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はじめての別れその1

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 リアムは人生ではじめての食事を体験した。感想を述べるのであれば、どれも感動的な味で生涯忘れることはないだろうとだけ伝えておこう。

 リアムが保護されてから一か月が経過した。必然的に人間と接する機会が増えたことで、より効率よく観察できた。こちらから人間に馴染もうとせずとも、向こうから勝手に寄ってきてくれる。ただ連続して構いに来るため一人になるタイミングがない、途轍もなくストレスが溜まるが、そのおかげで言動は幾分マシにはなった。
 またその際に、本で得た知識を実際に経験したり、本に載っていない新たな知識も習得することもできた。そのなかで最も彼女が興味を持ったものは、自分が住んでいた家があったあの廃村、山岳地帯についてであった。あの一帯は【禁足地】と呼ばれ、立ち入ってはならない聖域または魔境として口伝されていた。口伝の内容としては、山に許可なく踏み入った者は山の養分として一生を終えるというものだ。
 そのためノリスも他の人間も一度たりとも足を踏み入れたことはない。ただ禁足地は他の場所よりも食料となる植物が多く生えている。なので、人間たちは奥地にまで進まず、禁足地周辺で畏怖の念を抱きつつ生きるために採取を行っている。彼女がノリスと出会ったのが、ちょうどその真っ最中だったというわけである。

 リアムはアパートを背に前方を指差し「新天地に向けて出発!」と高々に宣言した。彼女を取り囲むように集落中の人間が集合していた。その輪の中から一人の人間が、片足を上げ今にも一歩踏み込み囲いから抜け出そうとする彼女を呼び止めた。

「ちょっと待てぇ~! ここを出て行くのは許したけど、別れの挨拶ぐらい済ませてからにしなさい!」
「――別れの挨拶?」
「あんた、はじめて聞いたみたいな顔をするんじゃないよ……これが今生の別れってわけじゃないかもしれないけどさ、年単位で会えなくなることは確定してるじゃないか。だから、一応みんなに一言だけでも言っておこうって、昨日話しただろ?」
「そんなこと言っていたような? ううん、お世話になりました――ノリス、これでいい?」

 リアムは振り返りノリスに向かって、いまの挨拶で問題ないかと彼らの前で確認をとった。その愛らしい仕草に彼らは頬を緩めそれぞれ顔を見合わせるが、そんなことなど露知らず二人は話を続けた。

「あ~うん、思っていた以上に短かったけど、まあ良しとしようか。それじゃ行こうか」
「ノリスもどっか行くん?」
「私が途中まで同行するってのも……もしかして忘れてる、わけないよな!」
「も、もちろん記憶しております、はい!」

 一度は耐えることができた一同だったが、さらなる追撃によりついに限界を超えた。急に腹を抱えて大声で笑い始めた彼らと、その急激な行動に戸惑い会話を止めるリアムとノリス。そんな謎の構図ができあがる。温かな笑い声に包まれながらの旅立ち、これが何度も経験するであろう出会いと別れのはじまりであった。
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