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「たかやん」がログインしました。
しおりを挟む午後六時に駅のモニュメント前、黒いパーカーとマスクと黒縁眼鏡に、少し長めの黒髪で、猫背気味の中肉中背、二十代半ば、男性。その特徴にぴったりの、どこか悄然とした男が一人、人混みの中で立ち尽くしていた。目印として持っている季節外れのうちわも必要なく、ひと目で分かった。この男は、今から死ぬつもりである。
ハンドルネーム「たかやん」とは、とあるオンラインゲームで出会った。はじめはチャットで会話する程度だったが、無料通話ソフトの連絡先を交換してからは、ほとんど毎日のように通話をしながら色々なゲームを二人で遊んだ。たかやんは大人しく内気な性格で、本人曰く、リアルでの友達がいないらしい。こうして頻繁に通話をする相手も俺くらいだという。何度か会話して打ち解けていくうち、たかやんが学生時代にいじめられていたことや、就職活動に失敗して一時期ニートになったこと、今はコンビニのバイトを週四でやっているが全然うまくいかないことなど、色々と話してくれた。たかやんは内気すぎる性格のため場に馴染めなかったり、周囲に置いていかれてしまうタイプのようだ。いつも気づけばひとりになっていた、誰も気にかけてくれなかったと、通話を繋ぎながら酒を飲むたびにたかやんは嘆いていた。俺はどちらかというと人を置いていくタイプだったから、たかやんの気持ちは分からない。しかし、たかやんだって好きで遅れているわけではないのだ、ということは分かる。だからかける言葉がなくて、適当に聞いているだけだったら、それが存外たかやんは気に入ってくれたらしい。普段は俺ばかりが喋ってたかやんが聞き手に回っていたが、酒が入ったときだけ、たかやんの嘆きを俺が聞く役回りになった。鬱陶しくないと言えば嘘になるが、たかやんの愚痴を聞くことは嫌いじゃない。
それはたとえば、底辺を歩く人間を知った安堵感だとか、今この瞬間だけは優位に立っているのは俺だと思うことが出来たりだとか、正直に言えば清い感情ではなかった。安堵感、優越感、そして、親近感だ。俺もまたたかやんと同じく友達がいない人間だった。俺はたかやんと違って友達を作ることは上手かったが、それが持続しないのだ。少しずつ相手が離れていって、気づけば一人になっている。原因は分からない。
「たかやん」
正面に立って声をかけると、丸まった背中が驚いたように伸び上がる。少し低い位置から黒々とした瞳が俺を見上げてきた。
「アキ?」
「うん」
アキというのは俺のハンドルネームだ。たかやんは俺のつま先から頭のてっぺんまでを眺めると、感心したように息をついた。
「わあ……すごくおしゃれだね」
「そうかな? ありがとう」
思いもよらない褒め言葉に少しくすぐったくなる。たかやんはそう言うが、俺の服装は雑踏に紛れて違和感のないありふれたものだ。たかやんは少し浮いている。全身真っ黒だし、おどおどしているし、マスクと黒縁眼鏡で顔を隠しているうえに、前髪も長くて怪しさ満点だ。職務質問されなかった? なんて冗談混じりに尋ねてみたら、そんなに怪しいかな、と沈んだ声が返ってきた。たかやんにとっては少し傷つく発言だったみたいだ。
「ごめん、ちょっとからかってみただけ」
「そっか」
それきり会話がなくなる。俺達の足は駅近くの飲み屋街に進んでいた。今日の予定は、たかやんと二人でうまい飯を食って酒を飲んだあと、徒歩圏内にある俺の家に移動して、そして二人で首を吊る。今日はたかやんと最後の晩餐だ。お互いに無言だったが、不思議と重い空気はなく、予約した店に向かう足取りは軽かった。
死にたいと最初に言い出したのはたかやんだ。いつもの酒が入った状態で、散々弱音やら愚痴やら吐き出したあと、独り言みたくこぼした。それに対して俺は、「なら一緒に死のうか」と返していた。たかやんは冗談を言われたと思ったらしく、これまでべそをかいていたのが嘘のように笑っていた。そんなようなやり取りが何度かあって、次第にたかやんも俺が本気だということを理解していったらしい。そろそろ日取りを決めようか、と言い出したのは俺だ。言い出しっぺであるたかやんはやや戸惑った様子でいたが、俺が少々強引気味に計画を立てて、二人で人生からログアウトすることに決まった。たかやんは少しだけ猶予が欲しいと言っていたが、正直、俺は待ちきれなかった。たかやんは一週間欲しいと言って、俺はすぐにでも決行したかったので、計画が立ってから折衷案で四日。その時点では俺は心の準備が出来ていたから、たかやんといつも通りゲームをして過ごして、今日を迎えた。
幸いにも俺とたかやんは住んでいる場所が近い。これまでにも何度か会おうかと話たことはあったが、「恥ずかしいから」「嫌われたら怖いから」「容姿に自信がないから」と断られ続けていた。一緒に死のうと言って、やっと出てきてくれたのだ。しかし本人が気にしているほど、たかやんの容姿は悪くはない。むしろ素朴な顔立ちは好感が持てるし、もっと洒落たものを身につければそれなりの仕上がりになりそうだ。ただ地味でダサくて不審というだけである。たかやんはそんな自分の地味さを気にするあまり、それに拍車をかけてしまっているタイプだ。もったいない。
予約名を告げて通された部屋は、掘りごたつ形式の個室だった。ここは酒も飯も美味く接客もいいうえに、個室が完備されていて雰囲気もいい。向かい合って席につき、はじめに注文した生ビールで乾杯する。それから軽いつまみをいくつかテーブルに並べ、一緒にプレイしているゲームの話題で盛り上がった。
「もうすぐ大型アップデートが来るんだってね。バトロワモードが増えて、武器も追加されるみたい」
「マジ? でもプレイできないな」
あの世でもゲームできるのかな。何の気なしに呟いたら、たかやんが黙り込んでしまった。ローストビーフを箸でつつきながら、視線を落としたまま唇を震わせている。
「……あのさ、アキ」
「あ、ステーキ頼んでいい? この高いやつ」
肉料理のページを指し、たかやんの台詞を遮る。国産の牛ステーキ。値は張るが、これがかなり美味いことを俺は知っている。たかやんは上目遣いに俺を見つめ、小さく頷いた。黒縁眼鏡の向こうで瞳が揺れている。なんとなく、探るような目にも見えてしまって、居心地が悪くなった。
「あ、おかわりは? まだいい?」
「……うん。次はソフトドリンクにしようと思う」
「えぇ? 最後なのにつまんねえな」
ぼやきながら呼び出しボタンを押す。顔を出した店員に、芋焼酎のロックとステーキを頼んだあと、便所に向かうため席を立った。
「どうしてアキは死にたいの?」
背中に質問が投げかけられる。漏れそうだから、戻ったら答えるよ。そう濁して便所に駆け込む。個室に閉じこもって、俺は今食べたばかりのつまみを便器に吐いた。
これから俺は犯罪者になる。
便所から戻ったあとは、質問のことなど忘れたとばかりに酒を飲んでゲームの話をした。吐いたおかげで胃袋にも余裕ができて、飯を次々と詰め込むことが出来る。たかやんはそんな俺をやや引き気味に見ていたが、俺と話をするのは楽しいのか、笑顔を見せながらオレンジジュースを飲んでいた。
「たかやんって、笑うと可愛いよな」
「えっ」
