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第50話 雨上がりの女の子2
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藤原社長が取り出したのは、運転免許証だった。
「ありがとうございます! ちゃんと苗字が変わっているんですね!」
「ありがとうございます! わー嬉しいな。これで口座も作れるんだ!」
水月には、「新海 水月」、芽衣には変わらず「春田 芽衣」と印字してある。
当然だがこれは正規の運転教習所での試験を受けて交付された運転免許証ではない。
リターナーの相互扶助組織「煉獄会」のマーケットで、作成してもらったものだ。
『電子系統樹』の様な『異能力』で作成されているため、マイナンバーや警察で照合されてもまったく異常が検知されない精巧なものである。
住所は、ヴィーナス倶楽部となっている。
運転免許証は、18歳以上でないと取得できないため、17歳であった水月と芽衣は、18歳に自分たちの年齢を設定した。
藤原社長は年齢が変わることについて、後悔はないかの確認を事前にしたが、二人とも18歳で納得した。
年齢にこだわらなくなったのは、不老になったということが大きい。
水月にしてみると、御堂水月という名前のままだと、神聖千年王国への警察の追求が進む中で、警察の捜査が来ない様に別人になりたいというのもあった。
それと、父とのいきさつもあって、苗字を変える決断をしたのだった。
新海という苗字は、母の旧姓だった。苗字も自由に作成出来ると聞いたので、水月はこの苗字にした。
芽衣の場合は、今までスクーターを無免で運転してきたこともあったので、正式な免許証が無かった。そのため水月と一緒に免許証を作成してもらったのだ。
これも神聖千年王国を襲撃し情報を得た後に、教祖の個人的な資産を入手に成功したことが大きかった。
教祖の個人的な資産の内、足が付きにくい金額は1億円ほどあった。
この1億円の内、5,000万円を千歳と真示を派遣してくれた名古屋のリターナー組織に譲渡し、残りの5,000万円を藤原社長が手に入れた。
水月と芽衣が取得した運転免許証は、「煉獄会」で定価1,000万円で販売されているものである。
『暁の明星』のメンバーを倒したということを条件に、藤原社長は値引き交渉をし、1枚800万円で作成してもらった。
5,000万円の内、2,000万円を藤原社長が取得し、残りの1,500万円ずつを水月と芽衣が取得し、その中から800万円ずつを使って免許証を作成したので、水月と芽衣は貯金として700万円を手に入れた。
これらの貯金をしておくための口座も必要だったのが、免許証を作った理由のひとつでもある。
「こんなお金もらうのは初めて!」と芽衣は目を丸くしていたが、藤原社長は「リターナーの人生は長い。必要な時に金が掛かるものだから、無駄遣いはしないでおくんだ。特に怪しげな投資話には耳を貸さないように。あとブランド品を買う前には私にまず聞く様に」と忠告した。
水月は運転免許証を藤原社長から受け取ってお礼を言うと、じっとその免許証を見ていた。
(やっと母さんのもとに帰ってこれたような気がする。久しぶりに晴れ晴れとしたという感じ……)
水月の中で母が笑っていた顔が、思い出された。
(ただいま、母さん)心の中で水月はつぶやいた。
芽衣も運転免許証を受け取って、藤原社長にお礼を言うと、「無駄遣いでない方法で、お金を使いたいことがあるんです」と藤原社長に言った。
「なるほど、それは?」
「私、高校に行きたいと思って。だた今の仕事も両立しながらだと、通信制高校が良いかなと思ったんです。藤原社長はどう思いますか? シフトには穴を開けない様にします」
「……それは素晴らしい。実は私も同じ事を考えていた。なんだかんだ言っても、高校卒業の方が取れる資格も多い。『異能力』と戦闘技能以外に、社会に溶け込んで生きていく手段は、多いに越したことはないからな」
