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どれくらいの間走っていただろうか。辿り着いたのは一軒の古びた宿泊施設だった。ショウは受付の中年男性と手短に会話したあと、鍵を受け取り古い階段を上っていった。一段踏みしめるだけでギシギシと軋んで、底が抜けるのではないかと肝が冷える。二階まで上がると、薄暗く狭い廊下をショウに続いて進んでいった。
途中通り過ぎた部屋からは、艷っぽい妙な声が聞こえてきた。何をしている声なのか今の朔なら分かってしまう。居心地が悪くなり、先を行く男の背中をじっと見つめる。ここはどこなのか尋ねたかったが、聞いても真面目に答えてはくれなさそうだ。
やがてショウは一室の前で立ち止まると、錆びかけた鍵を差し込んで扉を押し開く。ショウに促され中に入って、朔は思わず目を見張った。そこは自分の住む部屋とは比べ物にならないほど狭く窮屈で、あまりにも貧相な部屋だった。四角い物置のようなスペースの大半をベッドが占めており、その奥には人一人が立って入れる程度のシャワーブース、またベッドの隣には小さな棚もあるが、そこに置かれた時計は壊れているのか針が止まっている。ただ異様なことにテレビだけはやけに大きく、壁のほとんどのスペースを占領していた。
「なんだ、ここ……?」
「ラブホだよ。ここのおじいさん優しいからさ、たまにタダで泊めてくれるんだ。……よっと」
ショウが後ろ手に扉を閉めたその直後、強い力で腕を引かれベッドの上に投げ飛ばされた。ショウは驚き瞠目する朔に跨ると、自分のシャツを片手で乱しながら、ポケットから何かを取り出す。朔の鼻先に突き付けられたのは一台のスマートフォンだ。ショウは片手でそれを操作すると、にんまりといやらしく口角を釣り上げた。
「まあその代わり、別のお代がいるんだけどね」
「別の、お代……?」
「君のこと、ひと目で気に入ったってさ。よかったね朔ちゃん」
ショウはさっさと服を脱いでしまうと、片手にスマートフォンを構えたまま、朔のパーカーを捲り上げる。ようやく朔はあの忌々しい約束のことを思い出した。今度は何を汚されるというのだろう。童貞を貰うとはつまりどういう意味なのだろうか。ぎゅっと強く瞼を閉ざし、腹に力を籠める。無意識に身体が震えた。下着ごとズボンが引きずり降ろされて、下半身が冷たい空気に晒される。来るべき衝撃に備え必死に息を詰めていると、ふと、ショウが小さく噴き出すのが聞こえた。
「あはっ……君さ、それ、無意識でやってる?」
「え……?」
「気が変わった。童貞はまた今度のお楽しみにして、今日はメスイキを教えてあげる」
ぐいっと片手で太腿を開かれる。ショウはまた耳慣れない言葉を口にして、朔をからかっているようだ。無知がそんなに面白いだろうか。不愉快に思い眉を潜めていると、尻の穴に濡れた指が押し込まれた。突然のことに思わず目を見開き、自分の下半身を凝視してしまう。すると朔の視界の先には、同じように自分の恥部を覗き込むスマートフォンの姿があった。腹の中を弄られる違和感に息を呑みながら、不可解な光景に首を傾げる。それに気付いたのか、ショウは薄く口端を釣り上げると、スマートフォンをこちらに向けた。
「これ、何してるか分かるかい?」
「……っぁ、う、……分から、ない」
素直に答える朔に、ショウは満足そうに笑みを深くする。片手に構えたスマートフォンはそのまま、ぐちぐちと朔の中を掻き回す。噛み締めていたはずの唇は無意識に薄く開いて、甘さの混じった吐息が洩れ始めた。
「これが『お代』だよ。君のいやらしい姿を動画に収めておじいさんに渡すんだ。何のためか分かるか?」
「ぅあ、ぁ、……っ?」
