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第6話 ゲス過ぎる社会勉強
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男はニヤニヤしながら、水月に囁いた。
「どや? お前ほんとーにかわええわ。1万円じゃあ不満か?」
水月は本当に何を言われているのかが分からず、けげんそうな目を向けた。
気が付くとその男の後ろにもう一人の男が居る。その男は声をかけて来た男より体格が良く、筋肉の付き方からしても重量級だ。黒革のジャンパーを着ており、格闘家かやくざにしか見えない。
「へえ。ずいぶんとええ女見つけたやないか? 木島よお」重量級のやくざめいた男が上機嫌で口を開いた。
「松島さん。良いっしょ? ただこの女、どうも1万円じゃ不満みたいなんすよね」
松島と言われた男は、「へえ」と言うと、木島と水月に近づいて、小声で話し始めた。
「それならよお……3人でやって3万円でどうよ?」
水月は松島から漂って来る煙草の臭いにまず辟易しつつ、けげんそうな目をそらさずに聞く。
「さっきから何を言っているか分からないんですけど」
木島と松島は、顔を見合わせて、苦笑した。
「何言っちゃってんねんお前。この立ちんぼ通りに突っ立ってよお……」
「ホストに貢ぐために身体売る女しか、ここにはいねえんだよ」
「なあ、真面目ぶってないで、さっさといこうやないか。安心しろや。俺らが天国をみせてやるさかいに……」
「特にお前みたいなガキはたまらねえ世界やぞ」
木島と松島は笑っていた。きっとなんら罪悪感もないのだろう。
そしてここまで言われて、やっと水月は自分が売春をしていると見られている事に気が付いた。
ホストに貢ぐ女性が、金を稼ぐために売春をして金を稼ごうとすることを聞いたことはあった。お金に困った女性が立ちんぼをすることを聞いたことはあった。
しかし今は、水月自身がそう思われているのだ。
自分の身が危険にさらされている事を、水月はようやく理解した。
「さっさと行こうやないか。この先に良いラブホがあるんや」
有無を言わせず、木島は水月の左腕、松島は水月の右腕を掴んで強引に連れて行こうとして引っ張る。
このままだと強引にラブホに連れていかれて犯されると感じた水月は、思わず「違います!」と叫んだが、木島が口を塞ぎ、重量級の松島が水月のみぞおちを鋭く拳で突いた。
「うぐうっ……」とっさの激痛と吐き気で、水月も声が出ない。
周囲に見ている女性や、通行人もいる。
しかしトラブルに巻き込まれたくないらしく、見て見ぬふりをして、誰も止める者などいない。
そのまま水月はまるで連行される様に連れていかれる。
「おいガキ。嬉しそうな顔で笑えや」
「そうでないと俺らが、お前を無理やり連れて行こうとしていると思われるさかい」木島が言う。
水月はずっと下を向いていた。
自分が犯されると考え、真っ先に思い出したのは、父が水月を殺した時の性行為だった。
あのビジョンが、また思い出されてくる。
切っても切り離せない記憶。
自分が人間として、ないがしろにされた記憶。
水月にとって、許せない記憶。
それが再び鮮明によみがえって来た。
「笑えば良いんですよね?」水月はにっこりとほほ笑んだ。
「おう、出来るやないか」木島は感心した。
「思ったよりこの女、ガキのくせにスケベなんやろうよ。お前、年いくつなんや?」木島は尋ねる。
「17歳です」水月は笑ったまま答えた。
「へえ、こりゃ教育しがいがありまっせ松島さん」
「全くだな。お前、どんなプレイが好きなんだ?」
松島が尋ねる。この辺りまでくると人通りも減り、しばらく歩けばもうラブホ街に入るだけだ。だから松島も安心して聞いたのだ。
「好きなプレイ……セックスのプレイですよね?」水月は答える。
「それ以外に何があるんや?」
「やっぱり首を絞められることかなあ。あれ男性にとってとても気持ち良いみたいですね」水月はあっけらかんとして笑って答えた。
「お前、けったいなガキやなあ! こりゃ楽しみでたまらんわ!」
