さよなら僕のアルカディア

ますじ

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10.「楽園はね、もう終わっちゃうんだ」

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 人の肉が焼ける臭いを嗅いだあとだというのに、舞人も元輝も普段通りかそれ以上に食欲旺盛で、育ち盛りの子供のようにたんまりと肉を腹におさめていった。準夜も腹は減っていたので多少は口にしたが、二人の見事な食べっぷりには到底敵わない。舞人はそれに加えて酒も浴びるように飲んでいるため、細身な身体のどこに入っていくのか不思議に思うほどだった。
「二人とも、お肉は逃げないんだからゆっくり食べなよ」
 焼いたそばからどんどん消えていく肉を見送りながら、準夜は少し呆れた声を上げる。二人とも食べるのが早すぎるせいで、肉を焼くのが追い付かない。おかげで準夜はすっかり食べるのをやめてしまっていたが、二人ともそんなことはお構いなしだ。
「準ちゃん全然食ってないっすね」
「君達が僕の分も食べちゃうからでしょ」
「とろい奴が悪い」
 僕が焼いてあげないと誰も焼かないくせに、と準夜が小声で呟くと、その声を遮るように舞人が徳利を倒す音が響いた。中身は殆ど空になっていたおかげでテーブルは汚れなかったが、そのままころころと転がって床に落ちていきそうになり、準夜が慌てて拾い上げる。
「危ないなぁ、割れちゃうでしょ」
「しょんべん。酒頼んどいて」
 軽くよろけながら舞人が席を立ち、豪快に扉を開けて出ていく。鼻歌混じりに去っていく背中を見送って、準夜は軽く肩を竦めながら呼び出しボタンを押した。
 ここは利用頻度の高い舞人お気に入りの店で、広々とした個室の窓からは夜の街並みが一望できる。頻繁にこの手の高級店に出入りしている舞人だが、ただ無意味に金を使って贅沢をするのが好きなだけで、お世辞にも舌が肥えているとは言い難い。この三人の中で味がまともに分かるのは準夜だけで、元輝に至っては牛肉と豚肉の違いすらろくに分からないレベルだ。舞人は牛肉ばかり食べるので、一応区別だけはついているらしい。
 顔を出した店員に追加の酒を頼み、ついでに適当に選んだ肉を数種類と、自分用のプリンも注文する。ひたすら二人の肉を焼くことに専念していたが、そろそろ甘いものが食べたかった。
「ふう、しょんべんじゃなくてウンコだったわ」
「ちょっとやめてよね~」
 舞人は追加の酒と肉が届いてからすっきりした顔で戻ってきた。食事の席で平気で下品なことを言う舞人を軽く窘めつつ、網の上がいっぱいになるまで肉を置く。まもなくプリンも運ばれてきて、時々肉の面倒を見ながら自分への褒美にもありつくことにした。スプーンですくったそれを舌に乗せれば、濃厚なバニラの香りが口内に広がる。幸せな味だ。ほかにも季節のシャーベットや杏仁豆腐などもあったから、腹に余裕があればそちらも味わいたいところだ。


 二人が満足するまで肉を焼いたあとは、舞人の馴染みの店に場所を変えて酒を飲んだ。といっても酔っぱらっているのは舞人ひとりで、準夜は気分が乗らなかったので一口も飲まずグラスを放置しているし、元々酒を飲まない元輝はつまみをせっせと口に運んでばかりいる。つい先程まで散々飲み食いしていたのに、食べ物にしろ酒にしろよく入るものだ。
「ねえ準ちゃん、ちょっと」
 店主である小柄な女に呼ばれて席を立つ。いつになく神妙な面持ちの女に連れて来られたのは、冷たい風の吹く店の裏口だ。女はしばし逡巡するように視線を彷徨わせたあと、準夜の肩にそっと触れた。
「……いい加減、あの人達と付き合うのはやめなさい」
「どうして?」
 唐突な女の発言に、準夜がきょとりとした顔で問い返す。
「あなたはまだ引き返せる。まっとうな道に戻ったほうがいいと思うの」
「まっとうな道?」
「誰か信頼できる人に助けてもらいなさい。もうこんな場所に来ちゃだめ」
 呆けた顔をしている準夜にも構わず、女は勝手に言葉を発し続ける。表通りのほうから、偶然通りがかった酔っぱらいの鼻歌が聞こえた。空気を読まない調子外れな音色がゆっくりと近づいて、そのまま静かに遠ざかっていく。
