僕の愛しい廃棄物

ますじ

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君という名前のセカイ

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「みーくん、どうしよう……」
 耳に当てたスマートフォンの向こうから呆然とした声が聞こえる。
「人、殺しちゃった……」
 頭の片隅で激しい警鐘が鳴っている。喉が渇いてひりつく痛みを覚えた。生唾を飲み込んで、相手の言葉を消化していく。
 殺した。
 何を?
 人を。
 誰が?
 電話の相手が。
 俺の恋人が。

 アヤが、人を殺した。

 俺とアヤは同じ町で生まれ育った幼馴染だ。気が弱く友達もいなかった俺にアヤが声をかけてくれて親しくなった。今でこそ俺がアヤを引っ張るようになったが、子供のころの俺は引っ込み思案で頼りなく、いつもアヤの背中に隠れていた。俺は一般的で当たり障りない人間関係を築くのがとても苦手だ。人と上手に繋がれないし、人の輪に入ることができない。常に疎外感があって、自分と他人の間に見えない壁がある。同じ人間なのに違う世界で生きている気がする。
 けれどそれはアヤも同じだった。本当の意味で友達と呼べる存在は、ずっとお互いだけだった。恋人だってそうだ。俺達はお互い以外に特別な存在を作ったことがなかった。
 俺とアヤはいつも二人で一緒にいて、常にお互いの手だけを握って育ってきた。アヤは俺にとっての全てで、アヤのほかに大切なものもない。アヤは俺にとっての世界そのものだった。

 その世界が、いま、崩壊しようとしている。


「もう、さよならだね、みーくん……ごめん……僕、犯罪者になったよ……人殺しになったんだ……もう、みーくんと一緒にいられない……」
 殺風景な自室の片隅で、夜食のラーメンが伸びていく。
 馬鹿な冗談を言うなと笑い飛ばすことが出来なかった。電波に乗って届く声は嘘や揶揄いなど含んでいない。どこまでも冷たく静かで、絶望を孕んでいた。視界が激しく歪んで、座っている地面が沼地のように沈み込んでいく感じがする。半分も食べていないラーメンが逆流しそうになった。
「……今、どこにいるんだ?」
「家……」
「すぐに行く。そこにいろよ」
 通話を切り、部屋着の上にコートを羽織る。親が寝ているのを確認し、鍵とスマートフォンだけ持って家を飛び出ると、夜道を走り抜けアヤの家を目指した。この先自分が取るべき行動を一つ一つ整理しながら、通い慣れたマンションの一室を目指す。階段を駆け上ると、一つの扉が不自然に開いたままで、光が洩れているのが見えた。
「アヤ……!」
 靴を脱ぐのも忘れ、玄関で立ち尽くしているアヤに駆け寄る。その足元には黒い影が倒れていて、赤黒い水たまりを作っていた。
「みーくん……」
 アヤの右手に血まみれのナイフが見える。それを奪い取って投げ捨てると、途端にアヤの体から力が抜けて崩れ落ちた。
「みーくん……僕、ほんとに、殺すつもりなかった……」
「分かってる」
 小腹が空いて冷蔵庫にめぼしいものがなかったから、親の目を盗んでコンビニに行った帰りのことだったらしい。中に入ろうとしたらいきなり襲われて、玄関で押し倒されたという。相手はナイフを持っていて、気が動転したアヤは咄嗟にそれを奪い返し、振り上げた。切っ先は鋭男の喉笛を切り裂き、激しい血しぶきを上げた。やがて男は地面に崩れ落ちたあと、声もなく静かに息絶えていった。
 そんないきさつを、震えた声でアヤが告げた。親には言えない、起きてきたら通報されるのかな、と。涙をこらえて震えるアヤを、俺は強く抱き寄せた。
「……もう、大丈夫だ。怖かったな」
 さらさらの髪を掴むようにして胸に押し付ければ、安堵したせいかアヤが小さく嗚咽をあげはじめた。アヤが泣くなんて珍しい。こいつは大人しそうに見えて俺よりもメンタルが強いし、いつだって冷静だから感情を乱すこと自体が少ない。いや、こんな状況だから、そりゃ当たり前か。俺が来るまで泣くこともせず、一人で絶望と恐怖に耐えていたのかと思うと、胸が苦しくなった。
 アヤの親が起きてきてはいけないので、いっそう強くアヤの頭を抱き竦める。くぐもった嗚咽が静かな玄関先に小さく響いていた。
「大丈夫だ、アヤ。ほら、ゆっくり息しろ。大丈夫。俺がいるから、な?」
「う、うぅ……みーくん……」
 しばらくそうして抱きしめていると、次第にアヤの嗚咽も落ち着いていった。くるしい、と訴えたアヤを開放し、放置していた死体を振り返る。あまり悠長にしている時間はないだろう。物音に気付かれるわけにもいかない。アヤの親が起きてしまう前に片づけなければ。
 うつ伏せになっている死体を仰向けに転がすと、喉元に生々しい傷があるのが見えた。所持品はアヤの奪ったナイフだけのようだ。見覚えのある顔をしている。いつも俺達が通っているファミレスの店員だ。何度か話しかけられたことがあったし、アヤに連絡先を渡そうとして断られていたのを覚えている。まさかここまでやるとは思っていなかった。これも俺の危機感が足りなかったせいだ。
 アヤはすすり泣くのをやめて、男のそばで手を合わせた。濡れたまつ毛を伏せて唇を引き結び、死を偲んでいる。俺はその様子を無言で見つめていた。一緒に手を合わせようとは微塵も思わなかった。
 その時、男の指先が、わずかに動いたのを見た。
「……!」
 アヤがそれに気づくよりも前に、俺は地面のナイフを拾い上げた。ぱっくりと開いた傷口に突き立て、渾身の力を込める。生々しい感触が掌に伝わった。大量の血が溢れ出して地面を濡らしていく。なにしてるの、とアヤが問いかけてくる。安心させるように笑みを向けたあと、ごとりと、首の転がる音がした。
 生かしておく理由はなかった。