水月は、また下腹部に力を感じていた。下腹部を意識すると呼吸が安定し、思考も安定してくる。
話ながら観察していた。木島と松島はおそらくヤクザだろう。二人とも何か格闘技をやっているだろうが、体格的にも格でも松島の方が上なのだろう。
ラブホへと通じる狭い路地に入った。他に通行人は誰もいない。
解体工事がされている建物もあり、雑多な印象の路地である。
「あ、靴紐がとれちゃった」
2人から離れて、水月は解体工事をしている工事現場の前にしゃがみ、靴紐を直して立ち上がる。
「ねえ松島さん」水月はあっけらかんとして話す。
「なんだよ」松島は水月に聞かれて、悪い気はしないようだ。
「松島さんって、とても強いんでしょ?」
「あたりまえやないか」
「自分の凶暴なところ、抑えられない時ってありませんか?」
「あるにきまっとるやないか。シバく時やセックスの時とか、数え切れんほどあるで」
「あはは。そうですよね。私もね、あるんです」
そう言って、水月は松島に抱きついた。
木島は驚き、うらやましそうに見る。
「おいおい。まだラブホにはいってないやんけ」
松島も性的に興奮したらしい。声がにやけている。
「お前の愛は凶暴やのう……」と松島がそこまで言った次の瞬間。
松島は絶叫した。
「俺の……俺の……足があああっ!」
松島はよたよたと歩くと、そのまま歩けずに倒れこむ。
水月は倒れこんだ松島の顔面を、そのままつま先で、クイッと浮かせて、上から足で踏みつけた。鼻骨が折れたらしく松島の顔のある場所から流血が流れてくる。
木島は目の前で起こっている事を受け止められないらしく、「ま、松島さん」と情けない声を上げている。
木島は信じられなかった。暴力的にヤクザの組の中でも格上の松島が、こんな女子高生のような女に、あっさりとやられているのが、到底受け止められなかった。
それでも、何かの間違いだ。木島は空手の構えをして、水月をしとめようとした。
だが水月を捕捉しようとして辺りを見回した時に、大量の砂が目に入った。
水月が先ほど工事現場で靴紐を結んだ時に、地面の砂を一握り掴んでおいたのだった。
「うあああ!」と四方八方に拳を突き、水月の接近を避けようとする木島は、後ろから水月に髪を掴まれ、そのまま後頭部を地面に叩きつけられた。
そして上から水月のかかと落としが木島の顔面に決まり、松島に続いて木島も気絶することになった。
「ゲスすぎる社会勉強をありがと」
冷徹に言い放ち、パンパンっと水月は手を払うと、荷物を持ち直してその場を離れた。
面倒だが、泊るところは二駅くらい離れたラブホ街にする。
松島が絶叫をあげて倒れたのは、水月が松島の左足の甲の骨を砕いたからだ。足の甲の骨が砕かれれば行動不能になるのは当たり前で、そこから顔面を地面に叩きつけられれば、大の男でも気絶するのは必至だった。
それにしても、水月は自分の事とは言え、やはり自分の変化は認めざるを得なかった。蘇生してからというもの、下腹部に力を感じると、集中力や思考力が冴えてくる。おそらく筋力や運動能力にしても、少なく見積もっても2~3倍くらいはあるように感じる。
そして性格の変化。死にたがっていて、普段マイナス思考の自分だが、この状態になると生きるための作戦や、凶暴性をいかんなく発揮する。
今日はあっけらかんとして笑い、相手を騙すための演技をするのも平気で出来てしまった。
これは一体何の変化なのだろう。私はどうなってしまったのだろうか。
ただ水月は、嫌では無かった。少なくともこれは自分にとって、必要な変化であると感じていた。
水月が移動した後、倒れている松島と、木島の横を通りながら、やられている様子を確認したあと、そこを通り過ぎて行った人影があった。
上下ともスポーツ用のジャージにニットの帽子をかぶっている女性だった。
髪の色は金髪で、二重の目の大きい感じの女性だった。年齢は水月と同じぐらいに見えた。スマホから電話を掛ける。
「春田です。藤原社長。面白い子見つけましたよ。多分ね、私達と同類です。尾行ですよね。了解です」
「本当に可愛い。仲良くなれると良いな」
春田と名乗ったその少女は、プクーッと、チューインガムを膨らませる。