喘ぎながら首を傾げる。声が洩れるのは、もはや苦痛のせいではなく、はっきりと広がり始めた快感のせいだった。頭が霞がかったように上手く思考が働かない。とんでもないことを言われた気がするが、意識がぼんやりとして、ショウの声が遠く聞こえる。
「あのおじいさんが君の動画でオナニーするためにだよ。……ああ、オナニーっていうのはつまり、君のいやらしい姿に興奮して自分のおちんちんを擦るってことね」
「っ!? なっ……!」
ようやくショウの言葉を理解できた。信じがたい発言に気が動転する。動画を撮られているだけでも耐え難いことだというのに、あまつさえそれをあの見ず知らずの老人が見て、あらぬ行為のために使用すると言われたら、朔も黙っているわけにはいかなかった。今すぐ撮影をやめろと、足と手を振り上げスマートフォンを奪い取ろうとする。しかしショウは朔の抵抗などいともたやすく退け、引き抜いた自分のベルトで暴れる手首を一纏めに縛り上げてしまった。
「っ、ぐ、このっ、変態!」
「それは僕じゃなくておじいさんに言ってくれないかなあ」
かろうじて自由な足を振り上げ蹴り飛ばそうとすると、あっさりと受け止められ、がばりと股を開かれた。脚も縛らないといけないか。そんな独り言が聞こえたあと、ショウの視線が部屋を見渡し、また朔に戻る。
「……うん。ちょっと乱暴なことをしよう」
「な、に……」
ショウは一度スマートフォンをベッドに置くと、朔の右脚を両手に抱える。ぎしぎしと膝に力が加わり、僅かな痛みと何をされるか分からない恐怖に身体が竦んだ。
「舌噛まないでね」
「へ、~~~~ッッ!!!」
ごき、と、嫌な音が自分の身体から響いた。それから一瞬遅れて、右脚にねじ切れるような激痛が走る。あまりの痛みに叫ぶことものたうちまわることもできない。小さく蹲り、荒い呼吸を繰り返す。どうにかして痛みを逃したかったが、身体の内側に溜まるそれを外に放出する方法が分からない。
「大丈夫。完全に外した訳じゃないし、安静にしてればそのうち痛みも引くからさ。まあちょっとした脅しだよ」
「っは、あ゛っ、はぁっ……」
ショウはそう言うが、ただの脅しにしては過ぎた痛みだ。滲む視界でショウを睨み上げる。だが先程のように脚を振り上げ抵抗する気力はなかった。そもそも少しでも動かそうとすれば関節に激しい痛みが走る。ショウが再び尻に手を伸ばしても、もう何の抵抗もできなかった。
「ぐ、ぁ、あ゛ぁっ、ん゛んっ……」
「もっとこの前みたいに可愛い声出してよ。萎えちゃうじゃないか」
そう言いつつも、ショウの性器は布の上からでも分かるほど勃起していた。またあれを入れられるのだと思うと、恐怖を感じるのと同時に、腹の奥が熱くなるような奇妙な感覚があった。やがて性器が取り出され、固く勃起したそれが太ももに擦り付けられる。無意識に中の指を締め付けてしまい、ショウがにやりと口元を歪めた。
「折角ならコレでメスイキしような」
「ぅ、あ、……ぁあ゛あっ!!」
めりめりと中をこじ開けられる衝撃に、見開いた目から涙が零れる。奥まで熱の塊が押し入ってくると、朔の息が整うのも待たず激しい律動が始まった。視界が白くはじけ飛んで、またすぐ現実に引き戻される。ただ内臓を掻き回され荒らされているだけのはずが、男の性器がゴリゴリと奥を抉るたび、腰が勝手に跳ねるのが止まらない。身体の奥でくすぶっていた熱が、男によって引きずり出され、快楽というものを自覚させられる。とくに刺激の大きい場所をショウは重点的に狙って突き上げた。下半身をごっそり持っていかれてしまいそうな快感が、朔の頭を激しく混乱させる。
「ひっ、ぁああ、あ、やぁっ、いやら、ひぃっ! へんっ、ら、これ、やら、あぅうっ、ひ、あ、あ!」
