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6.「帰って親父に股開けば?」
しおりを挟む女が部屋に入って最初に見たのは、壁一面に貼り出された己の写真だった。それは自分自身で撮影しSNSに投稿した写真から、全く覚えのないあからさまな盗撮まで様々だ。女は今しがた脱いだばかりのヒールを片手にしたまま、その光景を呆然と眺めていた。
狭いワンルームの部屋には小さな卓袱台と万年床がある程度で、脱ぎ散らかされた洗濯物やインスタント食品のゴミが床を埋め尽くしている。そんな薄汚い部屋を戸惑いがちに見渡す女の手から、白い靴が滑り落ちていった。
「ゆ、ユキエちゃん」
「なん、ですか?」
ユキエと呼ばれた女が怯えた様子で首をかしげ、おずおずと男を見上げる。すぐさま強い力で布団に押し倒され、鼻息を荒くした男が覆いかぶさった。
「え、ちょっと、なにするんですか……!」
「き、君だって、わわ、わかって、来たんだろう!?」
戸惑い逃げようとする女の身体を、男が強引に押さえつける。柔らかいブラウスをたくし上げると、控えめどころかもはや平らな胸と、清楚な白いフリルのブラジャーが露出した。男の太い指が下着ごと胸を鷲掴むと、「きゃあ!」とか細い悲鳴が上がる。
「や、やめてください、やだっ……!」
ようやく危険を察知した女が必死で抵抗するものの、力の差は歴然としている。やだ、やめて、誰かたすけて、女がそう悲鳴をあげるものの、服は無残に裂かれ、あっという間に肌が晒されていった。スカートの中にまで男の手が入り込み、下着を剥ぎ取る。……そこで、男の手がぴたりと静止した。
「らめぇ~……!! って、あ~あ、バレちゃった!」
途端にけらけらと大きな笑い声が上がる。それは今まさに凌辱されようとしていた女からだ。女は心底おかしそうに顔を歪め、腹を抱えて笑い転げている。凍り付く男の視線の先には、フリルのスカートと女物の下着から覗く、控えめな男の象徴があった。
「あはは、びっくりしたぁ? ごめんね~ユキエちゃんなんてどこにもいないんだ~! ほんとにぜんっぜん気づかなかったの?」
女は笑いながら身体を起こし、長い黒髪を掴む。ずるりと外されたそれはただのウィッグで、ネットや留め具を外すと肩まで伸びた淡い茶髪が表れる。ユキエ……もとい、それに扮していた準夜は邪魔になったウィッグを投げ捨てると、乱れていた髪を手櫛で整えた。
ユキエというのはいくつか手持ちがある準夜の変装のひとつであり、つい最近SNSをはじめた女子大生という設定の架空の女だ。目の前で下着を握りしめて硬直しているのはそのSNSで知り合った男で、今日は『オフ会』と称して会う約束をしていた。夕方に合流して男が予約していた安居酒屋で食事し、「ちょっと酔っちゃった」と言う準夜に対して男が「この近くに家があるから休んでいかないか」と提案し自宅に連れ込んだ、といういきさつである。もちろん準夜はアルコールを一切口にしていない。注文したあとに手洗いと言って席を立ち、店員に伝えてノンアルコールと差し替えていた。
「ねえねえ、どんな気持ち? 怒ってる? それとも悲し……」
笑いながら発せられた準夜の言葉が途切れる。男の拳が頬に叩きつけられたからだ。そのまま準夜の身体は布団に倒れ込み、再び男が覆い被さった。
「いったぁい……って、やるのぉ?」
男でもいいんだと笑う準夜に対し、虚ろな目が向けられる。男は握りしめた拳で再び準夜の顔を殴りつけると、今度こそ邪魔な衣服を全て剥ぎ取っていった。びりびりに裂かれボタンも外れてしまって、この服はもう二度と着ることはできないだろう。そんな可哀相な服のことなど気にせず、準夜は笑みを浮かべたまま、自分を犯そうとしている男を見上げた。男の目は怒りと興奮で血走っており、獣のような荒い息をしながら自身の股間をまさぐっている。やがて安っぽいズボンから醜く勃起した性器がこぼれ出て、先走りで濡れたそれを準夜の尻に擦り付けた。
「あは、めちゃくちゃ興奮してんじゃん」
馬鹿にしたように笑いながら、準夜が股を開いて男を受け入れる。安居酒屋のトイレで簡単に準備をしていた尻の中はとっくに濡れて柔らかくなっていた。先走りをこぼす男性器が擦り付けられ、ひくつく穴に押し付けられる。今にも破裂しそうなほど膨張したそれが、乱暴な勢いで準夜の中に叩きこまれた。
「っあ、あぁああっ、んンっ……!」
仰け反りながら嬌声をあげる準夜に、鼻息を荒くした男の顔が近づいた。もう男と判明しているにも関わらず、女だと思い込んでいる時と変わらないほど欲情しているその顔に、準夜はどうしても笑いが込み上げてしまう。あは、と吐息混じりに笑う準夜の唇を、男が貪るように奪った。生臭い舌が口内に押し入り、中をめちゃくちゃに蹂躙する。
「んぅっ、ん、ンッ、ふぅ、ぁ……!」
男を受け入れた尻の中が馴染むのも待たず、乱暴に腰を揺さぶられた。その慣れ切った圧迫感に恍惚としながら、準夜は男の背中に両足を絡ませた。それにより一層深くまで繋がったが、男の短い性器では準夜の好きな結腸までは届かない。
「ぁ、あう、あっ、あ、きもひぃ、あぅ、あ~っ♡」
「くそ、くそっ、くそぉッ! 騙しやがって! 騙しやがってぇッ!!」
叫びながら男が激しく腰を振る。それでも準夜にとってはいまいち刺激が足りなかった。ただ、自分に騙されて逆上した男に犯される状況自体はたまらなく興奮する。
「あっ、あ、あぁっ、だめぇ、中はだしちゃらめえっ!」
男の胸に手を置いて、まるで逃れようともがくように身を捩る。中はやだ、出しちゃだめ、と口にすれば、男はいっそう興奮していった。もっと強く怯えるような素振りを見せれば、中を擦り上げるそれがどんどん固くなっていくのが分かる。男の力に屈して暴力に怯えて快楽に流される、そんなふうに振舞う準夜を見て、男はすっかり理性を手放した様子だった。
「やだやだぁっらめぇっ……! ごめんなひゃ、ぁあっ、ごえんらしゃ、ぁ、あっ、あっ、ひっ、ゆるひれぇ……!」
「うるせえ! 奥に出してやるからな、孕めよ、おい、女のふりしてんなら、孕むくらいできるだろ!」
痛いほど腰を掴まれながら揺さぶられ、ぽろぽろと涙をこぼして顔を背ける。まるで自身の嬌声を恥じらい堪えるように口元を押さえる手は、そこに浮かぶ笑みを隠すためのものだ。
「あ、あうっ、ぁっ、あっ! おくぅっ、おくはらめぇっ! や、やぁっ、や、あ、あ、あっ……っ!!」
仰け反って震える準夜の身体を男が強引に抱き寄せる。中の締め付けに耐えかねた男が呆気なく射精し、まだ喘ぎながら腰を震わせている準夜に無理矢理口づける。そんな男の目を盗み、準夜は傍に転がっていた自分の鞄にそっと手を伸ばした。
「ぁは……ぁ、んうぅ、んっ……ぁう……」
「はあっ、はあっ……」
荒い息をしながら男が再び腰を振り始める。鞄から離れた準夜の手が男の首に回った。その手に握られた黒い何かが、男の首筋に突き立てられる。
「あぎぃッ……!!」
途端に男の身体が跳ね上がり、痙攣を繰り返した。そのまま崩れ落ちていく男に準夜が跨り、跳ね上がる身体を押さえつけてスタンガンを押し付け続けた。正規のものよりも圧倒的に強い電圧に襲われた男は、ガクガクと震えながら白目を剥いて泡を吹き、激しく仰け反った。
「はぁ、あー……ありゃ、寝ちゃった?」
