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20.まずは相手を知ることです
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考えてみたら、クロエはラインハートのことをよく知らない。
兄ユーゴと同じくらいの年で辺境伯の息子、ということくらいしか。
今まで、結婚を申し込みに来るような男はすべてお断り前提だったため、特に身元を調べるようなことはなかったのだ。
そのことをユーゴに伝えると、兄は小さくため息をついて10枚ほどの紙の束を差し出してきた。
「これは?」
「ノヴァック伯の送ってきた釣書と、こちらで調べた身上書」
「いつの間に……」
「可愛い妹に近づいてくる男のことを、何も調べてないとでも思っていたの?」
さも当然のようにそう言われて、驚いた。全員お断りしてきた(というかお断りされるように仕向けてきた)のを知っているのだから、そんなことに時間を割くことはないと思っていた。
が、ユーゴは何でもないことのように、
「いつ何があるかわからないじゃないか。一応、お前に会わせる前に10分の1くらいの人数までふるってるんだけど」
すごいな、ゴドルフィンの財力。有象無象をそんなにも引き付けるなんて。ふるわれた人の中に、素晴らしい人がいたかもしれないのに。
とはいえ、兄のお眼鏡に適わなかった人が素晴らしい人なわけはない。自分の見る目より、よっぽど信用できるのだ。
兄から渡された紙の束に目を走らせていく。
趣味・特技・出身校・成績、身長体重好きな食べ物、……よくもこんなに調べ上げたな、と思う。
女性関係の調査欄はあったが、親しく付き合っている人はいなかったようだった。親戚の名前だけがそこに連なっており、さっと目を通していると、見たことのある名前が一つ。
「カーティス女史……」
「知り合いか?」
「いえ、直接は知らないけれど、……」
よく見る名前だ。アナスタシア先生の著作の装丁欄で。
いいなぁ、と深くため息をついた。先生と近しい人が知り合いにいるというだけで、憧れる。
「今度ラインハートが来た時に聞いてみたらどうだ?」
「え」
「気になる女性の名前があったんだろう?」
兄は何を勘違いしたのか、瞳に剣呑な色を浮かべてこちらを見ている。調査したのはユーゴの抱える調査部隊なんだから、ここの中にラインハートの「特別に親しい仲」の女性名があるわけはないのに。
初めて会った、素顔のクロエにあんなに優しい目を向けてくるような人だから、実はすごく女性に慣れた男なのかしら、と疑っていた。けれど、これを見る限りではそんなことはまるでない。兄の調査部隊の仕事ぶりは疑いようもないし、別に取り立てて惚れっぽいとかではないのかもしれない。
もやもやする気持ちをぐっと抑えて、クロエは立ち上がった。
「お呼びしましょう、ラインハート様を!」
兄ユーゴと同じくらいの年で辺境伯の息子、ということくらいしか。
今まで、結婚を申し込みに来るような男はすべてお断り前提だったため、特に身元を調べるようなことはなかったのだ。
そのことをユーゴに伝えると、兄は小さくため息をついて10枚ほどの紙の束を差し出してきた。
「これは?」
「ノヴァック伯の送ってきた釣書と、こちらで調べた身上書」
「いつの間に……」
「可愛い妹に近づいてくる男のことを、何も調べてないとでも思っていたの?」
さも当然のようにそう言われて、驚いた。全員お断りしてきた(というかお断りされるように仕向けてきた)のを知っているのだから、そんなことに時間を割くことはないと思っていた。
が、ユーゴは何でもないことのように、
「いつ何があるかわからないじゃないか。一応、お前に会わせる前に10分の1くらいの人数までふるってるんだけど」
すごいな、ゴドルフィンの財力。有象無象をそんなにも引き付けるなんて。ふるわれた人の中に、素晴らしい人がいたかもしれないのに。
とはいえ、兄のお眼鏡に適わなかった人が素晴らしい人なわけはない。自分の見る目より、よっぽど信用できるのだ。
兄から渡された紙の束に目を走らせていく。
趣味・特技・出身校・成績、身長体重好きな食べ物、……よくもこんなに調べ上げたな、と思う。
女性関係の調査欄はあったが、親しく付き合っている人はいなかったようだった。親戚の名前だけがそこに連なっており、さっと目を通していると、見たことのある名前が一つ。
「カーティス女史……」
「知り合いか?」
「いえ、直接は知らないけれど、……」
よく見る名前だ。アナスタシア先生の著作の装丁欄で。
いいなぁ、と深くため息をついた。先生と近しい人が知り合いにいるというだけで、憧れる。
「今度ラインハートが来た時に聞いてみたらどうだ?」
「え」
「気になる女性の名前があったんだろう?」
兄は何を勘違いしたのか、瞳に剣呑な色を浮かべてこちらを見ている。調査したのはユーゴの抱える調査部隊なんだから、ここの中にラインハートの「特別に親しい仲」の女性名があるわけはないのに。
初めて会った、素顔のクロエにあんなに優しい目を向けてくるような人だから、実はすごく女性に慣れた男なのかしら、と疑っていた。けれど、これを見る限りではそんなことはまるでない。兄の調査部隊の仕事ぶりは疑いようもないし、別に取り立てて惚れっぽいとかではないのかもしれない。
もやもやする気持ちをぐっと抑えて、クロエは立ち上がった。
「お呼びしましょう、ラインハート様を!」
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