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第三章 始まる闘い
第七話 決裂
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ゴールデンウィークが明けた次の日の部活終わり、ボクシング部の部室、もとい桃子の練習小屋に貴哉と伯亜、そして香織が呼び出された。輪になって座っている。
「香織、まずあんたから。」
桃子が促すと香織が立ち上がる。
「....その、こないだは、いきなり怒鳴ったり、叩いたりして、ごめんなさい....」
「別にいいよ、もう終わったことじゃん。ねぇ、貴哉くん?」
「....まぁな。」
貴哉と伯亜はその謝罪を受け入れた。
「よかったわね、香織。」
「....はい。」
すると、貴哉と伯亜が立ち上がる。
「じゃあ、僕たちはもう帰るね。」
「待ちなさい。」
桃子が止めた。
「あれ、お姉ちゃんまだ何かあるの?」
「伯亜はともかく、貴哉、あんたはまだ帰さないわよ?」
「....なんでだよ?」
「まぁ、すぐ終わると思うけど、伯亜、あんたは先に帰る?」
「んー、待ってる!」
「じゃあ、2人とも座りな。」
こうしてまた椅子に座らされる。
「貴哉、あんたも香織に言うことあるでしょ?」
「いや、特に。」
「特に、ってあんたね....」
桃子が呆れたように言う。
「あんた、香織に椅子投げたんでしょ。」
「....まぁな。」
「香織も謝ったんだから、あんたも謝んなさい。」
「....嫌だよ。」
「はぁ?」
「こいつの自業自得だろ?」
桃子が立ち上がる。
「あんたね、自分が何言ってるか分かってるの?」
「分かってるけど?」
「....!?どうしてそんなことが言えるの!?」
しばらく言い合いが続く。不穏な雰囲気だ。そして、貴哉が香織に矛先を向ける。
「おい、香織!お前があの時絡んでこなけりゃおでこぶつけることも××××怪我することもなかったろ?」
「....」
「俺にあたるなよ、フラー。」
香織が立ち上がる。香織の中で何かが壊れたようだ。
「うっさいわね、このチビ!あんたにフラーなんて言われる筋合いはないわよ!」
「香織!やめなさい!」
「桃子先輩....私....」
「香織、今なんかしたらただの逆ギレよ?そんなことのために私はこの場を設けたわけじゃないの!分かるでしょ?」
すると貴哉が立ち上がる。
「桃子、いいよ。どけよ。そいつがその気なら叩きのめす。」
「貴哉!何言ってるの!?」
「桃子、同じバレー部だかなんだか知らねぇがそんなやつの肩なんか持つなよ。」
「貴哉....」
「お前も随分、身勝手な女だな。」
「は?」
貴哉が構わず続ける。
「俺、知ってるんだよ。お前が1年の頃、先輩たちに酷い目に遭わされて泣いてたこと。性格の悪ぃ奴らばっかり重宝されて、悔しいって泣いてたの、俺、知ってるんだよ。」
「....」
「それが3年になった途端、麻耶に何したよ?」
「あれは麻耶が....」
「知ってるよ!でもお前がやったのは、お前が嫌ってた先輩たちと同じことじゃねぇか!」
「....」
桃子は何も言えなくなる。自覚してる分、尚更だ。
「でも俺が何も文句言わなかったのはあれは麻耶が悪いからだ。それは分かるな?」
「....」
「それがなんだ?自分の可愛い後輩が麻耶と似たようなことしたら肩なんか持ちあがって!ぶざけんなよ?」
「貴哉....」
貴哉は懐から煙草を取り出して吸いはじめる。
「昨日だってよ、伯亜が煙草吸ったぐらいで泣くまで怒鳴りやがって....」
「....」
「お前知ってるか?お前が煙草吸うようになった頃、伯亜泣いてたんだぞ?」
