関西訛りな人工生命体の少女がお母さんを探して旅するお話。

虎柄トラ

文字の大きさ
上 下
19 / 84

顔馴染みの行商人その6

しおりを挟む
 家の中ではダート親子が席に座り、なぜかイデアが夕食の準備をしていた。ダートは本日の戦利品をテーブルに広げ、夕食よりも先に晩酌をはじめていた。その隣ではライが頬杖をつきながら真剣な眼差しで、手のひらサイズの化粧箱を眺めている。

 リアムはそんな不思議な状況を横目にライの正面に座るが、それでもまだ帰宅したことに気づいていない。ダートに至ってはもう完全にでき上がっているようで、今にも寝てしまいそうな勢いだ。
 それから暫くすると、料理が乗った皿を両手いっぱいに持ったイデアが台所から出てきた。その後方ではレイが寸胴鍋からレトルトをトングで引き上げているのが見えた。

「大変お待ちいたしました。ライ様、ご飯の用意ができましたので、片付けていただけますでしょうか? レイ様もあとは私がいたしますので、席に座っていただいて大丈夫ですよ?」

 少々駄々をこねるライにイデアは「せっかくの綺麗な箱が汚れてしまいますよ」と、穏やかな口調で嗜める。化粧箱を汚れから守るために、テーブルから逃がす決意をしたライはすぐさま行動を開始した。神棚に奉納するかのように、壁際にある棚の最上段に化粧箱を置くと、リアムが帰宅していたことは前から知っていましたと言わんばかりにそっと彼女の隣に座った。

「ライはともかく、僕はそういうわけにはいかない。あれだけ値引いてもらった上に料理まで振る舞ってもらうんだから、最後まで手伝う!」
「値引いたつもりはありませんが……では、レイ様引き続きお願いしてもよろしいでしょうか?」
「任せろ!」

 レイに視線を向けたままイデアは持ってきた料理を配膳し終えると、またすぐに台所に戻っていった。運ばれてきた料理は全てレトルトか缶詰という長期保存食オンリーディナー。
 ジャガイモと野菜を煮ただけの塩スープ、たまに鶏卵が食卓に出る。今日の食事は一生の内で何回食べることができるのかというほど豪勢な食事。また彼らにとって初めて食す未知の料理でもあった。
 最後の料理を運ぶ終えたところでレイは酩酊したダートを引きずりベッドに転がすと、イデアにその席に座るように促した。はじめは同席することを拒んでいたイデアだったが、ライの援護射撃により、最後には白旗を上げ席に着いた。晩酌の残がいについてはイデアが首を縦に振るまでの間に、リアムの手によって処分されていた。

「ごっはん、ごっはん、ごっはん!」
「ライ、はしゃぐ気持ちは僕も分からないことはないが、リアムを見習って少しは静かにしろ」
「……わ、かった。大人しくするから、早くごはん」

 ライが静かになったのを確認したところで、レイは斜め向かいのイデアに頭を下げ、深謝の言葉を述べた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

絶世のディプロマット

一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。 レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。 レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。 ※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~

華研えねこ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。 一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。 二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。 三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。 四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。 五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。 六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。 そして、1907年7月30日のことである。

未来への転送

廣瀬純一
SF
未来に転送された男女の体が入れ替わる話

処理中です...