「大丈夫よ、きっと誰かが救ってくれるから」
「誰かって、誰?」
 女がはっとした顔をして準夜の肩から手を離す。冷たい北風が吹き抜けて、準夜の柔らかな髪を攫った。煽られた髪が準夜の表情を覆い隠す。女は慌てたように首を振ると、まるで弁明でもするように早口でまくし立てた。
「その、だからね、あなたはまだ少しくらいは普通の人だから、きっと頑張れば表の世界に帰れると思うの。私ね、あなたみたいに、よくない人とつるんで破滅しちゃう子たくさん見たわ。やくざなんて、だめよ、本当にだめ。つらいでしょうけど、頑張って立ち直るの。きっと誰か支えてくれる人はいるから……」
「ねえ、なにそのつまんない話」
 女の必死な言葉に対して、準夜の返答はその一言だけだった。絶句する女を尻目に、準夜は「さむい」と小さく身震いする。薄着のまま冷たい風に晒されたおかげで、体温はすっかり下がっていた。
「……あのね、あなた、人がせっかく忠告してあげてるのに、その態度はどうなの」
「僕のためを思って言ってくれてたの? ごめんね、気付かなかった」
 あっけらかんとした準夜の返答に、女が目を吊り上げる。みるみるうち赤くなっていく顔を見て、準夜は首を傾げながら笑った。
「怒んないでよ。怖いじゃん」
「そうやって人の好意を踏みにじるから、誰にも愛されないのよ」
 女は体の横で強く拳を握ると、そう一言吐き捨てて店の中へと戻っていく。一人残された準夜はふいに顔を上げて夜空を視界に映した。背の高い建物に挟まれた狭い空には、星の一つも見つけられない。
「今日も暗いなぁ」
 ぽつりとこぼして、準夜も足早に店内へ戻る。体の芯まで冷え切ってしまったから、早く温まりたかった。
 閉店時間が過ぎていることもあり、店に残る従業員はどこか迷惑そうな顔をしながら片づけを進めている。準夜は一人で酒を煽っている舞人の隣に腰かけると、彼の服の中に手を押し込んで脇腹を掴んだ。
「うわっつめてぇ!!」
「あだっ!」
 当然ながら思い切り殴りつけられ、頭がぐわんぐわんと揺れる。しかし掴んだ脇腹は離さず、退けと声を荒げる舞人に強くしがみつく。ともかく体が凍えているので、人肌に触れて暖を取りたかった。
「やだ~舞人くん湯たんぽになってよぉ~」
「ふっざけんなクソ! 殺すぞ!」
 力では舞人に叶うはずもなく、あえなく引き剥がされた挙句、腹に拳を叩きこまれた。あまりの衝撃で息が詰まり、飲み食いしたものを戻しそうになる。
「げほっげほっ! う゛ぅ……ひどいよぉ……って、元輝くんは?」
「車取りに行った」
「あ、もう帰るんだ」
 少し離れた駐車場に車を停めていたため、元輝だけ先に出ていったらしい。会計も済んでいるようで、間もなく元輝から店の前に着いたと連絡がくると、すぐ店主に追い出されて店を出た。
「あのババアどんどん煩くなってきてね?」
「ババアなんて言ったら毒盛られるよ」
 冷気に晒された手をポケットに押し込み、雑居ビルの階段を降りていく。すぐ目の前にいつもの黒い車が見えてきたが、準夜は階段の中腹でふと足を止めると、舞人の腕を掴んで引き留めた。
「待って」
「は?」
「二階の窓から出よう」
 疑問符を浮かべる舞人を無理矢理連れてこっそり階段を上がる。路地裏に面する窓を開けると、準夜は注意深く外を確認してから身を乗り出した。そのまま一階の庇に飛び乗り、室外機を使って慎重に着地する。
「なんだよ急に」
「違う車が周りに何台か停まってた。偶然じゃなさそう。多分こっちにも来ると思うから、急いで」
 真剣な準夜の言葉に状況を察したのか、舞人も無言で後に続く。用心しながら路駐の車に近づくと、乗り込もうとしていた若い男に舞人が殴り掛かった。突然のことに抵抗もできず崩れ落ちる男を舞人が蹴り飛ばし、即座に運転席へと乗り込む。幸い今のはただの一般人だったらしい。計画性も何もない舞人の行動には肝を冷やしたが結果オーライだ。
「舞人くん酔ってるし僕が運転しようか?」
「おまえ最後にハンドル握ったのいつだよ」
「教習所だから三年くらい前かなぁ」
 呑気なことを言いながら助手席に座る準夜を舞人が睨み、急いでエンジンをかける。殴られた男が運転席の窓を叩こうとするが、それよりも先に勢いよく車が発進し、バランスを崩して転がる男の姿がバックミラーに映った。
「は~まじムカつくんだけど」
「怒んないでよぉ」
 幸運にも近くに警察車両と思しきものは見当たらない。舞人が苛立ちながらハンドルを切り、スピードを上げて他の車を追い越していく。いつサイレンの音が聴こえてもおかしくない中、舞人はなりふり構わず車を飛ばし、深夜の街を走り抜けた。
「クッソ! てめーらちんたら走ってんじゃねえ!」
「あんまりスピード出すとそれはそれで捕まるよ」
 緊張感のない声で言いながら、準夜がカーステレオのスイッチを入れる。淡々とニュースを読み上げるアナウンサーの声が響きはじめるが、その内容は二人とも身に覚えがありすぎるものだった。
「すぐだろうな~とは思ってたけど本当にすぐだった」
「クッソさいあく! なんで見つかるんだよ!」
「いやいや、見つからない訳ないでしょ」
 栗栖家で起きた火災はとっくに近隣住民が通報しており、つい先程鎮火されたらしい。焼け跡から遺体も見つかったようで、現場の状況と目撃証言から準夜達の名前が挙がり、現在行方を追っているとのことである。元輝は先に車へ戻ったところで身柄を拘束されたのだろう。何も知らず合流しようとした自分達も危うく縄にかけられるところだった。
「元輝くんには可哀相なことしちゃったね」
「簡単に捕まる奴が悪い」
 荒々しかった舞人の運転も次第に落ち着いていき、高速道路を何食わぬ顔で悠々自適に走る。なんとなく疲れを感じ、シートに深く背を預けてため息をついた。隣からカチッと小さな音がして、馴染みのある煙の臭いが漂ってくる。
 思ったよりも警察は無能だったようで、都心を離れてしばらく経っても煩いサイレンは聞こえなかった。狭い車内で足を組み直し、無言でハンドルを握る舞人を眺める。時々すれ違う車の前照灯が、幼げな横顔を照らしていった。こうして見るとまだ中高生の子供のようだ。見た目も中身も本当に幼い。身体だけ成人した子供が、煙草を咥えて車を走らせている。なんだか滑稽だ。

 少しの間うたた寝していたら、いつの間にか窓の外の景色が様変わりしていた。見慣れた都会の雑踏はすっかり遠くなり、点在する外灯に照らされた田舎道が続いている。暗い田園風景の向うには、そう遠くない場所に連なる山のシルエットが見えた。
「どこに向かってるの?」
「しらねぇ」 
「もしかしなくても迷ってる?」
 八つ当たりのごとく殴られ、痛む頭を押さえて蹲る。やはり道に迷ったようだ。隣から忌々し気な舌打ちが聞こえたかと思うと、何故か車は速度を落とし始め、周りに建物ひとつない場所で停車してしまった。
「どうしたの?」
「ガソリン切れたわ」
「えっ」
 信じがたい発言に耳を疑い、舞人の横顔を凝視する。舞人はハンドルから手を放してシートに背を預けると、諦めたようにため息をついて耳を掻きはじめた。
「えぇ~……なんで途中で入れなかったの?」
「忘れてた」
「いやありえないんですけど」
 舞人も普段ほとんど車を運転しないとは言っても、免許証がただのカードになっている準夜よりは扱い方を分かっているはずだ。今は何もない田舎に取り残されているが、道中は当然ながらガソリンスタンドの前も通っているのに、それで忘れるとはなかなかにレベルの高いことをやってくれる。準夜も全く気付かなかったとはいえ、さすがに失笑を禁じ得ない話だった。
「あは、ウケる~……で、どうするの?」
「盗める車探す」
 さっさと車を降りて歩き出した舞人に続き、準夜も寒空の下に出る。後部座席から拝借してきたブランケットを羽織っても、吹き抜ける北風は冷たく、体が凍えていくのが分かった。辺りには民家はおろか建物そのものの影がなく、ひたすらに広がるのどかな田舎道に気が遠くなる。
「あ~あ、こんなことなら大人しく捕まっておくんだったなぁ……いたっ!」
 膝裏を思い切り蹴り飛ばされ、バランスを失って崩れ落ちる。地面に手をついた拍子に思い切り擦りむいてしまい、じんじんとした痛みに涙が滲みそうになった。舞人はもう一度準夜を足蹴にしてから、先を急ぐように大股で歩いていく。準夜もよろりと立ち上がると、落ちたブランケットを拾い上げ、置いていかれないよう追いかけた。
「寒いし暗いし疲れたし、心も参っちゃいそう」