抜けそうなほど出ていったかと思えば、また息が詰まるほど奥まで突き上げられ、次はあの弱いところに狙いを定めて、小刻みな振動で嬲られる。その全てに朔は翻弄され、思考はめちゃくちゃになった。まるで馬鹿になったように喘いでいると、ふと視界にショウの持つスマートフォンが映る。ざっと頭から血の気が引いた。今、この姿もカメラに収められているのだ。そしてそれを、いずれ見知らぬ老人が目に止める。
嫌だ。気持ち悪い。逃げたい。だが逃げられない。どれだけ恐怖と不快感に支配されていても、それを凌駕するのは腹の底に叩きつけられる確かな快楽だ。自然と涙が溢れ出して止まらない。せめてもの抵抗とばかりに顔を背けると、すぐに顎を掴まれた。
「そのぐちゃぐちゃできったない顔、ちゃんと見せてくれないと困るよ」
「ひぅっ、ぁ、やだ、も、やめ、っひ、あ、あ゛っ!」
あのびりびりと電流の走る場所ばかり、壊れそうなほど乱暴に抉られる。また頭が真っ白になりそうな、どこかへ引っ張り上げられそうな、妙な感覚がせり上がってきた。それが絶頂の予兆だということも朔は知らないまま、ただ体の変化に戸惑い、嬌声を上げる。くる。なにかがくる。また、あの怖いくらい気持ちいいものが、きてしまう。朔は無意識に背を丸め、体を縮こまらせた。息を詰めて震えていると、ショウにぐっと肩を押される。
「イくときは仰け反ったほうが気持ちいいよ?」
「イ、……? へ、ぁ、やあっ……!」
目の前がちかちかと点滅し、いよいよ迫りくる何かが大きくなった。無意識に腰が持ち上がり、背中がシーツを離れる。触られてもいないのに自分の性器が勃起して濡れているのが見えた。肩を押さえていたショウの手が離れ、性器の根本を握る。今まさに放出されそうだった何かがせき止められて、苦しさのあまり舌を噛みそうになった。目を白黒させる朔を追い詰めるように、弱いところを激しく突き上げられる。体の痙攣が止まらない。腹の奥がひくひくして何かが溢れそうで、けれどもなにも出せなくて、ただただ狂いそうなほどの熱が朔を襲うばかりだ。
「ァ、は、~~~~ッ!!」
びくんびくんと、朔の身体が電流を受けたように飛び上がる。同時に視界は真っ白に消し飛んで、どこかも分からない場所へ意識が引きずられていった。高みまで連れて行かれたまま戻れない。頭の血管が焼き切れて、体中の神経がぐちゃぐちゃになった。
「ぁ、あ、ぁああっ……!? な、に、これぇ……? ぁ、かはっ……はぁ゛っ……♡」
「これがメスイキだよ。たまんないでしょ?」
身体は自然と中にいるショウを食いしばった。奥でそれが小さく震える感覚に、また朔の腹はひくひくと痛いくらいに疼く。
「い、いま、だめっ、ひぎっ、とまっ、どまっでぇっ……!」
「あはっ……無理」
余韻から戻って来られない身体を容赦なく揺さぶられ、断続的な絶頂が繰り返し朔を襲った。仰け反り痙攣する体を玩具のように抱きかえられ、容赦なく腰が打ち付けられる。涙でぼやけきった視界に映ったのは、目の前に突き付けられたスマートフォンだ。撮影されていることを思い出し、激しい羞恥が襲いかかる。今頃だらしない顔が画面いっぱいに映されているのだろう。耐えがたい屈辱だが、それでも下半身から叩き込まれる快感のせいで頭がぼやけて、逃げることも顔を背けることもできなかった。
「ひぃっ、ぁっ、やらあっ、あ゛っ、みないでよおっ、へんた、ぃ、あ゛っ、やら、あぅううっ……!」
「ッハハハ、あ゛ーっ、サイッコー」
低い呻き声がしたあと、腹の奥に熱いものが注ぎ込まれた。ひくひくと体を痙攣させ、呆然とそれを受け入れる。朔の瞳はもうどこも見ていなかった。目の前にある小さな機械でも、自分を犯した男でも、あるいは薄汚い天井や、窓を覆う分厚いカーテンでもない。濁った瞳はただ虚空を見つめ、はらはらと絶え間なく涙をこぼしていた。