芽衣は小学校6年生の時に、火事で死んでリターナーになり、藤原社長に引き取られてからは、ずっと通信型の中学の勉強を受けて来たのだ。高校の勉強についていけるか不安だったが、水月も分からないことは教えてくれるということで安心し、その決断を藤原社長に言ったのだった。
大阪に来た時、職探しに苦労した水月にとってもそれは、身に迫る話でもあった。
こうして4月から通信制高校に、芽衣と水月はヴィーナス俱楽部の仕事を続けながら、通う事になる。
通うと言っても月2回登校すれば良く、あとは通信講座で出来るので、仕事や任務の合間で出来るので気が楽だった。
「やったね。高校生になれるんだ」
芽衣が喜んでいるのを見て、水月もまた嬉しかった。
場所は変わり、ここは名古屋のリターナー保護施設の真示の部屋である。
真示は教祖と戦った時に、幻覚を叩きこまれてから、どうしても心配だったことがあったため、桐島美穂にLINEを送った。
「ごめん。ルール違反とは分かってはいるんだけど、どうしても気になることがあって、LINEを送った。返事が出来る状態なら返事をくれないだろうか?」
これで返信が返ってこないかも知れない……と思いつつ、真示が片腕立て伏せをしながら待っていると、返信が来た。
「何かあったの?」というものだった。
「いや、あの……夢で見たというか。美穂がラブホから芸人2人と出てくる夢を見たんだ。まさかそんなことはしてないよね?」
真示としては氷の上を歩くような気持ちで送ったLINEだった。
あれが幻覚だったとしても、あまりにリアルすぎて、確認せずにはいられなかったのだ。
「……」という返信が来た。
これは直感的にまずいものを送ってしまったのではないかと真示が心配していると、次のLINEが来た。
「アホ。悪い夢見過ぎ」
「……ごめん。リアルな夢だったから」
「なんでリアルになるのかが良く分からない」
「いやこれは深い事情が……」
「なんの事情なんだか……。でもね……良いんだよ。心配してくれてありがとう。あのね」
「ん?」
「私からも真示に伝えたい事があったんだ」
「ありがとうございます! ちゃんと苗字が変わっているんですね!」
「ありがとうございます! わー嬉しいな。これで口座も作れるんだ!」
水月には、「新海 水月」、芽衣には変わらず「春田 芽衣」と印字してある。
当然だがこれは正規の運転教習所での試験を受けて交付された運転免許証ではない。
リターナーの相互扶助組織「煉獄会」のマーケットで、作成してもらったものだ。
『電子系統樹』の様な『異能力』で作成されているため、マイナンバーや警察で照合されてもまったく異常が検知されない精巧なものである。
住所は、ヴィーナス倶楽部となっている。
運転免許証は、18歳以上でないと取得できないため、17歳であった水月と芽衣は、18歳に自分たちの年齢を設定した。
藤原社長は年齢が変わることについて、後悔はないかの確認を事前にしたが、二人とも18歳で納得した。
年齢にこだわらなくなったのは、不老になったということが大きい。
水月にしてみると、御堂水月という名前のままだと、神聖千年王国への警察の追求が進む中で、警察の捜査が来ない様に別人になりたいというのもあった。
それと、父とのいきさつもあって、苗字を変える決断をしたのだった。
新海という苗字は、母の旧姓だった。苗字も自由に作成出来ると聞いたので、水月はこの苗字にした。
芽衣の場合は、今までスクーターを無免で運転してきたこともあったので、正式な免許証が無かった。そのため水月と一緒に免許証を作成してもらったのだ。
これも神聖千年王国を襲撃し情報を得た後に、教祖の個人的な資産を入手に成功したことが大きかった。
教祖の個人的な資産の内、足が付きにくい金額は1億円ほどあった。
この1億円の内、5,000万円を千歳と真示を派遣してくれた名古屋のリターナー組織に譲渡し、残りの5,000万円を藤原社長が手に入れた。
