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9. もらったのは、小さな畑。

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 また、無言のままで歩く。ゆっくりとした歩調で、さっきまでとは違って横に並んで。ブランカは私達の右に行ったり左に行ったり、蝶々を追いかけたり楽しそう。

 言うことは言った。ちら、とみるとザックもこちらを見ていて、何となく照れ笑いが出た。

「そこ」
 不意にザックが立ち止まって、ロープで四角く囲まれた土地を指さした。隅には木箱が置かれ、中に古い農具が入れられている。
「畑、ですか?」
 農具があるからには畑だろう。けれど、その四角い土地は今通ってきた土地とあまり変わらず、雑草が生えている原っぱ、という感じだった。
 ザックは軽く頷いて、
「そう、ここは畑にする予定の土地だ。……うちの村では、どの土地が誰のもの、のような区別がない。いいかなと思ったらこうやってロープで囲んで名前を付ける」
 見ると、ロープには木札がかけられていた。名前らしき字が見える。

「……シャロン!」
「あぁ、お前の名前を付けておいた」
 ロープで囲った土地に名札を付けて、一週間。誰からも異議が出なければ、自分のものとしていいとのこと。
「今日で一週間だから、もうお前の畑だ」
「すごい……私の、畑……」

 決して広くはない土地。草ぼうぼうの原っぱみたいなそれは、畝も10本くらいできればいいかと思うほどのささやかなものだった。けれど、自分の名前のつけられたそれが嬉しくて、思わずザックの腕に抱き着いていた。

「ありがとう! ありがとうザック!」
「……嬉しいのか」
 自分で用意してくれたのに、喜ばないと思っていたのかしら。
 嬉しいに決まってる、自分だけの土地。そういえば今まで、自分だけのものを持ったことがなかった。ドレスもアクセサリーもよくて姉のおさがり、何なら姉のを借りて、という感じだった。それが嫌だったわけでもないけれど、こんな風に誰かが私のことを考えて、会う前から用意してくれて……そんなの、嬉しいに決まってるんだ。

「何を育てようかしら、あ、それより土を作らないといけないわ。草を取って土を掘り返して、たい肥を混ぜて、……たい肥も作ったほうがいいのかしら?」
「たい肥なんて知ってるのか」
「農家に嫁ぎに来たのよ」
 私の言葉に、ザックはふっと笑った。
「たい肥はあっち。たくさんあるから持って行っていい。村の共有だ」

 指で示された方には、大き目の小屋と牛小屋。
「ほんとに、みんなで暮らしている」
「農業は助け合いだから」
「私も、仲間に入れてもらえるんでしょうか」
「……頑張り次第かな」

 入れてもらえる、とは言わないんだ。それが真面目なザックらしい。


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