20 / 84
顔馴染みの行商人その7
しおりを挟む
「本来なら親父が言うべきなんだけど、あーなってしまってるからさ。イデアさん、今日は本当にありがとう。それと銃口を向けたことを謝罪します、ごめんなさい」
「私の身なりを見て警戒しない方はいらっしゃいませんよ。ですので、謝罪する必要はありません。それに夕食に関しましても、私が好きでやっているだけですし……」
「ご馳走もそうだけど、それだけじゃなくて、何て言えばいいのか考えがまとまらないけどさ。本当に僕たちも集落のみんなもイデアさんに感謝してるんだ。だからさ、集落を代表しては……ちょっと言い過ぎだけど、本当に、ありがとうございました」
「では、場所を貸していただいた謝礼として受け取っていただけませんでしょうか。そうしていただけますと、私も助かるのですがどうでしょうか?」
「――レイ。こうなった時のイデアは頑固、絶対に考えを曲げない、面倒」
「言い方が少し気になりますが、リアム様の仰る通りです。私はこう見えても頑固ですよ。それにライ様もそろそろ限界のようですが?」
レイはその問いにどう答えるべきか悩んだが、妹が頬っぺたをパンパンに膨らませて、こっちを凝視しているのが視界に入った瞬間、イデアの提案を受け入れることにした。
食事がはじまるとすぐに兄妹は口いっぱいに料理を放り込んでは、まだ飲み込めていないのにもう次の料理に手を伸ばす。
リアムは兄妹の食欲に驚き手が止まる。隣席からは「食べないの?」と「食べてあげる!」の声が交互に聞こえるたびに、料理が消失するという奇術が、料理がなくなるまで続いた。大量にあった料理の八割は兄妹の糧となった。ただそれよりも一番の衝撃だったのが、イデアがガスマスクをしたまま食事をしていたことだろうか。
夜明け前、静寂のなかでリアムは目を覚ました。昨日はみんな夜遅くまで起きていたこともあって、暴食兄妹はまだ夢の中だ。イデアがいないのはいいとして、泥のように眠っていたはずのダートがいない。そのことが少しだけ気になりつつも、おもちに小声で話しかけた。すると、テーブルに置かれた白衣の胸ポケットから気だるそうにモゾモゾと這い出てきた。
「ダートが起床――稀有。まずは身支度。出発の準備しないと、おもちもそろそろ起きろ。昨日の会話もどうせ聞こえてるんやろ?」
「チュ~」
「よく寝たちゃうねん」
「チュ、チュー?」
「出立っていうわりには、まだベッドで寝てるじゃないかって?」
「――仕方ないやんか。リアムがいま起きたらライを起こしてしまう」
リアムは自分に抱き着くライに視線を向けそう告げた。当初は苦痛で仕方なかった抱き枕化も、今では日常の出来事であり、前ほどの嫌悪感はなくなっていた。だからこそ、今現在どう対応すればいいのか判断に困っている。拘束を解除することは容易いが、両手足でガッチリと固定されているため、少しでも動けば振動が伝わり起こしてしまうかもしれない。
「私の身なりを見て警戒しない方はいらっしゃいませんよ。ですので、謝罪する必要はありません。それに夕食に関しましても、私が好きでやっているだけですし……」
「ご馳走もそうだけど、それだけじゃなくて、何て言えばいいのか考えがまとまらないけどさ。本当に僕たちも集落のみんなもイデアさんに感謝してるんだ。だからさ、集落を代表しては……ちょっと言い過ぎだけど、本当に、ありがとうございました」
「では、場所を貸していただいた謝礼として受け取っていただけませんでしょうか。そうしていただけますと、私も助かるのですがどうでしょうか?」
「――レイ。こうなった時のイデアは頑固、絶対に考えを曲げない、面倒」
「言い方が少し気になりますが、リアム様の仰る通りです。私はこう見えても頑固ですよ。それにライ様もそろそろ限界のようですが?」
レイはその問いにどう答えるべきか悩んだが、妹が頬っぺたをパンパンに膨らませて、こっちを凝視しているのが視界に入った瞬間、イデアの提案を受け入れることにした。
食事がはじまるとすぐに兄妹は口いっぱいに料理を放り込んでは、まだ飲み込めていないのにもう次の料理に手を伸ばす。
リアムは兄妹の食欲に驚き手が止まる。隣席からは「食べないの?」と「食べてあげる!」の声が交互に聞こえるたびに、料理が消失するという奇術が、料理がなくなるまで続いた。大量にあった料理の八割は兄妹の糧となった。ただそれよりも一番の衝撃だったのが、イデアがガスマスクをしたまま食事をしていたことだろうか。
夜明け前、静寂のなかでリアムは目を覚ました。昨日はみんな夜遅くまで起きていたこともあって、暴食兄妹はまだ夢の中だ。イデアがいないのはいいとして、泥のように眠っていたはずのダートがいない。そのことが少しだけ気になりつつも、おもちに小声で話しかけた。すると、テーブルに置かれた白衣の胸ポケットから気だるそうにモゾモゾと這い出てきた。
「ダートが起床――稀有。まずは身支度。出発の準備しないと、おもちもそろそろ起きろ。昨日の会話もどうせ聞こえてるんやろ?」
「チュ~」
「よく寝たちゃうねん」
「チュ、チュー?」
「出立っていうわりには、まだベッドで寝てるじゃないかって?」
「――仕方ないやんか。リアムがいま起きたらライを起こしてしまう」
リアムは自分に抱き着くライに視線を向けそう告げた。当初は苦痛で仕方なかった抱き枕化も、今では日常の出来事であり、前ほどの嫌悪感はなくなっていた。だからこそ、今現在どう対応すればいいのか判断に困っている。拘束を解除することは容易いが、両手足でガッチリと固定されているため、少しでも動けば振動が伝わり起こしてしまうかもしれない。
10
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる