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蜘蛛は殺しちゃいけないよ
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幼いころは、虫を殺して遊ぶのが好きだった。
当時は自覚なんてなかったが、無力なものを自分の手で好き勝手に弄び、嬲り殺すことに快楽を覚えていたのだろう。懸命に餌を運ぶ蟻を順番に踏みつぶしたり、堂々と跳ねていたバッタの足を一本ずつもいだり、そんな残酷な遊びに夢中だった。今となっては虫なんて触れるどころか見るのも嫌になったが、当時から育てられてきた嗜虐心というものは、まだ消えていないようだ。
その対象が、虫から人へと変わっただけで、俺はまだ残酷な子供の遊びを続けている。
「お前、昨日なんで来なかったんだよ」
窓際の一番後ろにある席の前に立ち、本を読んでいた生徒を睨む。眠そうな瞳がこちらを見上げた。猫のように柔らかく跳ねた黒髪が、日に当たって僅かに茶色く染まっている。
「……おなかが痛かったから」
「は? ふざけんなよ。じゃあ今持ってきたのか?」
苛立ちながら軽く机を蹴る。一瞬だけ教室から視線が集まったが、振り返って睨みつければ、野次馬連中の視線もすぐに散っていく。俺達に関わろうとする人間は一人もいない。当たり前のことだ。誰も面倒事には関わりたくない。
「持ってきてない……ごめん、怜くん」
「最低だな。俺達友達だろ? 約束も守れないなんてな」
友達という言葉に思わず吹き出してしまいそうになる。阿呆面が俺を見上げていて、その白い頬をひっぱたいてやりたくなった。
「なあ薫。お前が金持ってきてくんねえから、俺、ゲーム買えなかったんだけど」
城之内薫。名前に似つかず地味で無口で友達のいない、クラスで浮いた存在だ。そして俺もまた、素行の悪さで教師から目を付けられ、生徒からも敬遠される、鼻つまみ者である。同級生から金を巻き上げるみじめな不良生徒だ。俺は金がないのだ。父親は消息不明、母親は水商売でほとんど不在、たまに生活費を置いていくがギリギリ生きていける金額で、アルバイトをしようにも何故かいつも面接で落ちる。唯一受かったコンビニのアルバイトも、初日で先輩を殴ってクビになった。おまけに家には覚えのない取り立てが月一くらいの頻度でやってくる。最悪なことばかりだ。
対してこの地味で存在感のない同級生は、医者の家系に生まれ育ち、アルバイトなんざせずとも毎月いい額の小遣いを受け取っている「ボンボン」だ。垢ぬけない切りっぱなしの黒髪はまだしも、目にかかるほど長い前髪のおかげで表情はほとんど見えず、常に背筋を丸めているため存在すら小さく見える。誰にも見向きされないような地味で暗い見た目をしているくせに、生まれ育ちだけはいいのだから気に入らない。
まるで正反対な俺と薫だが、ひとつだけ共通点がある。互いに「友達」がいないことだ。俺は今まで出来た「友達」を殴り罵倒し泣かせたがために失ってきて、薫はその地味で暗い性格故に人が寄り付かなかった。時々だれかと話している場面を見ることはあるが、ろくに会話が成立しているところを見たことがない。大概、向うの質問に薫が「うん」か「ううん」だけで返して、相手が呆れて去っていく。他人と交流する気がないのかもしれない。薫が「会話」する相手は、今のところ俺だけだ。
「で、どうすんだよ、どうやって詫びてくれんの?」
薫の茶色がかった瞳が静かに俺を見上げる。視線が触れ合った途端、背筋をなにか電流めいたものが駆け抜けていった。顎でしゃくって促せば、薫は開いていた本を閉じ、億劫そうに立ち上がる。教室のどこかで「またかよ」と呟く声がした。「先生に言ったほうがいいんじゃないの」「馬鹿、巻き込まれたらどうすんだよ」「ほっとけほっとけ」全部聞こえてるっつーの。無視して教室を出て、廊下を歩く。薫は黙って俺の半歩後ろをついてきた。その気配を感じながら歩いていると、口内に唾が溜まった。
人気のない体育館裏に鈍い音が響く。転がった体を見下ろして、俺の口角は上がっていた。腹を蹴られた薫は苦しそうに蹲り、咳を繰り返している。
「ズボン脱げよ」
ポケットからスマートフォンを取り出し、蹲る薫に向ける。薫はわずかに体を固くしたあと、諦めたように小さく息をついて立ち上がり、震える手でベルトを外した。俺に逆らったらどうなるか、こいつはよく知っている。大人しく従順で、いい玩具だ。
ゆっくりとした動作で薫がスラックスを下げていく。やがて見えたのは毛の一つも生えていない子供みたいな陰部だ。膝まで下げると、羞恥のためか薫は震えながら顔を逸らし、小さく鼻をすすった。
「へえ、まじで剃ってきたんだ」
「う……」
薫の下半身をカメラに映し、シャッターを切る。恥ずかし気に服の裾を握っている両手がやけにいじらしい。それでもしっかり陰部がカメラに収まるよう、自分でシャツをたくしあげているのだから、ひょっとしたらこいつはただの変態なのではないかと思う。従順過ぎていっそ不気味なくらいだ。
しっかり薫の痴態をカメラに収めると、スマートフォンはポケットにしまい、そばにあるマットを顎でしゃくった。薫ははじめから分かっていたというようにそこに横になると、自分から股を広げて俺を見つめる。
これは日課だ。毎日ここで薫を犯す。薫も抵抗しないし自ら進んで体を差し出してくるから、これはレイプではない。ただの遊びだ。
薫の尻に指を押し込むと、そこはもうぬかるんで簡単に指を飲み込んでいった。いつからか薫はこうやってローションを仕込んで中をほぐしてくるようになった。もういつでも入れて構わないだろうが、前立腺を指で挟んでぐりぐりと押し込み、薫の反応を楽しむ。甘い嬌声が倉庫に響いた。
「ひあぁ……ぁ、あ、きもち、ぁ、あ」
「本当にすごいよな。男のくせに、尻で気持ちよくなって」
ずるりと指を引き抜き、痛いくらいに勃起した自身を薫の中に埋めていく。熱く柔らかな内壁に包まれて、すぐにでも達しそうになった。ぐっとこらえながら腰を推し進め、根本までずっぽり埋め込む。薄い腰を掴んで早速とばかりに揺さぶると、泣くような嬌声が上がって中がきつく締め付けられた。
「あっ、あっ、ぁあ、ひぅ、あ、いい、きもひぃよお……」
「あー、いいのかよ。ほんと淫乱だなお前」
薫の脚が腰に絡んでくる。自分から尻を揺らして快感を追う姿はどこまでも淫らだった。顔はすっかり快楽でとろけきっていて、だらしなく涎を垂らしながら喘いでいる。
薫はいつも従順だ。俺に揺さぶられて気持ちのよさそうな声を上げて、俺が望めば何度も達する。こんな埃臭い場所で犯されても文句の一つも言わないどころか、喜んで嬌声を上げて腰を振っているのだから、かなりの変態だ。
根本まで押し込んだものを、ぐちゃぐちゃと音を立てながら大きく出し入れする。抜け落ちるぎりぎりまで引き抜いてまた奥を叩けば、薫の背筋が仰け反って甲高い悲鳴が上がった。今の衝撃で達したらしい。腹に湿った感触がある。薫が余韻に浸る暇も与えず揺さぶると、腰に回っていた脚に力がこもった。
「やぁあっ、やら、らめぇっ、いまいったばっか、ぁあっ、あ、や、きもちぃ、おかひくなっひゃ」
「もうおかしいだろ、お前」
達したばかりで敏感な体を好き勝手揺さぶられ、薫は泣きながら俺に縋って腰を振っていた。この達した直後に乱暴に揺さぶられるのが好きらしい。音を立てながら強く腰を叩きつけると、薫は髪を振り乱し、泣きながらまた達した。今度は射精することなく、中をひくつかせ、全身を痙攣させながら絶頂している。ここまでくるともう薫に理性は残っていない。気持ちいいことしか分からない馬鹿になっている。
「あぁぁあっ! あぁあ、ひぁ、あー、あ、あ……」
「っはあ、はー」
薫の細い首に手を掛ける。少しずつ力をこめていくと、嬌声が収まり、中がますます締まった。
「かは、ぁ、はひゅ、ひゅ……」
腰から薫の脚が外れてマットに落ちる。だらしなく股を開いて揺さぶられる薫の姿に興奮を煽られた。薫の意識が落ちる前に首から手を離す。思い切り咳き込んで酸素を取り込もうとする姿にもそそられた。
「げほげほっ! おえ、ぇっ、はぁ、はーっ、はふっ……」
必死で呼吸を整えようとしている薫を揺さぶり、邪魔をする。ひっくり返った声をあげ、また噎せ返るのが面白い。それでも薫は文句の一つも言わず、大人しく揺さぶられている。律動に邪魔されながら、懸命に息を整えようとしていた。
「はひっ、ひ、けほっ、あっ、ひぃっ、ひっ……!」
薫の中はやはり熱くとろけて気持ちいい。もっと味わいたくなって、左足を持ち上げ肩にかけ、腰を押し進めた。結合が深くなって、薫が少しだけ苦しそうな声を上げた。
「はぐ、ぅ、うぅ、ん、あ、あっ!」
「ははっ、きったねえ顔」
左足を抱えながらぐいぐいと腰を押し付ける。奥にある小さな入り口をこじあけ、中に入り込む。奥のところを小刻みに叩けば、薫も背を浮かせて自ら腰を擦り付けてきた。
「ぁ、あ゛、あぁあ、きもち、ぁ、あん、ぁあっ……!」
ぐぽぐぽと結腸をこじあけ、薫の一番よわいところを犯す。ここをぶち抜いて乱暴に揺さぶってやると、薫は半狂乱になったみたく泣き乱れてすぐにイくのだ。
ごつごつと骨が当たるほど強く揺さぶり、容赦なく奥を掻き回す。中の締め付けは最高で、絶頂を促すようにうねって、奥へ奥へと誘い込んできた。
「ひぃっ、ひっ、あ゛ぁあっ、あ゛っ、あっ、あ!」
仰け反った薫がマットに額を擦り付ける。震える指先を口元に運び、どこか物欲しそうに唇をなぞっていた。
「あ゛ぅ、あっ、ひ、いぃよぉっ、おくっ、おぐしゅごい、ぁ、あ、あ」
ごりごりと奥を抉られるのがよほど好きらしい。奥がいい奥がすごいと申告してくる薫は、眩暈がするほど厭らしかった。お望み通り激しく奥を突き上げ、乱暴に揺さぶる。今にも達しそうな締め付けに、思わず呻いた。
「く、ぅ……」
「あ゛ぁぁあっ! いぃ、いぃのぉっ、しゅごいの、はぁう、あ゛、あぁぁっ、あ゛~~っ!」
悲鳴じみた声が甘く俺の鼓膜を揺らす。そろそろ俺も限界が近かった。相手のことなど考えない激しい律動で、自分の快感を追いかける。薫も俺に合わせて腰を揺らし、一緒になって絶頂を目指していた。
「ひぁっ、あ、あぁあ! あーっ、あ、いく、いっちゃ、まらいっひゃうぅう!」
「っは、俺も……」
薫の奥で思い切り熱を吐き出す。同時に薫も三度目の絶頂を迎えていた。ひくひくと痙攣する薫の奥に、最後の一滴まで精液を注ぎ込む。
「あー、疲れた」
すべて吐き出してしまうと、一気に頭がすっきりして、代わりに倦怠感が襲ってきた。薫はまだ余韻から抜け出していないようで、だらしなく股を開いて横たわったまま、かくかく腰を揺らしていた。
「ぁ……はぁ……は……」
「エッロ」
俺はその姿を写真に収めると、さっさと身なりを整える。薫は放置して体育館倉庫を出ると、冷え切った空気に出迎えられた。
ふと、体育館のほうに人影が消えていくのを見つける。さして気にもせず教室を目指して歩き出すと、強い北風が吹いて全身が震えあがった。上着を羽織ってくるべきだった。
今日もいつものように薫を呼び出そうとしたが、彼の机は無人になっていた。トイレにでも行っているのだろうかと思い待っていたが、なかなか姿を現さない。そのうちに苛立ってきて、薫の机を軽く蹴り上げた。クラス中から視線が集まったあと、またすぐ散り散りになる。それすら煩わしかった。
「なにやってんだ、あいつ」
しばらくすると、ようやく薫が教室に現れた。その背後からは、女子生徒が一人、俯いてついてきている。あまりの珍しさに目を瞠り、その様子を凝視する。女子生徒はとくに薫と声を交わすでもなく別れると、席に着き、待っていた自分の友人と話し始めた。
「おはよう」
「あ」
薫から声を掛けられ、意識をそちらに向ける。薫は普段と変わらない無表情で、鞄を机に置き、席に着く。じっと俺を見つめて、いつもの「指示」を待っているみたいだ。
「薫、お前なにしてたんだよ」
「別に。少しお話ししてただけ」
視線を先程の女子生徒に向ける。彼女は顔色が悪く、友人たちに背を擦られながら何か話しているようだった。
「話ってなんだよ」
「たいしたことじゃないよ」
薫はそう言うが、彼女たちの様子を見る限り、何かあったとしか思えない。薫に限って女に手を出すとは思えないが、なにか異様な空気があるのは確かだ。
やがて彼女たちは立ち上がると、俺たちのほうへと近づいてきた。その表情は険しく、俺と薫をきつく睨んでいる。
「全部、先生に話すからね」
「どうぞ」
何のことか分からない俺を置いて、答えたのは薫だった。薫と教室に入ってきた女子生徒がわっと泣き出し、クラスが異様な空気に包まれる。
「学校でセックスできなくなるくらい別に構わないよ」
唐突な薫の発言にさすがの俺もたじろいだ。クラス中に聞こえる声で言い放った薫は、俺を見上げるとうっとり笑った。
「いじめとか、馬鹿みたいだよね。勘違いで僕達を引き裂こうなんて」
「わ、私はただ、薫くんのこと助けようと思って……」
「それが余計なお世話だって言ってるんだよ」
薫が俺の首に腕を回し、抱き着いてくる。薫の体重が首にかけられ、自然と体が傾いた。机に手を置いて体を支えると、薫がますます体を密着させてくる。困惑する俺も置いて、薫は言葉を続けた。
「僕たちは特別な関係なんだ。誰にも邪魔なんてさせない」
薫の言葉が俺の後頭部を殴りつける。何か勘違いされている気がして声をあげようとすると、唇を強く押し付けられた。隙間から舌が押し入ってきて、口の中を掻き回される。薫は俺にしがみつき、時折甘い吐息を洩らしながら、夢中で舌を吸っていた。
薫はただの玩具だ。
友達でもなければまして恋人でもない。人前で口づけあうような関係ではない。なぜ俺は玩具に翻弄されているんだろう。突き飛ばしてやろうにも、体が凍り付いて動かない。薫との口づけに意識が持っていかれる。
「ん、ふ、んぅっ……」
「っは、薫……」
薫の唾液は甘く、舌を擦り付けあうたびに心地よい痺れが背筋を走り抜けた。薫が机に乗り上げて、俺の腰に脚を絡める。薫の腰は小さく揺れていて、勃起したものが腹に擦り付けられた。
クラス中の視線が集まっているのは分かっている。それでも腰を擦り付けあいながら口づけるのをやめられない。
友達でも恋人でもない、ただの玩具の薫。俺はただ玩具で遊んでいるだけのつもりだった。
「ん、ぁ……ふふ、すきだよ、怜くん」
そう微笑む薫の瞳が、俺を強く絡め取って離さない。目を逸らすこともできず、突き飛ばすことすらできなかった。クラスメートの視線の中、俺は何度も何度も薫と口づけ舌を絡めあった。
玩具で遊んでいただけだなんて、とんでもない。
俺は、蜘蛛の巣に飛び込んだ虫だったのだ。
当時は自覚なんてなかったが、無力なものを自分の手で好き勝手に弄び、嬲り殺すことに快楽を覚えていたのだろう。懸命に餌を運ぶ蟻を順番に踏みつぶしたり、堂々と跳ねていたバッタの足を一本ずつもいだり、そんな残酷な遊びに夢中だった。今となっては虫なんて触れるどころか見るのも嫌になったが、当時から育てられてきた嗜虐心というものは、まだ消えていないようだ。
その対象が、虫から人へと変わっただけで、俺はまだ残酷な子供の遊びを続けている。
「お前、昨日なんで来なかったんだよ」
窓際の一番後ろにある席の前に立ち、本を読んでいた生徒を睨む。眠そうな瞳がこちらを見上げた。猫のように柔らかく跳ねた黒髪が、日に当たって僅かに茶色く染まっている。
「……おなかが痛かったから」
