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第19話
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ズブ濡れで家に帰った俺は、
「おい和馬、腹が減ったぞ」
と急かすほたるを無視してシャワーを浴びる。
いつもどおりに散らかった部屋。脱ぎ捨てられた下着。今日の色は薄桃色か、なんて落ち着いていられるのは、ほたるがいる生活に慣れてきているのだろうか。
「和馬、早く、飯だって!」
奥の部屋からほたるが乱暴に叫ぶ。俺はジャージズボンにTシャツを着て髪を乾かし、冷蔵庫を開けた。ソーセージとレタスと玉子は常備されてる。作るメニューはこれしかないか。
「今日はゲームやらないのか?」
ほたるは熱々のレタスチャーハンをがっつきながら聞いてくるが、俺には半分聞こえていない。
それよりも高嶋千夏……アイツとは高校の時も大して喋ったことないし、そもそも学年が違ったんだからな。なのにゲーセンでいきなり馴れ馴れしく、人懐こく近寄ってきて、俺なんかすっかり忘れてたのに。
「なあ和馬。そういえば明日はパフェの日らしいぞ、深夜のテレビで見た」
パフェ……スイートパフェ杯。千夏もエントリーしてて「わたしが勝ったらデートしてください」なんて、アイツどういうつもりだよ。
千夏の言ったことは、あれは高感度MAXのセリフだよな。まるで「エロゲ展開に突入する一歩手前の前兆」みたいじゃないか。
突然再会して突然こんな展開なんて、本当にゲームみたいだ。どこでフラグが立ってたんだ? ゲーセンでばったり会った時か?
「あたしパフェって食べたことがないんだよ。苺とかメロンとか乗ってるんだろ? 生クリームにアイスにフルーツソースに……」
ほたるはスプーンを使って、チャーハンの残りをパフェのように盛り付けだした。小高く盛ったご飯にレタスとソーセージを飾り付けてから、チャーハンパフェを食べ始める。
だが待てよ。もしかしたら俺の勘違いかもしれん。デートといっても「一緒にゲーセンで遊びましょう」みたいな誘いなんじゃないか? アイツはそれを「デート」と言っているだけなんじゃないか?
「和馬のレストランにもパフェあるんだろ?」
俺の頭の中に、あの時の会話がリプレイされる。
――彼氏なんていませんよ~。好きな人はいますけど。
――じゃあそいつとデートすればいいだろ。
――だから誘ってます。
彼氏はいないけど、好きな人はいる。そいつとデートしたいから誘ってます。その相手が、俺なのか?
うそん。
「おい和馬、聞いてるのかよ」
「あ、ああ。なんだよ」
レタスチャハーンを食べ終わったほたるが、空の皿をスプーンでカチカチ叩く。やめなさい、行儀が悪い。
「和馬のレストランでパフェが食べたい」
「は?」
どういう流れだ。どうしてマリヲカートの『スイートパフェ杯』から、「俺のレストランでパフェが食べたい」に発展するんだ?
「あるんだろ? パフェ」
「あるにはある。しかもデザートは俺が唯一作らせてもらえるメニューだが」
ほたるが来るのはマズいぞ。非常にマズい。
レストランには光莉先輩がいるんだ。コイツが余計なことを言い出したら困る。俺にはどうなるか予想できるぞ。きっとこうなるんだ。
ほたるがパフェを注文して「アイツに作らせろ」と言う。
光莉先輩が「和馬くんのお知り合いですか?」と尋ねる。
ほたるは「あたしは和馬と同棲してるエロゲのヒロインだ」となる。
これはいろいろとカオスだ。混沌なるカオスだ。同じ意味だが。
「パフェが食べたいなら、近くにあるロイヤルフォレストに連れてってやるから」
おとなしい服装で、目立たないようになら。
「あたしは和馬が作ったパフェが食べたいんだ」
「わがまま言うなよ。たしかにデザートは俺が担当してるけど」
「ケチ!」
「ケチじゃない、ほたると一緒に暮らしてるのは内緒なんだって」
「どうしてだよ」
「それは……お店の人たちに知られたくないんだよ」
特に、光莉先輩には。
「好きな子にバレたくないとか?」
「ちちちちげーよ!」
コイツは俺の頭の中を読んだのか? あまりにタイミングのいいツッコミに、俺はムキになって否定してしまった。俺が焦ってるのに気付いたのか、ほたるはムスっと顔をしかめる。
「バカ!」
「なぜバカ!?」
「和馬のバカ。バ和馬!」
「また新しい名前が増えた!?」
ほたるはそれ以上は何も言わなくなった。ちぇ、なんだよ。最近コイツ、感情の起伏が激しいぞ。
今日はゲームで勝負をする雰囲気ではなくなってしまったので、俺はレタスチャーハンをもう一つ作りテーブルに運ぶ。ほたるは無言でテレビを観ていた。俺のチャーハンには見向きもしない。いつもなら「あたしも食べる」とか言ってくるのに。
テレビの通販番組では、ダイエット機具の特集が流れていた。お手軽エクササイズとか、全身のシェイプアップだとか、ほたるには関係ないであろう商品がスペシャルプライスで限定販売なんだと。
それ、観てるのか? お前には必要ないだろ。
とは言えない俺は、明日から始まるマリヲカートのイベント「スイートパフェ杯」の練習でもするかと、ポータブルゲーム機の電源を入れた。
「おい和馬、腹が減ったぞ」
と急かすほたるを無視してシャワーを浴びる。
いつもどおりに散らかった部屋。脱ぎ捨てられた下着。今日の色は薄桃色か、なんて落ち着いていられるのは、ほたるがいる生活に慣れてきているのだろうか。
「和馬、早く、飯だって!」
奥の部屋からほたるが乱暴に叫ぶ。俺はジャージズボンにTシャツを着て髪を乾かし、冷蔵庫を開けた。ソーセージとレタスと玉子は常備されてる。作るメニューはこれしかないか。
「今日はゲームやらないのか?」
ほたるは熱々のレタスチャーハンをがっつきながら聞いてくるが、俺には半分聞こえていない。
それよりも高嶋千夏……アイツとは高校の時も大して喋ったことないし、そもそも学年が違ったんだからな。なのにゲーセンでいきなり馴れ馴れしく、人懐こく近寄ってきて、俺なんかすっかり忘れてたのに。
「なあ和馬。そういえば明日はパフェの日らしいぞ、深夜のテレビで見た」
パフェ……スイートパフェ杯。千夏もエントリーしてて「わたしが勝ったらデートしてください」なんて、アイツどういうつもりだよ。
千夏の言ったことは、あれは高感度MAXのセリフだよな。まるで「エロゲ展開に突入する一歩手前の前兆」みたいじゃないか。
突然再会して突然こんな展開なんて、本当にゲームみたいだ。どこでフラグが立ってたんだ? ゲーセンでばったり会った時か?
「あたしパフェって食べたことがないんだよ。苺とかメロンとか乗ってるんだろ? 生クリームにアイスにフルーツソースに……」
ほたるはスプーンを使って、チャーハンの残りをパフェのように盛り付けだした。小高く盛ったご飯にレタスとソーセージを飾り付けてから、チャーハンパフェを食べ始める。
だが待てよ。もしかしたら俺の勘違いかもしれん。デートといっても「一緒にゲーセンで遊びましょう」みたいな誘いなんじゃないか? アイツはそれを「デート」と言っているだけなんじゃないか?
「和馬のレストランにもパフェあるんだろ?」
俺の頭の中に、あの時の会話がリプレイされる。
――彼氏なんていませんよ~。好きな人はいますけど。
――じゃあそいつとデートすればいいだろ。
――だから誘ってます。
彼氏はいないけど、好きな人はいる。そいつとデートしたいから誘ってます。その相手が、俺なのか?
うそん。
「おい和馬、聞いてるのかよ」
「あ、ああ。なんだよ」
レタスチャハーンを食べ終わったほたるが、空の皿をスプーンでカチカチ叩く。やめなさい、行儀が悪い。
「和馬のレストランでパフェが食べたい」
「は?」
どういう流れだ。どうしてマリヲカートの『スイートパフェ杯』から、「俺のレストランでパフェが食べたい」に発展するんだ?
「あるんだろ? パフェ」
「あるにはある。しかもデザートは俺が唯一作らせてもらえるメニューだが」
ほたるが来るのはマズいぞ。非常にマズい。
レストランには光莉先輩がいるんだ。コイツが余計なことを言い出したら困る。俺にはどうなるか予想できるぞ。きっとこうなるんだ。
ほたるがパフェを注文して「アイツに作らせろ」と言う。
光莉先輩が「和馬くんのお知り合いですか?」と尋ねる。
ほたるは「あたしは和馬と同棲してるエロゲのヒロインだ」となる。
これはいろいろとカオスだ。混沌なるカオスだ。同じ意味だが。
「パフェが食べたいなら、近くにあるロイヤルフォレストに連れてってやるから」
おとなしい服装で、目立たないようになら。
「あたしは和馬が作ったパフェが食べたいんだ」
「わがまま言うなよ。たしかにデザートは俺が担当してるけど」
「ケチ!」
「ケチじゃない、ほたると一緒に暮らしてるのは内緒なんだって」
「どうしてだよ」
「それは……お店の人たちに知られたくないんだよ」
特に、光莉先輩には。
「好きな子にバレたくないとか?」
「ちちちちげーよ!」
コイツは俺の頭の中を読んだのか? あまりにタイミングのいいツッコミに、俺はムキになって否定してしまった。俺が焦ってるのに気付いたのか、ほたるはムスっと顔をしかめる。
「バカ!」
「なぜバカ!?」
「和馬のバカ。バ和馬!」
「また新しい名前が増えた!?」
ほたるはそれ以上は何も言わなくなった。ちぇ、なんだよ。最近コイツ、感情の起伏が激しいぞ。
今日はゲームで勝負をする雰囲気ではなくなってしまったので、俺はレタスチャーハンをもう一つ作りテーブルに運ぶ。ほたるは無言でテレビを観ていた。俺のチャーハンには見向きもしない。いつもなら「あたしも食べる」とか言ってくるのに。
テレビの通販番組では、ダイエット機具の特集が流れていた。お手軽エクササイズとか、全身のシェイプアップだとか、ほたるには関係ないであろう商品がスペシャルプライスで限定販売なんだと。
それ、観てるのか? お前には必要ないだろ。
とは言えない俺は、明日から始まるマリヲカートのイベント「スイートパフェ杯」の練習でもするかと、ポータブルゲーム機の電源を入れた。
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