「え?」
「あんな風になったのが悲しいって、それでもお姉ちゃん大好きだから受け入れるしかないって、でもやっぱり辛いって、泣いてたんだぞ?」
桃子はそんなこと全く知らなかった。親とは喧嘩したが、伯亜には何も言われなかったからだ。
「桃子、取り敢えず今のお前はただの情けない女だ。分かったらどけ。」
「嫌よ!」
「あ?」
それでも桃子は拒否する。
「あんたが言ってることは全部正しいわ。私何も言い返せない。」
「だったらどけ!」
「でも私は!それでもここであんたと香織を喧嘩させる訳には行かないのよ!」
「あ?」
「私にはね、自分がどれだけ笑われても、守っていかなきゃいけないものがあるの!」
「桃子先輩....」
香織はただ立ちすくんでいる。
「意味分かんねぇな....」
「あんたもいつか分かるようになるわ。どうしても香織と喧嘩したいなら、私、あんた相手でも容赦しないわよ?」
桃子の目付きが変わる。
「そうか、だったら....」
貴哉は煙草を投げ捨てる。
「ヤーカラ、サチニクルサイヤー。」
その瞬間、貴哉の顔に桃子の右ストレートが飛んできた。貴哉は後ろに倒れる。
「あんた、私がボクシングやってるの知ってるでしょ?馬鹿な真似はやめなよ。」
桃子が貴哉に近づく。すると、
「ヤガマサン!」
桃子に向かって落ちていたグローブを思いっきり投げつける。桃子が怯んだ隙に貴哉が飛び掛かり、馬乗りになる。
「さっき容赦しねぇつったな?俺もだよ!」
貴哉は桃子の顔を殴りつける。何度も何度も殴りつける。
「やめて!」
香織が貴哉に背中から飛び掛かり、引き剥がす。しかし、貴哉は香織の右足を思いっきり踏みつけた。堪らず、香織はうずくまる。
「はぁ....はぁ....次はお前の番だ。」
貴哉が息を切らしながら近づく。するとその時、練習小屋の扉が開いた。麻耶と真理亜、そして伯亜だ。
「貴哉!やめなさい!」
麻耶と真理亜が2人ががりで貴哉に飛び掛かり地面に押さえつけた。
「離せこら!」
「大人しくしなさい!」
実は伯亜、不穏な雰囲気の中で小屋から逃げ去り、助けを求めていた。そして、たまたまバレー部の部室で煙草を吸っていた2人を見つけたのだ。
「お姉ちゃん!大丈夫!?」
伯亜は桃子に駆け寄る。
「貴哉くん....これ、貴哉くんがやったの....?」
「....だったらなんだよ?」
「馬鹿!どうして....どうしてこんなことができるの....」
伯亜が泣き出した。桃子が倒れた状態で伯亜の頭を撫でる。
「伯亜....ごめんね....お姉ちゃんが悪いの....」
真理亜が貴哉を押さえつけたまま語りかける。
「貴哉、何があったか知らないけど、あんた、自分が何したか分かってるの?」
麻耶もそれに続く。
「あんた、こんなに馬鹿なことするとは思ってなかったわよ。」
「お前に言われたかねぇよ。」
貴哉が口答えをする。
「やめなさい!」
桃子がフラフラと立ち上がりながら言う。
「貴哉、今回は私が悪かったわ。」
「....」
「香織、ごめんね。こんなことになって。今日はもう帰りな。」
「....はい。」
ずっと狼狽えていた香織が小屋から出た。しばらくして、
「伯亜、もう泣かないで。さ、お姉ちゃんと帰ろ?」
「....うん。」
「あ、麻耶と真理亜。来てくれてありがとね。そんでさ、あんまり貴哉のこと責めないであげて。」
「えっ?」
桃子が伯亜を左手で抱きながら小屋から出た。その後、麻耶と真理亜が貴哉を押さえつけていた手を離す。
「貴哉、これだけは言っておくわ。私たちがここに来た時、あんた、見たことないぐらい恐ろしい顔してたわよ?」
麻耶も言う。
