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第七十五話 本当の僕
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「え……!」
僕の腰に両腕を回して、僕の顎の下に顔を埋める修子が、力いっぱい、目一杯、僕を抱きしめていた。
「なにしてるの!?」
人目もはばからず、そのちっこい身体を密着させる。
「大丈夫だ、イツキならやれる。絶対に勝てる」
「ちょっと修子、恥ずかしいから離れてよ」
これじゃあまるで、戦地へ赴く兵士を送り出す恋人みたいなじゃい。生きて帰ってきてね、待ってるわ――みたいな展開、変なフラグが立ちそうで嫌なんですけど。
ああもう、ペタンコな胸を押し付けないでよ。僕の太ももを股で挟み込まないでよ、感触が……くすぐったい!
困惑する僕を、修子は「にししっ」と見上げる。
「どうだ、ドキドキするか?」
「当たり前でしょ! こんな時に発情しないでよ」
「エッチな気分になったか?」
「なるわけないでしょ! だいたい僕は……」
ようやく僕は、発情したエロ娘を引き剥がした。
「イツキ。この世界のバズリティーは、ブロガーの個性を読みとってる。本当の自分を隠していたらバズリティーは出て来ないんじゃないか?」
突然どうしたのさ。
「だから今までイツキのバズリティーは出て来なかった。イツキに個性がないからじゃなくて、イツキがみんなに、自分に、嘘をついていたからだ」
僕がバズリティーを出せたのは一度だけ。あの時は修子が襲われて、暴漢の男が許せなくて、ふと我を忘れた。
あれ以来何度か『buzzlity』を起動させてみたけど、やっぱり僕のバズリティーは出て来ない。
それは僕が「本当の自分」を隠しているから……?
この学園でも、ブログの中でも、僕は本当の僕じゃない。僕はみんなに嘘をついている。
「もう隠さなくていいんじゃないか? 本当のイツキを出していいんじゃないか?」
修子の目は優しかった。僕を責めているんじゃなくて、僕を待ってくれているような、そんな気がした。
「アタシは、本当のイツキも好きだ」
「な――」
――にを言ってるの、まるで告ってるみたいじゃない。まあ僕と修子はそういう関係じゃないし、そういう関係にはならないんだけどね。
「いいねえ」
パチン、パチンと、雑に手を叩く音がした。
「この世界での生き別れに愛の告白とは、いよいよクライマックスだな」
「男衾つよし。お前が言うようなゴミブロガーなんて、この世にはいないよ」
僕の声は上ずっていた。
「いいや、アクセスの稼げねえブログはゴミ同然だ。金の稼げねえブログに価値なんかねえ」
「ブログの価値は数字で決まるんじゃないよ。だって……」
いや、違う。僕の声は上ずっているんじゃなくて――
「僕は楽しく書いてるんだ。読んでくれる人も楽しんでくれたら、それは価値のあるブログじゃないのかな」
――これが僕の本当の声だ。
「だったらそれを、テメエのバズリティーで証明してみろ」
僕は左腕のノートパソコンに手を掛けた。天板には『У’s』のロゴ。コインちゃんからもらった中古パソコンだ。
モニターを開くと画面が起動する。少し焼けた画面、擦り切れて文字の薄くなったキーボード、反応の悪いエンターキー。
僕のブログ『変態少女と、転生失敗した僕が書くブログ』にログインすると、パラメーターが映る。
HN:モモイロイツキ
ATK:2840
DEF:1250
VIT:1590
Buz:神の声
これが僕のブログ。数値は低いけど、僕が初めて真剣に続けている、大切な大切な僕のブログ。
「お、おい。なんだよあのパラメーター」
「あんなので男衾つよしに勝てるわけないぜ」
ヒソヒソと聞こえてくる声に、修子が返した。
「イツキのブログは面白いぞ。読んだことないやつがアンアン喘ぐな」
誰もいやらしい声を漏らしているわけじゃないよ。
「読んだらビッショリ濡れるからな。パンツを脱いでからにした方がいいぞ」
すると修子のバズリティー・ノーパン仮面が会場内を駆けた。駆けたといっても、誰にもその動きは見えないんだけれど。
「ひっ!」「何だ!?」「股間がスースーする!」
修子の隣に戻ってきたノーパン仮面。その手には白やピンクや水玉、チェック柄などの大量のパンツが山と積まれている。
「にししっ……だからパンツは預かっておくぞ」
なんと、会場にいる生徒全員分のパンツを剥いてきてしまった。
修子はその中の一つ、真っ白な三角形の布を頭に被った。正面にある小さなリボンが、額の上でアクセントになっている。やめなさい、他人のパンツを被るのは。
「大丈夫、これはイツキのパンツだ」
……バカ修子。僕のパンツまで取らないでよ。
そんな変態的姿を小バカにするように見ていた男衾つよしは、
「へっ、面白いバズリティーだ。俺と戦るのは、そっちのチビの方がよかったんじゃねえか?」
それから僕のパラメーターを見上げた。
「モモイロイツキ……バズリティーは『神の声』か。偉そうなバズリティーだが、そのパラメーターじゃどうにもならねえな」
「僕のバズリティーは、一度しか出たことがない。このパラメーターに映ったのもこれが初めてなんだ」
神の声。あの時の意味不明な能力は、そういう名前だったんだ。
「そのバズリティーは……もしかして」
立ち会いのコインちゃんが目を丸くしている。
「……yukiBerryと同じだな」
舞台の向こうで、ステ娘教師が「フッ」と息を吐くのが聞こえた。
僕のバズリティーが、yukiBerryさんと同じ?
あれ、じゃあもしかしてyukiBerryさんて――
僕の目が一人の女性を映した時、
「さあ、決着をつけようか!」
男衾つよしが傲然と言い放った。
僕の腰に両腕を回して、僕の顎の下に顔を埋める修子が、力いっぱい、目一杯、僕を抱きしめていた。
「なにしてるの!?」
人目もはばからず、そのちっこい身体を密着させる。
「大丈夫だ、イツキならやれる。絶対に勝てる」
「ちょっと修子、恥ずかしいから離れてよ」
これじゃあまるで、戦地へ赴く兵士を送り出す恋人みたいなじゃい。生きて帰ってきてね、待ってるわ――みたいな展開、変なフラグが立ちそうで嫌なんですけど。
ああもう、ペタンコな胸を押し付けないでよ。僕の太ももを股で挟み込まないでよ、感触が……くすぐったい!
困惑する僕を、修子は「にししっ」と見上げる。
「どうだ、ドキドキするか?」
「当たり前でしょ! こんな時に発情しないでよ」
「エッチな気分になったか?」
「なるわけないでしょ! だいたい僕は……」
ようやく僕は、発情したエロ娘を引き剥がした。
「イツキ。この世界のバズリティーは、ブロガーの個性を読みとってる。本当の自分を隠していたらバズリティーは出て来ないんじゃないか?」
突然どうしたのさ。
「だから今までイツキのバズリティーは出て来なかった。イツキに個性がないからじゃなくて、イツキがみんなに、自分に、嘘をついていたからだ」
僕がバズリティーを出せたのは一度だけ。あの時は修子が襲われて、暴漢の男が許せなくて、ふと我を忘れた。
あれ以来何度か『buzzlity』を起動させてみたけど、やっぱり僕のバズリティーは出て来ない。
それは僕が「本当の自分」を隠しているから……?
この学園でも、ブログの中でも、僕は本当の僕じゃない。僕はみんなに嘘をついている。
「もう隠さなくていいんじゃないか? 本当のイツキを出していいんじゃないか?」
修子の目は優しかった。僕を責めているんじゃなくて、僕を待ってくれているような、そんな気がした。
「アタシは、本当のイツキも好きだ」
「な――」
――にを言ってるの、まるで告ってるみたいじゃない。まあ僕と修子はそういう関係じゃないし、そういう関係にはならないんだけどね。
「いいねえ」
パチン、パチンと、雑に手を叩く音がした。
「この世界での生き別れに愛の告白とは、いよいよクライマックスだな」
「男衾つよし。お前が言うようなゴミブロガーなんて、この世にはいないよ」
僕の声は上ずっていた。
「いいや、アクセスの稼げねえブログはゴミ同然だ。金の稼げねえブログに価値なんかねえ」
「ブログの価値は数字で決まるんじゃないよ。だって……」
いや、違う。僕の声は上ずっているんじゃなくて――
「僕は楽しく書いてるんだ。読んでくれる人も楽しんでくれたら、それは価値のあるブログじゃないのかな」
――これが僕の本当の声だ。
「だったらそれを、テメエのバズリティーで証明してみろ」
僕は左腕のノートパソコンに手を掛けた。天板には『У’s』のロゴ。コインちゃんからもらった中古パソコンだ。
モニターを開くと画面が起動する。少し焼けた画面、擦り切れて文字の薄くなったキーボード、反応の悪いエンターキー。
僕のブログ『変態少女と、転生失敗した僕が書くブログ』にログインすると、パラメーターが映る。
HN:モモイロイツキ
ATK:2840
DEF:1250
VIT:1590
Buz:神の声
これが僕のブログ。数値は低いけど、僕が初めて真剣に続けている、大切な大切な僕のブログ。
「お、おい。なんだよあのパラメーター」
「あんなので男衾つよしに勝てるわけないぜ」
ヒソヒソと聞こえてくる声に、修子が返した。
「イツキのブログは面白いぞ。読んだことないやつがアンアン喘ぐな」
誰もいやらしい声を漏らしているわけじゃないよ。
「読んだらビッショリ濡れるからな。パンツを脱いでからにした方がいいぞ」
すると修子のバズリティー・ノーパン仮面が会場内を駆けた。駆けたといっても、誰にもその動きは見えないんだけれど。
「ひっ!」「何だ!?」「股間がスースーする!」
修子の隣に戻ってきたノーパン仮面。その手には白やピンクや水玉、チェック柄などの大量のパンツが山と積まれている。
「にししっ……だからパンツは預かっておくぞ」
なんと、会場にいる生徒全員分のパンツを剥いてきてしまった。
修子はその中の一つ、真っ白な三角形の布を頭に被った。正面にある小さなリボンが、額の上でアクセントになっている。やめなさい、他人のパンツを被るのは。
「大丈夫、これはイツキのパンツだ」
……バカ修子。僕のパンツまで取らないでよ。
そんな変態的姿を小バカにするように見ていた男衾つよしは、
「へっ、面白いバズリティーだ。俺と戦るのは、そっちのチビの方がよかったんじゃねえか?」
それから僕のパラメーターを見上げた。
「モモイロイツキ……バズリティーは『神の声』か。偉そうなバズリティーだが、そのパラメーターじゃどうにもならねえな」
「僕のバズリティーは、一度しか出たことがない。このパラメーターに映ったのもこれが初めてなんだ」
神の声。あの時の意味不明な能力は、そういう名前だったんだ。
「そのバズリティーは……もしかして」
立ち会いのコインちゃんが目を丸くしている。
「……yukiBerryと同じだな」
舞台の向こうで、ステ娘教師が「フッ」と息を吐くのが聞こえた。
僕のバズリティーが、yukiBerryさんと同じ?
あれ、じゃあもしかしてyukiBerryさんて――
僕の目が一人の女性を映した時、
「さあ、決着をつけようか!」
男衾つよしが傲然と言い放った。
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