青春〜或る少年たちの物語〜

Takaya

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第三章 始まる闘い

第十五話 嘘

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 その後、彼らは補導されることなく無事に帰れた。一方、女たちも無事だったようで、夜から日付を跨いで開かれる誕生会にしっかり参加できたようだ。

 次の日の新聞では平和に関する記事とともに、パレット久茂地付近で酔った米軍属の男が乱闘騒ぎを起こして顎の骨を折る怪我をしたこと、さらにその男が違法薬物を所持していたため現行犯逮捕されたことが記されていた。

「あーあ、こんなにデカデカと載ってるよ。」

 貴哉は部屋で新聞を眺めながら呟く。

「軍属、ってことは兵隊ではないってとこか。」

 そう思いながら新聞を読んでいると、次のページには咲島市の中学3年生20人が沖縄市で海兵隊員相手に乱闘を起こしたという記事があった。

「あいつら、捕まってんじゃねぇか。」

 鼻で笑いながら読んでいたが、何でも相手の海兵隊員は全治2ヶ月の重傷らしい。それを読んで、貴哉は余計なことを考えてしまう。

(今の俺たちだったら、本物の兵隊相手にここまではできないだろうな....)

 貴哉は昨日の結果に満足していない。本当なら自分でトドメを刺したかった。自分から言い出したことなのに、結局はみんなに頼ってしまった。それが悔しい。

(これじゃ本当にお荷物じゃねぇか!)

 ただ彼らと一緒にいたいだけなのに、それを否定された。だからこその提案だったのに、それすら上手くいかなかった。このままでは、いつか自分が本当に置いてけぼりになるような気さえする。

(野球部とつるむの辞めちまえ!)

 先日の裕士の言葉が頭をよぎる。それだけは嫌だ。頭の中から振り払おうとするも、簡単にはいかない。

 取り敢えず、気持ちを切り替える為に新聞を放り投げる。布団の中でゴロゴロすることにした。そして、携帯を開いてアダルトサイトを眺めて一仕事終える。 その後、男独特の虚しいひと時がやってきて、昨日のことがフラッシュバックする。

(なんでこんな時にまで....)

 しばらく布団の中で包まりながら考え事をしていると、携帯が鳴った。伯亜だ。

(こんな時に限って!)

 貴哉は今、伯亜に会いたくない。先日の、意味のない喧嘩はしない、という約束を破ってしまったからだ。貴哉としては意味のあるつもりだったが、おそらく伯亜からすればそんなこと理由にならないだろう。しかし、それと同時に誰かの声が聞きたい、という気持ちはある。そこで、少し悩んだが電話に出ることにした。

