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5. アドリブに弱いのは仕様です。
しおりを挟む二人をソファへと促して、クロエも向かい合って座った。
イーサンは興味深そうに、クロエに不躾な視線をぶつけてくる。ラインハートは落ち着いた様子で、笑みを絶やさないままだ。
「本日は、このような場所までおいでいただきありがとうございます」
丁寧にお辞儀をすると、またイーサンが噴き出す。
喋るたびに笑われたのでは話が進まない、というかつられそうになるからやめてほしい。
ラインハートは横の友人には構わず、クロエに頭を下げた。
「お会いいただき、光栄です。……すでに何人もの方がこちらに見えたとか?」
事前にある程度の情報は持っているのだろう。クロエはにぃーと笑って頷いた。
「はい。ですが、今までの方には皆様にお断りされてしまって」
「そりゃそうだと思う」
真面目な声で割り込んできたイーサンが、まじまじとクロエの顔を見て何度も頷いた。
「俺、すごく失礼だったと思うけど、でも素直な反応だよ」
「自分で言わないの、イーサン……僕は恥ずかしいよ」
「でも仕方ない。そう思わない、クロエ?」
実際、そうだと思うしそれを狙っている、けど「ブスだから笑われても断られても仕方ない」のだと、本人にそう思わないかを尋ねるのは驚くほど失礼だ。
でも、クロエは耐えた。さみしそうな笑顔を作って首を傾げる。
「そう、なのでしょうね……わたしの見た目が、よくないのでしょうがないのです」
殊勝ぶってそう言うと、意外にもイーサンはそれにすぐに同意はせず、腕を組んで考えた。
「まぁ、面白いから俺はいいと思うけど」
一瞬耳を疑った。いいと思う、と言われたのは初めてだ。
ちょっとだけ嬉しくなったことにもびっくりした。撃退するのが目的だったはずなのに。
だけど、その次の瞬間、イーサンは笑って言った。
「とはいっても、『このご縁はなかったことに』、だな!」
やっぱり、そうだよね。そりゃそうだ。
弱ったような笑顔のまま、クロエは小さく頷いた。
が。
「いいの? 僕がもらってしまっても」
「え、……ラインハート?」
「クロエさん」
ラインハート=ノヴァックが、テーブルの上に身を乗り出してクロエの両手を優しく包んだ。その意外な温かさに、びっくりして顔を上げる。
ラインハートは穏やかな煌めく瞳でじっとクロエの瞳を見つめたまま、静かに言った。
「僕、ラインハート=ノヴァックは、あなたを妻に迎えたい。……考えてみて、くれませんか」
「え!?」
声を上げたのはイーサン。クロエはまさかの展開に、言葉も出ない。
微かに目元を赤らめて、ラインハートはクロエの指先にキスを落とした。
「一目惚れを、信じますか?」
信じるも信じないも。
クロエは、声に疑いをにじませながら訊いた。
「わたし、……一目で嫌われてしまうことはあっても、その、……」
「信じてもらえるように、頑張ってもよいでしょうか」
まじかーとか呟いているイーサンに、クロエは心の中で同意しながらも、ラインハートの言葉に即答で断ることは出来なかった。
断られることはあっても、自発で断ったことがない。経験の浅さが裏目に出て、押し切られた形だ。どうしよう。
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