青春〜或る少年たちの物語〜

Takaya

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第一章 それぞれの出逢い

第十話 女たちの放課後

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 貴哉が恭典たちに野球部の部室へ連行されて行ったのと同じ頃、女子トイレでは香織たちが着替えていた。これから部活だ。

「あーぁ、私トイレで着替えるの嫌なんだけどな」
「しょうがねぇだろ、1年が部室で着替えていいのは月曜日だけなんだから。」

 今明良が答えたように、女子バレー部には徹底した、というより過剰な上下関係がある。

「あぁ、もう、ほんと、馬鹿なんじゃないかしら。」
「ちょっと香織、聞かれたヤバいからそろそろやめなよ。」

 隣にいた麗花が言う。

「ちゃんとしてれば、先輩たちだって優しいし、何より3年間平和に過ごせるんだから。」
(何が平和に過ごせるんだっての、)

 香織は心の中で毒づく。この木下 麗花きのした れいかと、今この場にはいない真北小出身の2人は、バレー部の2年生に姉がいる。彼女らがバレー部に入ったのは姉たちの庇護下にいたいからだろう。そう香織は勝手に思ってる。
 というのも、伊志凪ではある頃から「男の不良は野球部、女の不良はバレー部」と言われるほど、バレー部には不良が多かった。経緯は野球部と似たようなことが原因だが、まだ幸いにも暴力沙汰も起こっておらず、出場停止処分にもなってないし、今でも県でベスト8になるなど実績も残している。部活として成立してるあたり、野球部よりかはマシだろう。

 香織は不良としての権力を求めてる訳ではなく、ただ純粋にバレーがしたいだけだ。だからこそ、偉そうな先輩たちと、それに媚びる同級生らには腹が立つ。
 特に、麗花にはより一層だ。小学校の頃から同じチームでプレイしてきたからこそ分かるが、麗花はよく姉の麗子の言うことを聞かずに泣かされていた。時にはただの意地悪で泣かされていた。その度に香織は庇ってきた。それなのに、今は麗子に何も言い返さなくなっ上に、ずっとへらへら笑っている。それが許せないのだ。

「香織、どうしたんだよ、怖い顔して?」
「あぁ、明良、ごめん、なんでもない。」

 明良は中学から始めて初心者だ。それ故、練習中は人1倍真面目に取り組んでいるし、不良になりそうにもない。だからこそ香織は今のバレー部で唯一、明良だけを信用している。

「さっ、行こ!」
 
 麗花に促され、トイレから出て部室に向かって歩いて行った。途中、同じクラスの恵弥たちが先輩らと揉めているのを見かけた。

(あんな野球部と同列されてるなんて嫌だわ。バレー部は私が変えてやる。)

 香織の決意は固い。

つづく

 
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