酒が回って気が大きくなってきたせいだろうか。そんなことがするっと口から出てくる。たかやんは確かに垢抜けしないが、笑ったときに下がる目尻だとか、ちらと覗く八重歯だとか、軽く出来るえくぼだとか、可愛いところが結構ある。たかやんは恥ずかしそうに視線を逸したあと、うっすら頬を染めて俯いてしまった。その口元にはかすかな笑みが浮かんでいて、喜んでいることが分かる。
「急になに言うんだよ、アキ。だいたい、かわいいよりかっこいいほうが嬉しいし」
「かっこいい、ってタイプじゃないだろ、たかやんは」
不服そうな顔もなんだか可愛かった。それほど飲んでいないはずなのに、酔っ払ってしまった気がする。俺はたかやんのグラスの中身がなくなっているのを見ると、勝手に店員を呼んだ。
「なに頼むの?」
「焼酎。飲める?」
「飲めるけど……あんまり強くないし、飲みやすいほうがいいかな」
「じゃ、麦のソーダ割りと芋のロックで」
強引に注文した酒を、たかやんは困った顔をしながらも律儀に飲んだ。あまり強くないたかやんはいつも飲み始めるとすぐに酔っ払っていたから、例に漏れず今日も三杯程度で船を漕ぎはじめてしまった。そろそろ頃合いだろうと会計を頼み、二人分まとめて支払って店を出る。酒で火照った体を冷たい空気が心地よく冷やしてくれた。
俺の家までは徒歩で十分程度だ。繁華街を少し外れてマンションの立ち並ぶ区域へと入っていく。その一角にある古びたアパートが俺の住処だ。足元の覚束ないたかやんに手を貸しながら古びた階段を上る。四階建てのボロアパートだ。二階の角部屋の前で立ち止まり、一瞬だけ、鍵を取り出す手が止まった。酒でとろけた顔をしたたかやんが、俺を不思議そうに見ている。寒いから早く入ろうよ、その言葉は酔いのせいか舌足らずで、背筋に痺れが走った。
「……うん。そうだね」
心なしかいつもより重い鍵を回して扉を開ける。たかやんを中に招き入れ、扉を閉めたのと同時に、肩を貸していた相手を床に転がした。目を白黒させているたかやんの靴を剥ぎ取り、自分も脱ぎ捨てると奥までたかやんを引きずっていく。すぐに万年床が俺達を出迎えた。そこに放り投げると、たかやんが慌てて体を起こそうとした。阻止するように覆い被されば、いよいよ狼狽したたかやんが裏返った声を上げる。
「ちょっ、え、なんで」
「たかやんってセックスしたことないでしょ」
眼鏡の奥でたかやんの瞳が見開かれる。酒のせいだけじゃなく頬が朱く染められて、またぞくぞくとしたものが神経を駆け巡った。
「死ぬ前に一度くらい、しておいたほうがいいんじゃない?」
「で、でも……」
「大丈夫、俺上手いから」
もちろん嘘である。俺は人よりも経験は少ない。たかやんのような童貞でこそないが、最後に他人と体を重ねたのは五年ほど前だ。会社の元同僚である。そいつは俺に抱かれたあとすぐに会社を辞めていってそれきりだ。
まあ、あれも強姦だったんだけど。
「まって、よ、俺そんなつもりじゃ……」
「ごたごたうるさいな。分かんないの? アンタ、騙されたんだよ。今から俺に強姦されんの」
俺の言葉にたかやんが絶句する。水面から顔を出した鯉のように、間抜け面で口を開いていた。
一緒に死のうだなんて、たかやんを呼び出すための口実だ。死ぬつもりなんて端からない。ただたかやんを犯すためだけに、その自殺願望に同調したふりをして、強引に会う約束を取り付けた。二人分用意したという縄も睡眠薬ももちろん存在しない。俺の薄っぺらな言葉に騙されて、たかやんはのこのこと強姦されに来たのだ。ああ可哀相。なんて可哀相なんだろうたかやんは。友達も出来なくて、いつも一人で、仕事も上手くいかず、唯一の趣味はゲームで、それを通してやっと知り合った友達に裏切られたのだ。可哀相で惨めで可愛いたかやん。
