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第五十一話 お遊び
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ひと言くらい文句を言ってやろうと意気込んで来たのはいいけれど、これはだいぶマズい状況だ。
さっきからまったく喋らないピエロ姿の南電児は、白塗りの化粧に目と口が強調されて、赤いモシャモシャ頭に原色だらけの派手な服。見た目はコミカルだけど、表情がないから不気味で仕方ない。
リカ姉様はどこかのグラビア雑誌から飛び出てきたようなナイスバディで、すけたら君の言うとおりの超絶美人。でも、細く見開いたあの氷のような目が油断ならない。
クロウ・ジン。屈強な肉体の大男。その威圧的な体躯もさることながら、何か……こう……言い表しようのない恐怖で包みこむような……この人、やばい。雰囲気が、何かやばい。
そして、僕らと目線を合わせようとしないドッグマスターあっくん。
それらを束ねるのがコンパニマル科の男衾つよし。ブログ王国で第二位の称号を持つブロガーであり、僕らにとっては異次元の上位ランカー。
男衾つよしは、人を食ったような目で修子を値踏みしているようだった。
「じゃあ、こうしよう。俺がその変態ブロガーと戦るから、もう一人のガキはお前らが始末しろ。アクセスの低いゴミブロガーだったら、構うことはねえ。昨日のヤツみたいに脳天カチ割ってやれ」
な……この人は何を言ってるんだ?
「いいぞ、やろう。今日のアタシは機嫌が悪いんだ。手加減はしない、全員全裸にしてやるから来い」
ちょっ……修子も何を言ってるの!?
ぶっきらぼうにそう言った修子は、バトルモードに入るべくキツネのお面を装着した。
「修子、こんなヤツらと勝負なんかしちゃダメだ。こいつらきっと、まともに勝負なんかしやしない。不正なリンクシステムを使って、修子のアクセス数を狙ってるだけだ」
「あらあなた、何か知ってるのね。不正なリンクシステム? アクセス数を狙ってる? どこで聞いたのかしら」
ベビーパウダーのような甘い香りを乗せて、リカ姉様が氷のような視線を僕に向けてくる。
まずい、一触即発じゃないか。
その時、
「待ちなさい」
と凛とした声が、この場のヒリついた空気を溶かすように響いた。
見ると、アプリコットカラーの長い髪を緩くカールさせ、ピーチのように甘くて、レモンのように爽やかな香りを思い出させる清廉な女性が、ゆっくりとこちらに歩いてくる。
「これはこれは……二代目覇王のるり子さんじゃないですか」
男衾つよしは首だけで振り向くと、ねぶるような視線を飛ばした。
「イラストレーション科のるり子さんが、コンパニマル科にどんなご用でしょう?」
穏やかな口調でるり子さんに問いかけた。しかしその眼からは明らかに敵意がにじみ出ている。
「最近、バズリティーバトルで大怪我をしている生徒がいるらしいわ。そのせいでイラストレーション科の生徒も一人、メディカルセンターで高度治療を受けています」
「へえ、そりゃあ可哀想にな」
片頬を歪めて笑う男衾つよし。
「アダルト科、エンターテイメント科、インテリア科など、他の科の生徒も被害に遭っているようです」
「それで? あいにくウチには、そんなヤワなヤツはいなくてな」
「バトルを仕掛けているのはそちらの生徒だそうですね。バズリティーでの過剰な攻撃、物理的な手出し、断った生徒には実力行使で傷を負わせる……どうもお遊びが過ぎています。男衾さんはご存知ですか?」
「さてな……。俺はリンクシステムの付かないバトルには興味がねえ。それに俺以外の誰が何をしようと、それも興味がねえ」
「そうですか」
るり子さんはチラと僕らに目を向けた。
「では、リンクシステムの付かないバトルに興味のない男衾さんが、一年生の二人と何をしようとしているのですか?」
「…………」
「教師立ち合いのないバズリティーバトルには、リンクシステムが付きませんよね。つまり、男衾さんが興味を持つことではないのではありませんか?」
「…………」
沈黙する男衾つよし。その顔からは笑みが消え、ただるり子さんを睨みつけている。
「もしここで、そんなお遊びをしようというのでしたら――」
ゆっくりと、右手でノートパソコンに触れる。細い指の隙間から、ブリリアントカットされた白金マークが見えた。
「私がお相手しましょう」
鋭く――白羽を合わせたような目で、男衾つよしの睨みを跳ね返した。
身じろぎひとつしないるり子さんに押された男衾つよしは「チッ」と舌打ちをし、
「いやいや、覇王なんて呼ばれるアンタと戦ろうなんてバカな真似はしませんよ。アンタのバズリティーに勝てるヤツなんていませんからね」
――今は、まだ。
最後の声はとても小さく、そう言っているような気がする程度だった。それからゆらりと歩み出すと、
「行くぞ、お前ら。これからもっと楽しいお遊びの用意をしなきゃいけないからな」
男衾つよしに続いて、クロウ・ジン、リカ姉様、ミナミデンジがコンパンマル科の教室棟に入っていく。
数歩遅れてあっくんも歩き出した。深く垂れた前髪で、その表情は隠れたままだった。
さっきからまったく喋らないピエロ姿の南電児は、白塗りの化粧に目と口が強調されて、赤いモシャモシャ頭に原色だらけの派手な服。見た目はコミカルだけど、表情がないから不気味で仕方ない。
リカ姉様はどこかのグラビア雑誌から飛び出てきたようなナイスバディで、すけたら君の言うとおりの超絶美人。でも、細く見開いたあの氷のような目が油断ならない。
クロウ・ジン。屈強な肉体の大男。その威圧的な体躯もさることながら、何か……こう……言い表しようのない恐怖で包みこむような……この人、やばい。雰囲気が、何かやばい。
そして、僕らと目線を合わせようとしないドッグマスターあっくん。
それらを束ねるのがコンパニマル科の男衾つよし。ブログ王国で第二位の称号を持つブロガーであり、僕らにとっては異次元の上位ランカー。
男衾つよしは、人を食ったような目で修子を値踏みしているようだった。
「じゃあ、こうしよう。俺がその変態ブロガーと戦るから、もう一人のガキはお前らが始末しろ。アクセスの低いゴミブロガーだったら、構うことはねえ。昨日のヤツみたいに脳天カチ割ってやれ」
な……この人は何を言ってるんだ?
「いいぞ、やろう。今日のアタシは機嫌が悪いんだ。手加減はしない、全員全裸にしてやるから来い」
ちょっ……修子も何を言ってるの!?
ぶっきらぼうにそう言った修子は、バトルモードに入るべくキツネのお面を装着した。
「修子、こんなヤツらと勝負なんかしちゃダメだ。こいつらきっと、まともに勝負なんかしやしない。不正なリンクシステムを使って、修子のアクセス数を狙ってるだけだ」
「あらあなた、何か知ってるのね。不正なリンクシステム? アクセス数を狙ってる? どこで聞いたのかしら」
ベビーパウダーのような甘い香りを乗せて、リカ姉様が氷のような視線を僕に向けてくる。
まずい、一触即発じゃないか。
その時、
「待ちなさい」
と凛とした声が、この場のヒリついた空気を溶かすように響いた。
見ると、アプリコットカラーの長い髪を緩くカールさせ、ピーチのように甘くて、レモンのように爽やかな香りを思い出させる清廉な女性が、ゆっくりとこちらに歩いてくる。
「これはこれは……二代目覇王のるり子さんじゃないですか」
男衾つよしは首だけで振り向くと、ねぶるような視線を飛ばした。
「イラストレーション科のるり子さんが、コンパニマル科にどんなご用でしょう?」
穏やかな口調でるり子さんに問いかけた。しかしその眼からは明らかに敵意がにじみ出ている。
「最近、バズリティーバトルで大怪我をしている生徒がいるらしいわ。そのせいでイラストレーション科の生徒も一人、メディカルセンターで高度治療を受けています」
「へえ、そりゃあ可哀想にな」
片頬を歪めて笑う男衾つよし。
「アダルト科、エンターテイメント科、インテリア科など、他の科の生徒も被害に遭っているようです」
「それで? あいにくウチには、そんなヤワなヤツはいなくてな」
「バトルを仕掛けているのはそちらの生徒だそうですね。バズリティーでの過剰な攻撃、物理的な手出し、断った生徒には実力行使で傷を負わせる……どうもお遊びが過ぎています。男衾さんはご存知ですか?」
「さてな……。俺はリンクシステムの付かないバトルには興味がねえ。それに俺以外の誰が何をしようと、それも興味がねえ」
「そうですか」
るり子さんはチラと僕らに目を向けた。
「では、リンクシステムの付かないバトルに興味のない男衾さんが、一年生の二人と何をしようとしているのですか?」
「…………」
「教師立ち合いのないバズリティーバトルには、リンクシステムが付きませんよね。つまり、男衾さんが興味を持つことではないのではありませんか?」
「…………」
沈黙する男衾つよし。その顔からは笑みが消え、ただるり子さんを睨みつけている。
「もしここで、そんなお遊びをしようというのでしたら――」
ゆっくりと、右手でノートパソコンに触れる。細い指の隙間から、ブリリアントカットされた白金マークが見えた。
「私がお相手しましょう」
鋭く――白羽を合わせたような目で、男衾つよしの睨みを跳ね返した。
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最後の声はとても小さく、そう言っているような気がする程度だった。それからゆらりと歩み出すと、
「行くぞ、お前ら。これからもっと楽しいお遊びの用意をしなきゃいけないからな」
男衾つよしに続いて、クロウ・ジン、リカ姉様、ミナミデンジがコンパンマル科の教室棟に入っていく。
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