【完結】うちのブス知りませんか?~金目当ての貴族との縁談をブチ壊そうと、全力醜女メイクしてたら引っ込みがつかなくなった件~

羊蹄

文字の大きさ
上 下
30 / 51

30.モスグリーンに想いを馳せます

しおりを挟む
 手芸屋さんなら、いろいろな色や素材のリボンが多数ある。選ぶんなら手芸屋さんかしら。
 雑貨屋さんなら、すでに素敵に装飾が施されたリボンがあるだろう。悩ましいところ。
 そうだ、両方行けばいいわ。とクロエは一人頷いた。まだ時間は早い。急がなければいけない理由もないし。

 まずは雑貨屋さんへ、と視線を送った先に、モスグリーンのジャケットが見えた。

「――っ!!」

 思わず、駆け出していた。
 あれが誰だ、なんて認識する前に体が動いていた。
 自分でも驚くほどに自然に、彼の数歩後ろで足を止めた。

 雑貨屋のショーウィンドーの中を眺めている、ラインハート。
 どことなく浮かない表情が、ガラスに反射して見える。
 何を覗いているのかしら、と一歩近づく。ガラスの向こうには、煌めく若葉のような色のペンダントが飾られていた。

 綺麗。
 黄緑の光が反射して、彼の瞳がチカリと輝く。

「あの、」

 そう声を出してから気付いた。この姿でラインハートに会うのは2回目、まだ名前も知らない……ことになっている。
 寂しそうな横顔がこちらを振り向いて、驚いたように固まり、ふわりと笑顔がほころんだ。
 どきりと胸が鳴る。

 私は豪商ゴドルフィンの孫、クロエ。
 豪胆を絵に描いたような女。しっかりしなさい。

 一瞬で腹をくくり、クロエは町娘のようにちょこんとお辞儀をした。

「こんにちは。この前はぶつかってしまって、ごめんなさい」
「――こちらこそ」

 じっとこちらを見つめる瞳。
 先ほどまでの寂しさをまだ微かに滲ませたまま、優しく甘くクロエをとらえて離さない。

 クロエはこくりと喉を鳴らして、
「お、お詫びもしていなかったので……少し、お時間あります? お茶でも、」
 こんな風に男性に声をかけて誘うなど、初めてだ。
 変な汗が背中を伝うけれど、発した言葉は戻らない。
 キョトンとした顔のラインハートを笑顔で見つめたまま、心の中では後悔の嵐が吹き荒れている。

 彼は、そんなクロエの胸中を知ってか知らずか、心底楽しそうに笑って、こちらに手を差し出した。

「お誘いありがとうございます。……君に見せたいお茶があるんだ、一緒に来てくれる?」
「! はい!」

 伸ばされた手のひらに、少し迷いながらも自分の手を重ねた。
 彼はそれをためらいなく優しく握り、「こっちだよ」と引いてくれる。

「もう、会えないかと思った」

 そんな声が聞こえて顔を見上げると、ラインハートは少し泣きそうに眉を寄せて、不器用に笑う。
 つられて、クロエもぎこちなく笑んだ。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

私の完璧な婚約者

夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。 ※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

婚約破棄を、あなたのために

月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

処理中です...