30 / 78
第三十話 オタンコナスと、コンピューター
しおりを挟む
修子のバズリティーとあっくんが交錯し、変態的服脱がせが決まった――はずだった。
ノーパン仮面の手には、灰色のシャツと黒いネクタイ、細身の黒いスラックス、青いラインが入った白いコートと……目の覚めるように鮮やかな青い下着。
上着からズボンから下着まで、あっくんが身に着けていたものが丸々握られている――にも関わらず、
「おいアンタ! イケメンなのにそのギャグみたいなかわし方は何だよ!?」
「まさか本当にボクを狙ってくるとは……万が一を想定してきて良かったですよ」
あっくんは自分の身体を確かめるようにその身を見回すと、ほっと息を吐いた。あっくんが身に着ける服装はノーパン仮面が握りしめるものと瓜二つ、いや――白いコートは着ていないが、シャツにネクタイ……そして黒いスラックスをしっかりと着たままでいる。
「アンタまさか、中に同じ服をもう一枚着てたのか?」
「さすがにコートは無理でしたけどね。でも――」
あっくんはチラと頭上を見上げる。そこに映るパラメーターは
『VIT:0』
サーベラスへの異臭攻撃が決定打となったのか、あっくんの服が(外側だけ)剥けたからなのか、はたまたその両方なのか。ノーパン仮面の一撃で、ドッグマスターあっくんのVITはあっけなくゼロになっていた。
「サーベラスはもう戦えません。まさか嗅覚を潰してくるとは予想していませんでした。あなたのバズリティーはボクの分析を超えています」
番猋のサーベラスはラフレシアの腐臭がよほど効いたのか、三つ首を激しく振りながら悶えている。
嗅覚を潰され視界までも朦朧とさせ、それでも主であるマスターの元へ後ずさりすると、光の粒となって消えていった。
その光の粒を一つ、優しく握りしめたあっくんは、
「ボクの負けです。服が剥かれて恥をかくのは免れましたが、こうもあっさり負けてしまうとは」
手のひらから光彩が失われるのを見届けていた。
やがて試験会場は割れんばかりの歓声と怒声に包まれる。
「ウソだろ? あんな変態バズリティーが一年生エースに勝っちまったぞ!? それも一撃だ!」
「あっくん様が負けるなんて信じられない!」
「いつまで汚ねぇモンぶら下げてんだ、早く消えろオタンコナス!」
どちらかというと野次っぽい声が多いのは、修子のバズリティーが未だに全裸だからであって、汚いものをぶら下げてるのはノーパン仮面のスタイルであって、つまりそれが修子の個性であって……でも「オタンコナス」は上手いなと思った。
ノーパン仮面はそのオタンコナスに向けられる野次を包み込むように黒いマントを纏うと、ラフレシアのコサージュを摘まんだ。腐肉の花びらを高く掲げ、声援に応えるように右へ、左へと仰いでみせると、
すぅっ……
まるで優雅にバラの香りを楽しむようにラフレシアを嗅いで、
「おふっ!」
膝をガクっと落とすと、白い光の粒となって消えていった。
それを見届けたステ娘教師が、
「それまで! 勝者、仮面修子」
と判定を下す。
勝因はイマイチ分からないけど、こんなギャグみたいなバズリティーが、期末試験で学年優勝をしてしまったのだ。
敗れたあっくんは悔しさを噛みしめたまま、しかしそんな情けない顔は見せまいと踵を返し、舞台を去ろうとする。
お決まりのデータ収集は――頭から抜けてしまったのだろう。
そんな後ろ姿に、
「おい」
と声をかけたのは、キツネのお面を被ったままの修子。
「アンタ、自分の犬が好きか?」
そう呼び止められたあっくんは立ち止まり、しかしこちらを振り向くことはないまま、
「ええ。サーベラスはボクの愛犬ですから」
はっきりと、芯の通った声で答えた。
「じゃあ、アンタは自分のブログが好きか?」
「……? どういう意味です?」
「愛犬と同じくらいに、自分のブログが好きか?」
あっくんは少しの沈黙をおいて、なんとか言葉を探し当てたように答える。
「サーベラスは生き物です。ボクの友達で、家族で、仲間です。が、ブログは違います。ブログはただのツールです。好きか嫌いかと聞かれても、どちらでもありません」
それからもう一つ呼吸をおいて、
「ボクはるり子さんや男衾先輩のように、ブログ界の頂点を目指そうとこの学園に来ました。だからボクにとってのブログは階段みたいなものです。道を定めてのぼっていけば、いつか必ず頂上に辿り着ける。ボクはその階段を、サーベラスと一緒にのぼっているだけです」
あっくんは頭の中に書いた文章を音読するように――いや、まるでコンピューターで弾き出された数式をキーボードを叩いて転写しているように答えた。
「ふうん……アンタがそうやって考えている限り、アンタのパラメーターが10倍あっても、アタシには勝てないな」
「え……?」
あっくんが振り返った時には、修子は背を向けて歩き出していた。
僕らアダルト科の皆が待つところにスタスタと歩を進め、不思議そうに見つめるあっくんを振り返ることなく、ただ――
キツネのお面は少しだけ不機嫌そうな顔をしていた。
ノーパン仮面の手には、灰色のシャツと黒いネクタイ、細身の黒いスラックス、青いラインが入った白いコートと……目の覚めるように鮮やかな青い下着。
上着からズボンから下着まで、あっくんが身に着けていたものが丸々握られている――にも関わらず、
「おいアンタ! イケメンなのにそのギャグみたいなかわし方は何だよ!?」
「まさか本当にボクを狙ってくるとは……万が一を想定してきて良かったですよ」
あっくんは自分の身体を確かめるようにその身を見回すと、ほっと息を吐いた。あっくんが身に着ける服装はノーパン仮面が握りしめるものと瓜二つ、いや――白いコートは着ていないが、シャツにネクタイ……そして黒いスラックスをしっかりと着たままでいる。
「アンタまさか、中に同じ服をもう一枚着てたのか?」
「さすがにコートは無理でしたけどね。でも――」
あっくんはチラと頭上を見上げる。そこに映るパラメーターは
『VIT:0』
サーベラスへの異臭攻撃が決定打となったのか、あっくんの服が(外側だけ)剥けたからなのか、はたまたその両方なのか。ノーパン仮面の一撃で、ドッグマスターあっくんのVITはあっけなくゼロになっていた。
「サーベラスはもう戦えません。まさか嗅覚を潰してくるとは予想していませんでした。あなたのバズリティーはボクの分析を超えています」
番猋のサーベラスはラフレシアの腐臭がよほど効いたのか、三つ首を激しく振りながら悶えている。
嗅覚を潰され視界までも朦朧とさせ、それでも主であるマスターの元へ後ずさりすると、光の粒となって消えていった。
その光の粒を一つ、優しく握りしめたあっくんは、
「ボクの負けです。服が剥かれて恥をかくのは免れましたが、こうもあっさり負けてしまうとは」
手のひらから光彩が失われるのを見届けていた。
やがて試験会場は割れんばかりの歓声と怒声に包まれる。
「ウソだろ? あんな変態バズリティーが一年生エースに勝っちまったぞ!? それも一撃だ!」
「あっくん様が負けるなんて信じられない!」
「いつまで汚ねぇモンぶら下げてんだ、早く消えろオタンコナス!」
どちらかというと野次っぽい声が多いのは、修子のバズリティーが未だに全裸だからであって、汚いものをぶら下げてるのはノーパン仮面のスタイルであって、つまりそれが修子の個性であって……でも「オタンコナス」は上手いなと思った。
ノーパン仮面はそのオタンコナスに向けられる野次を包み込むように黒いマントを纏うと、ラフレシアのコサージュを摘まんだ。腐肉の花びらを高く掲げ、声援に応えるように右へ、左へと仰いでみせると、
すぅっ……
まるで優雅にバラの香りを楽しむようにラフレシアを嗅いで、
「おふっ!」
膝をガクっと落とすと、白い光の粒となって消えていった。
それを見届けたステ娘教師が、
「それまで! 勝者、仮面修子」
と判定を下す。
勝因はイマイチ分からないけど、こんなギャグみたいなバズリティーが、期末試験で学年優勝をしてしまったのだ。
敗れたあっくんは悔しさを噛みしめたまま、しかしそんな情けない顔は見せまいと踵を返し、舞台を去ろうとする。
お決まりのデータ収集は――頭から抜けてしまったのだろう。
そんな後ろ姿に、
「おい」
と声をかけたのは、キツネのお面を被ったままの修子。
「アンタ、自分の犬が好きか?」
そう呼び止められたあっくんは立ち止まり、しかしこちらを振り向くことはないまま、
「ええ。サーベラスはボクの愛犬ですから」
はっきりと、芯の通った声で答えた。