「朔ちゃん、はじめてメスイキした感想は?」
「う、あ……」
感想を求められても言葉なんてものは出てこない。呻くだけの朔にショウは短くため息を吐くと、片手で顎を掴み、虚ろな瞳と無理矢理視線を合わせた。虚空をさまよっていた朔の瞳もようやくショウを捉え、わずかに見開かれる。
「ぁ……」
「答えないなら二回戦、行こうか」
脅しのような言葉に、朔は竦み上がる。それからはくはくと口を開閉し、あ、う、と意味のない母音を呻いた。次第にショウが苛立っていくのが分かる。顎から手が離れ、腰を掴まれたところで、朔は意を決して口を開いた。
「あ……あたまが、ぐちゃぐちゃになって……。……す、すご、かった……」
「……へえ」
どこか興奮したような声のあと、スマートフォンがベッドに投げ出される。これで終わりかとほっと息をつく間もなく、両手で腰を鷲掴みにされ、朔は短く悲鳴を上げた。
「なっ、なん、っで」
「今ので勃起しちゃった」
「こ、答えたのに……! 約束と違う!」
朔の非難も、ショウは軽く笑って受け流す。
「約束? ああ、答えないなら二回戦、とは言ったかな」
でも答えたら終わりとも言っていないよ、そう舌を出すショウに、朔は瞠目した。殴ってやろうかとも思ったが、腹の奥が破れそうなほど突き上げられて、体から力が抜け落ちる。薄れかかった意識の中、暴力じみた行為で消耗した頭がふと思い出したのは、飛び出してきた家のことだった。この男についてきたのは、間違いだったのかもしれない。あのまま聖慈のところにいたほうが、こんなふうに虐げられることなく暮らせたのかもしれない。けれどもうこんな場所まで来てしまった。この体も汚れてしまった。あの箱庭には帰れない。きっともう、あそこに自分の居場所はない。
「ぁ……あ、せ、い……」
無意識に口に出した名前だったが、最後までは呼べなかった。心臓を切り刻まれるような痛みを感じた。視界に薄い膜が張る。水の中に沈んでいるように、周囲の音が遠い。ショウの笑う声がした。聖慈とは似ても似つかない、悪魔めいた笑い声だった。
途中通り過ぎた部屋からは、艷っぽい妙な声が聞こえてきた。何をしている声なのか今の朔なら分かってしまう。居心地が悪くなり、先を行く男の背中をじっと見つめる。ここはどこなのか尋ねたかったが、聞いても真面目に答えてはくれなさそうだ。
やがてショウは一室の前で立ち止まると、錆びかけた鍵を差し込んで扉を押し開く。ショウに促され中に入って、朔は思わず目を見張った。そこは自分の住む部屋とは比べ物にならないほど狭く窮屈で、あまりにも貧相な部屋だった。四角い物置のようなスペースの大半をベッドが占めており、その奥には人一人が立って入れる程度のシャワーブース、またベッドの隣には小さな棚もあるが、そこに置かれた時計は壊れているのか針が止まっている。ただ異様なことにテレビだけはやけに大きく、壁のほとんどのスペースを占領していた。
「なんだ、ここ……?」
「ラブホだよ。ここのおじいさん優しいからさ、たまにタダで泊めてくれるんだ。……よっと」
ショウが後ろ手に扉を閉めたその直後、強い力で腕を引かれベッドの上に投げ飛ばされた。ショウは驚き瞠目する朔に跨ると、自分のシャツを片手で乱しながら、ポケットから何かを取り出す。朔の鼻先に突き付けられたのは一台のスマートフォンだ。ショウは片手でそれを操作すると、にんまりといやらしく口角を釣り上げた。
「まあその代わり、別のお代がいるんだけどね」
「別の、お代……?」
「君のこと、ひと目で気に入ったってさ。よかったね朔ちゃん」