 親の車を拝借して走らせること小一時間。免許を取ったばかりだというのに、こんなにも長時間運転することになるとは思わなかった。
 やってきた山奥で、俺達は無言で穴を掘っていた。身体をそれぞれバラバラに切り離された男は、黒いごみ袋に詰め込まれ、後部座席で眠っている。いつ警察に見つかるかも分からないが、俺にはこの方法しか思いつかなかった。親に助けを求めるつもりもなかったし、正当防衛を主張することも考えなかった。
 襲われたのはアヤで、刺したのもアヤだ。それは間違いない。
 だが、殺したのは俺だ。
 これは過剰防衛にすらならない。殺人だ。俺は自分の意志で、人を殺した。
「こんなもんかな」
 穴の深さが十分にあることを確認したあと、袋に眠っている男を連れてきて、中身を取り出した。無残に切り離された首が最初に見えて、思わず目を背けそうになる。まずは手足から順番に放り込んでいって、最後の首は二人で丁寧に持ち上げて穴に入れた。植物の養分になってくれることを祈りながら、男の死体に土をかけていく。
「……ゆっくり眠ってね」
 そう祈るアヤの声は、抑揚がなかった。
 穴を埋め終えて、汚れた体で車に戻る。早くこの場を去ってしまうべきだとは分かっていたが、車に戻った途端アヤと目が合ってしまった。アヤの手が俺の膝に乗せられる。まだ泣き腫らした顔をしていて、奇妙な興奮を煽られた。
「みーくん、ごめん……」
「いいよ。別に、たいしたことじゃないし」
 人を殺しておいて、たいしたことじゃないだなんて。自分でも笑ってしまいそうになった。
「ねえ、アヤ……こっち向いて」
「……ん」
 アヤの体を抱き寄せ、口づける。舌を絡めるとしょっぱい味がした。そのまま車のシートを倒して、アヤを組み敷く。
 そばには死体が眠っているのに、俺はアヤを求めて暴走していた。アヤの衣服を乱し、胸に唇を寄せる。軽く口づけてから耳を押し当てると、とくとくと優しい鼓動が聞こえて、心が安らいだ。
「アヤが生きてる。俺はそれだけでいいよ」
 アヤの下半身に手を伸ばし、下着ごと衣服をずらす。何の反応もしていない性器を手に取って軽く口づけると、アヤが恥ずかしがるように身をよじった。その反応がかわいくて、口に含み舌で転がしながら、唾液で湿らせた指を後ろに伸ばす。きつく口を閉じている穴を指先でつつくと、小さな吐息と共にアヤの体から力が抜けた。
「みーくん……ここで、するの……?」
「うん」
 アヤの視線が窓の外へ向く。気にせず指を奥まで押し込んで折り曲げた。アヤの背が飛び上がって、かわいらしい嬌声が上がる。
「あぁっ! あっ、だめっ、きもちぃ、そこすきっ」
「アヤは素直でかわいいね」
 アヤの好きな前立腺を指でとんとんと優しく叩く。逃げようとする腰を追いかけて、素直に勃起しはじめた性器を舌で愛撫し、先端からあふれ出る蜜を啜り上げた。
「ぁ、あ、あぁっ、ひ、ぅう、あ……」
