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はじめての旅支度その2
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「やっぱこれかな~、他の二つも悪くはないけど――お母さんだったら、きっとこれを選ぶ!」
「チュー、チュ?」
「うん、服はこれにする。他はもうバッチリ用意してるから、いつでもいけるで!」
服が決まってからは一分もかからずに旅支度を終えた。リアムが選んだ服装はお母さんに類似したものとなった。独特なデザインセンスのTシャツにキュロット、歩きやすさ重視のスニーカーと子供用にリフォームされた白衣、そして髪留め用のシュシュ。本当に似せるのであれば、メガネも身に着ける必要があるが、度数付きメガネのためかけられなかった。レンズを外して伊達メガネにしようと思えばできたが、数あるうちの一個とはいえお母さんのものを傷つけたくなかった。
また服装を似せたのには理由がある。それはお母さんを探す際に手間が省けるということだ。似た服装をしていれば『この服装を着た人物を探している』と言うだけで、質問を済ませることができる。おもちの入れ知恵によるものだが、服選びに三時間もかかるのと逆ギレされることだけは予想外。
そして前もって用意していたベルトポーチを腰に取り付けて、旅支度の完成である。
リアムは自分でも何回やったか覚えていないほど、繰り返した指先確認を済ませると、震えながらドアノブに手をかけた。
「準備万端、忘れ物もなし。ふぅ~、このドアを開ければ外なのよね?」
「チュウー」
「そんなに緊張するなって言われても無理やって、おもちはまだ外出したことあるかもしれんけど、リアムは今日がはじめてやねんで?」
「チュチュウ、チュ!」
「箱に入れられた上に、寝てたから知らん――確かに。せやな、お母さんを絶対見つけて、みんなで家に帰ろう。おもち、たまにはいいこと言うやん」
リアムは白衣の胸ポケットから顔を覗かせる同系色のハムスターを褒めると、一呼吸したのちドアノブを回した。はじめて外に出た彼女は目の前に広がる景色を食い入るように見つめた。外の世界は謎の白い物質があたり一面を白く塗りつぶしていた。触るとひんやりと冷たく食すと無味無臭でスッと消えてなくなる。歩くたびにシャクシャクと音がして、踏んだ場所には足跡が残る。
お母さんからはここは廃村だと教わっていたが、周囲を見渡しても建築物と呼べるものが、この白い屋根の家しかない。村とは一定数の人間が寄せ集まり生活する場所。その人間が居住するための家屋が一つも見当たらない。おもちは全くといっていいほど雪に興味がないらしい。質問しても素っ気なく、雪に埋もれて見えないだけじゃないかと、言うだけでそれ以上口を開こうともしなかった。
そのおもちが一つだけ興味を持ったものがあった。雪が積もり赤い屋根が白くなった生家、その近くに一本だけ生えている桜の木。その桜花はリアムの髪を彷彿されるほど艶やかな色彩をしていた。寒気により他の草木が花や葉を散らせるなか、この桜の木だけは散るどころか咲き乱れていた。
「チュー、チュ?」
「うん、服はこれにする。他はもうバッチリ用意してるから、いつでもいけるで!」
服が決まってからは一分もかからずに旅支度を終えた。リアムが選んだ服装はお母さんに類似したものとなった。独特なデザインセンスのTシャツにキュロット、歩きやすさ重視のスニーカーと子供用にリフォームされた白衣、そして髪留め用のシュシュ。本当に似せるのであれば、メガネも身に着ける必要があるが、度数付きメガネのためかけられなかった。レンズを外して伊達メガネにしようと思えばできたが、数あるうちの一個とはいえお母さんのものを傷つけたくなかった。
また服装を似せたのには理由がある。それはお母さんを探す際に手間が省けるということだ。似た服装をしていれば『この服装を着た人物を探している』と言うだけで、質問を済ませることができる。おもちの入れ知恵によるものだが、服選びに三時間もかかるのと逆ギレされることだけは予想外。
そして前もって用意していたベルトポーチを腰に取り付けて、旅支度の完成である。
リアムは自分でも何回やったか覚えていないほど、繰り返した指先確認を済ませると、震えながらドアノブに手をかけた。
「準備万端、忘れ物もなし。ふぅ~、このドアを開ければ外なのよね?」
「チュウー」
「そんなに緊張するなって言われても無理やって、おもちはまだ外出したことあるかもしれんけど、リアムは今日がはじめてやねんで?」
「チュチュウ、チュ!」
「箱に入れられた上に、寝てたから知らん――確かに。せやな、お母さんを絶対見つけて、みんなで家に帰ろう。おもち、たまにはいいこと言うやん」
リアムは白衣の胸ポケットから顔を覗かせる同系色のハムスターを褒めると、一呼吸したのちドアノブを回した。はじめて外に出た彼女は目の前に広がる景色を食い入るように見つめた。外の世界は謎の白い物質があたり一面を白く塗りつぶしていた。触るとひんやりと冷たく食すと無味無臭でスッと消えてなくなる。歩くたびにシャクシャクと音がして、踏んだ場所には足跡が残る。
お母さんからはここは廃村だと教わっていたが、周囲を見渡しても建築物と呼べるものが、この白い屋根の家しかない。村とは一定数の人間が寄せ集まり生活する場所。その人間が居住するための家屋が一つも見当たらない。おもちは全くといっていいほど雪に興味がないらしい。質問しても素っ気なく、雪に埋もれて見えないだけじゃないかと、言うだけでそれ以上口を開こうともしなかった。
そのおもちが一つだけ興味を持ったものがあった。雪が積もり赤い屋根が白くなった生家、その近くに一本だけ生えている桜の木。その桜花はリアムの髪を彷彿されるほど艶やかな色彩をしていた。寒気により他の草木が花や葉を散らせるなか、この桜の木だけは散るどころか咲き乱れていた。
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