それは心底楽しんでいるように見えた。
「どや? お前ほんとーにかわええわ。1万円じゃあ不満か?」
水月は本当に何を言われているのかが分からず、けげんそうな目を向けた。
気が付くとその男の後ろにもう一人の男が居る。その男は声をかけて来た男より体格が良く、筋肉の付き方からしても重量級だ。黒革のジャンパーを着ており、格闘家かやくざにしか見えない。
「へえ。ずいぶんとええ女見つけたやないか? 木島よお」重量級のやくざめいた男が上機嫌で口を開いた。
「松島さん。良いっしょ? ただこの女、どうも1万円じゃ不満みたいなんすよね」
松島と言われた男は、「へえ」と言うと、木島と水月に近づいて、小声で話し始めた。
「それならよお……3人でやって3万円でどうよ?」
水月は松島から漂って来る煙草の臭いにまず辟易しつつ、けげんそうな目をそらさずに聞く。
「さっきから何を言っているか分からないんですけど」
木島と松島は、顔を見合わせて、苦笑した。
「何言っちゃってんねんお前。この立ちんぼ通りに突っ立ってよお……」
「ホストに貢ぐために身体売る女しか、ここにはいねえんだよ」
「なあ、真面目ぶってないで、さっさといこうやないか。安心しろや。俺らが天国をみせてやるさかいに……」
「特にお前みたいなガキはたまらねえ世界やぞ」
木島と松島は笑っていた。きっとなんら罪悪感もないのだろう。
そしてここまで言われて、やっと水月は自分が売春をしていると見られている事に気が付いた。
ホストに貢ぐ女性が、金を稼ぐために売春をして金を稼ごうとすることを聞いたことはあった。お金に困った女性が立ちんぼをすることを聞いたことはあった。
しかし今は、水月自身がそう思われているのだ。
自分の身が危険にさらされている事を、水月はようやく理解した。
「さっさと行こうやないか。この先に良いラブホがあるんや」
有無を言わせず、木島は水月の左腕、松島は水月の右腕を掴んで強引に連れて行こうとして引っ張る。
このままだと強引にラブホに連れていかれて犯されると感じた水月は、思わず「違います!」と叫んだが、木島が口を塞ぎ、重量級の松島が水月のみぞおちを鋭く拳で突いた。
「うぐうっ……」とっさの激痛と吐き気で、水月も声が出ない。
周囲に見ている女性や、通行人もいる。
しかしトラブルに巻き込まれたくないらしく、見て見ぬふりをして、誰も止める者などいない。
そのまま水月はまるで連行される様に連れていかれる。
「おいガキ。嬉しそうな顔で笑えや」
「そうでないと俺らが、お前を無理やり連れて行こうとしていると思われるさかい」木島が言う。
水月はずっと下を向いていた。
自分が犯されると考え、真っ先に思い出したのは、父が水月を殺した時の性行為だった。
あのビジョンが、また思い出されてくる。
切っても切り離せない記憶。
自分が人間として、ないがしろにされた記憶。
水月にとって、許せない記憶。
それが再び鮮明によみがえって来た。
「笑えば良いんですよね?」水月はにっこりとほほ笑んだ。
「おう、出来るやないか」木島は感心した。
「思ったよりこの女、ガキのくせにスケベなんやろうよ。お前、年いくつなんや?」木島は尋ねる。
「17歳です」水月は笑ったまま答えた。
「へえ、こりゃ教育しがいがありまっせ松島さん」
「全くだな。お前、どんなプレイが好きなんだ?」
松島が尋ねる。この辺りまでくると人通りも減り、しばらく歩けばもうラブホ街に入るだけだ。だから松島も安心して聞いたのだ。
「好きなプレイ……セックスのプレイですよね?」水月は答える。
「それ以外に何があるんや?」
「やっぱり首を絞められることかなあ。あれ男性にとってとても気持ち良いみたいですね」水月はあっけらかんとして笑って答えた。
「お前、けったいなガキやなあ! こりゃ楽しみでたまらんわ!」
水月は、また下腹部に力を感じていた。下腹部を意識すると呼吸が安定し、思考も安定してくる。
話ながら観察していた。木島と松島はおそらくヤクザだろう。二人とも何か格闘技をやっているだろうが、体格的にも格でも松島の方が上なのだろう。