「は? ふざけんなよ。じゃあ今持ってきたのか?」
苛立ちながら軽く机を蹴る。一瞬だけ教室から視線が集まったが、振り返って睨みつければ、野次馬連中の視線もすぐに散っていく。俺達に関わろうとする人間は一人もいない。当たり前のことだ。誰も面倒事には関わりたくない。
「持ってきてない……ごめん、怜くん」
「最低だな。俺達友達だろ? 約束も守れないなんてな」
友達という言葉に思わず吹き出してしまいそうになる。阿呆面が俺を見上げていて、その白い頬をひっぱたいてやりたくなった。
「なあ薫。お前が金持ってきてくんねえから、俺、ゲーム買えなかったんだけど」
城之内薫。名前に似つかず地味で無口で友達のいない、クラスで浮いた存在だ。そして俺もまた、素行の悪さで教師から目を付けられ、生徒からも敬遠される、鼻つまみ者である。同級生から金を巻き上げるみじめな不良生徒だ。俺は金がないのだ。父親は消息不明、母親は水商売でほとんど不在、たまに生活費を置いていくがギリギリ生きていける金額で、アルバイトをしようにも何故かいつも面接で落ちる。唯一受かったコンビニのアルバイトも、初日で先輩を殴ってクビになった。おまけに家には覚えのない取り立てが月一くらいの頻度でやってくる。最悪なことばかりだ。
対してこの地味で存在感のない同級生は、医者の家系に生まれ育ち、アルバイトなんざせずとも毎月いい額の小遣いを受け取っている「ボンボン」だ。垢ぬけない切りっぱなしの黒髪はまだしも、目にかかるほど長い前髪のおかげで表情はほとんど見えず、常に背筋を丸めているため存在すら小さく見える。誰にも見向きされないような地味で暗い見た目をしているくせに、生まれ育ちだけはいいのだから気に入らない。
まるで正反対な俺と薫だが、ひとつだけ共通点がある。互いに「友達」がいないことだ。俺は今まで出来た「友達」を殴り罵倒し泣かせたがために失ってきて、薫はその地味で暗い性格故に人が寄り付かなかった。時々だれかと話している場面を見ることはあるが、ろくに会話が成立しているところを見たことがない。大概、向うの質問に薫が「うん」か「ううん」だけで返して、相手が呆れて去っていく。他人と交流する気がないのかもしれない。薫が「会話」する相手は、今のところ俺だけだ。
「で、どうすんだよ、どうやって詫びてくれんの?」
薫の茶色がかった瞳が静かに俺を見上げる。視線が触れ合った途端、背筋をなにか電流めいたものが駆け抜けていった。顎でしゃくって促せば、薫は開いていた本を閉じ、億劫そうに立ち上がる。教室のどこかで「またかよ」と呟く声がした。「先生に言ったほうがいいんじゃないの」「馬鹿、巻き込まれたらどうすんだよ」「ほっとけほっとけ」全部聞こえてるっつーの。無視して教室を出て、廊下を歩く。薫は黙って俺の半歩後ろをついてきた。その気配を感じながら歩いていると、口内に唾が溜まった。
人気のない体育館裏に鈍い音が響く。転がった体を見下ろして、俺の口角は上がっていた。腹を蹴られた薫は苦しそうに蹲り、咳を繰り返している。
「ズボン脱げよ」
ポケットからスマートフォンを取り出し、蹲る薫に向ける。薫はわずかに体を固くしたあと、諦めたように小さく息をついて立ち上がり、震える手でベルトを外した。俺に逆らったらどうなるか、こいつはよく知っている。大人しく従順で、いい玩具だ。
ゆっくりとした動作で薫がスラックスを下げていく。やがて見えたのは毛の一つも生えていない子供みたいな陰部だ。膝まで下げると、羞恥のためか薫は震えながら顔を逸らし、小さく鼻をすすった。
「へえ、まじで剃ってきたんだ」
「う……」
薫の下半身をカメラに映し、シャッターを切る。恥ずかし気に服の裾を握っている両手がやけにいじらしい。それでもしっかり陰部がカメラに収まるよう、自分でシャツをたくしあげているのだから、ひょっとしたらこいつはただの変態なのではないかと思う。従順過ぎていっそ不気味なくらいだ。
