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第29話 決戦準備9
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藤原社長は口を開いた。
「まず教祖だ。彼がリターナーであるという証拠はない。しかし『暁の明星』とのつながりや、御堂宗一の変化を考えても何かしらの特殊な異能力を持っていると考えている。今はこの程度でしか、憶測でしか答えることが出来ない。だが巨大新興宗教の組織の教祖として成功していることを考えると、精神操作系の異能力を持っていると考えるのが妥当だろうな」
「そのため精神操作系に対しては感知能力に強い千歳。真相を暴く『強制自白』が使える真示。この二人のコンビで戦うつもりだ。乱戦になると思うが優先的に狙う相手はこのようになる」
「復習になるが、毒蛇使いの御堂宗一は水月と芽衣コンビ。教祖は朝日奈姉弟コンビ。そして『暁の明星』のリターナーは私が戦う」
「ありがとうございます。確かに相性を考えるとそうですね。『暁の明星』のリターナーの異能力の情報はあるんですか?」芽衣が再度尋ねた。
「そうだったな。これも憶測でしかない。そもそも『暁の明星』とは何を指すか知っているか?」
「いえ、知らないです」
「聖書で言う、堕天使ルシファーの事を指す。つまり天に歯向かう悪魔の軍団長のことを指している」
「そんな……中二病っぽくも聞こえますけど、つまりリターナーへの裏切りは確信犯的という事ですか」
芽衣がゾッとした様に答えた。
「そうだな。私自身も過去に、『暁の明星』のメンバーと一度戦った事があった。まあ倒したからここに居られるわけだが。非常に嫌なタイプの異能力者だった」
「嫌なタイプと言うと……」
「女性を爆発物に変えることが出来るタイプの異能力者だった。全員を助けている余裕が無く、やむを得ず奴の処刑を優先したが、犠牲者が多く出てしまい、私の中でも非常に嫌な記憶として残っている」
「異能力は……リターナーの潜在意識が、力になって現われると教わりました。そいつ……相当歪んで腐ってますね」
真示が眉間にしわを寄せて口を開いた。
「そうだな。吐き気がする。肝心の『暁の明星』のメンバーについて全貌は不明だが、他のリターナー組織の情報からも聞いていると、構成メンバーはリーダー含めて全員男らしい。それで全員女性差別主義……女性憎悪主義者だということらしい」
「女性憎悪主義者……親が女性に殺されでもしたんですかね」
千歳が呆れたように言った。
「『暁の明星』のリターナーがいるというのは、確実なんですか?」
水月が尋ねる。
「極めて信頼できる情報筋からだ。どこからとはまだ言えないがね。そいつは危険なため、私が1対1で戦う。だがもし私が敗北した場合」
「その場合だが副リーダーとして、千歳を任命する。そして戦いを継続せずに全員逃げろ。これは命令だ」
「……分かりました。あまり想像したくはないですが、その様にします」
千歳は責任の重さを、改めて痛感せざるを得なかった。
「私たちはリターナーだ。生きていれば復讐戦も出来る。まずは生きてこそだ」
藤原社長は、緊迫した雰囲気を和ますように、少し微笑んだ。
「以上が今日得た情報をまとめたものだが、あまり深く神聖千年王国本部の敷地内に侵入して、誰かが捕まっても非常に面倒なことになる。これ以上の内部の探索は、かえってこちらの侵入がばれる可能性もあるので、避けようと思うが、質問や異論などはあるか?」
「特に異論はありません。それで……いつ奇襲をしますか?」
千歳が尋ねた。それは皆が聞きたいことだった。
「本部ビルにおいて、連中がまだ帰らず、一般人が帰宅している。もしくはし始めている時間。2日後の水曜日。夜19時に本部ビル11階~13階を奇襲する事を考えている。会議などの予定を確認しようとしてもブラックボックスらしく出てこない。どう思う?」
「連中だと真夜中も起きていそうな気もしますが、下手に帰られると厄介ですからね。良いと思います」
真示が答えた。
「11階以上に、まともな職員がいる可能性も低いと思いますし、いても気絶させれば良いと思うので賛成です」
千歳が答えた。
「良いと思います。水曜日ならまだ準備が出来ますし。沙羅はどうしますか?」
芽衣が尋ねた。
