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第三十話 オタンコナスと、コンピューター

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 修子のバズリティーとあっくんが交錯し、変態的服脱がせが決まった――はずだった。

 ノーパン仮面の手には、灰色のシャツと黒いネクタイ、細身の黒いスラックス、青いラインが入った白いコートと……目の覚めるように鮮やかな青い下着。
 上着からズボンから下着まで、あっくんが身に着けていたものが丸々握られている――にも関わらず、

「おいアンタ! イケメンなのにそのギャグみたいなかわし方は何だよ!?」

「まさか本当にボクを狙ってくるとは……万が一を想定してきて良かったですよ」

 あっくんは自分の身体を確かめるようにその身を見回すと、ほっと息を吐いた。あっくんが身に着ける服装はノーパン仮面が握りしめるものと瓜二つ、いや――白いコートは着ていないが、シャツにネクタイ……そして黒いスラックスをしっかりとでいる。

「アンタまさか、中に同じ服をもう一枚着てたのか?」

「さすがにコートは無理でしたけどね。でも――」

 あっくんはチラと頭上を見上げる。そこに映るパラメーターは

『VIT:0』

 サーベラスへの異臭攻撃が決定打となったのか、あっくんの服が(外側だけ)剥けたからなのか、はたまたその両方なのか。ノーパン仮面の一撃で、ドッグマスターあっくんのVITはあっけなくゼロになっていた。

「サーベラスはもう戦えません。まさか嗅覚を潰してくるとは予想していませんでした。あなたのバズリティーはボクの分析を超えています」

 番猋ばんひょうのサーベラスはラフレシアの腐臭がよほど効いたのか、三つ首を激しく振りながら悶えている。
 嗅覚を潰され視界までも朦朧もうろうとさせ、それでもあるじであるマスターの元へ後ずさりすると、光の粒となって消えていった。
 その光の粒を一つ、優しく握りしめたあっくんは、

「ボクの負けです。服が剥かれて恥をかくのは免れましたが、こうもあっさり負けてしまうとは」

 手のひらから光彩が失われるのを見届けていた。
 やがて試験会場は割れんばかりの歓声と怒声に包まれる。

「ウソだろ? あんな変態バズリティーが一年生エースに勝っちまったぞ!? それも一撃だ!」

「あっくん様が負けるなんて信じられない!」

「いつまで汚ねぇモンぶら下げてんだ、早く消えろオタンコナス!」

 どちらかというと野次っぽい声が多いのは、修子のバズリティーが未だに全裸だからであって、汚いものをぶら下げてるのはノーパン仮面のスタイルであって、つまりそれが修子の個性オリジナリティであって……でも「オタンコナス」は上手いなと思った。

 ノーパン仮面はそのオタンコナスに向けられる野次を包み込むように黒いマントを纏うと、ラフレシアのコサージュを摘まんだ。腐肉の花びらを高く掲げ、声援に応えるように右へ、左へと仰いでみせると、

 すぅっ……

 まるで優雅にバラの香りを楽しむようにラフレシアを嗅いで、

「おふっ!」

 膝をガクっと落とすと、白い光の粒となって消えていった。
 それを見届けたステ娘教師が、

「それまで! 勝者、仮面修子」

 と判定を下す。
 勝因はイマイチ分からないけど、こんなギャグみたいなバズリティーが、期末試験で学年優勝をしてしまったのだ。

 敗れたあっくんは悔しさを噛みしめたまま、しかしそんな情けない顔は見せまいと踵を返し、舞台を去ろうとする。
 お決まりのデータ収集は――頭から抜けてしまったのだろう。
 そんな後ろ姿に、

「おい」

 と声をかけたのは、キツネのお面を被ったままの修子。

「アンタ、自分の犬が好きか?」

 そう呼び止められたあっくんは立ち止まり、しかしこちらを振り向くことはないまま、

「ええ。サーベラスはボクの愛犬ですから」

 はっきりと、芯の通った声で答えた。

「じゃあ、アンタは自分のブログが好きか?」

「……? どういう意味です?」

愛犬サーベラスと同じくらいに、自分のブログが好きか?」

 あっくんは少しの沈黙をおいて、なんとか言葉を探し当てたように答える。

「サーベラスは生き物です。ボクの友達で、家族で、仲間です。が、ブログは違います。ブログはただのツールです。好きか嫌いかと聞かれても、どちらでもありません」

 それからもう一つ呼吸をおいて、

「ボクはるり子さんや男衾おぶすま先輩のように、ブログ界の頂点を目指そうとこの学園に来ました。だからボクにとってのブログは階段みたいなものです。道を定めてのぼっていけば、いつか必ず頂上に辿り着ける。ボクはその階段を、サーベラスと一緒にのぼっているだけです」

 あっくんは頭の中に書いた文章を音読するように――いや、まるでコンピューターで弾き出された数式をキーボードを叩いて転写しているように答えた。

「ふうん……アンタがそうやって考えている限り、アンタのパラメーターが10倍あっても、アタシには勝てないな」

「え……?」

 あっくんが振り返った時には、修子は背を向けて歩き出していた。

 僕らアダルト科の皆が待つところにスタスタと歩を進め、不思議そうに見つめるあっくんを振り返ることなく、ただ――

 キツネのお面は少しだけ不機嫌そうな顔をしていた。
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