しっかり薫の痴態をカメラに収めると、スマートフォンはポケットにしまい、そばにあるマットを顎でしゃくった。薫ははじめから分かっていたというようにそこに横になると、自分から股を広げて俺を見つめる。
これは日課だ。毎日ここで薫を犯す。薫も抵抗しないし自ら進んで体を差し出してくるから、これはレイプではない。ただの遊びだ。
薫の尻に指を押し込むと、そこはもうぬかるんで簡単に指を飲み込んでいった。いつからか薫はこうやってローションを仕込んで中をほぐしてくるようになった。もういつでも入れて構わないだろうが、前立腺を指で挟んでぐりぐりと押し込み、薫の反応を楽しむ。甘い嬌声が倉庫に響いた。
「ひあぁ……ぁ、あ、きもち、ぁ、あ」
「本当にすごいよな。男のくせに、尻で気持ちよくなって」
ずるりと指を引き抜き、痛いくらいに勃起した自身を薫の中に埋めていく。熱く柔らかな内壁に包まれて、すぐにでも達しそうになった。ぐっとこらえながら腰を推し進め、根本までずっぽり埋め込む。薄い腰を掴んで早速とばかりに揺さぶると、泣くような嬌声が上がって中がきつく締め付けられた。
「あっ、あっ、ぁあ、ひぅ、あ、いい、きもひぃよお……」
「あー、いいのかよ。ほんと淫乱だなお前」
薫の脚が腰に絡んでくる。自分から尻を揺らして快感を追う姿はどこまでも淫らだった。顔はすっかり快楽でとろけきっていて、だらしなく涎を垂らしながら喘いでいる。
薫はいつも従順だ。俺に揺さぶられて気持ちのよさそうな声を上げて、俺が望めば何度も達する。こんな埃臭い場所で犯されても文句の一つも言わないどころか、喜んで嬌声を上げて腰を振っているのだから、かなりの変態だ。
根本まで押し込んだものを、ぐちゃぐちゃと音を立てながら大きく出し入れする。抜け落ちるぎりぎりまで引き抜いてまた奥を叩けば、薫の背筋が仰け反って甲高い悲鳴が上がった。今の衝撃で達したらしい。腹に湿った感触がある。薫が余韻に浸る暇も与えず揺さぶると、腰に回っていた脚に力がこもった。
「やぁあっ、やら、らめぇっ、いまいったばっか、ぁあっ、あ、や、きもちぃ、おかひくなっひゃ」
「もうおかしいだろ、お前」
達したばかりで敏感な体を好き勝手揺さぶられ、薫は泣きながら俺に縋って腰を振っていた。この達した直後に乱暴に揺さぶられるのが好きらしい。音を立てながら強く腰を叩きつけると、薫は髪を振り乱し、泣きながらまた達した。今度は射精することなく、中をひくつかせ、全身を痙攣させながら絶頂している。ここまでくるともう薫に理性は残っていない。気持ちいいことしか分からない馬鹿になっている。
「あぁぁあっ! あぁあ、ひぁ、あー、あ、あ……」
「っはあ、はー」
薫の細い首に手を掛ける。少しずつ力をこめていくと、嬌声が収まり、中がますます締まった。
「かは、ぁ、はひゅ、ひゅ……」
腰から薫の脚が外れてマットに落ちる。だらしなく股を開いて揺さぶられる薫の姿に興奮を煽られた。薫の意識が落ちる前に首から手を離す。思い切り咳き込んで酸素を取り込もうとする姿にもそそられた。
「げほげほっ! おえ、ぇっ、はぁ、はーっ、はふっ……」
必死で呼吸を整えようとしている薫を揺さぶり、邪魔をする。ひっくり返った声をあげ、また噎せ返るのが面白い。それでも薫は文句の一つも言わず、大人しく揺さぶられている。律動に邪魔されながら、懸命に息を整えようとしていた。
「はひっ、ひ、けほっ、あっ、ひぃっ、ひっ……!」
薫の中はやはり熱くとろけて気持ちいい。もっと味わいたくなって、左足を持ち上げ肩にかけ、腰を押し進めた。結合が深くなって、薫が少しだけ苦しそうな声を上げた。
「はぐ、ぅ、うぅ、ん、あ、あっ!」
「ははっ、きったねえ顔」
左足を抱えながらぐいぐいと腰を押し付ける。奥にある小さな入り口をこじあけ、中に入り込む。奥のところを小刻みに叩けば、薫も背を浮かせて自ら腰を擦り付けてきた。
「ぁ、あ゛、あぁあ、きもち、ぁ、あん、ぁあっ……!」
ぐぽぐぽと結腸をこじあけ、薫の一番よわいところを犯す。ここをぶち抜いて乱暴に揺さぶってやると、薫は半狂乱になったみたく泣き乱れてすぐにイくのだ。
ごつごつと骨が当たるほど強く揺さぶり、容赦なく奥を掻き回す。中の締め付けは最高で、絶頂を促すようにうねって、奥へ奥へと誘い込んできた。
「ひぃっ、ひっ、あ゛ぁあっ、あ゛っ、あっ、あ!」
仰け反った薫がマットに額を擦り付ける。震える指先を口元に運び、どこか物欲しそうに唇をなぞっていた。
「あ゛ぅ、あっ、ひ、いぃよぉっ、おくっ、おぐしゅごい、ぁ、あ、あ」
ごりごりと奥を抉られるのがよほど好きらしい。奥がいい奥がすごいと申告してくる薫は、眩暈がするほど厭らしかった。お望み通り激しく奥を突き上げ、乱暴に揺さぶる。今にも達しそうな締め付けに、思わず呻いた。
「く、ぅ……」
「あ゛ぁぁあっ! いぃ、いぃのぉっ、しゅごいの、はぁう、あ゛、あぁぁっ、あ゛~~っ!」
悲鳴じみた声が甘く俺の鼓膜を揺らす。そろそろ俺も限界が近かった。相手のことなど考えない激しい律動で、自分の快感を追いかける。薫も俺に合わせて腰を揺らし、一緒になって絶頂を目指していた。
「ひぁっ、あ、あぁあ! あーっ、あ、いく、いっちゃ、まらいっひゃうぅう!」
「っは、俺も……」
薫の奥で思い切り熱を吐き出す。同時に薫も三度目の絶頂を迎えていた。ひくひくと痙攣する薫の奥に、最後の一滴まで精液を注ぎ込む。
「あー、疲れた」
すべて吐き出してしまうと、一気に頭がすっきりして、代わりに倦怠感が襲ってきた。薫はまだ余韻から抜け出していないようで、だらしなく股を開いて横たわったまま、かくかく腰を揺らしていた。
「ぁ……はぁ……は……」
「エッロ」
俺はその姿を写真に収めると、さっさと身なりを整える。薫は放置して体育館倉庫を出ると、冷え切った空気に出迎えられた。
ふと、体育館のほうに人影が消えていくのを見つける。さして気にもせず教室を目指して歩き出すと、強い北風が吹いて全身が震えあがった。上着を羽織ってくるべきだった。
今日もいつものように薫を呼び出そうとしたが、彼の机は無人になっていた。トイレにでも行っているのだろうかと思い待っていたが、なかなか姿を現さない。そのうちに苛立ってきて、薫の机を軽く蹴り上げた。クラス中から視線が集まったあと、またすぐ散り散りになる。それすら煩わしかった。
「なにやってんだ、あいつ」
しばらくすると、ようやく薫が教室に現れた。その背後からは、女子生徒が一人、俯いてついてきている。あまりの珍しさに目を瞠り、その様子を凝視する。女子生徒はとくに薫と声を交わすでもなく別れると、席に着き、待っていた自分の友人と話し始めた。
「おはよう」
「あ」
薫から声を掛けられ、意識をそちらに向ける。薫は普段と変わらない無表情で、鞄を机に置き、席に着く。じっと俺を見つめて、いつもの「指示」を待っているみたいだ。
「薫、お前なにしてたんだよ」
「別に。少しお話ししてただけ」
視線を先程の女子生徒に向ける。彼女は顔色が悪く、友人たちに背を擦られながら何か話しているようだった。
「話ってなんだよ」
「たいしたことじゃないよ」
薫はそう言うが、彼女たちの様子を見る限り、何かあったとしか思えない。薫に限って女に手を出すとは思えないが、なにか異様な空気があるのは確かだ。
やがて彼女たちは立ち上がると、俺たちのほうへと近づいてきた。その表情は険しく、俺と薫をきつく睨んでいる。
「全部、先生に話すからね」
「どうぞ」
何のことか分からない俺を置いて、答えたのは薫だった。薫と教室に入ってきた女子生徒がわっと泣き出し、クラスが異様な空気に包まれる。
「学校でセックスできなくなるくらい別に構わないよ」
唐突な薫の発言にさすがの俺もたじろいだ。クラス中に聞こえる声で言い放った薫は、俺を見上げるとうっとり笑った。
「いじめとか、馬鹿みたいだよね。勘違いで僕達を引き裂こうなんて」
「わ、私はただ、薫くんのこと助けようと思って……」
「それが余計なお世話だって言ってるんだよ」
薫が俺の首に腕を回し、抱き着いてくる。薫の体重が首にかけられ、自然と体が傾いた。机に手を置いて体を支えると、薫がますます体を密着させてくる。困惑する俺も置いて、薫は言葉を続けた。
「僕たちは特別な関係なんだ。誰にも邪魔なんてさせない」
薫の言葉が俺の後頭部を殴りつける。何か勘違いされている気がして声をあげようとすると、唇を強く押し付けられた。隙間から舌が押し入ってきて、口の中を掻き回される。薫は俺にしがみつき、時折甘い吐息を洩らしながら、夢中で舌を吸っていた。
薫はただの玩具だ。
友達でもなければまして恋人でもない。人前で口づけあうような関係ではない。なぜ俺は玩具に翻弄されているんだろう。突き飛ばしてやろうにも、体が凍り付いて動かない。薫との口づけに意識が持っていかれる。
「ん、ふ、んぅっ……」
「っは、薫……」
薫の唾液は甘く、舌を擦り付けあうたびに心地よい痺れが背筋を走り抜けた。薫が机に乗り上げて、俺の腰に脚を絡める。薫の腰は小さく揺れていて、勃起したものが腹に擦り付けられた。
クラス中の視線が集まっているのは分かっている。それでも腰を擦り付けあいながら口づけるのをやめられない。
友達でも恋人でもない、ただの玩具の薫。俺はただ玩具で遊んでいるだけのつもりだった。
「ん、ぁ……ふふ、すきだよ、怜くん」
そう微笑む薫の瞳が、俺を強く絡め取って離さない。目を逸らすこともできず、突き飛ばすことすらできなかった。クラスメートの視線の中、俺は何度も何度も薫と口づけ舌を絡めあった。
玩具で遊んでいただけだなんて、とんでもない。
俺は、蜘蛛の巣に飛び込んだ虫だったのだ。
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主に10000文字前後のお話が多いです。
性的描写がないものもあればがっつりあるものもあります。
性的描写のある話につきましては、各話「あらすじ」をご覧ください。
(※性的描写のないものは各話上部に書いています)
もしかすると続きを書くお話もあるかもしれません。
その場合、あまりにも長くなってしまいそうな時は別作品として分離する可能性がありますので、その点ご留意いただければと思います。
【不定期更新】
※性的描写を含む話には「※」がついています。
※投稿日時が前後する場合もあります。
※一部の話のみムーンライトノベルズ様にも掲載しています。
■追記
R6.02.22 話が多くなってきたので、タイトル別にしました。タイトル横に「※」があるものは性的描写が含まれるお話です。(性的描写が含まれる話にもこれまで通り「※」がつきます)
誤字脱字がありましたらご報告頂けると助かります。

Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。

たしかなこと
大波小波
BL
白洲 沙穂(しらす さほ)は、カフェでアルバイトをする平凡なオメガだ。
ある日カフェに現れたアルファ男性・源 真輝(みなもと まさき)が体調不良を訴えた。
彼を介抱し見送った沙穂だったが、再び現れた真輝が大富豪だと知る。
そんな彼が言うことには。
「すでに私たちは、恋人同士なのだから」
僕なんかすぐに飽きるよね、と考えていた沙穂だったが、やがて二人は深い愛情で結ばれてゆく……。

白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
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