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11.手紙はまだまだたくさん来ます

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 貴族ではないゴドルフィン家ではあるが、資産価値としては貴族と同等、いやそれ以上である。
だが注目されているのはその資産だけではない。当主ポール=ゴドルフィンの顔の広さや人徳、長けた商才もまたそれ以上に価値が高い。
となれば当然、ゴドルフィン家と縁を繋ぎたいと考える者も多岐に渡り、貴族や豪商、王族に所縁のある方から、果ては隣国からも声がかかる。
クロエは本日も、十数通貰った封筒を手にして大きく息をついた。

「……終わらないんですけど」
「結婚が決まるまで終わらないんじゃない?」
 器用にペーパーナイフで開封してくれるフィンは、にっこり笑ってそう言った。
 ちょっと前までよちよち歩きだったくせにもう刃物を使うようになるなんて、と弟の成長を感慨深く思うのは、ちょっとした現実逃避かもしれない

「他の縁談が進んでいるので、とか言って断るのはどうかしら」
「え、それってノヴァック辺境伯のところの? いいの?」
「よくはないわね……」
「ならだめでしょ」

 お会いしたにも関わらず求婚してきた、気合の入った強欲(もしくは特殊性癖か脳の不具合)のラインハート氏を言い訳に使う案は、一瞬出てすぐ頓挫した。

 そう、そしてクロエは気付いてしまった。
 金に目がくらんでやってきたやつらに「こんなにブスでしたー、残念でしたー!」と迎え撃つことばかりを考えており、それを乗り越えて求婚してきた人への対策が不十分であったことに。

「――今から考えるんでも、遅くはないわよね」
「素直にごめんなさいしちゃうのがいいと思うけど」

 ね、と首を傾げるフィンは、天使のような顔でいつも正しく愛らしい。
 母に似ているとクロエは思うのだけど、母から見ると、クロエは叔母に似ているらしい。父の妹らしいが、外国にいるためクロエはまだ会ったことがない。

 開封された手紙を渡されたが、中身を読む気がまったく起きない。
 上から順番に名前だけ見ていく。

「商人、商人、貴族、外国、貴族、商人、……アドル商会だ」
「イーサン=アドル?」

 先日、爆笑とともにお断りされたはずのイーサン=アドルからの手紙。
 まさか、家に帰ったら「顔ぐらいなんだ、もう一回行って来い!」とか怒られて再申請してきたのかしら。
 それはそれでとても面白いからもう一回会ってもいいけど、初対面の人をからかうより気楽だし、といそいそしながら封筒から便箋を取り出した。

 ふわりといい匂いがする。手紙に香水を振る、なんて小洒落た芸当が出来る男だとは知らなかった。

 2枚綴りの便箋を丁寧に開くと、そこには予想外のことが書いてあった。

「きみ、姉妹はいる?」
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