ラブホへと通じる狭い路地に入った。他に通行人は誰もいない。
解体工事がされている建物もあり、雑多な印象の路地である。
「あ、靴紐がとれちゃった」
2人から離れて、水月は解体工事をしている工事現場の前にしゃがみ、靴紐を直して立ち上がる。
「ねえ松島さん」水月はあっけらかんとして話す。
「なんだよ」松島は水月に聞かれて、悪い気はしないようだ。
「松島さんって、とても強いんでしょ?」
「あたりまえやないか」
「自分の凶暴なところ、抑えられない時ってありませんか?」
「あるにきまっとるやないか。シバく時やセックスの時とか、数え切れんほどあるで」
「あはは。そうですよね。私もね、あるんです」
そう言って、水月は松島に抱きついた。
木島は驚き、うらやましそうに見る。
「おいおい。まだラブホにはいってないやんけ」
松島も性的に興奮したらしい。声がにやけている。
「お前の愛は凶暴やのう……」と松島がそこまで言った次の瞬間。
松島は絶叫した。
「俺の……俺の……足があああっ!」
松島はよたよたと歩くと、そのまま歩けずに倒れこむ。
水月は倒れこんだ松島の顔面を、そのままつま先で、クイッと浮かせて、上から足で踏みつけた。鼻骨が折れたらしく松島の顔のある場所から流血が流れてくる。
木島は目の前で起こっている事を受け止められないらしく、「ま、松島さん」と情けない声を上げている。
木島は信じられなかった。暴力的にヤクザの組の中でも格上の松島が、こんな女子高生のような女に、あっさりとやられているのが、到底受け止められなかった。
それでも、何かの間違いだ。木島は空手の構えをして、水月をしとめようとした。
だが水月を捕捉しようとして辺りを見回した時に、大量の砂が目に入った。
水月が先ほど工事現場で靴紐を結んだ時に、地面の砂を一握り掴んでおいたのだった。
「うあああ!」と四方八方に拳を突き、水月の接近を避けようとする木島は、後ろから水月に髪を掴まれ、そのまま後頭部を地面に叩きつけられた。
そして上から水月のかかと落としが木島の顔面に決まり、松島に続いて木島も気絶することになった。
「ゲスすぎる社会勉強をありがと」
冷徹に言い放ち、パンパンっと水月は手を払うと、荷物を持ち直してその場を離れた。
面倒だが、泊るところは二駅くらい離れたラブホ街にする。
松島が絶叫をあげて倒れたのは、水月が松島の左足の甲の骨を砕いたからだ。足の甲の骨が砕かれれば行動不能になるのは当たり前で、そこから顔面を地面に叩きつけられれば、大の男でも気絶するのは必至だった。
それにしても、水月は自分の事とは言え、やはり自分の変化は認めざるを得なかった。蘇生してからというもの、下腹部に力を感じると、集中力や思考力が冴えてくる。おそらく筋力や運動能力にしても、少なく見積もっても2~3倍くらいはあるように感じる。
そして性格の変化。死にたがっていて、普段マイナス思考の自分だが、この状態になると生きるための作戦や、凶暴性をいかんなく発揮する。
今日はあっけらかんとして笑い、相手を騙すための演技をするのも平気で出来てしまった。
これは一体何の変化なのだろう。私はどうなってしまったのだろうか。
ただ水月は、嫌では無かった。少なくともこれは自分にとって、必要な変化であると感じていた。
水月が移動した後、倒れている松島と、木島の横を通りながら、やられている様子を確認したあと、そこを通り過ぎて行った人影があった。
上下ともスポーツ用のジャージにニットの帽子をかぶっている女性だった。
髪の色は金髪で、二重の目の大きい感じの女性だった。年齢は水月と同じぐらいに見えた。スマホから電話を掛ける。
「春田です。藤原社長。面白い子見つけましたよ。多分ね、私達と同類です。尾行ですよね。了解です」
「本当に可愛い。仲良くなれると良いな」
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それは心底楽しんでいるように見えた。
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