「連れていく訳にもいくまい。ここで留守番をしてらおうと思っている。それから水月」
「はい」
「水月は異能力の最終的な調整を行う。後で私と1対1でな。芽衣は治療の準備をしておくように」
水月に緊張が走った。だが確かに自分で自分の異能力を把握していなければ、今回の作戦で足を引っ張ってしまうだろう。
「……分かりました。よろしくお願いします」
意を決して、そう答えるしかなかった。
「では他に異論が無ければ、会議は終了とする。何か新たな情報が入ったり、何か意見があればいつでも連絡するように」
藤原社長の声で、会議は終わった。
「水月と芽衣は空手着に着替えて4階に来るように」
藤原社長の言葉は、最初は恐怖にしか聞こえなかった。
しかし今は師匠として、導いてくれる方として、水月は恐怖もあるが尊敬の念も持って聞けるようになった。
場所は変わり、4階のトレーニングルーム。
ここに居るのは、水月、藤原社長、芽衣の3人である。
3人とも空手着を着ている。
3人で柔軟をして、基本的な突きや蹴りの流れを一通り行う。
「正拳突きが早いな。自分で習得したのか?」
「いえ、芽衣が教えてくれたんです。肩の力を抜いて、丹田を意識して突く様にって」
「なるほど。さすが参段だな」
藤原社長から言われて、芽衣は嬉しそうだった。
「それでは、最終調整を行う。水月」
「はい」
「私を、お前の父親だと思って、殺すつもりで攻撃してこい」
「来なければ、私からいく」
「芽衣、今日は時間を測らなくて良い。水月が戦闘不能になった時点で終了だ」
「はい……」
芽衣の中に不安がよぎる。でも水月にはこれを通して異能力の効果的な使い方を身に着けて欲しい。その気持ちで胸がいっぱいだった。
水月は、奇妙に落ち着いていた。痛いのはずいぶんと経験したし、これからの方が多いと思う。
しかしそれより、こうして自分を弟子として、鍛えてくれる師匠と出会えたことが嬉しかった。
不思議な充実感とありがたみがあった。
おそらく死ぬほど痛い時間だろう。でもここで自分の異能力の使い方をつかみ、そして藤原社長に報いたい。その気持ちがわいて来た。
無意識に、水月の丹田を中心に力が集まりつつあった。
「では開始」
藤原社長の初めの言葉により、最終調整が始まった。
「まず教祖だ。彼がリターナーであるという証拠はない。しかし『暁の明星』とのつながりや、御堂宗一の変化を考えても何かしらの特殊な異能力を持っていると考えている。今はこの程度でしか、憶測でしか答えることが出来ない。だが巨大新興宗教の組織の教祖として成功していることを考えると、精神操作系の異能力を持っていると考えるのが妥当だろうな」
「そのため精神操作系に対しては感知能力に強い千歳。真相を暴く『強制自白』が使える真示。この二人のコンビで戦うつもりだ。乱戦になると思うが優先的に狙う相手はこのようになる」
「復習になるが、毒蛇使いの御堂宗一は水月と芽衣コンビ。教祖は朝日奈姉弟コンビ。そして『暁の明星』のリターナーは私が戦う」
「ありがとうございます。確かに相性を考えるとそうですね。『暁の明星』のリターナーの異能力の情報はあるんですか?」芽衣が再度尋ねた。
「そうだったな。これも憶測でしかない。そもそも『暁の明星』とは何を指すか知っているか?」
「いえ、知らないです」
「聖書で言う、堕天使ルシファーの事を指す。つまり天に歯向かう悪魔の軍団長のことを指している」
「そんな……中二病っぽくも聞こえますけど、つまりリターナーへの裏切りは確信犯的という事ですか」
芽衣がゾッとした様に答えた。
「そうだな。私自身も過去に、『暁の明星』のメンバーと一度戦った事があった。まあ倒したからここに居られるわけだが。非常に嫌なタイプの異能力者だった」
「嫌なタイプと言うと……」
「女性を爆発物に変えることが出来るタイプの異能力者だった。全員を助けている余裕が無く、やむを得ず奴の処刑を優先したが、犠牲者が多く出てしまい、私の中でも非常に嫌な記憶として残っている」
「異能力は……リターナーの潜在意識が、力になって現われると教わりました。そいつ……相当歪んで腐ってますね」
真示が眉間にしわを寄せて口を開いた。
「そうだな。吐き気がする。肝心の『暁の明星』のメンバーについて全貌は不明だが、他のリターナー組織の情報からも聞いていると、構成メンバーはリーダー含めて全員男らしい。それで全員女性差別主義……女性憎悪主義者だということらしい」