呆然としているたかやんの服を脱がしながら、馬鹿みたいに笑いが止まらなかった。引き篭もりがちなたかやんの肌は真っ白で、筋肉がないせいか体つきはややふっくら柔らかく、身だしなみに気を遣っていないくせして体毛も薄かった。男性ホルモンが少ないのかもしれない。たかやんを裸にひん剥いてから脚を掴んで大きく開かせる。前戯なんてまどろっこしいことをしている余裕はなかった。早くたかやんの中にぶち込みたい。引っ掴んだローションを手のひらにぶちまけ、尻のあわいに触れる。指を中に押し込んでみると、思いのほか柔らかく感じて首をかしげた。
「……もしかして、たかやん、アナニーしてる?」
「う……」
たかやんが言葉に詰まり顔を逸らす。図星のようだ。意外すぎる展開に笑いが引っ込んだ。いよいよ余裕を失って、乱暴に中を掻き回す。たかやんは傍に転がっていた枕を抱きしめて、顔を埋めて声を殺していた。くぐもった喘ぎ声も興奮するが、やはり直接聞いてみたい。枕を奪って遠くへ放り投げると、絶望しきった顔が俺を見上げる。眼鏡がずれて、濡れた瞳と直接視線が重なった。
「あはは。たかやんって、童貞こじらせて変態になっちゃった系?」
「ち、ちが……ただ、気持ちよくて……」
「それが変態って言うんだよ」
指を増やして中で∨字に開く。やはりたかやんのそこは柔らかく開発されており、赤く熟れた美味しそうな媚肉が見えた。中で指を動かす度たかやんは甘く喘ぎ声を洩らして、みるみるうちとろけた顔になっていく。体からも力が抜けていって、抵抗の意思は一切ないようだ。強姦だというのにこれじゃあまるで合意のプレイだ。いや、酒を飲ませて無理矢理押し倒した時点で俺は強姦魔だが、エロい体をしているたかやんが悪いと、つい責任転嫁してしまう。
「や、めて……やめてよ……今なら、まだ、戻れるから……」
「戻る? 戻るって何に? 友達に?」
思わず嘲笑が洩れる。たかやんの瞳からついに大粒の涙がこぼれた。
「俺はさ、たかやん、アンタのこと友達だなんて思ってねえよ」
友達なんかじゃない。俺は、たかやんのことが好きなんだ。それは性愛を孕んだ感情だ。友達だとか清いものではなくて、もっと薄汚くどろどろとしたものだった。愛しているといえばまるで素晴らしい感情のように思えるが、そうじゃない。俺はたかやんのことを支配したいし滅茶苦茶にしてやりたいし、その純真な心をぶち壊したい。まともな人間関係を築けなかったたかやんに付け込んで信頼させて、一緒に死のうだなんて甘い言葉を囁いて、こうして強姦したあとはお望み通り殺してやろうと思っている。縄は用意していないが、セックスしながら首を絞めればたかやん如き簡単に殺せるだろう。そうすればたかやんは俺だけのものになる。別々の縄で首を括るだなんて勿体無いことはしない。殺してしまえば俺のものだ。俺は犯罪者になるが、俺にはたかやんをこの手で翻弄し破壊して俺のものにしたという事実が残る。それさえあれば俺の人生はどうなっても完璧だ。豚箱に入っても絞首刑になっても悔いはない。
たかやんは泣きながら喘いでいるだけだった。俺を罵ることも、嘆くこともしない。ただ甲高く喘いで、涙をこぼし続けていた。
「ぁ、あ、ひあっ、は、ぐ、~~っ!!」
適当に中をほぐしたあと、すっかりいきり立っている俺自身を取り出して一息に押し込む。中は熱くとろけていて、すぐにでも持っていかれそうなほど気持ちよかった。少しきつすぎるくらいの締め付けが心地よく、情けないことにすぐにも射精しそうになった。どうにか唇を噛み締めて波をやり過ごし、たかやんの腰を掴んで激しく揺さぶる。たかやんの顔は涙と涎と鼻水で汚いったらありゃしない。だがそれがたまらなく興奮して、まるで嬲るように乱暴なピストンを繰り返した。
「はぁっ、ぐ、ぁ、あっ、やあっ、やめ、やらぁっ、あ、あ、あっ!」
「その顔で、やめろとか、ははっ」
