青春〜或る少年たちの物語〜

Takaya

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第三章 始まる闘い

第一話 合宿

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 波乱に満ちた4月が終わり、ゴールデンウィークがやって来た。毎年、ゴールデンウィークを利用して運動部は合宿に臨む。今年は5月2日の土曜日から5日の火曜日までで、6日は休養日になった。行き先は部活毎で別々だが、今年は大人の事情というやつで女子バレー部、女子バスケ部が同じ場所になり、どういう訳か吹奏楽部も加えられた。行き先は「咲島少年自然の家」だ。体育館を時間毎で分けて使用し、体育館の時間以外は外で走り込みや筋トレなどを行う予定だ(因みに吹奏楽部は会議室も使わせてもらえる)。

 吹奏楽部のバスの中では和気あいあいとした雰囲気が流れている。あんなに女子が苦手だった裕也も女子と話せるようになった。尚也と優也はまだまだ女子に話しかけるのが恥ずかしいようだが、なんとか受け答えはしている。伯亜はと言うと、1人浮かない顔をしている。見かねた裕也が声をかけた。

「どうしたのそんな顔して?」
「だって、お姉ちゃんたちと合宿先が一緒なんだもん....」
「いいじゃん、それぐらい。」
「えー、だって夜中とか絶対からかいに来るよー!」

 香織の事件以来、伯亜の中で女子バレー部は恐怖の集団だ。香織よりも他の女たちの方が違う意味で怖い。

「えー、でも、あんな可愛い人たちにからかわれたらちょっと興奮するなー。」
「何言ってるの裕也くん?君4月と変わりすぎじゃん?」
「僕は楽しみにだなー、あんな可愛い人たちと仲良くなれるかも知れないなんてドキドキするよ。」

 そんな可愛らしい感情や和気あいあいとした雰囲気を乗せながらバスは走る。

 バレー部とバスケ部のバスの方を見てみよう。バレー部の2年生は爆睡していた。というのも昨日、麻耶が景気づけに一杯やろうと言い出して池宮城家でお泊まり会が開催されたのだ。2階の空き部屋を使い、泡盛の3合瓶が2本も空になった。なんとか集合時間には間に合ったが正直まだ酔っている。

「おい、ビーチャーよっぱらい。」

 反対の席から麻耶に小声で話し掛ける者がいる。バスケ部の2年生、池宮城 真理亜いけみやぎ まりあだ。彼女もまた池宮城一族の1人で、和人の姉にあたる。

「誰がビーチャーよっぱらいよ。」
「あんたたち以外誰がいんのよ。それより、桃子先輩、なんか機嫌悪いんじゃないの?」

 真理亜の言うとおり、桃子は1番後ろの席でブスッとしている。

「さすがに合宿前に呑んじゃだめでしょ。」
「いや、あの人ね、自分が誘われなかったことにイライラしてるのよ。」
「えっ?」

 麻耶の言うことは正解だ。桃子は昨日、誘われるのを待っていた。しかし、誰からもこなかった上に2年生はバスで熟睡するほどに酔っているこの現状が頭に来ている。

「誘ってあげればいいじゃないの?」
「いや、あの人ね、とんでもない酒乱なのよ。それでみんな怖がっちゃって。まぁ、私は別によかったんだけどね。だって....」
「だって、何よ?」
「うふふ、なんでもなーい。」

 一方、1番後ろの席では桃子が機嫌悪く座っていた。

(あーあ、2年生は私呼んでくれなかったし、朱里は朱里で連絡くれなかったし、合宿中とことんいじめてやろうかしら。)

 桃子はこう見えて結構待つ女なのだ。朱里は隣の席で口を開けて寝ている。

 一方、香織の方は葛藤の最中にいた。1人で自問自答を繰り返している。

(合宿前にお酒呑むなんて何考えてるのかしら?まじぶん殴ってやりた....ダメよダメ、落ち着きなさい香織!真面目すぎないでもっとフランクに....いやでもお酒はなぁ....)

 そうこうしているうちに、バスが目的地に着いた。毎年恒例の合宿の始まりだ。


 一方その頃の貴哉はというと、まだ部屋の中で寝ていた。昨日の麻耶たちの宴に参加させられたのがだいぶ効いている。恵家たちと釣りに行く約束があるが、約束の時間までに起きる気配はない。

つづく
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