 アヤが達してしまう前に口を離し、ぴんと尖った胸にしゃぶりつく。強く吸い付いたあと、舌先でころころと転がせば、アヤの背が大きくのけ反って快感に打ち震えた。その隙に中を探る指を増やし、アヤの弱いところを上からも下からも刺激する。まだ挿れる前だというのにアヤはすでに達しそうで、いつもより感じている様子がよく分かった。
「アヤ、もしかして、興奮してる?」
 この状況で? 人を殺したあとで? そんな意地悪い俺の問いに、アヤは弱々しく頭を振る。快感からか、困惑からか、へにゃりと下がった眉がどうしようもなく可愛い。
「ごめん、冗談。かわいいよ、アヤ」
「ううぅ……」
 目の端に口づけて、まだ残っている涙の痕を舐めとる。口内に広がる塩辛さも愛しかった。
 中が十分解れてきたところで、痛いほど張り詰めていた自身を取り出す。ひくつく入り口に押し当てれば、アヤのほうから強請るように腰を揺らめかせた。なんて愛しいんだろう。
 ぐっと力をこめて、少しずつ自身を挿入していく。アヤの中はいつも通り熱く蕩けていて、下半身ごと持っていかれそうなほど心地よかった。奥まで繋がって腰を揺らせば、ぎしぎしと車が軋む音がする。もしも誰かが通りがかれば、中で何が行われているか一目瞭然だろう。
「ぁあっ、あっ、あ、みーくんっ! あっ、ひぃっ、いっ、あっ、あぁあっ!」
「っ、あ、アヤ、はぁっ……」
 しているのはいつもと同じ行為なのに、妙に興奮していた。アヤを気遣うことすらできず、腰を掴んでがむしゃらに叩き付ける。それでもアヤは快感を拾って、俺にしがみついて甘く喘いだ。耳に触れる吐息や嬌声が、俺の鼓膜を愛撫して興奮を高めていく。
「ひあっ、あっ、あぅっ、みーくん、あぁっ、ひっ、あっ!」
 抱きしめたアヤの体が震えている。締め付けが強くなって、強烈な絶頂へと押し上げられた。耐える理由もなかったので、奥に向かって熱を吐き出す。そそぎ込んでいる間も律動は止めずに、やがてすぐ回復した自身で奥を貫いた。中出しは後始末が大変だが、今は考えている余裕もない。ただ気持ちよくなりたいし、アヤだってきっと同じ気持ちだ。腹の奥に精液を注がれて、とろんとしただらしない顔を晒している。アヤは俺に中出しされるのが大好きだ。その証拠に、アヤもまた、小さな絶頂を迎えて痙攣していた。
「ぁ……みぃ、く……ぁあ、は、ぁ……はーっ……はぁ……っ♡」
「アヤ……」
 蕩けきった声で名前を呼ばれるたび、俺もたまらない気持ちになった。跳ねる腰を掴んで、首筋に舌を這わせて、無我夢中でアヤの体を貪る。汗ばんだ首から、顎、頬へと上がり、顔中に口づけた後、唇に食らいついて舌を絡めた。唾液を混ぜあい、舌をこすり合わせながら、その間も激しく揺さぶって快感を追いかける。
「んっ、ふ、ぅうっ、んっ、んんーっ♡ ん、ぁ、あ、っあ、あ゛っ!」
 少しだけ緩く開いていた奥に向かって、思い切り自身を叩き込む。アヤの大好きな結腸だ。ここを貫くと、アヤはいつも訳が分からなくなって泣きじゃくってしまう。今も、アヤは声にならない悲鳴をあげたあと、瞳からぼろぼろと大粒の涙をこぼしながら喉を震わせた。