「俺のせいじゃねえし」
「別に舞人くんが悪いなんて言ってないよ? ただ、ガソリンちゃんと入れてれば歩かなくてよかったなぁとは思うけど」
「お前だって気付かなかったじゃん」
 深夜の田舎を走っているような車は見当たらず、一番近い民家もかなり歩かなければならない距離にある。はじめこそお互いに文句を言いあいながら歩いていた二人も、やがて疲労が溜まり始めると無言になっていった。進めば進むほど身体が重くなっていき、足を前に踏み出すことすら億劫になる。
 葬式のような雰囲気で歩き続け、ようやく民家まで辿り着き、無断で敷地内に入り込む。しかし見たところ車は一台も停まっていないようで、二人して落胆の息を吐いた。どうやら空き家のようで、庭の手入れもされておらず、建物自体も老朽化が進んでいた。かといって別の家へ行くとなると、また随分と距離がある。よりにもよってこんな田舎で足を失うことになるとは、ついていないにも程があるが、今更嘆いたところでどうしようもないことだ。
「疲れたし、ここでちょっと休んでこっか」
 扉は鍵が壊れているようで、横に引くと簡単に開いた。土足のまま玄関に上がれば、埃臭い陰湿な空気に出迎えられ、一瞬中に入るのを躊躇ってしまう。しかし冷たい風を凌げるだけでも、外よりは幾分かましなはずだ。
「こんなボロいとこで寝るの嫌すぎなんだけど」
「じゃあまだ歩く? 車に戻るのも次の家に行くのもすっごく遠いけどね。それにこの寒さなら、もしかしたら雪も降ってくるかもしれないよ」
 こんな所に来てまで駄々をこね始めた舞人だが、準夜がそう返すと大人しく中に入ってきた。舞人もこれ以上寒空の下を歩きたくはないだろうし、準夜もそろそろ限界が来ている。元々準夜はそれほど体力があるわけではないし、普段なら就寝している時間帯ということもあって、疲労も眠気もピークに近かった。
 軋む廊下を進んでいくと、壁や床に古びた絵画がいくつか散乱しているのを見つけた。ここの住人が趣味で集めていたものだろう。どれもそれなりに値の張る代物と推測される。家主の意思で引っ越したのだとしたら、置き去りにしていくとはあまり考えられない。日用品もまだいくつか残っているし、夜逃げ同然で放棄されたか、引き受ける人間がいなかったのだろうか。
 そのまま奥の部屋に入ると、廃屋にしては綺麗な和室になっていた。それなりに埃は積もっているものの、一晩寝泊まりする程度ならば差し支えなさそうだ。住人がいなくなってからまだ日が浅いのかもしれない。
 準夜は羽織っていたブランケットを一旦脱ぎ、押し入れを開けて中を物色する。まだ使えそうな布団が一式仕舞いこまれており、引きずり出して畳に広げた。これなら朝まで多少は暖が取れそうだ。少なくとも凍死はせずに済むだろう。
「さっむ。暖房ねえの?」
「あると思う?」
 布団を準備し終え、履いたままだった靴を脱ぐ。舞人もむすりとした顔をしながら靴を脱ぐと、我先にと布団に寝転がった。当然のごとく中央を占領され、準夜の入るスペースが殆どなくなる。
「もうちょっと端に寄ってほしいなあ」
 舞人の肩を軽く揺すってみても、場所を空けるどころか返事すらもしてくれなかった。仕方がないので無理矢理布団に入り込むと、舞人の少し高めの体温が伝わってきて、少しずつ体が温まってくる。
「舞人くんあったかいね。ついでにもっと身体あっためない?」
 胸元に頭を摺り寄せながら、脚を絡ませてより一層密着する。相手を誘うように腰を揺すって吐息を洩らすと、唐突にひっくり返されて組み敷かれた。布団を被ったまま馬乗りになった舞人が、眉間に皺を寄せながら見下ろしてくる。やや不機嫌そうながらも性欲の滲んだ瞳に睨まれ、下腹がきゅんと切なく疼いた。
「ほんとお前うるさい。大人しくしてらんねーの?」
「え~、じゃあ黙らせて?」
 下着ごとズボンをむしり取られ、裸になった脚を掴まれる。大きく左右に開かれて、そのまま慣らしてすらいない穴に性器が突き立てられた。さすがに鋭い痛みに襲われて、息を詰めて衝撃をやりすごす。
「こんな、ときなのにぃ、ぁはっ……、まいと、く、げんき、だねぇ、あ゛ぁっ、ひっ……!」
 何の準備もしていないその場所は、はじめこそ突然ねじ込まれた異物を拒絶したが、無理矢理に抜き差しを繰り返されるうち次第に柔らかく受け入れていった。
