【完結】うちのブス知りませんか?~金目当ての貴族との縁談をブチ壊そうと、全力醜女メイクしてたら引っ込みがつかなくなった件~

羊蹄

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30.モスグリーンに想いを馳せます

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 手芸屋さんなら、いろいろな色や素材のリボンが多数ある。選ぶんなら手芸屋さんかしら。
 雑貨屋さんなら、すでに素敵に装飾が施されたリボンがあるだろう。悩ましいところ。
 そうだ、両方行けばいいわ。とクロエは一人頷いた。まだ時間は早い。急がなければいけない理由もないし。

 まずは雑貨屋さんへ、と視線を送った先に、モスグリーンのジャケットが見えた。

「――っ!!」

 思わず、駆け出していた。
 あれが誰だ、なんて認識する前に体が動いていた。
 自分でも驚くほどに自然に、彼の数歩後ろで足を止めた。

 雑貨屋のショーウィンドーの中を眺めている、ラインハート。
 どことなく浮かない表情が、ガラスに反射して見える。
 何を覗いているのかしら、と一歩近づく。ガラスの向こうには、煌めく若葉のような色のペンダントが飾られていた。

 綺麗。
 黄緑の光が反射して、彼の瞳がチカリと輝く。

「あの、」

 そう声を出してから気付いた。この姿でラインハートに会うのは2回目、まだ名前も知らない……ことになっている。
 寂しそうな横顔がこちらを振り向いて、驚いたように固まり、ふわりと笑顔がほころんだ。
 どきりと胸が鳴る。

 私は豪商ゴドルフィンの孫、クロエ。
 豪胆を絵に描いたような女。しっかりしなさい。

 一瞬で腹をくくり、クロエは町娘のようにちょこんとお辞儀をした。

「こんにちは。この前はぶつかってしまって、ごめんなさい」
「――こちらこそ」

 じっとこちらを見つめる瞳。
 先ほどまでの寂しさをまだ微かに滲ませたまま、優しく甘くクロエをとらえて離さない。

 クロエはこくりと喉を鳴らして、
「お、お詫びもしていなかったので……少し、お時間あります? お茶でも、」
 こんな風に男性に声をかけて誘うなど、初めてだ。
 変な汗が背中を伝うけれど、発した言葉は戻らない。
 キョトンとした顔のラインハートを笑顔で見つめたまま、心の中では後悔の嵐が吹き荒れている。

 彼は、そんなクロエの胸中を知ってか知らずか、心底楽しそうに笑って、こちらに手を差し出した。

「お誘いありがとうございます。……君に見せたいお茶があるんだ、一緒に来てくれる?」
「! はい!」

 伸ばされた手のひらに、少し迷いながらも自分の手を重ねた。
 彼はそれをためらいなく優しく握り、「こっちだよ」と引いてくれる。

「もう、会えないかと思った」

 そんな声が聞こえて顔を見上げると、ラインハートは少し泣きそうに眉を寄せて、不器用に笑う。
 つられて、クロエもぎこちなく笑んだ。
 
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