【完結】うちのブス知りませんか?~金目当ての貴族との縁談をブチ壊そうと、全力醜女メイクしてたら引っ込みがつかなくなった件~

羊蹄

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41.雪の砦の牢獄は

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 ぎりぎりと捩じり上げられる腕が痛い。痺れて力が入らない。
 混乱と焦燥でまとまらない思考の中、クロエははっと気づいた。

「カバンに! ユーゴ=ゴドルフィンの手紙が入っています! それを見ていただければ本物だと、」
「偽造かもしれません」

 年若の衛兵が、もう片方に告げる。二人は目を見合わせ、頷きあった。
 クロエの言葉に返事もしてくれない。何が出てきたところで、信じてはくれないのだろう。

 長い冷たい廊下を渡り、格子のついたドアを開けると、衛兵はそこへクロエを投げ込んだ。

「痛っ」
「ここでお待ちください」
「ちょっと!」

 明らかに待つための部屋ではない。完全に独房といった風情の部屋は、石造りのためか風雪は入ってこない。が、氷よりも冷え切っている。

 クロエのリュックは、独房の金庫に入れられ、カギを掛けられた。そして薄汚れた灰色の毛皮を投げられ、無機質な音を立てて格子戸は閉まった。
 衛兵二人はその場でこちらに向かって頭を下げ、クロエを一瞥して去っていった。蔑むような色を浮かべた瞳で。

「……えぇー……」

 何もかもが急すぎてどうしていいのかもわからない。手紙が証拠になるかと思ったのに、カバンごと金庫に入れられてしまったら取り出すこともできない。
 じわりと涙がにじむ。理不尽だ、と思う。
 あの貴族の男性からしてみたら、確かに今のクロエはクロエではないんだろう。でもだからと言って、話も聞かずに独房に投げ込むなんて。

 灰色の毛皮を引っ張って、体に巻き付けた。湿ったような獣臭に気分が悪くなる。

「ラインハート様……」

 濡れたままの服にだんだん体温を奪われていく。被った毛皮が温まるよりも先に、身体が冷え切ってしまいそうだ。
 ここにいつまでいたらいいんだろう。
 出して、と大声で叫んだところでどうしようもないのだろうということは容易に想像がついた。だとしたら、今できることは体力を回復させること。

 というか、それしかできない。
 何だか疲れたな、と瞼を閉じた。

 ◇ ◇ ◇

 砦の中央広間は、先ほどの捕り物でまだざわついていた。
 輪の中心になっているのは、貴族の男。ジェンセン子爵の甥、ボリスである。

「ゴドルフィンを騙るなんてとんでもない女だ、まだ幼い顔をして恐ろしい」
「ゴドルフィンの孫と確かに同世代じゃないのか? 外に出ない娘だから、顔は知られてないが」
「私は知っている。見合いをしたのだから」

 得意げな顔をして、ボリスは声高らかに言った。
 ボリスは、ジェンセン子爵の甥ではあるが継承権はなく、当然継ぐ領地はない。自力で爵位をもらえる算段もない。せめて寄贈の端くれであるという立場を利用して、力と金のある縁を結ぶために、とゴドルフィンへ向かったのだ。
 だが、そこにいたクロエという娘はとんでもない不美人であった。
 ゴドルフィンの娘、ポーリーンが凄味のある美女だということもあり、少なからず容姿にも期待していたがまるで外れだった。色は黒い、そばかすはある、髪はもじゃもじゃ。
 思い出すことすら悍ましい。

「どんな娘なんだ、ゴドルフィンの孫は」
「そうだな、知りたかったら見合いを申し込んでみるんだな!」

 そして自分と同じように衝撃を受ければいい、とボリスは笑った。

「それにしても、この雪の中、騙りまでして……なかなか肝の座った娘じゃないか」
「だって、ノヴァック領でアレが採れるかもしれないって話は、まだほんとかどうかもわかってないんだろ? ほんとにゴドルフィンが乗り込んできたってんなら、真実味があるんだけどなぁ……」
 
 そこにいた面々は互いに顔を見合わせて、腕を組んでうなった。
 どちらにしても、勝手に採掘をするのは違法である。その場で処刑されても文句が言えない重罪だ。
 だから、男たちはここで雪が止み、三峰の状況を把握したノヴァック領主からの告示を待つしかないのだ。

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