ショウはさっさと服を脱いでしまうと、片手にスマートフォンを構えたまま、朔のパーカーを捲り上げる。ようやく朔はあの忌々しい約束のことを思い出した。今度は何を汚されるというのだろう。童貞を貰うとはつまりどういう意味なのだろうか。ぎゅっと強く瞼を閉ざし、腹に力を籠める。無意識に身体が震えた。下着ごとズボンが引きずり降ろされて、下半身が冷たい空気に晒される。来るべき衝撃に備え必死に息を詰めていると、ふと、ショウが小さく噴き出すのが聞こえた。
「あはっ……君さ、それ、無意識でやってる?」
「え……?」
「気が変わった。童貞はまた今度のお楽しみにして、今日はメスイキを教えてあげる」
ぐいっと片手で太腿を開かれる。ショウはまた耳慣れない言葉を口にして、朔をからかっているようだ。無知がそんなに面白いだろうか。不愉快に思い眉を潜めていると、尻の穴に濡れた指が押し込まれた。突然のことに思わず目を見開き、自分の下半身を凝視してしまう。すると朔の視界の先には、同じように自分の恥部を覗き込むスマートフォンの姿があった。腹の中を弄られる違和感に息を呑みながら、不可解な光景に首を傾げる。それに気付いたのか、ショウは薄く口端を釣り上げると、スマートフォンをこちらに向けた。
「これ、何してるか分かるかい?」
「……っぁ、う、……分から、ない」
素直に答える朔に、ショウは満足そうに笑みを深くする。片手に構えたスマートフォンはそのまま、ぐちぐちと朔の中を掻き回す。噛み締めていたはずの唇は無意識に薄く開いて、甘さの混じった吐息が洩れ始めた。
「これが『お代』だよ。君のいやらしい姿を動画に収めておじいさんに渡すんだ。何のためか分かるか?」
「ぅあ、ぁ、……っ?」
喘ぎながら首を傾げる。声が洩れるのは、もはや苦痛のせいではなく、はっきりと広がり始めた快感のせいだった。頭が霞がかったように上手く思考が働かない。とんでもないことを言われた気がするが、意識がぼんやりとして、ショウの声が遠く聞こえる。
「あのおじいさんが君の動画でオナニーするためにだよ。……ああ、オナニーっていうのはつまり、君のいやらしい姿に興奮して自分のおちんちんを擦るってことね」
「っ!? なっ……!」
ようやくショウの言葉を理解できた。信じがたい発言に気が動転する。動画を撮られているだけでも耐え難いことだというのに、あまつさえそれをあの見ず知らずの老人が見て、あらぬ行為のために使用すると言われたら、朔も黙っているわけにはいかなかった。今すぐ撮影をやめろと、足と手を振り上げスマートフォンを奪い取ろうとする。しかしショウは朔の抵抗などいともたやすく退け、引き抜いた自分のベルトで暴れる手首を一纏めに縛り上げてしまった。
「っ、ぐ、このっ、変態!」
「それは僕じゃなくておじいさんに言ってくれないかなあ」
かろうじて自由な足を振り上げ蹴り飛ばそうとすると、あっさりと受け止められ、がばりと股を開かれた。脚も縛らないといけないか。そんな独り言が聞こえたあと、ショウの視線が部屋を見渡し、また朔に戻る。
「……うん。ちょっと乱暴なことをしよう」
「な、に……」
ショウは一度スマートフォンをベッドに置くと、朔の右脚を両手に抱える。ぎしぎしと膝に力が加わり、僅かな痛みと何をされるか分からない恐怖に身体が竦んだ。
「舌噛まないでね」
「へ、~~~~ッッ!!!」
ごき、と、嫌な音が自分の身体から響いた。それから一瞬遅れて、右脚にねじ切れるような激痛が走る。あまりの痛みに叫ぶことものたうちまわることもできない。小さく蹲り、荒い呼吸を繰り返す。どうにかして痛みを逃したかったが、身体の内側に溜まるそれを外に放出する方法が分からない。
「大丈夫。完全に外した訳じゃないし、安静にしてればそのうち痛みも引くからさ。まあちょっとした脅しだよ」
「っは、あ゛っ、はぁっ……」
