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第10話
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ナノはクレイモアでオーガの攻撃を捌き、アオイは俊敏に動き回りながら隙を見てレイピアで斬りかかる。
「ナノ騎士長、うしろです!」
「任せろ!」
なんとか渡り合ってるのはこの二人くらいで、他の騎士たちはオーガの怪力に押されて徐々に後退し始めた。
「やはり訓練が足りておらんようですな。このままでは犠牲者が出ますぞ」
アリエテ大臣がわかったようなことを言う。まあ黙って見てなよ、戦の天才・マーヤ様の戦いを、さ。
「そろそろですね」
と、マーヤさんの声。やっぱり何か狙ってますね?
「騎士団は散開してください。手筈通りに」
号令一下。ナノやアオイ、他の騎士たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。オーガに背中を向け、一目散に走る。
「バラバラに逃げては危険ですぞ」
だからジイさん、黙って見てろって。
逃げ惑う騎士団の中には戦士がいない。なるほどね、そういう作戦か。
「みな走れ! 脇目もふらずに走れ!」
ナノの声が戦場に響く。
「追いつかれたらやられちゃうよ! 走れ、走れー!」
二匹のオーガに追われてアオイが叫ぶ。
騎士団の装備は魔法のローブに軽量化された鉄の鎧で、身が軽い。対してパワー系のオーガは分厚い筋肉を揺らしているので足が遅い。
追ってくるオーガ、逃げる騎士たち。それが次第にひと塊になって走り、追いかけるオーガもいつの間にかスタート直後のマラソンランナーのように密集してきた。
ナノが、アオイが、騎士たちが向かう先には……
「素晴らしい統率だ、さすがマーヤさん」
斧槍ハルバードを構える戦士の姿。
オーガに追われる騎士たちは、戦士の横をすり抜けるようにして通り過ぎていく。騎士を追うオーガの群れが、何も知らずに戦士に突進してくる。
オーガたちは、見事に罠にかかった。
「戦士様、お願いします」
「おう!」
戦士が大きくハルバードを振りかぶると、尖端の斧の部分が赤く発光する。これが、戦士の究極にして最高の技――
「剛閃・万物両断!」
不気味な風切り音を立てて薙いだハルバードから、一文字の衝撃波が走りオーガの集団に炸裂した。
文字どおり、すべてを両断する一振り。オーガが持つ槍も、分厚い筋肉も、前方一帯を綺麗さっぱり破断する衝撃波に飲み込まれて、獣人オーガの群れは一匹残らず力尽きた。
「あ、あれが勇者様の言っていた……」
「戦士様の必殺技!」
ナノもアオイも目を丸くして驚いている。そりゃそうだ、あんな技ができるのは戦士くらいなもんだろう。あ、オレの技のほうがすごいけどね。
「なんと! わざと逃げて敵を集め、戦士殿の一撃で勝負を決めてしまうとは」
どうだジイさん、驚いただろ。戦士の技にも、マーヤの作戦にもな。
「各個に戦えば必ず犠牲者が出ます。戦士さん一人では全員を守りきれませんから」
「それでまとめて倒す作戦を。マーヤ殿は策士ですな」
そうさ、マーヤの作戦はいつも完璧だ。あいつは剣を取って戦うことはできないが、あいつの「頭脳」という刃にはどんな武器も敵わない。
オレの賢者様は有能なんだよ。
と、オーブから微かに「チッ」と舌を鳴らす音が聞こえた。誰だよ、舌打ちしたのは。
オーガの群れを片付けたら、次は鳥翼族の魔物だ。
「続けて来ます、鳥翼族の集団。旧アリエテ兵団はパインちゃんを先頭に迎撃してください」
ここもマーヤの指示でパインと旧アリエテ兵団(男兵士たち)が動き出す。今度はパインが先頭か、空の魔物相手にどうやって戦うのかな。
上空から飛来する鳥翼族のヘルコンドルとアリエテバード。どっちも飛行に長けた魔物で、
「うわっ!」
アリエテ兵たちはヘルコンドルが吐き出す炎のブレスに煽られて逃げ惑う。さらにアリエテバードが巨大な翼で旋風を巻き起こし、突風に巻かれて兵士たちが転げまわった。