「~~~~っっ!! ひぃっ、ひっ、ぁあっ、そこぉっ、らめなとこぉ゛っ♡ あっ、ひっ、ひぃっ、ぃっ……!!」
「うん、気持ちいいの、知ってるから。大丈夫」
 アヤの頭を撫でながら、最も深くて弱いところを優しく突き上げる。今度は先ほどまでの乱暴な律動ではなくて、アヤの快楽を引き出すための柔らかい動きだ。奥をトントンと優しく叩くたびに、アヤも震えあがって快楽に染まった吐息を漏らす。
「はぁ、ぁ、うぅ、あ、ひ、きもひぃ、きもち……あぁっ、あっ!」
 素直に鳴き、だらしなく蕩けた顔を晒すアヤが愛しい。乱暴になってしまわないよう注意しながら、唇を塞いで暖かな口内を味わった。上からも下からもアヤを貪って、アヤでいっぱいになる。嬉しい。好きだ。愛している。アヤがいればそれでいい。俺にはアヤだけが必要なんだ。
「アヤ……また、中にだしていい?」
「いい、よぉ……あっ、んん……いっぱい、らして……」
 アヤからの許しを得て、奥に向かってがつがつと腰を叩き付ける。俺からも余裕はなくなっていて、少し乱暴な律動になってしまった。しかしアヤが痛がる素振りはなく、むしろ強烈な快感に悶えて全身を震わせていた。背中に爪を立てられて、ぴりりとした痛みが走る。それさえも俺にはうれしくて愛しい。
「ひっ、あっ、あっ、いっ、ぐぅっ♡ いっひゃうっ♡ あっ、ひっ、きもひぃっ、みーくん、しゅきぃ゛っ、あぁああ゛っ♡」
 アヤの体が飛び上がり、びくびくと痙攣する。腹の上に精子が吐き出され、俺も同時に達していた。我ながら早いと思ったが、アヤのいやらしさの前には勝てない。吐き出したあとも腰が止まらず、中に精子を擦り付けるように揺らしていた。
「はぁ……ぁ……はは……あははっ……ぼくたち、ひと、殺したあとなのに」
 余韻の中、アヤが小さく笑いながら言う。アヤの中から自身をようやく引き抜いて、静かに呼吸を整えた。ティッシュでお互いの体を拭い、換気のために窓を開ける。中に出してしまったものを少しでも掻き出しておかなければならない。アヤの尻にもう一度手を伸ばそうとすると、なぜかアヤに制止された。
「いいよ、そのままで……」
「腹壊すだろ」
「それでもいい」
 アヤの視線が窓の外に流される。ようやく、ここがどこだか思い出した。数メートル先には俺たちの殺した男が眠っている。そんな場所で、俺たちはセックスしていたのだ。
「……行こう、みーくん」
 帰ろう、ではなく、行こう、とアヤは言った。
 俺は無言で頷いて、軽く身なりを整える。汚れたティッシュはごみ箱に捨てて、アヤのシートを起こす。なんとなくラジオを付けると、どこかの国の陽気な音楽が流れだした。場違いなそれに耳を傾けながら、静かに車を発進させる。
 街頭も少ない山道には、ただただ暗闇が広がっていた。フロントガラスの向こう側に、どこまでも広く、果てしなく続いていた。