瞳はすっかり蕩けきって焦点が合わず、下がった眉も、開きっぱなしの唇も、緩んだ頬も「気持ちいい」と訴えていた。人とセックスしたことがないわりには相当後ろを使いこんでいるようだ。自己開発に熱心で大変よろしい。本当はもう少し痛めつけるつもりでいたが、これはこれで楽しめる。
中の肉が俺を奥へと誘うようにひくついて、狭くなったところに亀頭が当たる。そこが結腸の入り口だとわかり、さすがにここは未開発だろうと、低く笑って腰を押し進めた。とんとんと軽く奥を叩きながら、柔らかい腹を優しく撫でさする。たかやんは何をされるか分かっていないみたいで、呆然と俺を見上げて可愛く喘いでいた。
「あ、きぃ、ぁ、はぅ、も、それいじょ、はいんにゃいよぉ……」
「入るんだよ。最初は痛いと思うけど」
はじめは軽く叩いていたのを、徐々に強くしていき、肉の壁をこじ開けていく。たかやんは未知の領域に踏み込まれる恐怖に凍りつき震えていた。閉じそうになる脚を強引に開かせて、頑なに拒んでいるそこを、思い切り突き破る。途端、たかやんの背ががくりと折れ、痛いくらいに中を締め付けられた。
「~~~~ッッ!!?? かはっ……はっ……はっ……!?」
「あー、すごいすごい、たかやん、さすが淫乱」
脚が胸に付きそうなほどたかやんの体を折りたたみ、上から押しつぶすように激しく揺さぶる。相手のことなんで微塵も考えていない自分勝手な性交だ。いや、暴力だ。たかやんは痛い、怖い、苦しいと泣きながら、必死で俺を押しのけようとしていた。その弱々しい抵抗にも興奮して、もっと滅茶苦茶に、もう言葉も話せないくらいにぶち壊してやりたくなる。
「あ゛っ、ぁ、ひっ、ぐぇ、あ゛、ぁ、あ゛、かは、はっ、ゲホッ、げ、おぇっ……!」
ついに咳き込んでしまったたかやんの頭を抱く。慰めてやるつもりはなく、むしろもっと密着して結合を深くする目的だったが、たかやんは少し安心したように体の力を抜いた。けほけほと時折咳をしたり、苦しそうに嗚咽していたが、次第にそれにも甘い響きが混ざり始める。完全にたかやんの動きを封じて、俺だけが自由に腰を動かせる状態で潰すような抽挿をしていると、ふいに、たかやんの手が背中に回された。
「……? たかやん?」
「あきぃ……ぁ、うぅ……あ、き……あっ、ひ、ぁあぁっ……!」
腰にも脚が回される。強姦されているたかやんが、まるで自ら望んで体を明け渡しているかのように、俺に縋り付いてきた。肩口に顔を埋めて、弱々しく頭を振っている。それは拒絶の意味なのか、よく分からない。
「あき、ぁあっ、ぁ、あ、なんかぁ、らめ、は、はひっ、らめなのぉっ、あ、ぅ、あ、あ、あ」
「駄目って、言っときながら、なんだよこの手足」
「ちが、ちがう、おれ、ぁ、ひぃんっ……!」
言いたいことが分からず、少し苛立った。目の前にあった首筋に噛み付いて、結腸の奥に向かってがむしゃらに腰を打ち付ける。たかやんの体が面白いくらいに跳ね上がって、打ち上げられた魚のようだった。
「き、もち、よすぎる、かりゃぁ……」
「は?」
「おくもぉ……、ぜ、んりつせ、も……きもひぃの……あ、ぅ、お、おれ……ちくび、もぉ、すきだから、ね、あきぃ……おねが……」
何を言われたのか、はじめは理解できなかった。じわじわと受け入れて、狂ったような笑いがこみ上げた。こいつは本当に淫乱だったらしい。堕ちたというより、これは本性を表したのだ。強姦されてもろくに抵抗できず気持ちよくなって淫乱な性質を見せてしまう、そんなたかやんが、やはり、愛しい。胸の奥が苦しくて、視界が大きくぶれた。
「おねがぁ、あき……はあぅっ!」