 激しく腰を揺さぶられるたびに、視界に映った天井も揺れる。この行為にも、痛みにも慣れている準夜の身体は、すぐさま器用に快感を拾って熱を上げ始めた。律動にあわせて古びた木製の床がきしきしと悲鳴を上げている。暗がりの中で、自分を見下ろす舞人の顔がぼんやりと見えた。しかし快楽からくる涙で視界は滲んでいて、ほとんどその表情は分からなくなっている。それでも殺気にも似たような情欲の視線を感じて、身体の芯が悦楽に震えた。
「ぁ、う、あぁっ、ん、ぁんっ、あ゛、ぁ、もっとぉっ、ぁあっ、あ゛、あっ……!」
「っはー、くそ、気持ちいい……」
 苛立ち混じりながらも、どこかうっとりとした声が聞こえて、準夜も思わず口元を緩める。舞人の首に腕を伸ばして縋りつくと、邪魔そうに振りほどかれて頭を押さえつけられた。かと思えば髪を鷲掴みにされて持ち上げられ、唇が触れそうなほど近くで見つめられる。
「あぅ、ぁ゛っ、あ、い、たい、あっ、あぁっ、んっ……」
「お前の目って、こんな色してたんだ」
 ぼやける視界に舞人の瞳が大きく映り込む。その中には痛みと快楽で顔を歪める自分の姿があった。初めて気づいたと言わんばかりに、舞人が感心した声を上げ、準夜の瞳をまじまじと覗く。人生の大半を一緒に過ごしてきたが、瞳の色について触れられたのは初めてだった。日本人離れした準夜の翠眼は、人形めいた美しさを惹き立てる要素の一つでもあって、幼少の頃から多くの人を魅了してきた。傍にいながらこの特異な瞳に無関心だったのは、舞人だけだ。
「きれいでしょ、……ん、ぁっ」
「作り物みてぇ」
 言葉と同時に舞人の顔が近づけられ、ぬるりとした感触と痛みが眼球に走る。舐められたのだと気づいても、準夜は抵抗せず舞人の奇行を受け入れた。舞人は一度だけ眼球を舐めたあと、飽きたように髪から手を離し、代わりに準夜の細い腰を強く掴む。一層激しく揺さぶられ、痺れるような快楽が全身を走り抜けた。中の弱いところも乱暴に抉られ、迫りくる絶頂感で目の前がちかちかと点滅する。
「あ゛、ぁっ、も、いく、いきそ、あぁっ、あ、んっ、あ、あっ、あぁぁ~~っ!!」
 仰け反りながら声を上ずらせ、準夜が大きく全身を震わせる。爪先まで力が入り、暴力じみた快楽の波に身悶えた。射精はなく、中だけで達したことで、長く深い余韻に襲われて動けなくなる。
「は、ひ、ひぃ、ぁ、や、らめ、いまきもちぃの、あ、ひっ、ひぃ……っ!」
 まだ全身が敏感になっているのに、舞人は構うことなく強く腰を揺すって行為を続ける。強引に叩きこまれる快感で全身が痙攣し、助けを求めるように縋りついた舞人の腕に爪を立ててしまう。すぐさま払いのけられて、「痛いんだけど」と詰られると同時に、頬を思い切り叩かれた。鈍い痛みが広がったが、それさえも気持ちよく感じてしまって、もはやまともな思考も感覚も何一つ残っていなかった。
「あ、う、ごめ、ひっ、ぁ、あぁっ、ぃい、きもひぃよぉっ、ぁうっ、あ、らめ、ぁあ゛っ、あっ、あっ!」
「っは……あっつ」
 奥で繋がったまま、舞人が小さく震える。中にじわりと暖かいものが溢れ出して、腹が満たされていく感覚に準夜も甘く吐息を零した。注がれたものを味わうように自然と中が収縮して、質量の減った舞人自身を締め付ける。身体は自然と次をねだって、意識せずとも勝手に腰が揺れてしまった。
「……僕が女の子だったら、舞人くんの赤ちゃん、何回妊娠してたんだろう?」
 我ながら頭の悪い言葉が口をついて出る。舞人との行為で避妊具を使ったことは、今までに一度もなかった。自分以外との行為でも、それこそ女が相手でも彼が避妊具を嫌うことは知っている。そのわがままのせいで何人苦しんだか準夜の知るところではないが、彼は孕ませた責任を取るような男ではないし、間違いなく何人か認知していない子供がいることだろう。それこそ準夜が女だったなら、不幸な命を腹に宿していたのは確実だった。
「どうせ堕ろすだろ」
「わあ、舞人くんほんと最低だね」
「ちげーの?」
