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第八話 金髪の少女
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「貴方、最近死んだでしょ?」
金髪の少女は嬉しそうに微笑んだ。
水月はとっさの質問に、どのように答えたら良いのか分からず、沈黙してしまった。
(答えそのものに何かの罠が仕掛けられているのか……?)
疑問も湧いてくるが、そうなるとこの金髪の少女の敵意の無さからして、何か陰湿なものを仕掛けているようにも考えにくかった。
「その質問の意味って何?」
この場合有効なのは逆質問だと水月はとっさに閃いた。
「うーん……そうだねえ」
相変わらず敵意の無い感じで、楽し気に金髪の少女はつぶやいた。
「あ、そうが。私自己紹介してなかったね。私の名前は春田芽衣よろしくね」
緊迫した状況なのに、いささか調子を狂わされた感じがした。
「貴方のお名前は?」その春田芽衣は警戒している水月の緊張感に関係なさそうに聞いてきた。
「……まだ名前を教えるわけにはいかない。春田さんだっけ。アンタが何者か分からないからね。自己紹介してもらって悪いけど」
水月としては、追手の心当たりが多いだけに警戒心が解けないのだ。
「まあ、無理もないよね」芽衣は納得した様子だった。
「うーん、まああえて説明すると、貴方って昨日二人の男をぶちのめしたでしょ?」
芽衣は興味深々に尋ねた。
(見られていたのか)と思いつつ、見られているなら言い逃れは出来ないと思い、水月は「そうだね」と答えた。
「あの2人って、ウチの店の用心棒なのよ。空手の達人でね。とてもじゃないけど貴方の様な女の子に倒されるような奴らじゃないのよね」
同僚がぶちのめされたという割には、楽し気に芽衣は話す。
「相手が、普通の人間の女の子だったらね」
芽衣は楽し気に話しながらも、水月の目をじっと見た。
「足の甲の骨を砕くなんて、武道の達人でもなかなか出来るわけじゃない。それをあんな簡単な動きでやってしまうって、見て凄いと思っちゃった」
芽衣は楽しそうに話した。
「動きは別に武道をやっている様には見えないけど、相手を油断させる心理戦も出来るし、実戦に強いタイプかな。脚力はそうねえ、人間の5倍くらいかなあ。私の見立てだと」
(……ここまで冷静に見られてたのか)と水月は改めて驚いた。
「まあ、答えたくないのも無理はないよね。でも」
芽衣は続ける。
「貴方の身体の事について、貴方自身が一番不思議に思っているんじゃないかなあ? どう?」
(……)
沈黙してしまったが、言われたとおりだった。水月自身が自分の肉体に起こっている事について、知りたいのだ。
「……不思議には思ってる」水月は思わず心情を吐露してしまった。
「だよねー。それならさ。もし私と一緒に来てくれたら、ウチの社長が貴方の身体の事について教えてくれるとしたら、どうする?」
「……社長?」水月としては意外な言葉が出たので、少し驚いた。
「そう。それから社長や私も、別に貴方に危害を加える気はないの。貴方がぶちのめしたウチの用心棒も、素行が悪いからクビにする予定だったと聞いたからね」
「……なるほど。それはありがとう」
水月としては、それしか言いようが無かった。
どうするか……昨日、今日と言い、現実的に行き詰まっているのも事実なのだ。春田芽衣というこの少女からは確かに敵意は感じないが、その社長というのがどういう人物なのかが分からない。
だからと言って、医者に聞けばわかるというものでもない様に思える。
芽衣は「まあ迷うよね。私の今日の仕事の1つは、貴方を社長のところに連れていく事なのよ。それから……」と話す。
そして、芽衣は声を潜めた。
「私や社長も、貴方と同じ存在ってこと」
水月は驚いた。自分と同じような存在が他にもいるということに。
「まあ、話だけでも聞いてみても良いんじゃない? その後でどうするのかは、貴方自身が自分で決めれば良いと思う。それに今夜だけど私の部屋に泊まっても良いよ」
芽衣はにっこりと笑って言った。
「貴方はどうしたい? 仕事とは言え、強制まではしないから、自分で決めると良い」
10秒くらい沈黙した後、水月は口を開いた。
「……分かった。一緒に行く。いや……行きます。春田さん」
水月としてはどの道、今の自分は、詰みかけている。それなら少しでも、危険でも情報が欲しい。それに春田芽衣から感じる敵意の無さが後押しをした。
「良かった。来てくれて嬉しいな。それなら貴方の名前は?」
「御堂水月です」
「水月ちゃんか。素敵な名前じゃない。じゃあヘルメット被ってね」
芽衣から渡されたヘルメットを水月は被り、スクーターは発進する。
夜風を感じながら、スクーターは、歓楽街方面に進み、そこに入っていく。ギラギラしたネオンや照明が照らし、風俗の客引きの声や、女性の声や客のやりとりなどで路上は健全とは言えない感じでざわざわとしている。
水月としては昨日の事もあり、嫌な予感が高まって来た。
「着いたよ」芽衣がスクーターを止めたところは、ヴィーナス倶楽部というひときわ目立つホテルヘルス風俗店だった。
金髪の少女は嬉しそうに微笑んだ。
水月はとっさの質問に、どのように答えたら良いのか分からず、沈黙してしまった。
(答えそのものに何かの罠が仕掛けられているのか……?)