水月と芽衣が取得した運転免許証は、「煉獄会」で定価1,000万円で販売されているものである。
『暁の明星』のメンバーを倒したということを条件に、藤原社長は値引き交渉をし、1枚800万円で作成してもらった。
5,000万円の内、2,000万円を藤原社長が取得し、残りの1,500万円ずつを水月と芽衣が取得し、その中から800万円ずつを使って免許証を作成したので、水月と芽衣は貯金として700万円を手に入れた。
これらの貯金をしておくための口座も必要だったのが、免許証を作った理由のひとつでもある。
「こんなお金もらうのは初めて!」と芽衣は目を丸くしていたが、藤原社長は「リターナーの人生は長い。必要な時に金が掛かるものだから、無駄遣いはしないでおくんだ。特に怪しげな投資話には耳を貸さないように。あとブランド品を買う前には私にまず聞く様に」と忠告した。
水月は運転免許証を藤原社長から受け取ってお礼を言うと、じっとその免許証を見ていた。
(やっと母さんのもとに帰ってこれたような気がする。久しぶりに晴れ晴れとしたという感じ……)
水月の中で母が笑っていた顔が、思い出された。
(ただいま、母さん)心の中で水月はつぶやいた。
芽衣も運転免許証を受け取って、藤原社長にお礼を言うと、「無駄遣いでない方法で、お金を使いたいことがあるんです」と藤原社長に言った。
「なるほど、それは?」
「私、高校に行きたいと思って。だた今の仕事も両立しながらだと、通信制高校が良いかなと思ったんです。藤原社長はどう思いますか? シフトには穴を開けない様にします」
「……それは素晴らしい。実は私も同じ事を考えていた。なんだかんだ言っても、高校卒業の方が取れる資格も多い。『異能力』と戦闘技能以外に、社会に溶け込んで生きていく手段は、多いに越したことはないからな」
芽衣は小学校6年生の時に、火事で死んでリターナーになり、藤原社長に引き取られてからは、ずっと通信型の中学の勉強を受けて来たのだ。高校の勉強についていけるか不安だったが、水月も分からないことは教えてくれるということで安心し、その決断を藤原社長に言ったのだった。
大阪に来た時、職探しに苦労した水月にとってもそれは、身に迫る話でもあった。
こうして4月から通信制高校に、芽衣と水月はヴィーナス俱楽部の仕事を続けながら、通う事になる。
通うと言っても月2回登校すれば良く、あとは通信講座で出来るので、仕事や任務の合間で出来るので気が楽だった。
「やったね。高校生になれるんだ」
芽衣が喜んでいるのを見て、水月もまた嬉しかった。
場所は変わり、ここは名古屋のリターナー保護施設の真示の部屋である。
真示は教祖と戦った時に、幻覚を叩きこまれてから、どうしても心配だったことがあったため、桐島美穂にLINEを送った。
「ごめん。ルール違反とは分かってはいるんだけど、どうしても気になることがあって、LINEを送った。返事が出来る状態なら返事をくれないだろうか?」
これで返信が返ってこないかも知れない……と思いつつ、真示が片腕立て伏せをしながら待っていると、返信が来た。
「何かあったの?」というものだった。
「いや、あの……夢で見たというか。美穂がラブホから芸人2人と出てくる夢を見たんだ。まさかそんなことはしてないよね?」
真示としては氷の上を歩くような気持ちで送ったLINEだった。
あれが幻覚だったとしても、あまりにリアルすぎて、確認せずにはいられなかったのだ。
「……」という返信が来た。
これは直感的にまずいものを送ってしまったのではないかと真示が心配していると、次のLINEが来た。
「アホ。悪い夢見過ぎ」
「……ごめん。リアルな夢だったから」
「なんでリアルになるのかが良く分からない」
「いやこれは深い事情が……」
「なんの事情なんだか……。でもね……良いんだよ。心配してくれてありがとう。あのね」
「ん?」
「私からも真示に伝えたい事があったんだ」
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