ショウはそう言うが、ただの脅しにしては過ぎた痛みだ。滲む視界でショウを睨み上げる。だが先程のように脚を振り上げ抵抗する気力はなかった。そもそも少しでも動かそうとすれば関節に激しい痛みが走る。ショウが再び尻に手を伸ばしても、もう何の抵抗もできなかった。
「ぐ、ぁ、あ゛ぁっ、ん゛んっ……」
「もっとこの前みたいに可愛い声出してよ。萎えちゃうじゃないか」
そう言いつつも、ショウの性器は布の上からでも分かるほど勃起していた。またあれを入れられるのだと思うと、恐怖を感じるのと同時に、腹の奥が熱くなるような奇妙な感覚があった。やがて性器が取り出され、固く勃起したそれが太ももに擦り付けられる。無意識に中の指を締め付けてしまい、ショウがにやりと口元を歪めた。
「折角ならコレでメスイキしような」
「ぅ、あ、……ぁあ゛あっ!!」
めりめりと中をこじ開けられる衝撃に、見開いた目から涙が零れる。奥まで熱の塊が押し入ってくると、朔の息が整うのも待たず激しい律動が始まった。視界が白くはじけ飛んで、またすぐ現実に引き戻される。ただ内臓を掻き回され荒らされているだけのはずが、男の性器がゴリゴリと奥を抉るたび、腰が勝手に跳ねるのが止まらない。身体の奥でくすぶっていた熱が、男によって引きずり出され、快楽というものを自覚させられる。とくに刺激の大きい場所をショウは重点的に狙って突き上げた。下半身をごっそり持っていかれてしまいそうな快感が、朔の頭を激しく混乱させる。
「ひっ、ぁああ、あ、やぁっ、いやら、ひぃっ! へんっ、ら、これ、やら、あぅうっ、ひ、あ、あ!」
抜けそうなほど出ていったかと思えば、また息が詰まるほど奥まで突き上げられ、次はあの弱いところに狙いを定めて、小刻みな振動で嬲られる。その全てに朔は翻弄され、思考はめちゃくちゃになった。まるで馬鹿になったように喘いでいると、ふと視界にショウの持つスマートフォンが映る。ざっと頭から血の気が引いた。今、この姿もカメラに収められているのだ。そしてそれを、いずれ見知らぬ老人が目に止める。
嫌だ。気持ち悪い。逃げたい。だが逃げられない。どれだけ恐怖と不快感に支配されていても、それを凌駕するのは腹の底に叩きつけられる確かな快楽だ。自然と涙が溢れ出して止まらない。せめてもの抵抗とばかりに顔を背けると、すぐに顎を掴まれた。
「そのぐちゃぐちゃできったない顔、ちゃんと見せてくれないと困るよ」
「ひぅっ、ぁ、やだ、も、やめ、っひ、あ、あ゛っ!」
あのびりびりと電流の走る場所ばかり、壊れそうなほど乱暴に抉られる。また頭が真っ白になりそうな、どこかへ引っ張り上げられそうな、妙な感覚がせり上がってきた。それが絶頂の予兆だということも朔は知らないまま、ただ体の変化に戸惑い、嬌声を上げる。くる。なにかがくる。また、あの怖いくらい気持ちいいものが、きてしまう。朔は無意識に背を丸め、体を縮こまらせた。息を詰めて震えていると、ショウにぐっと肩を押される。
「イくときは仰け反ったほうが気持ちいいよ?」
「イ、……? へ、ぁ、やあっ……!」
目の前がちかちかと点滅し、いよいよ迫りくる何かが大きくなった。無意識に腰が持ち上がり、背中がシーツを離れる。触られてもいないのに自分の性器が勃起して濡れているのが見えた。肩を押さえていたショウの手が離れ、性器の根本を握る。今まさに放出されそうだった何かがせき止められて、苦しさのあまり舌を噛みそうになった。目を白黒させる朔を追い詰めるように、弱いところを激しく突き上げられる。体の痙攣が止まらない。腹の奥がひくひくして何かが溢れそうで、けれどもなにも出せなくて、ただただ狂いそうなほどの熱が朔を襲うばかりだ。
「ァ、は、~~~~ッ!!」
びくんびくんと、朔の身体が電流を受けたように飛び上がる。同時に視界は真っ白に消し飛んで、どこかも分からない場所へ意識が引きずられていった。高みまで連れて行かれたまま戻れない。頭の血管が焼き切れて、体中の神経がぐちゃぐちゃになった。
