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第二章 燃え上がる日々
第八話 悲哀
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桃子は部活が終わり、家に着くと携帯で電話をかけた。相手は将紘だ。
「あいよ。」
「おい、お前貴哉に何した?」
「は?」
「今日、貴哉が鼻血ダラダラで歩いてたんだよ!」
「あぁ、お前あいつ知ってんのか。見たまんまだよ。」
「ぶち殺すぞこら!」
桃子は声を荒げる。
「おいおい、お前何ムキになってんだよ?」
「うるせぇ!なんであんなことしたんだ!?答えろ!答え次第じゃお前の金玉噛みちぎるぞこら!」
ちなみに桃子に彼氏ができないのはこういうことを平気で言うからである。
「あれはな、貴哉を試したんだ。」
「試しただと?」
「あぁ、脅かしてみたらどんな反応するか見てみたかったんだ。」
「あぁ?」
「あいつ、ああ見えてなかなか気合いの入った野郎だったよ。」
「....そもそもなんで脅かしたんだよ?」
「お披露目式に来たからだよ。」
「お、お披露目式!?あいつ、野球部なの!?」
「そうだぜ。」
桃子は言葉を失いかけるも、それでもどうにか続ける。
「お、脅すにしたって、あれは只の暴力だろうが!」
「そりゃそうだ。」
「あっさり言ってんじゃねぇよ!ぶち殺すぞ!」
「黙れこら!」
将紘が怒鳴り返した。さすがの桃子も固まる。
「いいか、よく聞け?俺が本気であいつを殺そうとしたとでも思ったか?もしそうだったらあれぐらいじゃ済まさねぇよ!」
「じゃ、じゃあ、なんで....」
「教育の一環、ってとこか。」
将紘が少々寂しそうに答えた。
「あいつはまだまだ敬語も苦手で礼儀とかも分からねぇんだ。だからよぉ、分かってもらいたくてな。」
「....」
「俺だって、あんな奴殴るのは嫌だったけど、そういう訳にはいかねぇからよ。」
「....」
「なぁ、バレー部仕切ってるお前なら、分かるだろ?」
桃子は何も言えなくなって電話を切った。彼らは自分と同じで、自分がされてきたことしか出来ないのだろう。分かっていたはずなのに、なぜこんなに辛い気持ちになるのだろうか。相手が貴哉だったからか。恐らくそれだけではない。
「お姉ちゃーん。入るよー。」
間の抜けた声が聞こえる。伯亜だ。なかなか部屋から出て来ないから心配になって見に来たのだ。
「お姉ちゃんどしたの?そんな暗い顔して?」
「伯亜、こっちおいで。」
「?」
近付いてきた伯亜を桃子は強く抱き締める。
「今日、お姉ちゃん1人で寝れそうにないんだ。だから、一緒に寝よ?」
「....うん!」
桃子はいつも落ち込んだ時は伯亜と一緒にいることにしている。
「じゃ、お風呂入ってくるね!」
「行っておいで。」
伯亜が部屋から出ていく。再び1人になった途端、涙が込み上げてきた。
「うぅ....悔しいよぉ....」
結局、自分たちも大嫌いだった先輩たちと同じことしかできない。それが何より悔しかった。
つづく
「あいよ。」
「おい、お前貴哉に何した?」
「は?」
「今日、貴哉が鼻血ダラダラで歩いてたんだよ!」
「あぁ、お前あいつ知ってんのか。見たまんまだよ。」
「ぶち殺すぞこら!」
桃子は声を荒げる。
「おいおい、お前何ムキになってんだよ?」
「うるせぇ!なんであんなことしたんだ!?答えろ!答え次第じゃお前の金玉噛みちぎるぞこら!」
ちなみに桃子に彼氏ができないのはこういうことを平気で言うからである。
「あれはな、貴哉を試したんだ。」
「試しただと?」
「あぁ、脅かしてみたらどんな反応するか見てみたかったんだ。」
「あぁ?」
「あいつ、ああ見えてなかなか気合いの入った野郎だったよ。」
「....そもそもなんで脅かしたんだよ?」
「お披露目式に来たからだよ。」
「お、お披露目式!?あいつ、野球部なの!?」
「そうだぜ。」
桃子は言葉を失いかけるも、それでもどうにか続ける。
「お、脅すにしたって、あれは只の暴力だろうが!」
「そりゃそうだ。」
「あっさり言ってんじゃねぇよ!ぶち殺すぞ!」
「黙れこら!」
将紘が怒鳴り返した。さすがの桃子も固まる。
「いいか、よく聞け?俺が本気であいつを殺そうとしたとでも思ったか?もしそうだったらあれぐらいじゃ済まさねぇよ!」
「じゃ、じゃあ、なんで....」
「教育の一環、ってとこか。」
将紘が少々寂しそうに答えた。
「あいつはまだまだ敬語も苦手で礼儀とかも分からねぇんだ。だからよぉ、分かってもらいたくてな。」
「....」
「俺だって、あんな奴殴るのは嫌だったけど、そういう訳にはいかねぇからよ。」
「....」
「なぁ、バレー部仕切ってるお前なら、分かるだろ?」
桃子は何も言えなくなって電話を切った。彼らは自分と同じで、自分がされてきたことしか出来ないのだろう。分かっていたはずなのに、なぜこんなに辛い気持ちになるのだろうか。相手が貴哉だったからか。恐らくそれだけではない。
「お姉ちゃーん。入るよー。」
間の抜けた声が聞こえる。伯亜だ。なかなか部屋から出て来ないから心配になって見に来たのだ。
「お姉ちゃんどしたの?そんな暗い顔して?」
「伯亜、こっちおいで。」
「?」
近付いてきた伯亜を桃子は強く抱き締める。
「今日、お姉ちゃん1人で寝れそうにないんだ。だから、一緒に寝よ?」
「....うん!」
桃子はいつも落ち込んだ時は伯亜と一緒にいることにしている。
「じゃ、お風呂入ってくるね!」
「行っておいで。」
伯亜が部屋から出ていく。再び1人になった途端、涙が込み上げてきた。
「うぅ....悔しいよぉ....」
結局、自分たちも大嫌いだった先輩たちと同じことしかできない。それが何より悔しかった。
つづく
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