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約束は破るためにあるその2
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彼女の果ての無い時間潰しはこのまま永久に続くかと思いきや、おもちのある言動によって開始してから一時間も経たずに終了した。
天井を眺めていたリアムは自分の体の上で、先程から何やらゴソゴソと蠢くおもちが気になり視線を下ろす。そこで彼女の目に映ったものは、体を左右に揺らしながら徐々に胸元から腹部に移動していく白毛玉。柔らかな毛が肌に触れるたびに不快な刺激が少女を襲う。めくれ上がった服を整えれば即解決する話なのだが、そういった対策すら講じようとはせず不満を漏らす。
「――こそばゆいんやけど?」
「チュウ」
「気にするなって? そう言うんやったらどいてくれん?」
「チュー、チュッチュチュ!」
「そんなことよりも、創造主はいつ帰って来るんだって? そんなのリアムにも分からないよ!」
この時、リアムは生まれて初めて声を張り上げ苛立ちをあらわにした。良くも悪くもおもちは感情表現が乏しい彼女から、怒りという感情を引き出すことに成功した。
またこの質問はリアムがおもちに対して事あるごとに行っていた。しかし、その問いにおもちは一度も答えたことは無い。そもそも一日の大半を寝て過ごしている彼に質問を投げかけている時点で、回答など期待してはいけない。案山子に話しかけているのに等しい行為、だとしても訊かずにはいられなかった。それが今日に限って質問者と回答者が逆だったというだけである。そして、おもちが訊いていたということは、彼自身も創造主がいつ帰宅するか知らないことを意味していた。彼女にとって期待していた答えではなかったが、それとは別の期待、希望を見出す。
「もしかしてだけど、おもちもお母さんのことが心配なの?」
「チュチュウ。チュ、チュウチュウ!」
「そんなん当たり前だろ。つうか、アイツ迷子になってんじゃないかって? って、おもちアイツじゃないでしょ、お母さんでしょ!」
「……チュウ」
「分かればよろしい。いや、まさかお母さんに限ってそんなはず。でも、ずっと帰ってこないのは迷子になってるから?」
おもちに言われるまで考えしなかった、考えようともしなかった発想。自分たちの親である創造主がそんなヘマをするとは到底思えない。自我が芽生え始めた頃からリアムは、創造主の言いつけに従い待っていれば、いつの日か自分のもとへ帰ってきてくれると、ただそれだけを信じて生きてきた。その考えは今でも変わっていないし、そうだと信じたい。だけど、おもちが放った言葉もまた正しいように思えた。外ではどうかは分からないが、家の中で創造主がテキパキと動いていたところなんて、一度も見たことがなかったからだ。まあリアムに対してだけは、倍速かと錯覚させるほどの手際の良さを発揮していたのだが、当の本人は全く記憶に残っていないらしい。
「――お母さん、案外どんくさかったかも」
「チュウ?」
「だろ? じゃないよと否定したいけど、おもちの言うことも強ち間違っていなさそうな気もする」
「チュチュ!」
「なに嬉しそうにしとんよ。ていうか、お母さんが本当にそれが理由でお家に帰ってこれないと言うのなら、リアムたちでお母さんを迎えに行こか!」
リアムは話を区切り大きく息を吸い込むと、姿勢をそのままに拳を突き上げ高々に宣言した。それは彼女が創造主との誓いを破るということを意味していた。
彼女が本気だと悟ったおもちは冗談だったと言えなくなってしまい、嬉しそうに旅支度をする少女をただ黙って眺めるしかなかった。
天井を眺めていたリアムは自分の体の上で、先程から何やらゴソゴソと蠢くおもちが気になり視線を下ろす。そこで彼女の目に映ったものは、体を左右に揺らしながら徐々に胸元から腹部に移動していく白毛玉。柔らかな毛が肌に触れるたびに不快な刺激が少女を襲う。めくれ上がった服を整えれば即解決する話なのだが、そういった対策すら講じようとはせず不満を漏らす。
「――こそばゆいんやけど?」
「チュウ」
「気にするなって? そう言うんやったらどいてくれん?」
「チュー、チュッチュチュ!」
「そんなことよりも、創造主はいつ帰って来るんだって? そんなのリアムにも分からないよ!」
この時、リアムは生まれて初めて声を張り上げ苛立ちをあらわにした。良くも悪くもおもちは感情表現が乏しい彼女から、怒りという感情を引き出すことに成功した。
またこの質問はリアムがおもちに対して事あるごとに行っていた。しかし、その問いにおもちは一度も答えたことは無い。そもそも一日の大半を寝て過ごしている彼に質問を投げかけている時点で、回答など期待してはいけない。案山子に話しかけているのに等しい行為、だとしても訊かずにはいられなかった。それが今日に限って質問者と回答者が逆だったというだけである。そして、おもちが訊いていたということは、彼自身も創造主がいつ帰宅するか知らないことを意味していた。彼女にとって期待していた答えではなかったが、それとは別の期待、希望を見出す。
「もしかしてだけど、おもちもお母さんのことが心配なの?」
「チュチュウ。チュ、チュウチュウ!」
「そんなん当たり前だろ。つうか、アイツ迷子になってんじゃないかって? って、おもちアイツじゃないでしょ、お母さんでしょ!」
「……チュウ」
「分かればよろしい。いや、まさかお母さんに限ってそんなはず。でも、ずっと帰ってこないのは迷子になってるから?」
おもちに言われるまで考えしなかった、考えようともしなかった発想。自分たちの親である創造主がそんなヘマをするとは到底思えない。自我が芽生え始めた頃からリアムは、創造主の言いつけに従い待っていれば、いつの日か自分のもとへ帰ってきてくれると、ただそれだけを信じて生きてきた。その考えは今でも変わっていないし、そうだと信じたい。だけど、おもちが放った言葉もまた正しいように思えた。外ではどうかは分からないが、家の中で創造主がテキパキと動いていたところなんて、一度も見たことがなかったからだ。まあリアムに対してだけは、倍速かと錯覚させるほどの手際の良さを発揮していたのだが、当の本人は全く記憶に残っていないらしい。
「――お母さん、案外どんくさかったかも」
「チュウ?」
「だろ? じゃないよと否定したいけど、おもちの言うことも強ち間違っていなさそうな気もする」
「チュチュ!」
「なに嬉しそうにしとんよ。ていうか、お母さんが本当にそれが理由でお家に帰ってこれないと言うのなら、リアムたちでお母さんを迎えに行こか!」
リアムは話を区切り大きく息を吸い込むと、姿勢をそのままに拳を突き上げ高々に宣言した。それは彼女が創造主との誓いを破るということを意味していた。
彼女が本気だと悟ったおもちは冗談だったと言えなくなってしまい、嬉しそうに旅支度をする少女をただ黙って眺めるしかなかった。
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