上 下
11 / 13

第10話

しおりを挟む
 ナノはクレイモアでオーガの攻撃を捌き、アオイは俊敏に動き回りながら隙を見てレイピアで斬りかかる。

「ナノ騎士長、うしろです!」

「任せろ!」

 なんとか渡り合ってるのはこの二人くらいで、他の騎士たちはオーガの怪力に押されて徐々に後退し始めた。

「やはり訓練が足りておらんようですな。このままでは犠牲者が出ますぞ」

 アリエテ大臣がわかったようなことを言う。まあ黙って見てなよ、戦の天才・マーヤ様の戦いを、さ。

「そろそろですね」

 と、マーヤさんの声。やっぱり何か狙ってますね?

「騎士団は散開してください。手筈通りに」

 号令一下。ナノやアオイ、他の騎士たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。オーガに背中を向け、一目散に走る。

「バラバラに逃げては危険ですぞ」

 だからジイさん、黙って見てろって。

 逃げ惑う騎士団の中には戦士がいない。なるほどね、そういう作戦か。

「みな走れ! 脇目もふらずに走れ!」

 ナノの声が戦場に響く。

「追いつかれたらやられちゃうよ! 走れ、走れー!」

 二匹のオーガに追われてアオイが叫ぶ。

 騎士団の装備は魔法のローブに軽量化された鉄の鎧で、身が軽い。対してパワー系のオーガは分厚い筋肉を揺らしているので足が遅い。
 追ってくるオーガ、逃げる騎士たち。それが次第にひと塊になって走り、追いかけるオーガもいつの間にかスタート直後のマラソンランナーのように密集してきた。

 ナノが、アオイが、騎士たちが向かう先には……

「素晴らしい統率だ、さすがマーヤさん」

 斧槍ハルバードを構える戦士の姿。

 オーガに追われる騎士たちは、戦士の横をすり抜けるようにして通り過ぎていく。騎士を追うオーガの群れが、何も知らずに戦士に突進してくる。

 オーガたちは、見事に罠にかかった。

「戦士様、お願いします」

「おう!」

 戦士が大きくハルバードを振りかぶると、尖端の斧の部分が赤く発光する。これが、戦士の究極にして最高の技――

「剛閃・万物両断!」

 不気味な風切り音を立てて薙いだハルバードから、一文字の衝撃波が走りオーガの集団に炸裂した。

 文字どおり、すべてを両断する一振り。オーガが持つ槍も、分厚い筋肉も、前方一帯を綺麗さっぱり破断する衝撃波に飲み込まれて、獣人オーガの群れは一匹残らず力尽きた。

「あ、あれが勇者様の言っていた……」

「戦士様の必殺技!」

 ナノもアオイも目を丸くして驚いている。そりゃそうだ、あんな技ができるのは戦士くらいなもんだろう。あ、オレの技のほうがすごいけどね。

「なんと! わざと逃げて敵を集め、戦士殿の一撃で勝負を決めてしまうとは」

 どうだジイさん、驚いただろ。戦士の技にも、マーヤの作戦にもな。

「各個に戦えば必ず犠牲者が出ます。戦士さん一人では全員を守りきれませんから」

「それでまとめて倒す作戦を。マーヤ殿は策士ですな」

 そうさ、マーヤの作戦はいつも完璧だ。あいつは剣を取って戦うことはできないが、あいつの「頭脳」という刃にはどんな武器も敵わない。

 オレの賢者様は有能なんだよ。

 と、オーブから微かに「チッ」と舌を鳴らす音が聞こえた。誰だよ、舌打ちしたのは。

 オーガの群れを片付けたら、次は鳥翼族の魔物だ。

「続けて来ます、鳥翼族の集団。旧アリエテ兵団はパインちゃんを先頭に迎撃してください」

 ここもマーヤの指示でパインと旧アリエテ兵団(男兵士たち)が動き出す。今度はパインが先頭か、空の魔物相手にどうやって戦うのかな。

 上空から飛来する鳥翼族のヘルコンドルとアリエテバード。どっちも飛行に長けた魔物で、

「うわっ!」

 アリエテ兵たちはヘルコンドルが吐き出す炎のブレスに煽られて逃げ惑う。さらにアリエテバードが巨大な翼で旋風を巻き起こし、突風に巻かれて兵士たちが転げまわった。

「あっちはどうですかの。この国の兵士は伝統のアリエテ剣術しか使える者がおりませぬ。空中の魔物には手も足も出ませんぞ」

 ジイさんよ、実況解説はいらないって。あんなブレス攻撃や飛行能力は、マーヤにとってはブンブンうるさいはえみたいなもんだ。

「アリエテ剣術は、斬り上げる型が基本ですよね。ですから……」

 マーヤの指令で、アリエテ兵団の男たちが大剣クレイモアを構える。刃先を地面スレスレに落とし、剣には鞘を付けたままだ。

「鞘を付けたまま? 何をなさるおつもりで」

 ははぁ、なるほどな。だから鳥翼族には旧アリエテ兵団とパインを向かわせたのか。

 兵士が一人、クレイモアを大仰に振り上げた。鞘ごと天を斬るような大剣の切っ先に、パインが足を合わせる。と――

「飛んだ!?」

 驚いているのはジイさんと、剣を振った兵士だ。クレイモアを振り上げるタイミングで切っ先に乗り、武闘家パインは小柄な身体をバネのように伸ばし、空高く跳ね上がった。

 パインが空中で魔物を捉えた。必殺の蹴りが、ヘルコンドルの首の付け根にクリティカルヒット。

「ギュへ!」

 と奇声を漏らしたヘルコンドルが、身体を「くの字」に折り曲げて地面に落下。あれはすでに息絶えているな。

 空中を旋回しながら着地したパインは、次の兵士が振り上げるクレイモアに乗って再び空へ。アリエテバードが巻き起こす旋風をものともせず、ゴキャっという音と共に二匹目を仕留めた。

「なんと、アリエテ剣術をあのように利用するとは。マーヤ殿、そなたは戦の天才か!」

「私は剣を手に魔物と戦うことはできません。魔力にも限界がありますし、強力な魔法は味方にも被害が及びます」

 パインが次々と、面白いように鳥翼族を蹴り落としていく。最後の一匹になったアリエテバードは本能で敵わぬと悟った様子で慌てて逃げていった。

「ということは、マーヤ殿にとっては城壁ここが戦場だと?」

「ええ。そういうことです。そして、私に出来ないことが彼には出来ます」

 雑魚敵を一掃したところで、魔物たちのリーダー格・オーガロードがアーマードラゴンにまたがって城へと飛来。オレの頭上でドラゴンがはばたいた。

「しまった、デカいやつが城に」

 オーブから戦士の声。

「ん~、でもあそこにゆ~ちゃんがいるから大丈夫だよ」

 パインはわかってるな。そう、今度はオレの出番だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...