 違わないよ、と答えて、準夜はうっすらと笑みを浮かべる。命をなんとも思っていない発言だが、それは準夜も同じだった。人の命どころか自分の命さえどうでもいい。それよりも目の前にある快楽のほうが大事だ。腹の中で舞人のそれがまた固くなるのを感じながら、準夜も腰を揺すって続きをねだった。
「ぁ、んっ、ねえ、まいと、くん、ぁっ、あのね」
「なんだようるせーな」
 気遣いなど少しもない乱暴な律動に喘ぎながら、舞人に手を伸ばして汗ばんだ頬を撫でる。成人しているとは思えないような幼い輪郭をなぞり、訝しむように歪められた唇に触れた。
「そういえば、さ、今日、おたんじょうび、だよね」
 最後に時刻を確認したのは、店の駐車場で車を盗んだ直後だった。その時にはもう日付を跨いでいたから、舞人がひとつ歳を重ねてから数時間が経っている。12月の2日。今日で舞人は21歳になった。初夏生まれの準夜がいつも先に歳を取って、寒くなってから舞人が追い付く。学年は同じでも、小さな歳の差がある期間のほうが長い。そのせいなのか、単純に舞人の性格のせいなのか、準夜から見た舞人はいつも子供で、可愛いとすら思えた。
「こんな時だけど、おめでとう」
 微笑みながら祝う準夜に、舞人はあまり表情を変えず、準夜の腰を抱え直した。下半身が浮いて上から押さえつけられるように叩きこまれ、深くなった結合に苦痛混じりの嬌声が洩れる。痛い、苦しい、どちらの感覚もあったが、それも含めて支配される悦楽に準夜は酔っていた。
「ぁは、ぁ、んっ、ん……ねぇ、もっと嬉しいかお、しなよぉ、……んぁっ、あっ!」
「ぜんぜん嬉しくねーんだけど」
 状況を考えれば当然のことだが、むくれながらでも勃起させたままの舞人がなんだか可笑しくて可愛かった。このまま長い夜を二人で過ごして、眠れないまま朝日が昇っても、今なら楽しめるかもしれない。埃臭いぼろ雑巾のような布団に二人で包まって、お互いの体温を奪い合うように身体を重ねるのが、心地いいとさえ感じてしまった。


 目蓋を焼くような眩しさで意識がふわりと覚醒する。いつの間にか殆ど蹴り出されていた布団から身を起こすと、爽やかな小鳥のさえずりが聞こえてきた。大きく伸びをしながら欠伸を洩らし、薄汚れた畳に出るため靴を履く。
「舞人くーん、朝だよぉ」
 まだ起きる気配のない舞人に声をかけるが、返事はなかった。一度や二度の声かけでこの寝穢い男が起きるはずもない。もう少し寝かせておくか迷ってから、身体を揺すって起こすことにした。
「ほら舞人くん、起きて」
「ん゛~うるせ……げっほ、ひゅ、ゲホッ、げほっげほッ……!」
 急に激しく咳き込みながら、舞人が逃げるように寝返りを打つ。準夜はふと覚えた違和感に首を傾げ、舞人の額に手を当てた。指先に触れる肌は異常なほど熱い。かなりの高熱を出しているようだ。
「まあ、寒かったからねえ」
 そういう準夜も、目が覚めてからずっと喉の痛みを感じていた。自分も舞人と同じようなものなので仕方がない。このままだと二人仲良く寝込むことになりそうだ。
「あ~うぜえ、頭も喉もいてえ」
「薬のむ?」
 準夜は寝る前に脱いでいた上着を引き寄せると、ポケットの中から小瓶を一つ取り出した。黒い瓶の中にはたっぷりと液体が収められていて、ラベルはなく掌に収まる程度のサイズだ。布団から顔を出した舞人がぼんやりしながらそれを眺める。準夜はそれを舞人の顔の前まで持っていくと、微笑を浮かべながら小さく左右に揺らした。
「楽になれるよ」
 眠たげに細められていた舞人の瞳が、驚いた猫のように丸くなる。いくら察しの悪い舞人でも、この準夜の発言には違和感を覚えたようだった。舞人の視線が薬瓶と準夜の顔とを交互に行き来する。準夜は笑みを崩さないまま、楽しげに舞人を見つめ続けていた。
「お前なに考えてんの」
「なんだと思う?」
 舞人は盛大に顔を顰めたあと、準夜に背を向けて頭から布団を被った。くぐもったため息が布団の中から聞こえる。
「くっだんねーの」
「いいじゃん、くだらないことのほうが面白いでしょ」
 強い風が吹き荒れ、今にも外れそうな窓をがたがたと揺らした。隙間から入り込んだ冷たい風に震えあがり、手に持っていただけの上着を羽織る。それだけでは暖を取るには足りないので、脱ぎ捨てられていた舞人の上着も拾い上げて肩に掛けた。
「ねえ舞人くん、これからどうするの?」
 問いかけても舞人からの返事はない。いつも何も考えず衝動的に行動しているこの男に、計画らしい計画などあるはずもないことだった。
「僕達、捕まったら死刑になるのかな」
 窓の外をぼうっと眺めながら準夜が口を開く。枯れ木に一羽の小鳥が降り立ち、羽を休めるのが見えた。舞人はこのまま二度寝するつもりなのだろうか、答えるどころか相槌を打つことすらなかった。
「舞人くんは、捕まりたくない?」
 暫くして小鳥が再び空に舞い戻っていくのを見送ってから、布団に籠城したままの舞人を見下ろす。今度は無視されず、当たり前じゃん、と不機嫌そうな声が聞こえた。
「舞人くん、刑務所生活なんて絶対むりだもんね」
 布団の上から舞人の頭がある辺りをそっと撫でる。払いのけられる代わりに、鬱陶しそうに頭を振られて逃げられた。
「いい子になんてしていられないし、我慢なんて出来ないでしょ」
 どれもこれも本当のことだからか、舞人は反論しなかった。厳しく模範的な生活を強いられて、舞人が大人しくそれに従う姿は想像できないし、順応できるとも到底思えない。たとえ上辺だけのその場しのぎだとしても、舞人は反省したふりも出来なければ、もちろん改心したふりも出来ないだろう。よくも悪くも自分に正直で素直すぎるがゆえに、社会の規範から大きく外れてしまった人間だ。
「でもね舞人くん、多分僕たち、もう駄目だと思うんだ」
 布団から手を離し、肩に掛けた舞人の上着を掴む。そんな準夜の唐突な言葉につられてか、頑なに引きこもっていた舞人が布団から顔を出した。怠そうに上体だけ起こして、不審げな瞳を準夜に向ける。
「何が?」
「逃げられないってことだよ。走っても、車を盗んでも、誰か脅しても、立て籠っても、すぐにどこかで終わっちゃうよ」
 何の計画性もないこの逃亡に、そもそも未来があるはずもなかった。持ち出してきた金もいつかは底をつくし、出来損ないの自分達がこれから先賢く逃げられるとも思わない。
「楽園はね、もう終わっちゃうんだ」
 羽織っていた舞人の上着を探り、内側のポケットに手を入れる。中で見つけた固い感触に指を絡ませ、準夜は目を伏せながら微笑んだ。
「これから舞人くんはしたくない我慢もしないといけなくて、すごくつらい思いをするんだよ。病気だってこれからどんどん悪くなっていく。痛くて苦しくて怖くて、死ぬよりつらい毎日が続くんだ。舞人くん、そんなの耐えられないでしょ」
 舞人の上着が滑り落ちていき、握りしめたそれがゆっくりと顔を出す。無機質な冷たい鉄の塊が、窓から差し込む朝日に照らされて鈍く光った。
「だから僕が殺してあげる」
 重い引き金に指をかけ力を入れると、激しい発砲音と同時に腕を弾かれるような衝撃が走った。強い反動で思わずバランスを崩し、その場で転びそうになる。なんとか尻餅をつくだけで済んだが、手から肩まで痺れるような痛みを感じた。
 腹部を狙って放たれた銃弾は、舞人の脇腹を掠めて背後の壁に埋まったようだ。それでも出血は激しく、腹を押さえながら舞人がゆっくりと立ち上がる。ふらつきながら廊下へ出る舞人を追いかけ、銃を強く握りながら歩く。
「ねえ、舞人くん。僕達もうどこにも行けないし、何にもなれないんだよ」
「て、め……」
「しょうがないよね。だって僕達、誰にも愛されないし、誰にも望まれないんだから」
 廊下を数歩進んだところで、舞人が何かに躓いて崩れ落ちた。彼の足元に目をやれば、一枚の絵画が落ちているのが見える。豊かな自然を背景にして、墓石と四人の人物が描かれていた。ニコラ・プッサンの『アルカディアの牧人たち』――牧歌的な理想郷、アルカディアを題材にした絵画である。
「我アルカディアにもあり」
「は?」
「たとえ楽園でも、どこにだって死は訪れる。死を忘れるなっていう、その絵のメッセージだよ」
 舞人の視線が自分の足元に向かい、もう一度準夜に戻される。痛みを耐えるように顔を顰め、肩で息をしながら壁に手をついた。足では絵を踏みつけたまま、鮮血の流れる腹を押さえ、壁に縋りながら立ち上がる。
「舞人くんは、生きてて楽しかった?」
 舞人は問いには答えず、準夜と視線を合わせたまま廊下を後退していく。彼が歩くたびに血が滴り落ち、廊下に赤い点を作っていった。
「僕は楽しかったよ。舞人くんと出会ったおかげで、色々と面白いものも見れたし」
 舞人との日常は、彼と出会わなければ味わえないようなものがとても多かった。それは準夜にとって刺激であって、潤いでもあったのは確かだ。ただでさえ息をしづらい人生なのだ。ただ漠然と生きるだけでは窒息してしまうから、普通ではないことをしたい。人の道を外れて、転がり落ちて、特異な世界に浸りたい。そういった欲望は舞人が満たしてくれた。つまらない人生ではなかったから、それは何よりの救いだった。死んでしまいたいという絶望を、いつ死んでもいいという楽観に変えてくれたのは、きっと彼の存在だ。
「君も僕も十分楽しんだから、もういいよね」
 重い引き金に指をかける。また耳を劈くような音と鈍い衝撃が腕に走った。鉛玉は舞人の右の太腿に着弾したらしい。舞人の身体が崩れ落ちそうになるが、なんとか体勢を立て直して、脚を引きずりながら玄関を出ていった。
「舞人くーん、どこいくの」
「うっせ、……っだぁ!?」
 玄関の段差で舞人が足を踏み外し、盛大に転げ落ちる。腹と脚を負傷しているおかげですぐには動けないのか、舞人はその場に蹲ったまま身悶えていた。
「いってえぇ……」
「大丈夫?」
「じゃねーよクソ……ッ!」
「あはは、そうだよねえ」
 舞人の悪態に、準夜が軽やかに笑う。いつの間にか外は曇っていて、あれだけ眩しかった朝日は分厚い雲の向うに隠れてしまっていた。
 準夜は動けずにいる舞人の前にしゃがみ込むと、銃を置き、ポケットに手を差し込んだ。取り出したのは、先ほど舞人にも見せた黒い小さな瓶だ。それを舞人の顔の前に突き付け、準夜が目を細めて笑う。
「これはね、僕からの誕生日プレゼント。舞人くんの為に、心を込めて選んだんだよ」
 舞人の瞳が軽く見開かれるが、逃げられるようなことはなかった。舞人はまるで凍り付いたように固まって、準夜を凝視している。
「大丈夫、怖くないよ。苦しいのは一瞬で、すぐ楽になるから」
 舞人の前で瓶の蓋を開ける。どことなく甘い香りが漂って、頭がくらりとした。
「最後の景色を一緒に見ようよ。きっと綺麗だよ」
 その言葉の直後、準夜は瓶に口を付け、一気に中身を煽った。すぐに舞人の顔を両手で包み、唇を塞ぐ。半分以上は飲み込まず相手の口内に流し込んだ。残りは自分で飲み干して、広がる苦味と、焼け付くような痛みに顔を顰める。
「っ、げ、おぇ、え゛ぇっ……!」
「は、ぁ゛、はっ、あははっ……」
 舞人が喉元を押さえ身悶えるのを眺めながら、準夜はその傍に横たわり、笑った。舞人の口から鮮血が溢れ、聞くに堪えないような呻き声がする。自分の喉からもまた、同じように血と呻き声が洩れるのを感じながら、準夜は遠い空を見上げた。
「……あ」
 ひらりと、顔に何かが落ちてきた。白くて、冷たく、小さなものだ。それは次から次へと天から落ちてきて、廃屋の前に横たわる二人に降り注ぐ。周囲に彼ら以外の人影も物音もなく、ただ静まり返った田舎の片隅に雪が降りしきり、死に向かう二人を白く染め上げようとしていた。
「……わあ……ゆき、ふってきた……」
 苦しみ悶えていた舞人の動きが止まる。喉に手をやったまま、舞人の身体は固まり、静止した。その顔に手を伸ばし、見開かれていた瞼を優しく下ろす。血で汚れた口元も軽く拭ってから、まだ少し血色の残る頬を撫でた。
「きれい、だねぇ……」
 ひとひらの雪が舞人の目元に落ちる。それが音もなく溶けていくのを見届けて、準夜も静かに瞳を閉じた。
「おやすみ、まいと、くん」
 その一言を最後に、準夜の息は止まった。もう自分達に降り注ぐ雪も彼には見えない。はらはらと舞い散る白い花が、二人の身体をゆっくりと埋葬していった。太陽は雲の裏に隠れたまま、隙間から零れ落ちた日差しが白い世界を優しく照らしている。
 誰も見届けない場所で、二つの命がゆっくりと終わりを迎えた。舞人の頬に置かれた準夜の手が滑り落ちる。猛毒で悶え死んだはずの二人だが、その顔はまるで眠っているかの如く安らかなものだった。そこには苦しみも何もないようだ。ただ安らかに、子供のようなあどけない顔で、冷たい雪のなか眠っていた。
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