に戻したあの一撃、おもちの目にも留まらぬ音速の掌底が放たれた。ついさっきまで人間だったそれは、首から上がなくなっていた。頭部だったものは、天井にこびりつき等間隔でポタポタと赤い雫を落とし、肉塊を包むスーツがその雫を受け止めていた。
赤く染まっていくスーツを眺めつつリアムはため息をついた。足元では真っ白なハムスターが満足げに残心をとっていた。
「――おもち、これどうすんのよ?」
「チュウ!」
「スッキリしただろって? いやまあ気分爽快ではあったけど、これじゃ仕事失敗。お母さんに会えへんやん」
「チュ、チュチュウ~」
「あの人間は嘘つき。本当に創造主の知り合いであれば、娘のお前に監視をつけてまで部屋に閉じ込めない。それにそのお前がさっき感じた、その感情が何よりの証拠。つまり、リアムはグラファスに騙されたってこと?」
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