【完結】うちのブス知りませんか?~金目当ての貴族との縁談をブチ壊そうと、全力醜女メイクしてたら引っ込みがつかなくなった件~

羊蹄

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15.考えたってわかりません。

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 クロエは、100人以上の男とお見合いをした猛者である。
 また、文字が読めるようになってから10年間毎日欠かさず読書をし、週に5冊で年間250冊、延べ2500冊余りのロマンス小説を読んできた恋愛の達人でもある。と、自分では思っている。
 だから、恋に落ちる状況も恋する人間の心の動きも、それを表す声もしぐさも表情も、余すことなく習得していると自負している。
 
 そのすべての経験と知識を総動員して考えても、とても不思議だ。ラインハートが自分を見る瞳に、どうしても人を騙そうとしているとか侮っているとか、そういう感情が見えないのだ。
 どう考えてもおかしい。
 好かれることはしていない、確実に。そもそも、貴族と商人。接点はほぼほぼ無く、会ったのだって数回。
 初対面の金持ちブスに抱く感情として正しいのは、「金蔓」「ブス」のどちらかであるに決まっている。2500冊がクロエに教えてくれたのは、「ブスに男が愛を囁くのは、金か名誉のため」という定説だ。

「……考えててもしょうがないか」

 ラインハートからもらった銀細工のしおりを、読んでいた本に挟んだ。残りページ数が少ないことに気付いて、クロエは鞄とケープを手に取り立ち上がった。
「あれ、お出かけ?」
 チェスボードを抱えたフィンが、ひょこっとドアから顔を出して残念そうにそう言った。
「本屋までちょっとね。夕食までには帰るって伝えてくれる? チェスは、……お母様にでも相手してもらって」
「お母様は強いからなぁ」
「あらなに? わたしには勝てるとでも?」
 クロエの、フィンに対するチェスの勝率は6割弱。姉として威張れるものではないけれど、勝ち越しは勝ち越しだ。ここ3か月くらいで見ると、負け越してはいるが。

 フィンは「どうかなぁ」と呟きながら、クロエの姿を上から下まで眺めた。
「なに、なんか変?」
 ちょっとそこまで、の気分でいたから、今着ているのは出掛けるのに支障がない程度の部屋着。ケープを羽織るから大丈夫だと思っていたけれど、みっともないかしら。
 弟の視線に居心地の悪さを感じていると、フィンはニコッと笑った。
「ううん。いつも通り、綺麗なねえさまだよ」
「あ、ありがとう?」
「いつもそうしていればいいのに。わけわからない変装なんかしないでさ」

 さらさらの髪も素敵だし、色白のお顔も素敵だし。そう呆れたように肩をすくめる弟に、クロエは「行ってきます」だけ伝えて部屋を出た。
 わけわからない、って毎回言われるけれど、そんなにおかしいかしら。
 
 何とも言えない複雑な気持ちを振り払うように一度強く頭を振って、切り替えた。
 さて、今日はどんな本を探そうか。アナスタシア先生の新刊が出ているといいけれど。
 お財布の中身を頭の中で計算しながら、足取りも軽く家を出た。
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