「女性憎悪主義者……親が女性に殺されでもしたんですかね」
千歳が呆れたように言った。
「『暁の明星』のリターナーがいるというのは、確実なんですか?」
水月が尋ねる。
「極めて信頼できる情報筋からだ。どこからとはまだ言えないがね。そいつは危険なため、私が1対1で戦う。だがもし私が敗北した場合」
「その場合だが副リーダーとして、千歳を任命する。そして戦いを継続せずに全員逃げろ。これは命令だ」
「……分かりました。あまり想像したくはないですが、その様にします」
千歳は責任の重さを、改めて痛感せざるを得なかった。
「私たちはリターナーだ。生きていれば復讐戦も出来る。まずは生きてこそだ」
藤原社長は、緊迫した雰囲気を和ますように、少し微笑んだ。
「以上が今日得た情報をまとめたものだが、あまり深く神聖千年王国本部の敷地内に侵入して、誰かが捕まっても非常に面倒なことになる。これ以上の内部の探索は、かえってこちらの侵入がばれる可能性もあるので、避けようと思うが、質問や異論などはあるか?」
「特に異論はありません。それで……いつ奇襲をしますか?」
千歳が尋ねた。それは皆が聞きたいことだった。
「本部ビルにおいて、連中がまだ帰らず、一般人が帰宅している。もしくはし始めている時間。2日後の水曜日。夜19時に本部ビル11階~13階を奇襲する事を考えている。会議などの予定を確認しようとしてもブラックボックスらしく出てこない。どう思う?」
「連中だと真夜中も起きていそうな気もしますが、下手に帰られると厄介ですからね。良いと思います」
真示が答えた。
「11階以上に、まともな職員がいる可能性も低いと思いますし、いても気絶させれば良いと思うので賛成です」
千歳が答えた。
「良いと思います。水曜日ならまだ準備が出来ますし。沙羅はどうしますか?」
芽衣が尋ねた。
「連れていく訳にもいくまい。ここで留守番をしてらおうと思っている。それから水月」
「はい」
「水月は異能力の最終的な調整を行う。後で私と1対1でな。芽衣は治療の準備をしておくように」
水月に緊張が走った。だが確かに自分で自分の異能力を把握していなければ、今回の作戦で足を引っ張ってしまうだろう。
「……分かりました。よろしくお願いします」
意を決して、そう答えるしかなかった。
「では他に異論が無ければ、会議は終了とする。何か新たな情報が入ったり、何か意見があればいつでも連絡するように」
藤原社長の声で、会議は終わった。
「水月と芽衣は空手着に着替えて4階に来るように」
藤原社長の言葉は、最初は恐怖にしか聞こえなかった。
しかし今は師匠として、導いてくれる方として、水月は恐怖もあるが尊敬の念も持って聞けるようになった。
場所は変わり、4階のトレーニングルーム。
ここに居るのは、水月、藤原社長、芽衣の3人である。
3人とも空手着を着ている。
3人で柔軟をして、基本的な突きや蹴りの流れを一通り行う。
「正拳突きが早いな。自分で習得したのか?」
「いえ、芽衣が教えてくれたんです。肩の力を抜いて、丹田を意識して突く様にって」
「なるほど。さすが参段だな」
藤原社長から言われて、芽衣は嬉しそうだった。
「それでは、最終調整を行う。水月」
「はい」
「私を、お前の父親だと思って、殺すつもりで攻撃してこい」
「来なければ、私からいく」
「芽衣、今日は時間を測らなくて良い。水月が戦闘不能になった時点で終了だ」
「はい……」
芽衣の中に不安がよぎる。でも水月にはこれを通して異能力の効果的な使い方を身に着けて欲しい。その気持ちで胸がいっぱいだった。
水月は、奇妙に落ち着いていた。痛いのはずいぶんと経験したし、これからの方が多いと思う。
しかしそれより、こうして自分を弟子として、鍛えてくれる師匠と出会えたことが嬉しかった。
不思議な充実感とありがたみがあった。
おそらく死ぬほど痛い時間だろう。でもここで自分の異能力の使い方をつかみ、そして藤原社長に報いたい。その気持ちがわいて来た。
無意識に、水月の丹田を中心に力が集まりつつあった。
「では開始」
藤原社長の初めの言葉により、最終調整が始まった。
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