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第六十七話 暴君の大熊猫
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まるで落雷だ。
夏の夕立に見られる雷とは違うけれど、激しい発光と共に電撃が衝撃波を生む。まるで分厚いガラスをぶち割ったように耳を裂く音が響き、ピエロ姿の南電児から黒い煙が立ち上った。
焼けた臭いが、焦げた臭いが、ぷんと漂った。
「な……なんてことを……!」
かりんとうのように焼けただれた南電児に光のノイズが走ると、立体ホログラムが解けていくように消えていく。
この仮想世界で人が死ぬことはない……けれど、肉体を焼失した南電児は、この仮想世界から完全に消失してしまったのだ。
「うふふ、ひどい人ねぇ」
リカ姉様が言った。その言葉とは裏腹に、口元は氷のような微笑を浮かべている。
「ななな何をしてるんですか!? 味方を攻撃するなんて」
立ち会いのコインちゃんはクロウ・ジンを、男衾つよしを激しく非難するが、
「うるせえよ。この勝負に勝った者には学園の全権が与えられるんだろ? ナビゲーターのあんたがごちゃごちゃ言う資格はねえ。とっとと次のバトルを始めようや」
ギラリと睨む男衾つよし。
「なあに、心配することはねえさ。仮想世界で死んだヤツは現実世界に強制転送される。あのゴミブロガーは現実世界に帰っただけだからな。もっとも……」
それからノートパソコンで何かを確認している。
「リンクシステムは繋げたままだけどな」
なんてやつだ。なんてやつだ!
仲間を捨ててもリンクシステムは繋げたままだって?
南電児は切り捨ててアクセス数だけは奪い続けるって?
「ほんと、ひどい人ねぇ」
リカ姉様が言った。氷のような微笑を浮かべてコツコツと踵を鳴らして前に出る。
「次は私」
胸元の大きく開いた服からはちきれそうなバスト、真っ赤なルージュ、その妖艶な姿でノートパソコンを構えた。
「では、こちらはボクが行きます」
言うが早いか、あっくんが静かに歩を進めて舞台中央に向かう。
「あら、坊やが相手なの? そっちの変態ブロガーさんと戦りたかったんだけど」
「実力差を考えたら仮面さんの出番はまだですよ。それに、ボクにはあなたと対戦する理由がある」
「イケメンもやっぱりおっぱいが好きなのか」
修子さん、そういう理由じゃないと思うよ。いや……まさか、ドッグマスターあっくんもそのクールな表情でリカ姉様の胸元にくぎ付けなんじゃ……
「違います」
クールに否定してくれた。
「ボクは実際に手出しをしていないとはいえ、男衾先輩たちに加担していました。その償いをさせてください」
「うふふ、私のバズリティーを知ってるでしょ? 坊やの駄犬じゃ、私の『暴君の大熊猫』には勝てないわよ」
「それはどうでしょう」
ノートパソコンを開き、あっくんのパラメーターが映る。
HN:ドッグマスターあっくん(☆)
ATK:188900
DEF:156240
VIT:169300
Buz:番猋のサーベラス
あの『☆』マークはブログ王国上位ランカーの証。
あっくんはチラと舞台の外に目をやった。その視線の先は……ステ娘教師?
「バトルの結果は最後まで分かりません。それに、ボクには勝ち負けよりも大事なことがあります」
「戦う前から敗北宣言? まあそんなパラメーターじゃあ――」
リカ姉様のパラメーターが映る。
HN:リカ姉様(☆)
ATK:1063000
DEF:327740
VIT:438500
Buz:暴君の大熊猫
「――勝負にならないわよねぇ」
ついにATK(攻撃力)が百万を超えました。いくらなんでもやりすぎだと思います、数値がどんどんインフレを起こしてます。
しかしあっくんは怯むことなく、
「勝ち急ぐと大事なモノを失いますよ」
バズリティーを起動する。
立体CG光線が映し出す、三つ首の獰猛な犬。その巨大な躯体、竜のような尾、白銀の毛並み、番猋のサーベラス。
「坊や。遠吠えは負けてから言うのね」
リカ姉様もバズリティーを起動。そこに出て来たのは……
「カ、カワイイ♡」
あっくん「様」を応援するために最前列に駆けつけた、しろい兎が両目を「♡」こんなふうにして叫んだ。あれは、
膝丈くらいのコロコロした、小さなパンダ!?
二頭身で白黒の身体が思いっきりデフォルメされた、愛らしい子供のパンダ。なんかピチピチのTシャツを着てるし、目の周りの黒い模様が垂れててホントに可愛い。
あれが『暴君の大熊猫』?
「リカさんのバズリティーはパンダです。でもあの姿に騙されてはいけませんよ」
どういうこと?
「本性を見れば分かります。リカさんの色っぽい見た目も、可愛らしいバズリティーも、表面だけの偽物です」
「あら、偽物だなんてヒドイわね」
リカ姉様の目つきが変わる。
ふさふさのまつ毛を鋭く持ち上げ、やや垂れ気味の目尻が鋭角に吊り上がっていく。そこだけ温度が低かったような氷の目が持ち上がると、上瞼に赤いアイシャドウが入っていた。
と同時に、可愛らしい子パンダにも異変が起きた。
「私はこっちが本物なんだから」
チビっこかった身体が膨張し、ピチピチのTシャツが紙風船のように破れる。胴体が膨れ上がり、それに合わせて両腕と両足も伸び、フサフサな毛並の中に筋肉が盛り上がっていき――
あれはまるで熊だ!
「大熊猫とは――ジャイアントパンダのことですよ」
リカ姉様のバズリティー『暴君の大熊猫』は胸の前で両のこぶしを突き合わせると、熊のような雄たけびをあげた。
夏の夕立に見られる雷とは違うけれど、激しい発光と共に電撃が衝撃波を生む。まるで分厚いガラスをぶち割ったように耳を裂く音が響き、ピエロ姿の南電児から黒い煙が立ち上った。
焼けた臭いが、焦げた臭いが、ぷんと漂った。
「な……なんてことを……!」
かりんとうのように焼けただれた南電児に光のノイズが走ると、立体ホログラムが解けていくように消えていく。
この仮想世界で人が死ぬことはない……けれど、肉体を焼失した南電児は、この仮想世界から完全に消失してしまったのだ。
「うふふ、ひどい人ねぇ」
リカ姉様が言った。その言葉とは裏腹に、口元は氷のような微笑を浮かべている。
「ななな何をしてるんですか!? 味方を攻撃するなんて」
立ち会いのコインちゃんはクロウ・ジンを、男衾つよしを激しく非難するが、
「うるせえよ。この勝負に勝った者には学園の全権が与えられるんだろ? ナビゲーターのあんたがごちゃごちゃ言う資格はねえ。とっとと次のバトルを始めようや」
ギラリと睨む男衾つよし。
「なあに、心配することはねえさ。仮想世界で死んだヤツは現実世界に強制転送される。あのゴミブロガーは現実世界に帰っただけだからな。もっとも……」
それからノートパソコンで何かを確認している。
「リンクシステムは繋げたままだけどな」
なんてやつだ。なんてやつだ!
仲間を捨ててもリンクシステムは繋げたままだって?
南電児は切り捨ててアクセス数だけは奪い続けるって?
「ほんと、ひどい人ねぇ」
リカ姉様が言った。氷のような微笑を浮かべてコツコツと踵を鳴らして前に出る。
「次は私」
胸元の大きく開いた服からはちきれそうなバスト、真っ赤なルージュ、その妖艶な姿でノートパソコンを構えた。
「では、こちらはボクが行きます」
言うが早いか、あっくんが静かに歩を進めて舞台中央に向かう。
「あら、坊やが相手なの? そっちの変態ブロガーさんと戦りたかったんだけど」
「実力差を考えたら仮面さんの出番はまだですよ。それに、ボクにはあなたと対戦する理由がある」
「イケメンもやっぱりおっぱいが好きなのか」
修子さん、そういう理由じゃないと思うよ。いや……まさか、ドッグマスターあっくんもそのクールな表情でリカ姉様の胸元にくぎ付けなんじゃ……
「違います」
クールに否定してくれた。
「ボクは実際に手出しをしていないとはいえ、男衾先輩たちに加担していました。その償いをさせてください」
「うふふ、私のバズリティーを知ってるでしょ? 坊やの駄犬じゃ、私の『暴君の大熊猫』には勝てないわよ」
「それはどうでしょう」
ノートパソコンを開き、あっくんのパラメーターが映る。
HN:ドッグマスターあっくん(☆)
ATK:188900
DEF:156240
VIT:169300
Buz:番猋のサーベラス
あの『☆』マークはブログ王国上位ランカーの証。
あっくんはチラと舞台の外に目をやった。その視線の先は……ステ娘教師?
「バトルの結果は最後まで分かりません。それに、ボクには勝ち負けよりも大事なことがあります」
「戦う前から敗北宣言? まあそんなパラメーターじゃあ――」
リカ姉様のパラメーターが映る。
HN:リカ姉様(☆)
ATK:1063000
DEF:327740
VIT:438500
Buz:暴君の大熊猫
「――勝負にならないわよねぇ」
ついにATK(攻撃力)が百万を超えました。いくらなんでもやりすぎだと思います、数値がどんどんインフレを起こしてます。
しかしあっくんは怯むことなく、
「勝ち急ぐと大事なモノを失いますよ」
バズリティーを起動する。
立体CG光線が映し出す、三つ首の獰猛な犬。その巨大な躯体、竜のような尾、白銀の毛並み、番猋のサーベラス。
「坊や。遠吠えは負けてから言うのね」
リカ姉様もバズリティーを起動。そこに出て来たのは……
「カ、カワイイ♡」
あっくん「様」を応援するために最前列に駆けつけた、しろい兎が両目を「♡」こんなふうにして叫んだ。あれは、
膝丈くらいのコロコロした、小さなパンダ!?
二頭身で白黒の身体が思いっきりデフォルメされた、愛らしい子供のパンダ。なんかピチピチのTシャツを着てるし、目の周りの黒い模様が垂れててホントに可愛い。
あれが『暴君の大熊猫』?
「リカさんのバズリティーはパンダです。でもあの姿に騙されてはいけませんよ」
どういうこと?
「本性を見れば分かります。リカさんの色っぽい見た目も、可愛らしいバズリティーも、表面だけの偽物です」
「あら、偽物だなんてヒドイわね」
リカ姉様の目つきが変わる。
ふさふさのまつ毛を鋭く持ち上げ、やや垂れ気味の目尻が鋭角に吊り上がっていく。そこだけ温度が低かったような氷の目が持ち上がると、上瞼に赤いアイシャドウが入っていた。
と同時に、可愛らしい子パンダにも異変が起きた。
「私はこっちが本物なんだから」
チビっこかった身体が膨張し、ピチピチのTシャツが紙風船のように破れる。胴体が膨れ上がり、それに合わせて両腕と両足も伸び、フサフサな毛並の中に筋肉が盛り上がっていき――
あれはまるで熊だ!
「大熊猫とは――ジャイアントパンダのことですよ」
リカ姉様のバズリティー『暴君の大熊猫』は胸の前で両のこぶしを突き合わせると、熊のような雄たけびをあげた。
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