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6. どうしようどうしよう。
しおりを挟むここで、考えられる可能性は二つ。
一つ目は、見た目はどうでもいい、とにかく結婚して資産が手に入ればいいと考えている、ということ。
二つ目は、特殊な性癖を持っているから、むしろブスが大歓迎である、ということ。
ラインハートに手を包まれながら、触れた唇に緊張しながら、フル回転で考えを巡らせる。
どうすればいい、祖父の資産を守るため、特殊性癖の変態から自分の身を守るため、の最善の策はどこにある。仮に彼がそのどちらか、もしくはどちらも、であった場合にはどう答えるのが一番なのか。……。
「すこし、じかんを、ください」
クロエには、そう絞り出すように答えるのが精いっぱいだった。
ラインハートはその後もにこにことクロエのことを見つめ、イーサンを牽制しながらひとしきり話して帰っていった。イーサンとラインハートの仲がいいのは本当らしく、上辺の付き合いによく感じるいやらしさがない。
帰り際、イーサンはそっとクロエを手招きして小声で言った。
「何だか心配だから、俺もたまに寄る。気をつけろよ」
「イーサン! クロエに近づかないで」
ぐっとイーサンの腕を引いて引きはがし、ラインハートはふわっと笑ってクロエに手を振った。
「また来るね、クロエ。僕のこと、考えてくれると嬉しいな。……急がないけれど、いい返事をお待ちしてます」
「——本日はお越しいただき、ありがとうございました」
彼の言葉に、はいとは答えず。
深々とお辞儀をして、二人を見送った。そして、門が締まったのを確認してから深く深く息をついた。
「兄さんに相談しなきゃ……」
兄に言われた言葉が、ふと脳裏をかすめた。
(でも、いつもいつもそううまくいくのかな)
「……一目惚れって、よく言うわ……」
それだけはあり得ないでしょ、と浅黒く塗り、そばかすだらけに装った頬を撫でた。
部屋に入ると、すでに話は伝わっていたらしく、ユーゴが本を読みながら待っていた。
クロエの浮かない表情を見て、兄は「もう」とため息交じりに呟いた。
「……兄さん」
「101回目は撃退ならずだね」
「くっ……! いいえ、101人目は撃退したわ! 102人目よ……今日は二人だったんだもの、一人はいつも通り断ってきたもの」
「負けず嫌い」
返す言葉もない。
クロエはクリームで丁寧にメイクを落としながら、ぼそぼそとユーゴに報告した。
成金息子が、顔を見るなり笑ったこと。
貧乏貴族が、妻にしたいと言ってきたこと。
「それも、よりにもよって、一目惚れって言ったのよ。……誰が信じるって言うの」
「——うーん、僕は会っていないから何とも言えないけれど」
「会ったわたしも何も言えないわ」
「いや、そうじゃなくて」
開きっぱなしにしていた本を閉じて、ユーゴはクロエの顔をじっと見つめた。
「本当に資産目当てなのかな? 本当に、それだけかな」
「それはどういう、」
「本当に、クロエが目当てだってことはないのかな」
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