雨の中の女の子

西 海斗

文字の大きさ
上 下
39 / 51

第39話 決戦開始3

しおりを挟む
「終わりではない。始まりだ。多少強くなったようだが……水月。お前は自分の力を過信している」
 そう言って、再び御堂宗一は、二匹の大蛇の鎌首で、水月に襲い掛かる。今度はフェイントを織り交ぜて、時間差で攻撃をする。

 しかしそれも行動を読んでいた水月の『斬手刀』ざんしゅとうによりあえなく切断され、鎌首2つとも下に落下した。
 御堂宗一は「ぐうっ!」と苦痛に顔を歪めた。

 時間をかけている意味はない。もし空気中に麻痺毒を撒かれている場合、厄介になる。
 水月は陰陽流の歩法で、一気に距離を詰める。

 御堂宗一の伸ばした首のない大蛇の腕。左腕が一気に縮む。接近戦に備えてのことだろうか。
 しかし今更、拳だろうが蛇の顔だろうが何が来ようが関係ない。切断して御堂宗一を倒すだけだ。そう水月が考えてあと2mのところまで宗一に接近した時だった。

「水月ひさしぶり~元気?」
 その場にそぐわない、明るい声が聞こえた。
 この声はまさか……。
 水月の歩法が止まる。

 御堂宗一が縮めて引き戻した左の大蛇の胴体。そこについていたのは、明日香の首だった。明日香の首に変化したのだ。
「また会えて嬉しいな。私ね。先生の体の一部になったの」
 水月の中に怖気が走る。違う。これは明日香じゃない。そんなはずはない。
「明日香の真似をして……明日香をもてあそぶな。父さん……」
 水月の怒りの感情が噴き出す。

「彼女は自殺してしまったが、あの後に葬儀をおこなったのは、水月の知っている通り神聖千年王国だ。そして私は彼女の頭を保管しておいた。彼女の死後も愛せるようにね」
 宗一は嬉しくてたまらないという表情で話す。
「彼女もまた、私の肉体の一部として蘇生したということさ。もちろん最初は嫌がって死にたがったがね」
「先生、そんな事もありましたね。でも私も先生のやっていることを見ている内に、だんだんと理解出来て、私も快楽を感じる様になったんです」
「支配する。蹂躙する。そういう欲望がたまらないんです」

 明日香はうっとりしたような口調で言葉を紡いだ。
 水月はそれを聞いて、自分の立っている足の力が、ガタガタと抜けていくのを感じた。
 (嘘だ。これは父が作った、勝手に作っている人形だ。めくらましだ。なのに……)

「だからねえ水月。先生と私と、一緒に暮らそ? 先生は水月のことが大好きなの。愛したくて愛したくてたまらないのよ」
 明日香は、生前と変わらない声色で、尋ねる。

「黙れ……」
 水月は、再び『斬手刀』ざんしゅとうを構えた。なんとか呼吸を整える。
「お前は明日香じゃない。そして父の言う愛は、愛情なんかじゃない」

 仮にこれが本当の明日香だとしても、酷い洗脳をされているのだろう。殺して解放してあげるのが……情けだ。
 そう考え、再び呼吸を整えて、間合いをつめようとした時だった。

 水月の左足首に激痛が走った。
 視線を向けると、落とした大蛇が再生し、牙を水月の足首に突き立てていた。
 続いて右足首も、もう一匹の大蛇が、水月の足首を噛む。
 何かが注入されていく感覚があった。

「うおああああ!」蹴りで足首の大蛇を蹴り飛ばす。
(再生能力か……迂闊だった……体の力が……)

 水月はそのまま両膝を突いてしまった。
 体に力が入らないのだ。
(しまった。これが麻痺毒……!)

「ふふふ……どうします先生?」
「麻痺毒が効いてきているか、きちんとテストする必要があるだろうな。なにせ力の強い娘だから」

 そう言って宗一は右腕をいじる。右腕の先端は2つの大蛇の頭に再生していた。
 2つの大蛇の鎌首は、10メートルある体をスルスルっと伸ばし、そのまま水月の足首を噛んだ。
 そしてそのまま水月を持ち上げる。

「おいたをすれば罰が下る。水月よ。痛いと思うがこれはお前に対する愛情だ」

 大蛇はそのまま水月の足首を噛んだまま、10メートルの体を遠心力を使って、水月の体の前面を、檻に叩きつけた。
 轟音が響き渡る。
「うぐうっ……」なんとか水月は、腕でガードした。しかし麻痺毒のせいか、腕の力が抜けていく。
(まずい……これで気絶したら『因果拳』いんがけんが使えない)
 水月の焦りだけが募る。

「これはお前が慈悲を乞うまで続く」
 再び、同様に水月は檻に叩きつけられる。
 3回、4回、もう腕も上がらなくなった。

 5回、6回、顔面が檻にめり込み、鼻骨が折れ、歯が折れた。
「……」
(芽衣……ごめん)
 激痛の中、水月は芽衣の顔を思い出していた。

「先生、あまりやりすぎると、きれいな水月の顔が傷むわよ」
 明日香が心配しながら、それでもうっとりしながら忠告した。

「そうだな。念のためあと10回にしておこう」
 陰惨な轟音が10回響き渡った。

 そして、水月はズルズルと、御堂宗一の近くに引き寄せられる。
 顔はうっ血し、折れた鼻骨からは鼻血が出ている。
 水月は、麻痺毒の影響か、気絶したのか焦点の合わない虚ろな目をして、黙っている。
 
「ああ、可哀想に」明日香は首を伸ばし、水月の鼻血を舐めると、そのまま水月にキスをした。

「さて、娘もだいぶこれで反省をしたことだろう」
 御堂宗一は残忍な笑みを浮かべた。
 一旦、水月を地面におろし、大蛇の鎌首で、今度は両手を噛ませて宙づりにする。
 そして大蛇の鎌首一本が、水月の上着を切り裂いた。
 
 虚ろな目をした水月は、Tシャツとズボンの恰好で、両手を大蛇の鎌首に噛まれ、宙づりにされている。

「さて、愛し合う時間だ」
 御堂宗一は嬉しくてたまらないという表情をした。
 大蛇の内、一匹を普通の自分の腕に戻し、水月のズボンのベルトを外した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異能テスト 〜誰が為に異能は在る〜

吉宗
SF
クールで知的美人だが、無口で無愛想な国家公務員・牧野桐子は通称『異能係』の主任。 そんな彼女には、誰にも言えない秘密があり── 国家が『異能者』を管理しようとする世界で、それに抗う『異能者』たちの群像劇です。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...