関西訛りな人工生命体の少女がお母さんを探して旅するお話。

虎柄トラ

文字の大きさ
上 下
5 / 84

変わらぬ日常その1

しおりを挟む
 新しい家族が増えてから季節が巡り、あと二週間ほどでリアムは二回目の誕生日を迎えようとしていた。娘の誕生日が近づくにつれて創造主が挙動不審になっていくのに対して、リアムは至って冷静沈着。その証拠に当の本人は今日も彼女の言いつけに従い日課の読書を勤しんでいた。そんな少女の太ももには白いハムスターがスゥスゥと心地よさそうに寝息を立てている。
 少女が座っているソファーの正面奥にある作業机では、創造主が乱雑に置かれた器材を整理しているのだが、娘のことが気になって仕方ないのか、ブリキのおもちゃのように一定間隔で振り向いては顔を綻ばせ、また器材を片付けるという無限ループを繰り返している。

 創造主からの熱烈な視線に一度も気づくことなく、読書を終えたリアムは顔を上げて本棚に視線を向けた。この本棚には創造主が選定した本が収められている。子供向け絵本から漫画、小説、図鑑に事典それに専門書など多岐にわたる。一部の本には背表紙の上部に赤ペンでレ点チェックが入っているものがあった。これはリアムがどれを読んだか自分で判別するために書くようになったもので、この落書きにも似た行為に彼女は嫌な顔一つせずに満面の笑みで許可していた。

 リアムは次に読む本を取りに向かいたいが、丸まって眠っているハムスターが邪魔で動けずにいた。体長十センチの小動物など気にせずに立ち上がればいいのだが、はじめての友達であり姉弟であるハムスターに対して、絆のようなものが芽生えていた。ただこれがどういった感情なのかリアム本人は理解しておらず、自分でもどうして動けないのか不思議がっていた。
 
 ひと通り片付け終えた創造主は次にビニール袋を用意すると、宝石らしき鉱石を透明なケースから取り出しては、そのビニール袋に次々と詰め込んでいく。大きさは大小さまざまであり、また色も多様。もちろんサイズや色分け等はしていない。その性格が功を奏したというべきか、ケースは色鮮やかな宝石箱と化していた。そんな煌めく鉱石の中で一色だけ極端に少ない色があった。それは赤色だった。さらにその赤い鉱石はどれも淡い色をしていて、濃い色は一つもなかった。彼女は三十個ほど詰めたところで、持ち手を掴み数回上下に揺らし重量を確認する。最後に中身が出ないようにビニール袋のベロを固く結んで机上に置いた。
 創造主は眉間にしわを寄せているリアムを凝視しながらハンガーラックに向かい、慣れた手つきで白衣を羽織り、床に転がっていたポシェットを拾い上げ肩にかけた。それらは長年、粗雑に扱われているのが一目で分かるほど劣化していた。肩紐が今にも千切れそうな色褪せたポシェットに、生地がすり減り薄くなった皺くちゃの白衣。彼女の服装は年がら年中変わることは無く、Tシャツにショートパンツ、それに髪をまとめるためのシュシュを含めた三点セット。外出する場合はさらに素足サンダルが追加される。また彼女は弱視のため常に眼鏡をかけているのだが、レンズを拭くという概念が存在しないのか、指紋等でレンズはいつも汚れ濁っている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

体内内蔵スマホ

廣瀬純一
SF
体に内蔵されたスマホのチップのバグで男女の体が入れ替わる話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...