【完結】うちのブス知りませんか?~金目当ての貴族との縁談をブチ壊そうと、全力醜女メイクしてたら引っ込みがつかなくなった件~

羊蹄

文字の大きさ
上 下
8 / 51

8. 胡散臭いにもほどがあります。

しおりを挟む
 化粧を完全に落とした顔を、鏡でのぞき込む。
 当たり前だけれど、母にも父にも似ていない。ユーゴにもフィンにも似ていない。誰とも血が繋がっていないんだから当たり前だ。
(それを大っぴらに大公開したら、誰も結婚の申込みになんか来ないんじゃないかしら)
 
 だって、大富豪の孫だから寄ってくるんでしょう? 母、ポーリーンに拾われずにそのまま孤児になっていたら? 結婚を申し込むための列なんてできたかしら?
 答えは否でしょう。そんなの、分かり切っている。
 
 ラインハート=ノヴァック。クロエが孤児だと知ったら、何事もなかったように連絡してこなくなるんだろう。資産があてに出来ないとなったら、手のひらを返すに違いない。一目惚れだのなんだのと、見え透いた嘘をしれっと言ってのけるその根性が気に入らない。あっけらかんとした態度で面と向かって断ってきたイーサンの方がずっと好感が持てる。
 
「クロエ」
心配そうな顔で声をかけてきたフィンを抱き寄せると、ふわっと石鹸のにおいがした。
「クロエ、怒ってる?」
「ん? どうして? 怒ってなんかいないけれど」
 ふわふわした髪に鼻を埋めて、血の繋がらない弟の柔らかさに目を細めた。
「珍しいね」
 フィンはくすくす笑いながらそう言って、クロエの顔を見上げる。長い睫毛が頬に影を落としている。
「珍しい? 何が?」
「いつも、お見合いの後って楽しそうなのに。今回は違うから」
「う、んー……そうね……」
 
 そうかもしれない。
 断られるためのお見合いをして、まんまとお断りをいただいた後は、いつだって達成感があった。けれど、今回は違う。
 断ってもらえなかったから? 初めて目的が達成できなかったから?
 
「クロエ、今日の人と結婚するの?」
「まさか!」
 まさか、と思ったけれど、そもそもこういうのってこちらからお断りする権利はあるのかしら。こちらはただの一般人、あちらは辺境とはいえ領地を持つ貴族。
 考えてみてくれませんか、と言われた。考えた結果、お断りですということも可能かしら。
 
 とりあえず、すぐに返答をするのは難しいだろう。なぜかラインハートは頑張ると言っているから、頑張りがどんなものかを確認して、それから、……。
「まだ、すぐには結婚はしないと思うわ」
「そう? よかった! クロエがいないと寂しいよ」
 柔らかい指先でクロエの頬をなぞり、フィンはにっこり微笑んだ。
「お化粧もしない方が綺麗だ」
「フィン……どこでそういうのを覚えてくるの……まさか、兄さん……?」
「?」
 
 ユーゴはすでに成人しているのだし、そういう相手がいてもおかしくは無いけれど。
 自分のことばかりにかまけて、兄の縁談にまったく気が行っていなかった。
 いつか、落ち着いたら聞いてみようと思いながら、クロエはあくびを噛み殺した。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

私の完璧な婚約者

夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。 ※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)

聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。

ふまさ
恋愛
「──わかった、これまでのことは謝罪しよう。とりあえず、国に帰ってきてくれ。次の聖女は急ぎ見つけることを約束する。それまでは我慢してくれないか。でないと国が滅びる。お前もそれは嫌だろ?」  出来るだけ優しく、テンサンド王国の第一王子であるショーンがアーリンに語りかける。ひきつった笑みを浮かべながら。  だがアーリンは考える間もなく、 「──お断りします」  と、きっぱりと告げたのだった。

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

処理中です...