疑問も湧いてくるが、そうなるとこの金髪の少女の敵意の無さからして、何か陰湿なものを仕掛けているようにも考えにくかった。
「その質問の意味って何?」
この場合有効なのは逆質問だと水月はとっさに閃いた。
「うーん……そうだねえ」
相変わらず敵意の無い感じで、楽し気に金髪の少女はつぶやいた。
「あ、そうが。私自己紹介してなかったね。私の名前は春田芽衣よろしくね」
緊迫した状況なのに、いささか調子を狂わされた感じがした。
「貴方のお名前は?」その春田芽衣は警戒している水月の緊張感に関係なさそうに聞いてきた。
「……まだ名前を教えるわけにはいかない。春田さんだっけ。アンタが何者か分からないからね。自己紹介してもらって悪いけど」
水月としては、追手の心当たりが多いだけに警戒心が解けないのだ。
「まあ、無理もないよね」芽衣は納得した様子だった。
「うーん、まああえて説明すると、貴方って昨日二人の男をぶちのめしたでしょ?」
芽衣は興味深々に尋ねた。
(見られていたのか)と思いつつ、見られているなら言い逃れは出来ないと思い、水月は「そうだね」と答えた。
「あの2人って、ウチの店の用心棒なのよ。空手の達人でね。とてもじゃないけど貴方の様な女の子に倒されるような奴らじゃないのよね」
同僚がぶちのめされたという割には、楽し気に芽衣は話す。
「相手が、普通の人間の女の子だったらね」
芽衣は楽し気に話しながらも、水月の目をじっと見た。
「足の甲の骨を砕くなんて、武道の達人でもなかなか出来るわけじゃない。それをあんな簡単な動きでやってしまうって、見て凄いと思っちゃった」
芽衣は楽しそうに話した。
「動きは別に武道をやっている様には見えないけど、相手を油断させる心理戦も出来るし、実戦に強いタイプかな。脚力はそうねえ、人間の5倍くらいかなあ。私の見立てだと」
(……ここまで冷静に見られてたのか)と水月は改めて驚いた。
「まあ、答えたくないのも無理はないよね。でも」
芽衣は続ける。
「貴方の身体の事について、貴方自身が一番不思議に思っているんじゃないかなあ? どう?」
(……)
沈黙してしまったが、言われたとおりだった。水月自身が自分の肉体に起こっている事について、知りたいのだ。
「……不思議には思ってる」水月は思わず心情を吐露してしまった。
「だよねー。それならさ。もし私と一緒に来てくれたら、ウチの社長が貴方の身体の事について教えてくれるとしたら、どうする?」
「……社長?」水月としては意外な言葉が出たので、少し驚いた。
「そう。それから社長や私も、別に貴方に危害を加える気はないの。貴方がぶちのめしたウチの用心棒も、素行が悪いからクビにする予定だったと聞いたからね」
「……なるほど。それはありがとう」
水月としては、それしか言いようが無かった。
どうするか……昨日、今日と言い、現実的に行き詰まっているのも事実なのだ。春田芽衣というこの少女からは確かに敵意は感じないが、その社長というのがどういう人物なのかが分からない。
だからと言って、医者に聞けばわかるというものでもない様に思える。
芽衣は「まあ迷うよね。私の今日の仕事の1つは、貴方を社長のところに連れていく事なのよ。それから……」と話す。
そして、芽衣は声を潜めた。
「私や社長も、貴方と同じ存在ってこと」
水月は驚いた。自分と同じような存在が他にもいるということに。
「まあ、話だけでも聞いてみても良いんじゃない? その後でどうするのかは、貴方自身が自分で決めれば良いと思う。それに今夜だけど私の部屋に泊まっても良いよ」
芽衣はにっこりと笑って言った。
「貴方はどうしたい? 仕事とは言え、強制まではしないから、自分で決めると良い」
10秒くらい沈黙した後、水月は口を開いた。
「……分かった。一緒に行く。いや……行きます。春田さん」
水月としてはどの道、今の自分は、詰みかけている。それなら少しでも、危険でも情報が欲しい。それに春田芽衣から感じる敵意の無さが後押しをした。
「良かった。来てくれて嬉しいな。それなら貴方の名前は?」
「御堂水月です」
「水月ちゃんか。素敵な名前じゃない。じゃあヘルメット被ってね」
芽衣から渡されたヘルメットを水月は被り、スクーターは発進する。
夜風を感じながら、スクーターは、歓楽街方面に進み、そこに入っていく。ギラギラしたネオンや照明が照らし、風俗の客引きの声や、女性の声や客のやりとりなどで路上は健全とは言えない感じでざわざわとしている。
水月としては昨日の事もあり、嫌な予感が高まって来た。
「着いたよ」芽衣がスクーターを止めたところは、ヴィーナス倶楽部というひときわ目立つホテルヘルス風俗店だった。
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