「あっちはどうですかの。この国の兵士は伝統のアリエテ剣術しか使える者がおりませぬ。空中の魔物には手も足も出ませんぞ」
ジイさんよ、実況解説はいらないって。あんなブレス攻撃や飛行能力は、マーヤにとってはブンブンうるさい蠅みたいなもんだ。
「アリエテ剣術は、斬り上げる型が基本ですよね。ですから……」
マーヤの指令で、アリエテ兵団の男たちが大剣クレイモアを構える。刃先を地面スレスレに落とし、剣には鞘を付けたままだ。
「鞘を付けたまま? 何をなさるおつもりで」
ははぁ、なるほどな。だから鳥翼族には旧アリエテ兵団とパインを向かわせたのか。
兵士が一人、クレイモアを大仰に振り上げた。鞘ごと天を斬るような大剣の切っ先に、パインが足を合わせる。と――
「飛んだ!?」
驚いているのはジイさんと、剣を振った兵士だ。クレイモアを振り上げるタイミングで切っ先に乗り、武闘家パインは小柄な身体をバネのように伸ばし、空高く跳ね上がった。
パインが空中で魔物を捉えた。必殺の蹴りが、ヘルコンドルの首の付け根にクリティカルヒット。
「ギュへ!」
と奇声を漏らしたヘルコンドルが、身体を「くの字」に折り曲げて地面に落下。あれはすでに息絶えているな。
空中を旋回しながら着地したパインは、次の兵士が振り上げるクレイモアに乗って再び空へ。アリエテバードが巻き起こす旋風をものともせず、ゴキャっという音と共に二匹目を仕留めた。
「なんと、アリエテ剣術をあのように利用するとは。マーヤ殿、そなたは戦の天才か!」
「私は剣を手に魔物と戦うことはできません。魔力にも限界がありますし、強力な魔法は味方にも被害が及びます」
パインが次々と、面白いように鳥翼族を蹴り落としていく。最後の一匹になったアリエテバードは本能で敵わぬと悟った様子で慌てて逃げていった。
「ということは、マーヤ殿にとっては城壁が戦場だと?」
「ええ。そういうことです。そして、私に出来ないことが彼には出来ます」
雑魚敵を一掃したところで、魔物たちのリーダー格・オーガロードがアーマードラゴンに跨って城へと飛来。オレの頭上でドラゴンがはばたいた。
「しまった、デカいやつが城に」
オーブから戦士の声。
「ん~、でもあそこにゆ~ちゃんがいるから大丈夫だよ」
パインはわかってるな。そう、今度はオレの出番だ。
「ナノ騎士長、うしろです!」
「任せろ!」
なんとか渡り合ってるのはこの二人くらいで、他の騎士たちはオーガの怪力に押されて徐々に後退し始めた。
「やはり訓練が足りておらんようですな。このままでは犠牲者が出ますぞ」
アリエテ大臣がわかったようなことを言う。まあ黙って見てなよ、戦の天才・マーヤ様の戦いを、さ。
「そろそろですね」
と、マーヤさんの声。やっぱり何か狙ってますね?
「騎士団は散開してください。手筈通りに」
号令一下。ナノやアオイ、他の騎士たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。オーガに背中を向け、一目散に走る。
「バラバラに逃げては危険ですぞ」
だからジイさん、黙って見てろって。
逃げ惑う騎士団の中には戦士がいない。なるほどね、そういう作戦か。
「みな走れ! 脇目もふらずに走れ!」
ナノの声が戦場に響く。
「追いつかれたらやられちゃうよ! 走れ、走れー!」
二匹のオーガに追われてアオイが叫ぶ。
騎士団の装備は魔法のローブに軽量化された鉄の鎧で、身が軽い。対してパワー系のオーガは分厚い筋肉を揺らしているので足が遅い。
追ってくるオーガ、逃げる騎士たち。それが次第にひと塊になって走り、追いかけるオーガもいつの間にかスタート直後のマラソンランナーのように密集してきた。
ナノが、アオイが、騎士たちが向かう先には……
「素晴らしい統率だ、さすがマーヤさん」
斧槍ハルバードを構える戦士の姿。
オーガに追われる騎士たちは、戦士の横をすり抜けるようにして通り過ぎていく。騎士を追うオーガの群れが、何も知らずに戦士に突進してくる。
オーガたちは、見事に罠にかかった。
「戦士様、お願いします」
「おう!」
戦士が大きくハルバードを振りかぶると、尖端の斧の部分が赤く発光する。これが、戦士の究極にして最高の技――
「剛閃・万物両断!」
不気味な風切り音を立てて薙いだハルバードから、一文字の衝撃波が走りオーガの集団に炸裂した。
文字どおり、すべてを両断する一振り。オーガが持つ槍も、分厚い筋肉も、前方一帯を綺麗さっぱり破断する衝撃波に飲み込まれて、獣人オーガの群れは一匹残らず力尽きた。
「あ、あれが勇者様の言っていた……」
「戦士様の必殺技!」
ナノもアオイも目を丸くして驚いている。そりゃそうだ、あんな技ができるのは戦士くらいなもんだろう。あ、オレの技のほうがすごいけどね。
「なんと! わざと逃げて敵を集め、戦士殿の一撃で勝負を決めてしまうとは」
どうだジイさん、驚いただろ。戦士の技にも、マーヤの作戦にもな。
「各個に戦えば必ず犠牲者が出ます。戦士さん一人では全員を守りきれませんから」
「それでまとめて倒す作戦を。マーヤ殿は策士ですな」
そうさ、マーヤの作戦はいつも完璧だ。あいつは剣を取って戦うことはできないが、あいつの「頭脳」という刃にはどんな武器も敵わない。
オレの賢者様は有能なんだよ。
と、オーブから微かに「チッ」と舌を鳴らす音が聞こえた。誰だよ、舌打ちしたのは。
オーガの群れを片付けたら、次は鳥翼族の魔物だ。
「続けて来ます、鳥翼族の集団。旧アリエテ兵団はパインちゃんを先頭に迎撃してください」
ここもマーヤの指示でパインと旧アリエテ兵団(男兵士たち)が動き出す。今度はパインが先頭か、空の魔物相手にどうやって戦うのかな。
上空から飛来する鳥翼族のヘルコンドルとアリエテバード。どっちも飛行に長けた魔物で、
「うわっ!」
アリエテ兵たちはヘルコンドルが吐き出す炎のブレスに煽られて逃げ惑う。さらにアリエテバードが巨大な翼で旋風を巻き起こし、突風に巻かれて兵士たちが転げまわった。
「あっちはどうですかの。この国の兵士は伝統のアリエテ剣術しか使える者がおりませぬ。空中の魔物には手も足も出ませんぞ」
ジイさんよ、実況解説はいらないって。あんなブレス攻撃や飛行能力は、マーヤにとってはブンブンうるさい蠅みたいなもんだ。
「アリエテ剣術は、斬り上げる型が基本ですよね。ですから……」
マーヤの指令で、アリエテ兵団の男たちが大剣クレイモアを構える。刃先を地面スレスレに落とし、剣には鞘を付けたままだ。
「鞘を付けたまま? 何をなさるおつもりで」
ははぁ、なるほどな。だから鳥翼族には旧アリエテ兵団とパインを向かわせたのか。
兵士が一人、クレイモアを大仰に振り上げた。鞘ごと天を斬るような大剣の切っ先に、パインが足を合わせる。と――
「飛んだ!?」
驚いているのはジイさんと、剣を振った兵士だ。クレイモアを振り上げるタイミングで切っ先に乗り、武闘家パインは小柄な身体をバネのように伸ばし、空高く跳ね上がった。
パインが空中で魔物を捉えた。必殺の蹴りが、ヘルコンドルの首の付け根にクリティカルヒット。
「ギュへ!」
と奇声を漏らしたヘルコンドルが、身体を「くの字」に折り曲げて地面に落下。あれはすでに息絶えているな。
空中を旋回しながら着地したパインは、次の兵士が振り上げるクレイモアに乗って再び空へ。アリエテバードが巻き起こす旋風をものともせず、ゴキャっという音と共に二匹目を仕留めた。
「なんと、アリエテ剣術をあのように利用するとは。マーヤ殿、そなたは戦の天才か!」
「私は剣を手に魔物と戦うことはできません。魔力にも限界がありますし、強力な魔法は味方にも被害が及びます」
パインが次々と、面白いように鳥翼族を蹴り落としていく。最後の一匹になったアリエテバードは本能で敵わぬと悟った様子で慌てて逃げていった。
「ということは、マーヤ殿にとっては城壁が戦場だと?」
「ええ。そういうことです。そして、私に出来ないことが彼には出来ます」
雑魚敵を一掃したところで、魔物たちのリーダー格・オーガロードがアーマードラゴンに跨って城へと飛来。オレの頭上でドラゴンがはばたいた。
「しまった、デカいやつが城に」
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