「あんた、何があった知らないけど、あの伯亜の顔見て何も思わなかった?ちゃんとと頭冷やしなさいよ。」
こうして麻耶と真理亜も小屋から出ていき、貴哉は1人、小屋に残された。
つづく
「香織、まずあんたから。」
桃子が促すと香織が立ち上がる。
「....その、こないだは、いきなり怒鳴ったり、叩いたりして、ごめんなさい....」
「別にいいよ、もう終わったことじゃん。ねぇ、貴哉くん?」
「....まぁな。」
貴哉と伯亜はその謝罪を受け入れた。
「よかったわね、香織。」
「....はい。」
すると、貴哉と伯亜が立ち上がる。
「じゃあ、僕たちはもう帰るね。」
「待ちなさい。」
桃子が止めた。
「あれ、お姉ちゃんまだ何かあるの?」
「伯亜はともかく、貴哉、あんたはまだ帰さないわよ?」
「....なんでだよ?」
「まぁ、すぐ終わると思うけど、伯亜、あんたは先に帰る?」
「んー、待ってる!」
「じゃあ、2人とも座りな。」
こうしてまた椅子に座らされる。
「貴哉、あんたも香織に言うことあるでしょ?」
「いや、特に。」
「特に、ってあんたね....」
桃子が呆れたように言う。
「あんた、香織に椅子投げたんでしょ。」
「....まぁな。」
「香織も謝ったんだから、あんたも謝んなさい。」
「....嫌だよ。」
「はぁ?」
「こいつの自業自得だろ?」
桃子が立ち上がる。
「あんたね、自分が何言ってるか分かってるの?」
「分かってるけど?」
「....!?どうしてそんなことが言えるの!?」
しばらく言い合いが続く。不穏な雰囲気だ。そして、貴哉が香織に矛先を向ける。
「おい、香織!お前があの時絡んでこなけりゃおでこぶつけることも××××怪我することもなかったろ?」
「....」
「俺にあたるなよ、フラー。」
香織が立ち上がる。香織の中で何かが壊れたようだ。
「うっさいわね、このチビ!あんたにフラーなんて言われる筋合いはないわよ!」
「香織!やめなさい!」
「桃子先輩....私....」
「香織、今なんかしたらただの逆ギレよ?そんなことのために私はこの場を設けたわけじゃないの!分かるでしょ?」
すると貴哉が立ち上がる。
「桃子、いいよ。どけよ。そいつがその気なら叩きのめす。」
「貴哉!何言ってるの!?」
「桃子、同じバレー部だかなんだか知らねぇがそんなやつの肩なんか持つなよ。」
「貴哉....」
「お前も随分、身勝手な女だな。」
「は?」
貴哉が構わず続ける。
「俺、知ってるんだよ。お前が1年の頃、先輩たちに酷い目に遭わされて泣いてたこと。性格の悪ぃ奴らばっかり重宝されて、悔しいって泣いてたの、俺、知ってるんだよ。」
「....」
「それが3年になった途端、麻耶に何したよ?」
「あれは麻耶が....」
「知ってるよ!でもお前がやったのは、お前が嫌ってた先輩たちと同じことじゃねぇか!」
「....」
桃子は何も言えなくなる。自覚してる分、尚更だ。
「でも俺が何も文句言わなかったのはあれは麻耶が悪いからだ。それは分かるな?」
「....」
「それがなんだ?自分の可愛い後輩が麻耶と似たようなことしたら肩なんか持ちあがって!ぶざけんなよ?」
「貴哉....」
貴哉は懐から煙草を取り出して吸いはじめる。
「昨日だってよ、伯亜が煙草吸ったぐらいで泣くまで怒鳴りやがって....」
「....」
「お前知ってるか?お前が煙草吸うようになった頃、伯亜泣いてたんだぞ?」
「え?」
「あんな風になったのが悲しいって、それでもお姉ちゃん大好きだから受け入れるしかないって、でもやっぱり辛いって、泣いてたんだぞ?」
桃子はそんなこと全く知らなかった。親とは喧嘩したが、伯亜には何も言われなかったからだ。