「アヤは、もし俺が犯罪者になったらどうする?」
 ゲームのコントローラーを握りながら、ふいに投げかけられた質問に、綾斗は視線を隣に流した。そこには真剣に画面を見ている充留の顔があったので、すぐに視線を画面に戻す。そこで綾斗は、あっと声を上げた。あと一撃で自分のキャラクターが負けるところだった。慌てて充留のキャラクターから距離を取って、言葉で反撃する。
「ちょっと! 油断させるとかずるい!」
「やられるほううが悪いんですー」
 悪びれる様子もなく充留はキャラクターを操作する。逃げに転じた綾斗を追って、最後の一撃を叩き込んだ。
「あぁっ!?」
「はい、アヤの負けー」
 画面に浮かび上がったLOSEの文字に、綾斗の体から力が抜けていく。コントローラーを投げ捨てて寝転ぶと、狭い天井が視界に入った。窓からは淡い茜色が差し込んで、二人を暖かく照らしている。しばらくテスト前でゲームどころじゃなかったから、こうして二人でたっぷり遊ぶのは久しぶりだ。楽しい時間はあっという間に過ぎていく。充留とゲームを始めたのはついさっきだったつもりなのに、もう何時間も経っていたみたいだ。
 優しい西日に照らされた天井を眺めながら、綾斗はふと、口を開いた。ゲームを片付けようとしていた充留の動きが止まる。
「そしたら、僕もみーくんと同じ罪を犯そうかな」
「……へ?」
「さっきの答え」
 目を瞠る充留に、綾斗は悪戯っぽい笑みを浮かべる。そんな綾斗に充留は小首をかしげ、困ったように人差し指で頬を掻いた。
「いや、そこはさあ……怒るとかのほうが……」
「それでみーくんと別の道を行くくらいなら、僕も犯罪者になるよ」
 呆然と見つめてくる充留の間抜けな顔を見て、綾斗は小さく吹き出した。茶化すなよ、とへそを曲げる充留に、本気だよ、と綾斗が返す。またも充留は間抜け面で黙り込んでしまった。
「なにさ。話を振ってきたのはそっちなのに」
「いや、意外な返事だったから」
 長いまつげを上下させながら、充留が困惑した顔を浮かべる。綾斗はそんな充留と視線を合わせたまま、そうかな、と小さく呟いた。すぐそばには、ゲームを片付けようとして伸ばされたままの充留の手がある。綾斗はそっとそれを握って、自分のほうに引き寄せた。両手で包み込み、胸の近くまで持ってくる。ひざを突き合わせ、少し上目遣いに相手を見やると、充留が小さく息を呑むのが綾斗には分かった。
「みーくんは? 僕が罪を犯したらどうする?」
 たとえば、人を殺したら?
 太陽の位置が変わり、茜色がいっそう強くなる。充留の頬は朱く染め上げられ、その真面目な表情も相まってか、まるで告白前の少年のような絵面だった。綾斗は笑いを堪えるような顔をしながら、充留の返事を静かに待っている。放置したままのゲーム画面からは、どこか呑気な音楽が流れていた。
「アヤの代わりに、俺が殺すよ」
 充留の落ち着いた言葉が、ゲーム音声を優しくかき消した。じわじわと、繋いだ手が震えはじめた。やがて耐えきれないといった様子で、綾斗は大きく吹き出す。
「それじゃ答えになってないじゃん!」
 笑い出した綾斗に、充留もまた笑いながら、ゲーム本体のスイッチを切った。
 あとにはただ、二人分の楽しげな笑い声と、それを焼く尽くすような夕日だけが残っていた。
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