1 / 84
自我の芽生えその1
しおりを挟む
人里離れた山岳奥地にある廃村。住民がいなくなり手入れのされていない家屋が軒を連ねる。その中に一軒だけ異質な民家があった。絵本に出てくるような赤い屋根と煙突が特徴的な家。器材が散乱した作業机に一万冊の本がぎっしり収納された巨大な本棚、革張りの硬いソファー、溢れんばかりの衣類がかかったハンガーラックなどが壁を這う様に配置されている。本棚と作業机はL字のように置かれ、その二つの間には一畳ほどの隙間がある。人ひとりが入れそうな楕円体の形をした機械が、その隙間を埋めるように設置されている。他にも煙突はあるのに肝心の暖炉が無いなど、童心に思い出すような外観に反して、室内はどこか歪で殺風景な印象を与える。
そんな場所でソレは生まれた。元は豆粒ほどの大きさだったソレはすくすく成長し、数日でフラスコよりも大きくなり、数か月後には可憐な少女に進化を遂げていた。ソレがはじめて自分という存在を認識したのは、フラスコの中でプカプカと浮いている時だった。
お母さんとガラス越しに目が合ったのを今でもハッキリと覚えている。あの優しく微笑み語りかけてくれたお母さんの声も顔も。記憶として残ってはいるが、人のように夢を見たことは一度もなかった。なのに、あの日はなぜかそんな懐かしい夢を見た。
通常の人間とは違った方法で生まれた少女は月に一度、培養液に満たされたメンテナンスポッドに入って検査を受ける。その間は意識を失い休眠状態にはいる。
メンテナンスポッドの下部に接続された床下へと伸びたパイプに培養液が排出される。多数のノズルから精製水が噴霧され、体に付いた培養器が洗い流される。洗浄が終わると、装置内に発生した温風によって濡れた体は乾かされる。そして最後に密閉された透明な上げ蓋が開くことで、検査は終わり少女は眠りから目覚める。
「――創造主?」
覚醒時はいつも創造主が傍らにいて「おはよう」と声をかけてくれる。今回の定期検査もそうだと思っていたが、目覚めても創造主の声が聞こえなかった。メンテナンスポッドから出て周囲を見渡すがやはり見当たらない。創造主を探すことも大事だが、まずは着替えることにした。水着姿のままで創造主に会うと良くないことが起きると、少女はこの一年間で学習していた。
不在ということはもちろん着替えも用意されていない。ドア付近にあるハンガーラックに向かうと、そこから適当に衣服を選び水着の上から着た。水着姿じゃなければセーフであろうという少女なりの考えだった。だが、後にこの考えを改めることになる。自分のフェチを詰め込んだ愛娘に対する愛情が底の見えない深淵だったことを。
そんな場所でソレは生まれた。元は豆粒ほどの大きさだったソレはすくすく成長し、数日でフラスコよりも大きくなり、数か月後には可憐な少女に進化を遂げていた。ソレがはじめて自分という存在を認識したのは、フラスコの中でプカプカと浮いている時だった。
お母さんとガラス越しに目が合ったのを今でもハッキリと覚えている。あの優しく微笑み語りかけてくれたお母さんの声も顔も。記憶として残ってはいるが、人のように夢を見たことは一度もなかった。なのに、あの日はなぜかそんな懐かしい夢を見た。
通常の人間とは違った方法で生まれた少女は月に一度、培養液に満たされたメンテナンスポッドに入って検査を受ける。その間は意識を失い休眠状態にはいる。
メンテナンスポッドの下部に接続された床下へと伸びたパイプに培養液が排出される。多数のノズルから精製水が噴霧され、体に付いた培養器が洗い流される。洗浄が終わると、装置内に発生した温風によって濡れた体は乾かされる。そして最後に密閉された透明な上げ蓋が開くことで、検査は終わり少女は眠りから目覚める。
「――創造主?」
覚醒時はいつも創造主が傍らにいて「おはよう」と声をかけてくれる。今回の定期検査もそうだと思っていたが、目覚めても創造主の声が聞こえなかった。メンテナンスポッドから出て周囲を見渡すがやはり見当たらない。創造主を探すことも大事だが、まずは着替えることにした。水着姿のままで創造主に会うと良くないことが起きると、少女はこの一年間で学習していた。
不在ということはもちろん着替えも用意されていない。ドア付近にあるハンガーラックに向かうと、そこから適当に衣服を選び水着の上から着た。水着姿じゃなければセーフであろうという少女なりの考えだった。だが、後にこの考えを改めることになる。自分のフェチを詰め込んだ愛娘に対する愛情が底の見えない深淵だったことを。
10
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。


とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる