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14.プレゼントは心です。

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 不意に呼ばれて顔を上げると、にこにこしているラインハートが何かをテーブルの上に出しだしてきた。
「これは……」
「プレゼント。開けてみて?」

 淡いピンク色の包装紙に包まれた、小さく薄いもの。
 手に取ると、ひんやりと硬い感触が中にあるのが分かる。
 破かないように丁寧にシールを剥がして開くと、繊細なレリーフが施されている銀細工のしおりが入っていた。
「! これ、」
 思わず、持つ手が震える。それが伝わって、木漏れ日がちらちらと銀に反射して光の粒が舞うようだ。

「好きでしょ?」
「はい……よ、よろしいんです?」

 ただのしおりではない。この彫られているモチーフは、アナスタシア先生のベストセラーシリーズにおけるヒロインだ。ゆるく波打つ豊かな髪に散りばめられた小さなクローバーは、そのうちの一つだけが四つ葉。
 シリーズ4作目の初版でのみ発行された特装版に添えられていたそのしおりは、すでに大人気であったシリーズのものとはいえ値段がかなり高額であり、発行部数も販売冊数も少量で、ほぼ流通することはない。
 つまり。

「これ、とっっっってもレアな……」

 素手で触ってしまったことが悔やまれるレベル。クロエは豪商の、孫に甘々な祖父を持つ娘であるけれど、それでも唸るほどに金を積んでも手に入るものではない。
 現存しているこれは、マニアかコレクターか値上がりを待つ転売屋の手元に匿われているのだ。

 もらってしまってもいいのか、でも一度手にしたそれを返したくない、と葛藤で視線を揺らしているクロエに、ラインハートは吹き出した。
「喜んでもらえた?」
「はい! あ、あのでも、」
「嬉しい」

 甘くとろけるような瞳にクロエを映して、彼はもう一度「嬉しい」と、呟くように言った。
 何がそんなに、というような顔でイーサンはしおりと二人を見比べて、
「しおりだろ? 純銀だとしてもこれだけ小さくて薄かったら、」
「そういう話じゃないんですよ、イーサン様! 値段じゃないんです」

 丁寧に元の包装紙に包み直して両手で挟む。体温が伝わったしおりはそれ自体が発熱しているかのように温かい。

「イーサン、乙女心くらい察する力がないと、奥さん来てくれないかもしれないよ」
「乙女っていってもさ」
 ちらりとクロエの顔を見て、微妙な表情をしてイーサンは笑った。
 フルメイクしてるんだった、と改めて思い出して、素敵なプレゼントを受け取ってしまったことを少し後悔し始めたクロエに、ラインハートの声が届く。

「嬉しそうな笑顔がとってもキュートだ」

 そう言って笑うラインハートを、イーサンは心底意味が分からないという目で見ていた。
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