「ぁ、あ、ぁああっ……!? な、に、これぇ……? ぁ、かはっ……はぁ゛っ……♡」
「これがメスイキだよ。たまんないでしょ?」
身体は自然と中にいるショウを食いしばった。奥でそれが小さく震える感覚に、また朔の腹はひくひくと痛いくらいに疼く。
「い、いま、だめっ、ひぎっ、とまっ、どまっでぇっ……!」
「あはっ……無理」
余韻から戻って来られない身体を容赦なく揺さぶられ、断続的な絶頂が繰り返し朔を襲った。仰け反り痙攣する体を玩具のように抱きかえられ、容赦なく腰が打ち付けられる。涙でぼやけきった視界に映ったのは、目の前に突き付けられたスマートフォンだ。撮影されていることを思い出し、激しい羞恥が襲いかかる。今頃だらしない顔が画面いっぱいに映されているのだろう。耐えがたい屈辱だが、それでも下半身から叩き込まれる快感のせいで頭がぼやけて、逃げることも顔を背けることもできなかった。
「ひぃっ、ぁっ、やらあっ、あ゛っ、みないでよおっ、へんた、ぃ、あ゛っ、やら、あぅううっ……!」
「ッハハハ、あ゛ーっ、サイッコー」
低い呻き声がしたあと、腹の奥に熱いものが注ぎ込まれた。ひくひくと体を痙攣させ、呆然とそれを受け入れる。朔の瞳はもうどこも見ていなかった。目の前にある小さな機械でも、自分を犯した男でも、あるいは薄汚い天井や、窓を覆う分厚いカーテンでもない。濁った瞳はただ虚空を見つめ、はらはらと絶え間なく涙をこぼしていた。
「朔ちゃん、はじめてメスイキした感想は?」
「う、あ……」
感想を求められても言葉なんてものは出てこない。呻くだけの朔にショウは短くため息を吐くと、片手で顎を掴み、虚ろな瞳と無理矢理視線を合わせた。虚空をさまよっていた朔の瞳もようやくショウを捉え、わずかに見開かれる。
「ぁ……」
「答えないなら二回戦、行こうか」
脅しのような言葉に、朔は竦み上がる。それからはくはくと口を開閉し、あ、う、と意味のない母音を呻いた。次第にショウが苛立っていくのが分かる。顎から手が離れ、腰を掴まれたところで、朔は意を決して口を開いた。
「あ……あたまが、ぐちゃぐちゃになって……。……す、すご、かった……」
「……へえ」
どこか興奮したような声のあと、スマートフォンがベッドに投げ出される。これで終わりかとほっと息をつく間もなく、両手で腰を鷲掴みにされ、朔は短く悲鳴を上げた。
「なっ、なん、っで」
「今ので勃起しちゃった」
「こ、答えたのに……! 約束と違う!」
朔の非難も、ショウは軽く笑って受け流す。
「約束? ああ、答えないなら二回戦、とは言ったかな」
でも答えたら終わりとも言っていないよ、そう舌を出すショウに、朔は瞠目した。殴ってやろうかとも思ったが、腹の奥が破れそうなほど突き上げられて、体から力が抜け落ちる。薄れかかった意識の中、暴力じみた行為で消耗した頭がふと思い出したのは、飛び出してきた家のことだった。この男についてきたのは、間違いだったのかもしれない。あのまま聖慈のところにいたほうが、こんなふうに虐げられることなく暮らせたのかもしれない。けれどもうこんな場所まで来てしまった。この体も汚れてしまった。あの箱庭には帰れない。きっともう、あそこに自分の居場所はない。
「ぁ……あ、せ、い……」
無意識に口に出した名前だったが、最後までは呼べなかった。心臓を切り刻まれるような痛みを感じた。視界に薄い膜が張る。水の中に沈んでいるように、周囲の音が遠い。ショウの笑う声がした。聖慈とは似ても似つかない、悪魔めいた笑い声だった。
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