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顔馴染みの行商人その3

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 ひと通り声をかけ終えたイデアは最後にまたダートのもとに向かうと、再度感謝の言葉を述べた。

「ダート様、この度は迎え入れていただき誠にありがとうございます」
「あんたがリアムの知り合いだったから、集落に入れてやっただけだ。別に感謝されるほどのことはしてねぇよ。それよりもリアムから聞いたんだが、あんたは商人なんだよな?」
「えぇその通りです。行商人として、各地を転々としながら商いをしております。武器から日用品、食料品と必要な物がございましたら、このイデアに何なりとお申し付けください」
「その割には……武器以外何も持っていないように俺には見えるんだが?」
「あぁそのことでお話があったんです。商品は車両に積んでいるのですが、こちらに駐車しても大丈夫でしょうか? さすがに外に置きっぱなしというのは少々不安がございまして」
「そりゃそうだよな、別に構わないぜ。あんたの好きな場所に止めてくれ。それに俺たちもあんたがどんなものを売っているのか気になるしな」
「ありがとうございます。ポチ、こっちに来なさい」

 ダートから許可を得たイデアはその場で指をパチンと鳴らした。すると、その合図に合わせてどこからともなく、巨大な影が爆音を鳴らしながら集落に向かって走ってきた。この巨大な影こそが2tトラックを強化改造したイデアの愛車。どんな環境下でも故障知らずで走行し続ける装甲車両。残り百メートルをきったところで、徐々に速度を落とし集落に進入すると、防壁に沿うようにしてピタッと止まった。その距離わずか一センチという神技であった。
 その神技の持ち主を一目拝もうと、運転席を覗き込んだ老人は一驚し腰を抜かした。なぜなら、そこに本来座っているはずの運転手が存在しなかったからだ。
 イデアはその場で倒れ込み立てなくなった彼に手を差し伸べ、運転手がいない理由や注意事項について語った。

 行商人であるイデアが移動販売車として使用している装甲車両には、自動運転機能オートパイロットシステムが搭載されている。これは単に指定した目的地まで自動で移動してくれるというだけでなくて、自身で考え成長していく人工知能も有している。そして長年、イデアと同行し経験を積んだことで、今では言葉を交わさなくても意思疎通ができるまでに進化していた。だからこそと言うべきか、それが毎回正しく実行されたことはない。イデアが装甲車両をポチと呼ぶ理由はそこにある。
 personal hardware不羈奔放な機械装置 conduct of itselfそれらの頭文字を取ってpochiポチというわけである。
 装甲車両には護身用としては過剰なほど重火器が備え付けられている。それらの使用については、装甲車両自らが判断し実行することが可能となっている。犯罪行為を行った者に対しては容赦ない一撃が放たれる。その場合は高確率で集落全体を巻き込む大惨事に発展する。一方的な蹂躙、銃声が鳴りやみ静けさを取り戻した頃には、人間だったものがあたり一面に散乱し大地を深紅に染め上げる。
 売買については主に物々交換を採用している。古臭い方法ではあるが、この荒廃した世界では貨幣による売買は非常に稀だ。なぜなら、貨幣を信用たるものとする後ろ盾は、とうの昔にこの世から全て消え去っている。相場については商人によって異なり、また場所や取引相手によっても変動する。この行商人はどうかというと、商人のなかでも安価な部類に入るだろう。
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