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第三十二話 黄昏のサザンクロス
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仮面修子十八歳。
僕と同じ高校に通い、三年間を同じクラスで過ごした。
成績は優秀、スポーツも万能。ちょっと変わった(というか、だいぶ変態)キャラだったけど物怖じしない性格で誰とでも仲がよく、常にクラスの中心だった修子はどういうわけか僕に構うようになり、いつの間にか修子のボケと僕のツッコミが定着して、僕はいつも修子と一緒に過ごすようになっていた。
高校を卒業すると修子は国立の有名大学に進学したが、
「大学はつまらん」「あんな授業は聞いてても役に立たない」
と言って昼間っから僕の家に入り浸り、僕の母親も、
「修子ちゃんは今日も学校サボり?」
などと心配しているんだか呆れているんだか、まあ引きこもりでニートの僕をお守してくれるからありがとう、みたいな適当さで迎え入れていた。
そうやって頻繁に家にやってくる修子は、ネットの世界や面白いブログを教えてくれたり、時にはちょっとエッチなアダルトサイトを、
「にししっ、どうだイツキ、これは興奮するだろ?」
なんて無理やり見せてきたり、『yukiBerry』っていう人のブログが一番面白いということを滔々と語ったりしながら、ネットを徘徊している中で『白雪学園』のサイトを見つけたわけ。
入学の申し込み期限がギリギリだったせいで僕には考える暇すら与えられず、半ば――というかほぼ強制的に僕も一緒にこの仮想世界に飛び込む羽目になって……
入学式も履修科目も一緒で、学生寮はすぐ隣の部屋、授業も放課後も休みの日も一緒、挙句の果てには「変態バズリティーと学園の最弱ブロガー」なんてコンビ名まで付けられる僕と修子は――
ベッドを共にする恋人同士だと壮大な勘違いをされていた。
「どうりで毎晩、変な声が聞こえると思ったんだよ」
すけたら君の部屋は僕の真上だから――って、いやいや、それは修子がアダルトなサイトを巡回して興奮している声であって……
「でも、お二人はお似合いですわ」
イルカさん、そんな大真面目に言わないで! お似合いってことは僕にも変態的な性癖がある――みたいな目を向けないでほしい。
「モモイロ君と仮面しゃんが小さなベッドで夜な夜な……ゴクリ。うらやまけしからんお!」
鼻の下を伸ばして変な妄想すなっ! そして生唾を飲むな、このエロダンゴ!
「まあまあ、年頃の男女が一つ屋根の下にいれば仕方ないことだぜ。ステ娘教師には内緒にしといてやるからさ」
ニンマリと悪い笑みを浮かべるすけたら君。別にこの学園は恋愛を禁止しているわけではなく、いやそれ以前に僕と修子はそういう関係じゃないんだってば!
必死の否定が余計にみんなのボルテージを上げてしまう。
「イツキ、顔が真っ赤だぞ」
アダルト科の教室に誤解と誤認と誤報のサイバーテロを仕掛けた修子は、みんなが勘違いの妄想を膨らませているのがよほど楽しいらしく、ダダ下がる目尻をつゆだくにして笑い転げていた。
結局、ステ娘教師は授業に戻ってくることはなく、自習という名の雑談に終始した僕らの一日は終業の鐘で終わりを迎える。
僕と修子は揃って教室を出ると、F棟の階段から三階のイラストレーション科の前で足を止めた。
ちょうどイラストレーション科の生徒たちも帰寮するところらしく、何人かの生徒が教室から出て来た中に、
「あ、来たよ牡丹ちゃん」
しろい兎と不知火牡丹が僕らを見上げていた。
「モモイロさん、こんにちは」
胸元のメロン畑をたゆんと揺らして頭を下げる兎の隣には、
「我が眷属、待っていたわよ」
相変わらずのゴスロリ服ではあるけれど、人形のように整った顔立ちで不敵な笑みを浮かべる牡丹の姿。その手には大きな紙袋を提げていた。
「約束の物を持ってきたのよ。サイズを合わせるのに少し時間がかかってしまったけれど」
そう言って牡丹は真っ黒な紙袋を修子に差し出す。
ああ、いつぞやの書店で黒い羽根の代わりにと言っていたものか。えっと、たしか……
「昏睡のサウザンドレッシング?」
「黄昏のサザンクロスよ!」
う~ん、間違えた方を憶えてしまうのはなぜだろう――と僕は高校時代にテストでよく失敗するパターンを思い起こした。
「受け取りなさい、我が眷属に相応しい白闇の衣よ」
牡丹曰く、この服は「雷」と「聖」属性を無効化してくれるらしい。
さらに「水の属性は弱点だから気を付けなさい」と付け加えた。なんのこっちゃ。
「色落ちするから、洗濯機で水洗いしちゃダメってことだよ」
ああ、なるほど。それで「水属性」ね。
兎の的確な翻訳と闇のアイテムを手に入れた修子は、まるでクリスマスプレゼントをもらった幼稚園児のように目を輝かせている。
「それじゃあ、さっそく着替え……」
「ここで脱ぐんじゃない」
早々とスカートのチャックに手を掛けた修子を、僕は流水のような動きで止めるのだった。
僕と同じ高校に通い、三年間を同じクラスで過ごした。
成績は優秀、スポーツも万能。ちょっと変わった(というか、だいぶ変態)キャラだったけど物怖じしない性格で誰とでも仲がよく、常にクラスの中心だった修子はどういうわけか僕に構うようになり、いつの間にか修子のボケと僕のツッコミが定着して、僕はいつも修子と一緒に過ごすようになっていた。
高校を卒業すると修子は国立の有名大学に進学したが、
「大学はつまらん」「あんな授業は聞いてても役に立たない」
と言って昼間っから僕の家に入り浸り、僕の母親も、
「修子ちゃんは今日も学校サボり?」
などと心配しているんだか呆れているんだか、まあ引きこもりでニートの僕をお守してくれるからありがとう、みたいな適当さで迎え入れていた。
そうやって頻繁に家にやってくる修子は、ネットの世界や面白いブログを教えてくれたり、時にはちょっとエッチなアダルトサイトを、
「にししっ、どうだイツキ、これは興奮するだろ?」
なんて無理やり見せてきたり、『yukiBerry』っていう人のブログが一番面白いということを滔々と語ったりしながら、ネットを徘徊している中で『白雪学園』のサイトを見つけたわけ。
入学の申し込み期限がギリギリだったせいで僕には考える暇すら与えられず、半ば――というかほぼ強制的に僕も一緒にこの仮想世界に飛び込む羽目になって……
入学式も履修科目も一緒で、学生寮はすぐ隣の部屋、授業も放課後も休みの日も一緒、挙句の果てには「変態バズリティーと学園の最弱ブロガー」なんてコンビ名まで付けられる僕と修子は――
ベッドを共にする恋人同士だと壮大な勘違いをされていた。
「どうりで毎晩、変な声が聞こえると思ったんだよ」
すけたら君の部屋は僕の真上だから――って、いやいや、それは修子がアダルトなサイトを巡回して興奮している声であって……
「でも、お二人はお似合いですわ」
イルカさん、そんな大真面目に言わないで! お似合いってことは僕にも変態的な性癖がある――みたいな目を向けないでほしい。
「モモイロ君と仮面しゃんが小さなベッドで夜な夜な……ゴクリ。うらやまけしからんお!」
鼻の下を伸ばして変な妄想すなっ! そして生唾を飲むな、このエロダンゴ!
「まあまあ、年頃の男女が一つ屋根の下にいれば仕方ないことだぜ。ステ娘教師には内緒にしといてやるからさ」
ニンマリと悪い笑みを浮かべるすけたら君。別にこの学園は恋愛を禁止しているわけではなく、いやそれ以前に僕と修子はそういう関係じゃないんだってば!
必死の否定が余計にみんなのボルテージを上げてしまう。
「イツキ、顔が真っ赤だぞ」
アダルト科の教室に誤解と誤認と誤報のサイバーテロを仕掛けた修子は、みんなが勘違いの妄想を膨らませているのがよほど楽しいらしく、ダダ下がる目尻をつゆだくにして笑い転げていた。
結局、ステ娘教師は授業に戻ってくることはなく、自習という名の雑談に終始した僕らの一日は終業の鐘で終わりを迎える。
僕と修子は揃って教室を出ると、F棟の階段から三階のイラストレーション科の前で足を止めた。
ちょうどイラストレーション科の生徒たちも帰寮するところらしく、何人かの生徒が教室から出て来た中に、
「あ、来たよ牡丹ちゃん」
しろい兎と不知火牡丹が僕らを見上げていた。
「モモイロさん、こんにちは」
胸元のメロン畑をたゆんと揺らして頭を下げる兎の隣には、
「我が眷属、待っていたわよ」
相変わらずのゴスロリ服ではあるけれど、人形のように整った顔立ちで不敵な笑みを浮かべる牡丹の姿。その手には大きな紙袋を提げていた。
「約束の物を持ってきたのよ。サイズを合わせるのに少し時間がかかってしまったけれど」
そう言って牡丹は真っ黒な紙袋を修子に差し出す。
ああ、いつぞやの書店で黒い羽根の代わりにと言っていたものか。えっと、たしか……
「昏睡のサウザンドレッシング?」
「黄昏のサザンクロスよ!」
う~ん、間違えた方を憶えてしまうのはなぜだろう――と僕は高校時代にテストでよく失敗するパターンを思い起こした。
「受け取りなさい、我が眷属に相応しい白闇の衣よ」
牡丹曰く、この服は「雷」と「聖」属性を無効化してくれるらしい。
さらに「水の属性は弱点だから気を付けなさい」と付け加えた。なんのこっちゃ。
「色落ちするから、洗濯機で水洗いしちゃダメってことだよ」
ああ、なるほど。それで「水属性」ね。
兎の的確な翻訳と闇のアイテムを手に入れた修子は、まるでクリスマスプレゼントをもらった幼稚園児のように目を輝かせている。
「それじゃあ、さっそく着替え……」
「ここで脱ぐんじゃない」
早々とスカートのチャックに手を掛けた修子を、僕は流水のような動きで止めるのだった。
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