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――朔。ああ、実は少し前から目が覚めていたんだが、声がかけられなかったんだ。すまない。泣いているのか? 顔を見せてほしい……ああ、きれいだ、お前が無事で本当によかった。……ん、ああ、見えるさ。いいや、見えずとも分かるものだ。もっと、近くへ……ああ、ありがとう。まだ少し疼痛があるようだが、お前に触れると少しよくなった気がする。俺はもう大丈夫だ。どうか泣かないでくれ……ああ、今の俺でも、お前の涙を拭ってやることはできるんだな。もうお前は、俺の元から去るんじゃないかと思っていた。俺を選んでくれてありがとう。……この後いなくなるかもしれない? それは本心だろうか。もしお前がそう願っているなら、俺は引き止めはしない。お前の人生だ、これからはお前が決定していくといい……ああ、どうしてそんなに泣いているんだ? 俺はなにか間違ったことを……、……ああ、そうか。そうだったのか、朔。俺は十分に伝えたと思っていたが、ああ、いけないな、これでは確かに誤解を与えてしまう。朔、俺は、お前に去ってほしくない。お前がどんなことを考えて、どんな気持ちでいたとしても、俺の願いはただ一つ、お前と一緒に居たいということだ。共に食事をして、共に語らい、共に朝日を迎えたい。だが俺は、もうこんな身体になってしまった。これまでのようにお前を守ることはできないだろう。お前にも負担をかけてしまうかもしれない。それに、これまで俺は、お前のことを苦しめ続けてきた。俺にはお前を引き止める資格はない、だが……、……ああ、ああ、聞いてくれ、朔。これは、俺の素直な気持ちだ。朔、俺は、お前を愛してしまった。それは親としての感情でもあり、よき友としての感情でもあり、そして、性愛を孕んだ重い感情でもある。だから、朔、どうか、どうかお前が俺を赦すというならば、そばに居てほしい。お前を研究所から連れ去り、隠し続けてきたが、今はもうお前を籠に閉じ込める理由はなくなった。冷静に考えてみれば、どれだけ俺がお前の人権を無視した非道な環境に置いてきたか分かるものだというのに、お前と出会った時からきっと俺は正常ではなかったんだ。まだ赤子でしかないお前を、はじめて見た時のことはよく覚えている。全身に電流が走るような衝撃だった。そしてどこか懐かしく、苦しい気持ちにもなった。たまらなくなって、気付いたら君を抱き上げていた。自分が何をしているのか、分かっているようで分かっていなかった。この子を決して手放してはならないと、何にも触れさせず、守らねばならないと強く想った。それが結果として君を苦しめることになったが……。……俺は、ずっと何かを恐れていた。恐れるあまり、お前に酷いことをしてしまった……。すまない。本当に、すまなかった。こんなことになって、ようやく自分の過ちを知った。朔。俺は決して、お前を愛玩動物だなんて思っていないよ。いや、思っていない、つもりだった。だが、実際にそういう扱いをしてしまったようだ。そんなつもりはなかった。俺はただ、朔を守りたかったんだ。あまりにも大切すぎたんだ。……ああ……お前の表情が見えないのが、残念だ。なにか、喋ってくれないか。ゆっくりで構わないし、このまま去るというなら、それも受け入れよう。だが、最後にせめてお前の声を……、………………ああ。愛しいな。手放すなんて惜しいよ。……ん、ああ、そうだな……お前の答えを、俺は聞いていない。……朔? なぜ怒っているんだ? 独りよがり、か……ああ、そうかもしれない。それに、俺だけが勝手に喋りすぎてしまったようだ。次はお前の話を聞かせてくれ、…………ああ。そうか……うん……お前は、優しいな。…………はは、そうか。そうだな。お前の答えを聞く前に、引き止める資格がないだの、そんなことを言っては、まるで俺がお前を突き放そうとしているように聞こえてしまう。もちろんそれは誤解だ。朔、先にも言った通り、俺の願いはただ一つだ。お前のそばに……、…………ああ、そうか、朔……ああ、ああ………………ありがとう。お前を愛している。
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