「じゃあ、アンタは自分のブログが好きか?」
「……? どういう意味です?」
「愛犬と同じくらいに、自分のブログが好きか?」
あっくんは少しの沈黙をおいて、なんとか言葉を探し当てたように答える。
「サーベラスは生き物です。ボクの友達で、家族で、仲間です。が、ブログは違います。ブログはただのツールです。好きか嫌いかと聞かれても、どちらでもありません」
それからもう一つ呼吸をおいて、
「ボクはるり子さんや男衾先輩のように、ブログ界の頂点を目指そうとこの学園に来ました。だからボクにとってのブログは階段みたいなものです。道を定めてのぼっていけば、いつか必ず頂上に辿り着ける。ボクはその階段を、サーベラスと一緒にのぼっているだけです」
あっくんは頭の中に書いた文章を音読するように――いや、まるでコンピューターで弾き出された数式をキーボードを叩いて転写しているように答えた。
「ふうん……アンタがそうやって考えている限り、アンタのパラメーターが10倍あっても、アタシには勝てないな」
「え……?」
あっくんが振り返った時には、修子は背を向けて歩き出していた。
僕らアダルト科の皆が待つところにスタスタと歩を進め、不思議そうに見つめるあっくんを振り返ることなく、ただ――
キツネのお面は少しだけ不機嫌そうな顔をしていた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
【完結】どうやら魔森に捨てられていた忌子は聖女だったようです
山葵
ファンタジー
昔、双子は不吉と言われ後に産まれた者は捨てられたり、殺されたり、こっそりと里子に出されていた。
今は、その考えも消えつつある。
けれど貴族の中には昔の迷信に捕らわれ、未だに双子は家系を滅ぼす忌子と信じる者もいる。
今年、ダーウィン侯爵家に双子が産まれた。
ダーウィン侯爵家は迷信を信じ、後から産まれたばかりの子を馭者に指示し魔森へと捨てた。
魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど
富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。
「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。
魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。
――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?!
――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの?
私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。
今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。
重複投稿ですが、改稿してます
タイムワープ艦隊2024
山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。
この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。
『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【完結】転移魔王の、人間国崩壊プラン! 魔王召喚されて現れた大正生まれ104歳のババアの、堕落した冒険者を作るダンジョンに抜かりがない!
udonlevel2
ファンタジー
勇者に魔王様を殺され劣勢の魔族軍!ついに魔王召喚をするが現れたのは100歳を超えるババア!?
若返りスキルを使いサイドカー乗り回し、キャンピングカーを乗り回し!
経験値欲しさに冒険者を襲う!!
「殺られる前に殺りな!」「勇者の金を奪うんだよ!」と作り出される町は正に理想郷!?
戦争を生き抜いてきた魔王ババア……今正に絶頂期を迎える!
他サイトにも掲載中です。
【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる