青春〜或る少年たちの物語〜

Takaya

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第二章 燃え上がる日々

第七話 姉

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「貴哉、立てるか?」

 健治が泣いている貴哉に声をかけた。

「ひっぐ....立てる....」
「ほら、手貸せ。」

 健治は貴哉をゆっくり立ち上がらせる。さっき部室で威勢のいい冗談を言ってた時とはまるで別人になっている。貴哉の顔は酷い有り様だ。鼻が潰れているかもしれない。さすがに今回は保健室に連れて行くことにした。
 裏門から入り、部室棟の辺りに差し掛かる。すると、部室から出てきた女子バレー部に遭遇した。桃子と麻耶、そして明良が貴哉に駆け寄る。

「貴哉!どうしたの!?」
「うぅ....」

 貴哉は泣きそうになりながら俯くだけだ。

「ねぇ、恭典!和人!貴哉に何があったの!?」

 麻耶も半ば涙目で問いただす。

「3年にやられたんだよ。」
「3年ですって?」

 恭典が答えると桃子の眉がピクリと動く。

「3年の誰よ?」
「祐士先輩と将紘先輩ですよ。取り敢えず、見ての通り一刻を争う事態なんで。」

 恵弥はそう答えると歩きだし、他もそれに従う。そうこうしているうちに保健室に到着し、手当てをしてもらう。幸い、鼻は折れていないようだ。
 その後、貴哉の母が迎えに来ることになり、そのまま解散した。ちなみに母には階段から転んだことにして説明した。

「ちくしょう....ちくしょう....」
 
 その日の夜、貴哉は自室のベットの中で泣いていた。母と麻耶もそっとしてあげている。しばらくして、携帯がなった。春樹からだ。

「まだ起きてたか?」
「うん。」
「今日のことは、なんていうか、仕方ないってのはなんか違うな、その、なんていうか、あぁ、そうだ。実は俺らも昔は似たようなことされたんだ。だから野球部にとっては通過儀礼みたいなもんだ。」
「通過儀礼?」
「あぁ、お前、頭いいから分かるだろ?」
「だからさ、早く元気になっていつものお前見せてくれよ。」

 春樹との会話はそれで終わった。そして、次々に電話がかかってきた(なお、口下手の奏はメールで「早く元気になれ」とだけ送ってきた)。似たり寄ったりの内容だったが、どれも貴哉のことを心から心配していた。だが、貴哉はやっぱり悔しい。

「入るわよー。」

 ノックして隣の部屋から麻耶が入ってきた。

「あんた、何そんなにしょげてんのよ?」
「だって....」
「だってじゃない!くよくよしてたって前に進めないでしょうが!」
「うぅ....でもぉ....」
「あー!もう!イライラする!顔怪我してなかったらぶん殴ってるわよ!」

 麻耶は貴哉が近付いて携帯を取り上げ、着信履歴を確認する。

「あんたね、あんたの為に友達がこんなに電話してくれてんのよ!みんなあんたを心配してんのよ!だからせめて、みんなの前では嘘でも大丈夫そうにしなさいよ!」
「…」
「そうしてれば、いつか本当に大丈夫になるんだから!」
「....うぅ、お姉ちゃん....」

 ちなみに普段、貴哉は麻耶を呼び捨てにしている。お姉ちゃんと呼ぶのは、何か裏がある時か今みたいに落ち込んでいる時だ。

 その時、貴哉の着信音がなった。メールだ。差出人は恵弥だ。

「さっき春樹から聞いたよ。
    お前、俺たちと一緒に熱い青春を過ごすって言ってたって? 
    だったら、いつまでもあんなことでへこむなよ。
    そんなんじゃ、俺たちに追いてかれちまうぜ?
    今日は一杯泣いていいから、明日からまた、熱い青春、突っ走ろうぜ!」

 貴哉の目から涙が溢れる。しかし、さっきまでの悔し涙とは違うのは明らかだ。

(この調子じゃ大丈夫そうね....)

 麻耶は自分の部屋に戻り、ベットの上に転がる。

(嘘でも大丈夫そうにしてろ、か。朱里先輩もかっこいいこと言うなぁ。)

 この言葉、実は先日のトイレ事件の時に朱里が麻耶に送った言葉だ。

(でも、やっぱり....1番は桃子先輩だよねぇ。あぁ、早く桃子先輩とチューしたいなぁ....)

 麻耶がムラムラしはじめた時、麻耶の携帯の着信音が鳴る。差出人は鈴美だ。一斉送信でバレー部の2年生に送ってきている。

「今日の香織、どう思う?」

 麻耶はこう返した。

「どうも何も最悪よ!あんな腐れ×××、早く死ねばいいのよ!」

 しばらくして、真咲からも届いた。

「あんなブサイクぶっ殺してやりたいわ。」

 麗子からも返信してる。

「1年の癖して生意気よね!あいつの毛燃やしましょうよ!」

 かなり険悪ムードだ。

(ふん、あの腐れ×××!)

  香織への悪口大会は夜中まで繰り広げられた。

つづく

 


 
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