「貴哉くん!聞いたよ!」

 貴哉が電話に出ると、明るい口調で話しかけてきた。

「聞いたって何がだよ?」
「昨日の話だよ!ほら、パレット久茂地の!」

 やっぱり知っていた。貴哉は一瞬恐ろしくなる。約束を破ったことで、どんなことを言われるのだろう。そう考えると泣きそうになる。

「お姉ちゃんが女バスの、美貴先輩?だったっけ?その人の誕生会で聞いてきたらしいんだけどさ、いやー、貴哉くん見直したよ!」

 貴哉は少し首を傾げる。どうやら、貴哉を非難する為に電話をかけてきた訳ではないようだ。

「真理亜先輩たちに絡んできた白人、ぶっ飛ばしたんでしょ?」
「え?」

 貴哉はキョトンとしてしまう。

「いやー、やっぱり君はすごいよ。」
「い、いや、別に俺1人でやった訳じゃ....」
「でも凄いよ!僕なら怖くて何にも出来ないや。」

 予想外の展開に、貴哉は何と言っていいのか分からない。

「それでね、貴哉くん。僕思ったんだ。」
「な、なんだよ?」
「僕こないださ、貴哉くんに言ったじゃん?意味のない喧嘩はしないでって!」

 貴哉は一瞬ドキッとする。今回は結果はどうであれ、元はと言えば意味のない喧嘩のはずだった。

「あ、あ、うん、そうだな。」

 貴哉は布団の中で震えている。何なら失禁しそうな勢いだ。

「僕さ、安心したよ。」
「へ?」

 貴哉は今、伯亜が何を言っているのか分からない。

「だから!安心したの!ちゃんと約束守ってくれてるんだなって!」
「え、だ、だって、お、お前、何言ってるんだよ?」

 すっかり呂律が回っていない。

「ぼ、僕、喧嘩したんだよ?」

 貴哉は毎度の如く素に戻って僕とか言い始めている。

「確かに喧嘩だけど、ちゃんと意味のある喧嘩じゃん!」
「な、何言ってるの?」
「だから!意味のない喧嘩はしないけど、ちゃんといざという時には闘うっていうのが、安心したし、嬉しかった!」

 貴哉は頭の中が真っ白になる。褒めてもらってるが全く嬉しくない。むしろ、怖い。
 伯亜も中々単純な男だ。それに、物事をとにかくいいように捉える傾向がある。今回はそれが貴哉を苦しめている。

「ねぇ、貴哉くん。さっきからどうしたの?」
「え?」
「なんだか様子がおかしいよ?」

 さすがの伯亜も何かを察したようだ。

「貴哉くん、何か言いたいことがあるならはっきり言ってよ!」
「いや、あの、それは….」

 貴哉は吃ったすえ、一言こう言った。

「伯亜くん、真理亜のこと知ってるんだなぁって….」
「え?」
「だから、真理亜のこと、知ってるのがちょっと、びっくりだったから….」
「え、待って、そんなこと!」

 伯亜は電話の向こうでゲラゲラ笑っている。

「んもう、貴哉くんたらKYなんだから!」

 その後、伯亜から合宿の際の出来事を話された後、明日学校で会おうと挨拶され電話を切った。
 貴哉はその後、急いでトイレに走った。そして、便器の前に座り込む。

「おぇーーーーっ!」

 激しい嘔吐を繰り返した。身体中が震えている。それぐらいに、貴哉は今かなり動揺している。

(本当のこと、言えなかった….)

 伯亜から言いたいことあるなら、と問われた時、本当のことを言うことだって出来たはずだ。しかし、貴哉にはそれが出来なかった。なぜなら、本当のことを言って伯亜に失望されるのが、約束を破ったことを非難されるのが怖かったからだ。そして何よりら伯亜と友だちじゃなくなってしまうのが何よりも怖かった。

(どうしよう....どうすればいいの….)

 結果として、伯亜から非難されることはなかったが、それでも身体中の震えは止まらない。大切な親友に言えない秘密をつくってしまった罪悪感で心が潰れそうだ。

(怖い....)
 
 次第に貴哉の目から涙が流れてきた。便器の前で、震えながら小さくなって泣いている。その後、部屋で昼寝をしていた麻耶が起きてトイレに来るまで、貴哉はずっと泣いていた。

 次の日、麻耶に促されてなんとか学校には来た。教室で座っていると、明良がやって来た。

「お、貴哉!聞いたぞお前!」

 明良は2日前の出来事について面白がるように質問してきた。しかし、貴哉は答えきれない。

「いや、その....」
「なんだよ?はっきり言えよ?」

 貴哉は言えない。ここで本当の事を言えば、きっと伯亜の耳にも入る。そうなった時のことを考えると、また怖くなる。

「……」
「おい、貴哉?どうした?なんか変だぞお前?」

 すると、椅子に座っていた貴哉が突然倒れた。嘘がバレた時の怖さと罪悪感に耐え切れなくなったのだ。

「おい!貴哉!しっかりしろ!おい!」

 その後、たまたま教室の前を通りかかった先生が駆けつけて保健室まで運ばれ、その日は早退することになった。

つづく

 

 
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