男が反応しなくなったのを確認して、準夜は男から手を離す。気絶させるだけのつもりだったが、どうやら加減を間違えてしまったようだ。準夜はスタンガンを鞄に仕舞うと、代わりにスマートフォンを取り出して舞人に通話をかけた。
『……なに?』
何回かのコール音のあと、眠たげな舞人の声が聞こえる。準夜は息絶えた男の前にしゃがみ込みながら明るい声を上げた。
「ねえ聞いてよ~ぼくレイプされちゃった」
『よかったじゃん』
「ひどぉい」
用がないなら切るという舞人を準夜が呼び止める。寝起きなのか舞人の声は若干掠れていて不機嫌そうだった。
「ね~殺しちゃったからお片付け手伝ってぇ」
電話の向う側から、ごそりと布団にもぐりこむ音がする。あ、そのまま二度寝するつもりだ。そう準夜が察した矢先、通話は一方的に切られてしまった。
舞人がやってきたのは電話をかけてから数時間後で、まだ少し寝ぼけ眼の不機嫌そうな顔をしたまま、縄とビニールシートを持ってきた。そのあいだ暇を持て余していた準夜は、台所にあった卵とパンでフレンチトーストを作っていた。別に食べたいわけではなく、やることがなかっただけだ。
「とりあえず山に捨てるか」
そう言いながら舞人が男の死体をビニールシートに包む。それなりに体格のいい男の死体ともなれば、運び出すのには力が必要だ。舞人に手伝えと言われて準夜も少し手を貸したが、これを一人で運びたくはないし、出来るとも思えない。部屋がアパートの一階にあったのは幸いだった。
作ったフレンチトーストは皿に盛りつけ、グラスに注いだ牛乳と一緒にテーブルに置いてきた。部屋を出てもまだ、鼻の奥に甘い匂いが残っている気がした。
舞人の車に死体を乗せ、異臭が充満しないよう窓を開ける。深夜の静まり返った街を舞人の荒い運転で走り抜け、郊外まで出て人気のない道を進んでいった。舞人の車に乗るのは相当久しぶりだ。正直今すぐにでも元輝と運転を代わってほしい。いくら人の目がないとはいえ、平気で信号を無視し、急な車線変更や法定速度の超過を繰り返し、マナーも法律もない舞人の運転にはかなりハラハラする。捕まらなかったのが奇跡としか思えない。普段の元輝がどれだけまともな運転をしているのかがよく分かった。
山の麓までやってくると唐突に天気が崩れ、フロントガラスを細かい雨粒が叩きはじめた。車を降りた舞人に続いて準夜も外に出ると、舞人を手伝って後部座席の死体を引きずり下ろす。
「どの辺にするの?」
「めんどいしその辺とかでいいんじゃね? あ、これイイ感じに結んでよ」
舞人が死体を担ぎ、準夜が懐中電灯を照らして道を進む。ある程度まで来たところで、舞人に指示されてロープを木に括りつけた。作った輪にブルーシートから出した男の首をくぐらせ、大きさを調節して縛り上げる。舞人が男を吊り上げた縄を固定したあと、その足元に踏み台代わりに持ってきた台を転がして配置した。丸い月を背後にした男の首吊り死体が完成し、準夜は小さく拍手する。
「わあ、雑~! いかにも偽装って感じ」
そんな準夜の発言など聞いてもいない様子で、舞人が来た道を引き返していく。準夜も後に続きながら、彼の背中越しに見える黒い空を見上げた。分厚い雲が月を完全に覆い隠してしまっている。準夜はなんとなく懐中電灯を握る力を強くして、もう片手で舞人の腕を掴もうとした。しかし指先が触れる寸前で舞人に振り払われてしまい、仕方なく両手で懐中電灯を握りしめる。それからはただ無言の時間が流れ、二人で車まで戻った。準夜が助手席に座ると、舞人は「寒い」とだけ言って暖房をかけ、窓を締め切ったまま煙草を咥えた。
「まだ風邪こじらせてんの?」
茶化すように笑いながら、舞人の煙草に火を点ける。舞人はやや不機嫌そうな表情を見せたものの、煙を吐くとすぐに荒々しいエンジン音を鳴らして車を出した。
「うっせ」
「苛々してる? すごいエロい顔してるよ」
舞人は片手をハンドルに置いたまま、煙草を摘まんだ右手を準夜の太腿に押し付ける。じゅ、と小さな音がして、準夜の小さな悲鳴が車内に響いた。
「黙ってろグズ」
「う゛ぅ~……ひっどぉい……」
涙で滲む視界の先で、自分の太腿で揉み消された煙草が投げ捨てられる。準夜は仕方なく舞人のポケットから煙草を取り出すと、新しい一本を渡して火を点けた。痛みに震える手でようやく仕事を終えて、シートに背中を沈める。
近くにはこの土地の持ち主だという、滋賀組の『知り合い』の家があった。目の前を通りがかると灯りがついて、カーテンの隙間から誰かが顔を覗かせる。眼鏡の奥から睨むような視線を感じた気がした。
「なんかまだじんじんしてる」
疼く太腿を擦っていた準夜の手が、そのままそっと自身の薄い腹を撫でる。そこに小さく爪を立てて呟く準夜に、舞人が視線を向けることはなかった。
「ねえ舞人くん、慰めエッチしてよ」
「汚いからヤダ」
そんなぁ、と間延びした準夜の声が上がる。雨脚は次第に強くなっていって、ワイパーでは払いきれないほどの雨が滝のように流れ、フロントガラスを濡らしていた。
「帰って親父に股開けば?」
暗闇の続く窓の向こうを眺めながら、準夜は乾いた笑いを洩らす。舞人がそれに何か反応することもなければ、ほかに言葉を続けることもなかった。ただ強さを増していく雨音だけが、虚ろな車内に響き渡っていた。
*
自覚しながら見る夢のことを明晰夢という。その場合ある程度自由に動けることが多いというが、今日の「これ」は、ただの記憶の追体験だ。
自宅の前にまだ幼い準夜が立っている。自宅の上に光る月を見上げ、緊張の面持ちでため息をついた。出てくる時は気づかれずに済んだがここからが本番だ。このままこっそり部屋に戻って、何事もなかったように朝を迎えなければならない。
扉に手をかけたところで、スマートフォンが小さく唸った。確認するとつい先程別れた舞人からだ。塀から見下ろす白猫の写真が送られてきていた。首輪をしているのでどこかの飼い猫だろう。かわいいね、とだけ返して、そっと扉を開ける。息を殺して中に足を踏み入れ……ようとしたところで、準夜は思わず息を呑んだ。
リビングへと続く廊下に、光が漏れている。
「帰ったのかい、準夜」
きい、とリビングの扉が開き、中から父親が顔を出した。優しげな微笑みを向けられると、準夜は足が竦んで動けなくなった。大きな手が伸びてきて、準夜の腕を強く掴む。引きずられるようにして二階まで連行されていく間、準夜が出来たのは震える声で一言「ごめんなさい」と絞り出すことだけだった。
寝室の扉を開けるなり、床に突き飛ばされて頭を打ち付けた。笑みを消した男が準夜の前に屈み、髪を掴み上げる。
「今月で何回目かな」
「ご、めんなさ……」
「お父さんがどれだけ心配したと思っているんだ?」
そう口にしながら、男の手は準夜の服を乱暴に剥ぎ取っていく。鼻息は荒く、顔は少しだけ赤らんで、アルコールの匂いが漂っていた。今夜は珍しく晩酌をしていたから、なおさら起きていることはないだろうと思っていたが、とんだ誤算だ。
「今日もお友達と遊んできたのかな」
「……はい」
「君はまだ中学生だろう? 夜遊びばかりして、まるで不良じゃないか」
萎えたままの性器を唐突に掴まれ、準夜の身体がちいさく飛び上がる。皮を上下に動かしながら亀頭を軽くくすぐられると、腰の奥にじんわりとした熱が灯って息が苦しくなった。
「ぁ、う、ごめ、なさ……ぁ、ん、あっ……!?」
小さくくすぶるような快楽に気が緩みかけた途端、準備もしていない尻に固いものが擦り付けられた。怯えたように息を呑む準夜を男は容赦なく押さえ込むと、抵抗する肉を引き裂くようにして少しずつ中へと侵入してくる。
「ひぃっ、ぁ、あ゛っ、ぃ、た、いたぁ……っ!」
「ん……? 痛いのかい? おかしいね」
ずん、と奥まで叩き付けられ、視界が真っ白に染まった。仰け反りながら息すら出来ない衝撃に耐えている準夜を、男は構わず組み敷いて激しく腰を揺さぶる。
「ひっ、ひぃ、ぁ、い、た、ぁあっ、あっ!」
「痛いのは君が悪い子だからだよ。ちゃんとお父さんの言う通りにすれば、気持ちよくなるからね」
男の猫なで声に耳が犯されて、準夜の全身に鳥肌が立つ。腹に付きそうなほど膝を折り曲げられ、中を探る男の角度も変わった。腹側にある弱いところをごりごりと強く押し潰されると、痛みの代わりに痺れるような快楽が生まれる。身体の急な変化に頭は混乱し、勝手に涙が溢れて止まらなくなった。
「ぁ、あ、あ、や、ら、あぅ、ぁ、あ……!」
「ほら、気持ちいいね、準夜」
ねばついた吐息と一緒に、耳の中に舌をねじ込まれる。反射的に引き攣った悲鳴が上がって、準夜は思わず逃げるように身を捩った。
「ゃ、あ、ひぃっ、ぁ、あぅ、あぁぁ……っ」
小さく震えている性器にも手が伸びてきて根本を握りこまれる。少しずつ高まりはじめていた射精感を堰き止められ、身体の内側に熱が溜まった。吐き出したいのに吐き出せないもどかしさは、本当につらくて慣れるものではない。
「ひぃぃっ! ぁ、あ、やぁ、らめなの、これぇっ、や、ぁあっ、ごえんらさ、ごめ、らさ、……っ!」
根本を戒められたまま揺さぶられ、視界が大きくぶれる。前立腺を擦りながら直腸を抉られると今すぐにでも達してしまいそうになるのに、根本で射精を止められて熱は逆流していくだけだった。
「はひっ、ひ、ぁ、あぁっ、あ゛……!」
「はあ……準夜、かわいいよ……愛してる……」
頭に手を伸ばされ、準夜は反射的に強く目を閉じた。溜まっていた涙が押し出され、冷たい水滴が頬を伝っていく。そんな準夜の頭を男の大きな掌がくしゃりと撫でたあと、唐突に、髪を強く掴んで床へ叩きつけた。
「あ゛ぅっ……! ぁ゛、あッ……」
「どうして泣いているんだい? お父さんのことが嫌なのかい?」
冷たく責め立てる声に、準夜はうっすらと目を開けて男を見上げる。そして光の宿らない瞳に空虚な笑みを浮かべると、へらりと口元を歪めた。
「いやじゃない、れす……うれし……あ゛ぅっ、ぁ、あ゛、あぁああっ……!」
激しい律動が再開され、準夜の小さな身体が大きく震える。仰け反りながら達する準夜を男は力づくで押さえつけ、その奥へと自身の欲望を注ぎ込んだ。射精が終わってからも数度腰が揺すられ、中で精液が掻き回されて粘着質な音を立てた。
「はーっ……はぁ……ぁ゛、う……、……んぅ」
唇を塞がれ、生臭い舌が押し入ってくる。口内を執拗に舐めまわされ、ねばついた唾液を流し込まれた。しつこい口づけで頭がぼんやりしてきた頃でようやく解放され、男の性器も抜き取られていく。まだ腹の奥には異物感が残ったままで、穴はひくひくと収縮して物足りなさそうにしていた。
「全く、君はすぐお父さんに心配をかけるね」
「ごめ……なさい……」
「本当はあまり怒りたくないし、乱暴もしたくないんだ」
汗ばんだ手で髪を梳かれ、準夜は虚ろな顔で頷いた。達したばかりのせいか、それとも疲労のせいか、今にも目蓋が落ちそうに重い。それでも準夜はなんとか意識を保ち、立ち上がろうと腰に力を入れる。
「ぁ、う」
どろり、と、注がれたものが溢れ出してくる。不快感に顔を顰めそうになりながら、地面に手をついて体を起こした。自分を見下ろす父親の視線から逃げるように顔を背け、散乱していた自分の服をかき集める。
「準夜」
「……?」
ふいに声を掛けられて顔をあげ、準夜は凍り付いた。
自分を見下ろす男の顔にあからさまな不機嫌が滲んでいる。本当はここで解放されるはずだったのに、この顔は、だめだ。逃げられない。一体なにを間違えたのか、どこで失態を犯したのか分からず混乱する準夜に、再び男の手が伸びた。
「家出するつもりだったんだね?」
「え……?」
なんの心当たりもない内容に、準夜は混乱を強める。否定する暇すらなく押し倒され、男の太い指が首にかけられた。
「お父さんから離れていくつもりなんだろう……そうやって誤魔化して笑っていればお父さん一人くらい騙せると、ばかにしているんだね。私はこんなにも準夜を愛しているのに、君は本当にひどい子だ」
強く睨まれているが視線ははっきりとは合わなかった。男の目は焦点が合っていない。次第に強く首を締め上げられていく中、準夜は諦めたように目を閉じた。頭に酸素が届かず意識はどんどん遠のいていく。しかし完全に気を失う手前で解放され、急に入り込んだ酸素に激しく噎せ込んだ。
「ああ、すまない、苦しかったね準夜……酷いことをしてすまない。お父さんは君がどんなに駄目な子でも愛しているから心配はいらないよ」
男はそう言って立ち上がると、引き出しから何かを取り出し準夜の前にしゃがみこんだ。男の手に握られていたのは一本のカッターナイフだ。腕を掴まれ、その刃先が手首に突き立てられる。浅く皮膚を裂きながら赤い線が引かれていくのを、準夜は当然のように受け入れて見下ろしていた。
「いいかい準夜、この傷は君への罰だから、君が自分でつけたのと同じなんだよ。君は自分の身体も大切に出来ないような悪い子だ。またお父さんの言うことを聞かなかったら、ベッドに縛るからね」
ぞっと鳥肌が立つような猫なで声が鼓膜に流れ込む。傷の痛みよりも、最後の一言のほうに準夜の意識は強く向いた。ベッドに拘束されたことはこれまでに三回ほどあったが、どれも地獄だったことをよく覚えている。学校が長期休暇の時に、しつけとしてベッドに数日間縛り付けられた。排泄はおむつの中で、食事も風呂も全ての自由がなくて、その状態で四六時中性的なことをされる。準夜のトラウマのひとつだ。
「わか、り、ました、ごめんなさい……」
準夜は無表情のまま俯き、傷口にガーゼが当てられるのをぼんやりと見下ろした。傷口は浅く、血もすぐに止まるだろうが、じくじくとした痛みはしばらく残りそうだ。
「それじゃあ、もう寝ようか。夜更かししたからといって寝坊してはいけないよ」
「はい……」
「おやすみ、準夜。愛しているよ」
はっと意識が浮上し、見慣れた天井が視界に映った。ひどい夢を見ていた。全身は汗でぐっしょり濡れているのに、寒くて震えが止まらない。
あのあと機嫌の悪い舞人に酒を飲まされ、暴行まがいのセックスになだれこみ、迎えに来た元輝によって自宅に送り届けられた。靴も脱がないまま玄関マットの上に転がっているのは、ここで力尽き気絶していたせいだろう。おかげで体中が痛くてたまらない。
ふらつきながら二階まで這い上がり、なんとか自室までたどり着く。アルコールの酩酊感と暴力による疲弊で身も心もぼろぼろだ。着の身着のままベッドに倒れ込み目を閉じる。シャワーを浴びる気力は残っていなかった。
「しにたい……」
無意識に洩れた一言を最後に、準夜はそっと意識を手放した。
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