【完結】うちのブス知りませんか?~金目当ての貴族との縁談をブチ壊そうと、全力醜女メイクしてたら引っ込みがつかなくなった件~

羊蹄

文字の大きさ
上 下
2 / 51

2. 夢見がちなところもあります。

しおりを挟む
 ほぅ、と惚けたような溜息をもらして表紙を閉じた。
 今回のお話もとても素敵だった。特に、身分違いの愛が実を結ぶ裏で暗躍する従者の献身……。

「アナスタシア先生、……いつか、ご自身の大恋愛も本にされることがあるかしら……」
 こんな素敵なお話を書く人だもの、きっとそれはもうドラマティックな経験をしているに違いない。謎に包まれた作家先生の過去の恋愛を、この筆致で読んでみたいと思うのは当然のファン心理だ。
 先生の書く女性はみな強くしなやかで魅力的。自分もこの本のヒロインたちのように、自分の人生を楽しんで生きて、それから素敵な人と、……。
「――現実世界に、素敵な人なんているかしら」
 少なくとも、最近会った100人の中にはいなかった。どいつもこいつも、金に目がくらんだような媚びた下卑た笑い方でやってきて、ドブスのクロエに怯んで逃げ帰っていく。100人中100人。つまり、千人いたら千人、ということじゃない?

 やっぱり、ラブロマンスなんて本の中にしかないのかしら、と頬杖をついたとき、指先に触れた縮れ毛に気付いた。まだメイクも落としていなかった、と見上げた空は日がだいぶ傾いていて、長い時間ここにいたのだと知った。
 椅子から立ち上がり、固まってしまった腰を伸ばしてふと見ると、庭の入り口にふたつの人影があった。

「お客様……?」

 兄、ユーゴと同じような背格好のふたつの影は、そのままこちらへ来るでもなく、アーチをくぐって去って行った。
 まぁいいか、と大きく伸びをしてから自室へと向かう。早くメイクを落とさないと、皮膚呼吸が出来なくて息苦しいのだ。



 部屋へ戻ると、2歳下の弟フィンがクロエを待っていた。
 手の込んだ化粧を見るとびっくりして軽く跳ね、直視できないというように視線をさまよわせる。
「日に日にブスに磨きがかかってるよ、ねえさま……」
「ありがと、フィン。メイクの腕が爆上がりなの」
「その腕、他に使えばいいのに」
「これが今一番有効な使い方なのよ。フィンだって、わけわからん男に家族崩壊させられたくはないでしょ?」

「普通に断ればいいじゃないの」

 呆れかえったような声に振り返ると、腕を組んだ母がクロエを睨んでいた。
 迫力のある美人。この美貌で公爵まで射止めたことがある、と祖父が笑っていた。……公爵を射止めたのになぜ今小さなカフェ店長なのかはよくわからない。
 クロエはポーリーンの言葉に大げさにため息をつくと、手を振った。
「普通に断ったって駄目なのは目に見えてるの。手紙での申し込みは全部普通に断ってるのよ? なのに負けじとお見合いしようと乗り込んでくるんだから」
「だからって、せっかくの可愛い顔が台無しじゃないの」

 ポーリーンの暖かい手のひらが、クロエの頬を包む。文句を言いながらも、母の目には心配そうな光が見える。
 すっと手を外すと、ポーリーンは自分の手のひらをまじまじと見つめ、
「それにしてもすごいわ、色移りしないのね」
「おじいちゃまおすすめのコスメだから」
「……わたくしのところで、全部シャットアウトしてもいいのよ」

 お見合いの申し込みについては、すべてクロエは自分とユーゴで何とかする、と両親には言ってあった。当然、父や母が断ればそれ以上しつこくしてこないことも分かっている。

 けれど。

「いいの。わたしが自分でやるの。迷惑、かけてしまうかしら」
「――万が一の時は、ユーゴとテオが守ってくれるわ」
 ぎゅっと抱きしめられるとほっとする。
 母の匂いを胸いっぱいに吸い込んで、「うん」と答えた。


 金目当ての男。女を道具としか見ていない男に違いない。
 ちょっとくらいおちょくってやってもいいじゃない。

 でも、もしもし万が一、ブスでも構わない、と言ってくれる人が現れたら?
 財産も容姿も関係ない、クロエだからいいんだよって言ってくれる人が現れたら?
 と、そんなロマンスが始まる可能性も捨てきれない、16歳のクロエだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

私の完璧な婚約者

夏八木アオ
恋愛
完璧な婚約者の隣が息苦しくて、婚約取り消しできないかなぁと思ったことが相手に伝わってしまうすれ違いラブコメです。 ※ちょっとだけ虫が出てくるので気をつけてください(Gではないです)

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話

束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。 クライヴには想い人がいるという噂があった。 それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。 晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。

婚約破棄を、あなたのために

月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?

処理中です...