関西訛りな人工生命体の少女がお母さんを探して旅するお話。

虎柄トラ

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変わらぬ日常その1

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 新しい家族が増えてから季節が巡り、あと二週間ほどでリアムは二回目の誕生日を迎えようとしていた。娘の誕生日が近づくにつれて創造主が挙動不審になっていくのに対して、リアムは至って冷静沈着。その証拠に当の本人は今日も彼女の言いつけに従い日課の読書を勤しんでいた。そんな少女の太ももには白いハムスターがスゥスゥと心地よさそうに寝息を立てている。
 少女が座っているソファーの正面奥にある作業机では、創造主が乱雑に置かれた器材を整理しているのだが、娘のことが気になって仕方ないのか、ブリキのおもちゃのように一定間隔で振り向いては顔を綻ばせ、また器材を片付けるという無限ループを繰り返している。

 創造主からの熱烈な視線に一度も気づくことなく、読書を終えたリアムは顔を上げて本棚に視線を向けた。この本棚には創造主が選定した本が収められている。子供向け絵本から漫画、小説、図鑑に事典それに専門書など多岐にわたる。一部の本には背表紙の上部に赤ペンでレ点チェックが入っているものがあった。これはリアムがどれを読んだか自分で判別するために書くようになったもので、この落書きにも似た行為に彼女は嫌な顔一つせずに満面の笑みで許可していた。

 リアムは次に読む本を取りに向かいたいが、丸まって眠っているハムスターが邪魔で動けずにいた。体長十センチの小動物など気にせずに立ち上がればいいのだが、はじめての友達であり姉弟であるハムスターに対して、絆のようなものが芽生えていた。ただこれがどういった感情なのかリアム本人は理解しておらず、自分でもどうして動けないのか不思議がっていた。
 
 ひと通り片付け終えた創造主は次にビニール袋を用意すると、宝石らしき鉱石を透明なケースから取り出しては、そのビニール袋に次々と詰め込んでいく。大きさは大小さまざまであり、また色も多様。もちろんサイズや色分け等はしていない。その性格が功を奏したというべきか、ケースは色鮮やかな宝石箱と化していた。そんな煌めく鉱石の中で一色だけ極端に少ない色があった。それは赤色だった。さらにその赤い鉱石はどれも淡い色をしていて、濃い色は一つもなかった。彼女は三十個ほど詰めたところで、持ち手を掴み数回上下に揺らし重量を確認する。最後に中身が出ないようにビニール袋のベロを固く結んで机上に置いた。
 創造主は眉間にしわを寄せているリアムを凝視しながらハンガーラックに向かい、慣れた手つきで白衣を羽織り、床に転がっていたポシェットを拾い上げ肩にかけた。それらは長年、粗雑に扱われているのが一目で分かるほど劣化していた。肩紐が今にも千切れそうな色褪せたポシェットに、生地がすり減り薄くなった皺くちゃの白衣。彼女の服装は年がら年中変わることは無く、Tシャツにショートパンツ、それに髪をまとめるためのシュシュを含めた三点セット。外出する場合はさらに素足サンダルが追加される。また彼女は弱視のため常に眼鏡をかけているのだが、レンズを拭くという概念が存在しないのか、指紋等でレンズはいつも汚れ濁っている。
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