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第七十四話 最強ブロガー

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「そう、エンディングにはまだ早い」

 会場の空気をものともせずに、男衾つよしはゆっくりと前に出た。

「この世界は何のためにある? お前らがこの学園に来たのは何のためだ?」

 左腕のノートパソコンを揺らして舞台の中央まで来ると、

「金だろ。力だろ。くだらねぇ友情ごっこで生きていけるほど、世の中は甘くねぇんだ」

「ふざけるな! 俺たちのブログは俺たちのものだ。勝手にリンクシステムを繋げて自分だけ甘い汁を吸いやがって」

 観戦している生徒が罵声を浴びせた。

「そうだ、お前の欲望のために俺たちを奴隷にしようなんて許せるわけないだろ!」

 また一人、違う生徒が語気を荒げた。

「勘違いしてるんじゃねぇよ」

 しかし男衾つよしは声のする方を睨みつけ、

「野次を飛ばすだけのテメエらは、所詮は搾取される側なんだよ。舞台こっちに立つこともできねえゴミブロガーが」

 腹の底から、さげすむ言葉を吐き捨てる。

「文句があるならこっちに来い。全員まとめて相手してやってもいいんだぜ」

 無数のリンクシステムを繋いだ男衾つよしは、今では総アクセス数が十億を超えている。

「もっとも、このパラメーターを見てもその度胸があったらの話だがな」

 ブログのログインにカーソルを合わせ、そのパラメーターが頭上に現れた。

HN:男衾つよし(☆)
ATK:99999999
DEF:9999999
VIT:9999999
Buz:独裁の冥皇ハイデス

「何だ、あのパラメーターは!?」

「数字が9しかないぞ、バグってんのか?」

 異常な数値に、誰もが目を疑う。

「数値がカンストしてる。あれ以上は表示できないんだ」

 あっくんは険しい表情に冷や汗を流した。野次を飛ばしていた生徒も、今まで見たこともないパラメーターを前に完全に沈黙した。

「おいおい、さっきまでの勢いはどうしたよ?」

 誰も男衾つよしの前に立つ者はいない。そればかりか、

(あんなパラメーターに勝てるわけがない)
(あの一年生がどんなすごいバズリティーを持ってても無理だろ)

 ヒソヒソと漏れ伝わる悲壮感が、僕の耳に届いてきた。

「チッ、これだから戦う舞台に立てねえヤツは必要ねえって言ってるんだ。ゴミブロガーはゴミブロガーらしく、アクセス数だけ俺に捧げてればいいんだよ!」

 ギラリと眼光を鋭くした男衾つよしは、『buzzlity』のアイコンをクリックした。

「ちょっと、まだ合図してないですよ!」

 コインちゃんが慌てて制したが、

「うるせえ。ここはもう俺の舞台だ。女でも容赦しねえぞ」

 黒い立体CG光線グラフィックナビゲーションが走り、三次元の映像生成レンダリングが男衾つよしのバズリティーを可視化させた。

 ドクロを象ったような赤黒い鎧の巨人。真っ黒な兜で頭をすっぽりと覆い、腰には太い鎖を巻き付け、右手には巨大な二又の槍を携えている。

「あれが、独裁の冥皇ハイデス……!」

 どうやらあっくんも初めて見るらしい。

「男衾先輩の支配欲が生み出したバズリティーです。金と権力で、すべての生き物に裁定ジャッジメントを下す者」

 あれは、何か……こう……悪意のかたまりのような、威風堂々とはしているけど、負の力を集約させたような雰囲気を持っている。
 そしてデカい。見上げるほどデカい。

「偉そうなことを言ってたゴミブロガーはお前か?」

 男衾つよしが顎を上げて振り返ると、バズリティー・冥皇ハイデスの巨大な槍が如意棒のように長く伸び、観戦してる生徒たちの頭上に振り下ろされた。

 グチャ! っと生ものが潰れるような音と、
 ズン! っと地響きの音が重なり、

「うわあっ!」「キャー!」

 という悲鳴が会場の空気をつんざいた。何をしたの? 何をしたの!?

 パラパラとコンクリの破片が降る音と、視界を遮る土煙。
 冥皇ハイデスが振り下ろした槍は、会場の隅まで届く長さまで伸びていて、その殴打に潰された生徒が何人かが光のノイズとなって消えていった。

「チッ、違うヤツに当たっちまったか? まあいい、役に立たねえゴミブロガー共は、現実世界でチマチマと書いてな」

 男衾つよしが冷徹な笑みを投げかけると、会場内は「わっ」とパニックに陥った。

「逃げろ! 殺されるぞ」「助けて!」「出口はこっちだ!」

 五百人の生徒が蜘蛛の子を散らすように走り出し、会場出口に殺到するが、

「開かないぞ!」「こっちもだ!」「どうして!?」

 出口扉はすべての電子ロックが開錠されず、ステ娘教師の権限でも開けられない。

「俺がロックしたんだ。教師のパソコンでも開けられないようにな」

「男衾先輩、どういうつもりですか!?」

 あっくんが叫ぶ。

「なあに。後で俺とリンクシステムを繋いでもらわないといけないからな。あっくん、貴様もだ」

 勝利報酬のリンクシステムで、ここにいる全員が金と権力のかてだ。と、男衾つよしは高らかに笑った。

 狂ってる。

 いくら僕らが仮想世界の電子情報だとはいっても、まるで家畜をもてあそぶようじゃないか。
 そして、あのパラメーター。あのバズリティー。

 最強のブロガーが、この世界を蹂躙じゅうりんしようとしている。

「イツキ、恐いか?」

 修子は僕の腕を掴んで言った。

 僕の身体は震えていた。男衾つよしの凄惨な仕打ちに対する怒りと悲しみと、それ以上に、恐怖で。

「心配するな」

 一歩、僕の前にすり寄った修子は、

「アタシがついてる」

 と、僕の身体を抱きしめた。
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