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顔馴染みの行商人その6
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家の中ではダート親子が席に座り、なぜかイデアが夕食の準備をしていた。ダートは本日の戦利品をテーブルに広げ、夕食よりも先に晩酌をはじめていた。その隣ではライが頬杖をつきながら真剣な眼差しで、手のひらサイズの化粧箱を眺めている。
リアムはそんな不思議な状況を横目にライの正面に座るが、それでもまだ帰宅したことに気づいていない。ダートに至ってはもう完全にでき上がっているようで、今にも寝てしまいそうな勢いだ。
それから暫くすると、料理が乗った皿を両手いっぱいに持ったイデアが台所から出てきた。その後方ではレイが寸胴鍋からレトルトをトングで引き上げているのが見えた。
「大変お待ちいたしました。ライ様、ご飯の用意ができましたので、片付けていただけますでしょうか? レイ様もあとは私がいたしますので、席に座っていただいて大丈夫ですよ?」
少々駄々をこねるライにイデアは「せっかくの綺麗な箱が汚れてしまいますよ」と、穏やかな口調で嗜める。化粧箱を汚れから守るために、テーブルから逃がす決意をしたライはすぐさま行動を開始した。神棚に奉納するかのように、壁際にある棚の最上段に化粧箱を置くと、リアムが帰宅していたことは前から知っていましたと言わんばかりにそっと彼女の隣に座った。
「ライはともかく、僕はそういうわけにはいかない。あれだけ値引いてもらった上に料理まで振る舞ってもらうんだから、最後まで手伝う!」
「値引いたつもりはありませんが……では、レイ様引き続きお願いしてもよろしいでしょうか?」
「任せろ!」
レイに視線を向けたままイデアは持ってきた料理を配膳し終えると、またすぐに台所に戻っていった。運ばれてきた料理は全てレトルトか缶詰という長期保存食オンリーディナー。
ジャガイモと野菜を煮ただけの塩スープ、たまに鶏卵が食卓に出る。今日の食事は一生の内で何回食べることができるのかというほど豪勢な食事。また彼らにとって初めて食す未知の料理でもあった。
最後の料理を運ぶ終えたところでレイは酩酊したダートを引きずりベッドに転がすと、イデアにその席に座るように促した。はじめは同席することを拒んでいたイデアだったが、ライの援護射撃により、最後には白旗を上げ席に着いた。晩酌の残がいについてはイデアが首を縦に振るまでの間に、リアムの手によって処分されていた。
「ごっはん、ごっはん、ごっはん!」
「ライ、はしゃぐ気持ちは僕も分からないことはないが、リアムを見習って少しは静かにしろ」
「……わ、かった。大人しくするから、早くごはん」
ライが静かになったのを確認したところで、レイは斜め向かいのイデアに頭を下げ、深謝の言葉を述べた。
リアムはそんな不思議な状況を横目にライの正面に座るが、それでもまだ帰宅したことに気づいていない。ダートに至ってはもう完全にでき上がっているようで、今にも寝てしまいそうな勢いだ。
それから暫くすると、料理が乗った皿を両手いっぱいに持ったイデアが台所から出てきた。その後方ではレイが寸胴鍋からレトルトをトングで引き上げているのが見えた。
「大変お待ちいたしました。ライ様、ご飯の用意ができましたので、片付けていただけますでしょうか? レイ様もあとは私がいたしますので、席に座っていただいて大丈夫ですよ?」
少々駄々をこねるライにイデアは「せっかくの綺麗な箱が汚れてしまいますよ」と、穏やかな口調で嗜める。化粧箱を汚れから守るために、テーブルから逃がす決意をしたライはすぐさま行動を開始した。神棚に奉納するかのように、壁際にある棚の最上段に化粧箱を置くと、リアムが帰宅していたことは前から知っていましたと言わんばかりにそっと彼女の隣に座った。
「ライはともかく、僕はそういうわけにはいかない。あれだけ値引いてもらった上に料理まで振る舞ってもらうんだから、最後まで手伝う!」
「値引いたつもりはありませんが……では、レイ様引き続きお願いしてもよろしいでしょうか?」
「任せろ!」
レイに視線を向けたままイデアは持ってきた料理を配膳し終えると、またすぐに台所に戻っていった。運ばれてきた料理は全てレトルトか缶詰という長期保存食オンリーディナー。
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「ごっはん、ごっはん、ごっはん!」
「ライ、はしゃぐ気持ちは僕も分からないことはないが、リアムを見習って少しは静かにしろ」
「……わ、かった。大人しくするから、早くごはん」
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