「桃子、取り敢えず今のお前はただの情けない女だ。分かったらどけ。」
「嫌よ!」
「あ?」
それでも桃子は拒否する。
「あんたが言ってることは全部正しいわ。私何も言い返せない。」
「だったらどけ!」
「でも私は!それでもここであんたと香織を喧嘩させる訳には行かないのよ!」
「あ?」
「私にはね、自分がどれだけ笑われても、守っていかなきゃいけないものがあるの!」
「桃子先輩....」
香織はただ立ちすくんでいる。
「意味分かんねぇな....」
「あんたもいつか分かるようになるわ。どうしても香織と喧嘩したいなら、私、あんた相手でも容赦しないわよ?」
桃子の目付きが変わる。
「そうか、だったら....」
貴哉は煙草を投げ捨てる。
「ヤーカラ、サチニクルサイヤー。」
その瞬間、貴哉の顔に桃子の右ストレートが飛んできた。貴哉は後ろに倒れる。
「あんた、私がボクシングやってるの知ってるでしょ?馬鹿な真似はやめなよ。」
桃子が貴哉に近づく。すると、
「ヤガマサン!」
桃子に向かって落ちていたグローブを思いっきり投げつける。桃子が怯んだ隙に貴哉が飛び掛かり、馬乗りになる。
「さっき容赦しねぇつったな?俺もだよ!」
貴哉は桃子の顔を殴りつける。何度も何度も殴りつける。
「やめて!」
香織が貴哉に背中から飛び掛かり、引き剥がす。しかし、貴哉は香織の右足を思いっきり踏みつけた。堪らず、香織はうずくまる。
「はぁ....はぁ....次はお前の番だ。」
貴哉が息を切らしながら近づく。するとその時、練習小屋の扉が開いた。麻耶と真理亜、そして伯亜だ。
「貴哉!やめなさい!」
麻耶と真理亜が2人ががりで貴哉に飛び掛かり地面に押さえつけた。
「離せこら!」
「大人しくしなさい!」
実は伯亜、不穏な雰囲気の中で小屋から逃げ去り、助けを求めていた。そして、たまたまバレー部の部室で煙草を吸っていた2人を見つけたのだ。
「お姉ちゃん!大丈夫!?」
伯亜は桃子に駆け寄る。
「貴哉くん....これ、貴哉くんがやったの....?」
「....だったらなんだよ?」
「馬鹿!どうして....どうしてこんなことができるの....」
伯亜が泣き出した。桃子が倒れた状態で伯亜の頭を撫でる。
「伯亜....ごめんね....お姉ちゃんが悪いの....」
真理亜が貴哉を押さえつけたまま語りかける。
「貴哉、何があったか知らないけど、あんた、自分が何したか分かってるの?」
麻耶もそれに続く。
「あんた、こんなに馬鹿なことするとは思ってなかったわよ。」
「お前に言われたかねぇよ。」
貴哉が口答えをする。
「やめなさい!」
桃子がフラフラと立ち上がりながら言う。
「貴哉、今回は私が悪かったわ。」
「....」
「香織、ごめんね。こんなことになって。今日はもう帰りな。」
「....はい。」
ずっと狼狽えていた香織が小屋から出た。しばらくして、
「伯亜、もう泣かないで。さ、お姉ちゃんと帰ろ?」
「....うん。」
「あ、麻耶と真理亜。来てくれてありがとね。そんでさ、あんまり貴哉のこと責めないであげて。」
「えっ?」
桃子が伯亜を左手で抱きながら小屋から出た。その後、麻耶と真理亜が貴哉を押さえつけていた手を離す。
「貴哉、これだけは言っておくわ。私たちがここに来た時、あんた、見たことないぐらい恐ろしい顔してたわよ?」
麻耶も言う。
「あんた、何があった知らないけど、あの伯亜の顔見て何も思わなかった?ちゃんとと頭冷やしなさいよ。」
こうして麻耶と真理亜も小屋から出ていき、貴哉は1人、小屋に残された。
つづく
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