少し体勢を変えて、つんと尖った左の乳首に噛み付く。軽く歯型をつけてから、赤子のように強く吸い付いた。そのまま舌でしつこくねぶり、右の乳首は親指と人差し指で挟みこねくり回す。すると面白いくらいにたかやんの背が仰け反って、もっとしてくれと言わんばかりに胸を突き出してきた。悩ましく身を悶えさせながら、中をきゅうきゅうと締め付けて甘い嬌声を響かせる。
「あっ、あ、ひゃぅ、きもひぃ、あきぃ、きもひ、すき、あ、あっ、ちゅうちゅうしゅき、ひっぱりゅのもぉ、あ、ぉ、ぐにぐにっれすりゅのもぉ、みんなしゅきぃ……!」
ろれつの回らない言葉で喘ぐたかやんに、俺はもうはちきれそうだった。すっかり腫れた右の乳首には爪を立て、捻りながら強めに引っ張る。唾液まみれになった左も、また一度噛み付いてから、ぬるぬるのそこを摘んで同じく引っ張り上げた。
「ひっ、あ、あ、すきぃ、それすき、ぁ、あぁああぁあ~~っっ!!!」
たかやんから派手な悲鳴が上がり、強烈な締め付けに襲われる。たまらず奥に向かって吐き出すと、たかやんのペニスからも勢いよく精液が噴射されたところだった。筋肉の少ない腹に白濁が溜まっている。たかやんは絶頂の余韻でぽやんとしながら俺を見つめ、薄く開いた唇から軽く舌を覗かせていた。
「あき、……んむっ」
「ん……ふっ、……」
気づけば唇を重ねていた。互いの舌を擦り合わせて唾液を混ぜ合う。飲みきれなかった唾液が口の端から顎へと伝っていった。たかやんの口は俺よりも小さく、文字通り噛み付くように貪る。俺のほうが押し気味に舌を押し付けて、絡ませあってお互いの口内をしゃぶり合った。時々歯がぶつかって痛かったが、そんな下手くそなたかやんの口づけも、俺を興奮させる材料になる。気づけば俺自身も熱を取り戻していて、たかやんの中で育ちきっていた。たかやんもわざとなのか無意識なのか、中を優しく締め付けて俺を誘い込んだ。
「たかやん、……なぁ、名前、教えてよ」
「な、まえ」
「本名、なんていうの」
たかやんはしばしの沈黙のあと「たかし」と舌足らずに答えた。安直なハンドルネームが恥ずかしいのだろう。もはやただの愛称だ。
「俺はね、亜希」
「へ……」
「ハンドルネーム、本名だったんだ。最近そういう人多いでしょ?」
ならこれからも同じ呼び方でいいね。なんて、どこか夢見心地でたかやんが言う。これからもなんて、たかやんは何を言っているんだろう。俺とたかやんは今日で終わってしまうのだ。俺はたかやんを騙して強姦したあと、俺を拒絶するたかやんを殺して自分のものにする。その後俺は、そうだな、死のうかな。あ、これが一番いい選択じゃないか。どうせ豚箱に入って絞首刑になるより、そのほうがたかやんと一緒にいられる感じがする。完璧な計画だ。そうしよう。だからもっと、腹いっぱいで張り裂けそうになるまでたかやんを食べたい。
「へへ……なんか、……あっ、ひぃんっ!」
「なんかって?」
尋ねておきながら、答えさせるつもりもないくらいに激しく揺さぶり上げる。たかやんはやはり喘ぐことしか出来ないようで、意味をなさない母音ばかり叫んでいた。もういやだともやめてとも言わない。ただ時々俺の名前を呼びながら、甘い悲鳴を上げ続けていた。
「本当はね、亜希を止めるつもりだったんだ」
繋がったまま呼吸を整えていると、ふいにたかやんがそう零した。俺はたかやんの首に回そうとした手を止めて、黒い瞳と見つめ合う。眼鏡はとうに外れて布団の隅に転がっていた。
「俺はさ、死にたいって気持ちは確かに本当だった。でも、亜希まで殺したくなかったんだ。だから亜希と直接会って、思いとどまらせるつもりだった」
ぐったりと弛緩した四肢を投げ出しながら、たかやんが薄っすらと微笑む。体液で汚れきって見るも無残な姿だったが、その笑みはまるで全て包み込む聖母のような慈愛に満ちていた。
「でも、亜希は、最初から死ぬつもりなんてなかったんだね」
「俺は……」
「よかったぁ」
何が?
お前は騙されて暴力を受けたんだ。何が良かったっていうんだ。苛立ちがこみ上げて思わず俺は拳を振り上げていた。骨の軋む嫌な音がして、たかやんの顔が横を向く。それから続けて何発か、たかやんの顔を殴りつけた。
「ふざけんなよ、お前、被害者だぞ。なにもよくないだろうが。お前さ、これから俺に殺されるんだぞ? 強姦された挙げ句に殺されるんだ。もっと何かないのかよ」
「そっか……俺、亜希に殺してもらえるんだ」
たかやんの瞳は相変わらず弧を描いたままだ。その表情に、なぜだか背筋が凍るような恐怖を感じた。優位に立っているのは俺のはずなのに、なにか強大なものを目の前にした時のように、体が竦む。
「うれしい」
「は……?」
「好きだよ、亜希。亜希になら、俺、どうされてもいいよ」
激しい目眩で視界が揺れた。頭の中が真っ白に弾け飛んで、何も分からなくなる。咄嗟に俺はたかやんの首に手を回していた。細い首だ。簡単に絞め殺せてしまいそうだ。恐ろしい。たかやんは嬉しそうに微笑んでいた。唐突に手が冷えていく。血の気が引いていって体が震えた。怖い。怖い怖い怖い怖い怖い。
「……っは、はっ……はあっ……」
「……亜希?」
力を入れることさえできず、荒く息をしながらたかやんを開放する。たかやんから距離を取り、頭を抱えて蹲った。食べたものが胃から逆流してきそうだ。
「どうしたの? 具合、悪くなった?」
「は……はは……ははははっ……!」
突然笑いだした俺を不思議に思ったのか、たかやんがにじり寄ってくる。心配するように眉をさげて、不安に黒目を揺らしていた。視界の隅にはたかやんの股から垂れる白濁が見える。
「たかやん。俺は、お前のことをぶっ壊したいんだ。酷いことがしたいし、いじめたいし、殴りたいし、乱暴なセックスがしたい。死ぬくらいに滅茶苦茶にしてやりたい」
「うん」
「今すぐ殺すのはやっぱりやめだ。たかやん、俺のおもちゃになれよ」
たかやんのことが好きだ。愛している。だから殺すのはもう少し先だ。たかやんは真っ直ぐな瞳を俺から外さず、ふわりとほころぶように笑みを浮かべた。殴られた頬は赤くなっていて、切れた唇から少量の血が垂れている。自然と視線はそこに吸い込まれ、引き寄せられるように唇に噛み付いた。血を舐め上げたあと、傷口に歯を立てて嬲れば、痛みに悶える声が聞こえて酷く高揚する。
汁まみれの布団に再びたかやんを押し倒す。たかやんは抵抗するどころか自ら俺の背中に腕を回してきた。腹の奥から凶暴な衝動がこみ上げてくる。壊したい。食べたい。泣かせたい。殴りたい。犯したい。たかやんが気を失うまで愛したい。鎖骨に歯を立てながら、断りもなく性器を突き入れる。先程散々吐き出したものが中から溢れて結合部を伝っていった。たかやんはすっかり俺を受け入れて、噛まれても殴られても嬌声を上げ続ける。もはや暴力でしかないこの行為は、夜が明けるまで続いた。
通話ソフトにチャットが入る。『今日、できる?』送り主はたかやんだ。時刻は深夜零時過ぎ。明日も仕事だが、二時までに眠れば問題ない。ヘッドセットを装着し、チャットの返信を打ち込んだ。
『できるよ。通話入る』
『やった! 飲み物入れてくるね』
待っている間にゲームを立ち上げる。先に二人用のサーバーに接続し、缶ビールを煽りながらたかやんを待った。今日も仕事で疲れていたが、たかやんとゲームが出来るなら疲れも忘れてしまえる。それに何より、たかやんの声が聞きたかった。
『おまたせ。かけるね』
すぐに着信が入り応答する。もしもし、と聞き慣れた声がしたあと、相手が軽く咳き込んだ。声は少し枯れている。思わず口角が上がった。当たり前だ。昨日も散々叫ばせたのだから、喋るのもつらいはずだと思いながら、俺はどうでもいい話題を振った。一生懸命に応えるたかやんが愛しい。ゲーム画面の左下にいつものログが流れてくる。
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