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第二十二話 ピンクシャイニング・トルネード・サンシャイン・フォーメーションアルファ・パッショングランド・シャイニートール・ハートアタック!

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 パソコンのエラーだか不具合だかバグだか何だか知らないけど、僕のバズリティーは出てこなかった。

 その代わりに、ドッグマスターあっくんと対戦する僕のバズリティーはコインちゃん。自分で「美少女」と名乗ってしまう学園ナビゲーターだ。

「……始め」

 仕方なしといった声のステ娘教師が合図をすると、コインちゃんが電飾きらめく魔法のステッキをかざした。
 そうして、

「はあぁぁぁぁぁっ!」

 っと、可愛らしいけど気合の入った、でもやっぱり可愛いだけの掛け声を上げ、

「輝け! コイキュア・ピンクハートウェイブ!」

 何か必殺技のようなセリフを叫んだ。
 どこかで聞いたことのあるような技名なのは気のせいかな。と、固唾を飲んで見守る僕。ドッグマスターあっくんは、一瞬構えるような体勢を取るが……

「何も出ないじゃないか」

 ジト目の修子が言うとおり、コインちゃんの攻撃はハートの電飾が虚しく光るだけ。コイキュア・ピンクハートウェイブが放ったのは、ブリザードのような寒い雰囲気だけだった。
 で、その冷気に当てられて凍りついたのは僕。

 それを見たあっくんは「フッ」と息を吐き、すぐさま攻撃に転じる。

「サーベラス!」

 主人マスターの命令で、番猋ばんひょうのサーベラスが駆け出した。
 その巨体は犬というよりも獅子。屈強な四肢で勢いよく舞台を蹴ると、三つ首を震わせながら巨躯を駆り、獰猛な牙を剥き出してコインちゃんに襲い掛かった。

「危ない!」

 僕の叫び声と同時にコインちゃんが飛び上がり、サーベラスの突進を難なくかわす。すごい、なんて高く飛び上がるんだ!
 サーベラスが三つ首を振り上げ、その行方ゆくえを睨む。と同時に、宙に浮いたコインちゃんは魔法のステッキを構えた。
 また魔法をやるの?

「今度はマジメにやっちゃうよ~☆」

 電飾が彩るおもちゃのステッキを胸に当てると、コインちゃんの身体がピンク色の光に包まれる。
 これは……さっきと違うぞ!?
 淡い光を纏ったコインちゃんはまるで魔法少女のようだ。今度こそ、あそこから魔法を使うのか?

「いえ、それもただの脅し……とボクは分析します」

 そう言って、あっくんが命ずる。

「サーベラス、地獄の火炎ヘルファイアーだ!」

 三つ首の番猋ばんひょうが、鋭い牙の隙間から赤黒い炎を漏らし――

「グヴァーーー!」

 と咆哮すると、三頭それぞれが猛烈な炎を吐いた。あんな炎を喰らったら一発で黒コゲだ!
 しかしコインちゃんは慌てることなく魔法のステッキを構え、

「コイキュア! ピンクシャイニング・トルネード・サンシャイン・フォーメーションアルファ……」

 またしても、どこかで聞いたことのあるような技名をとことんミックスした、長ったらしいセリフを――

「パッショングランド・シャイニートール……あひゃーーー!」

 唱え終わる前に、サーベラスの炎に飲み込まれてしまった。
 詠唱が長いよっ!

 結局、魔法は何も発動しないまま、地獄の火炎ヘルファイアーの直撃を喰らい勢いよく舞台に落下。辛うじて着地したコインちゃんだが、その姿は文字どおりの真っ黒コゲ。ペタンと尻もちをつくと、両目をグルグルにしたまま光の粒となって消えてしまった。

 僕のパラメーターは『VIT:0』

 ブログのブックマークがゼロの僕に最低限与えられた『VIT:10』は、番猋のサーベラスが放った業火に焼かれて一瞬で尽きてしまった。オーバーキルもいいところだ。

「そこまで」

 落ち着いた声で、ステ娘教師が終了の合図を告げる。
 その合図に反応してサーベラスはゆっくりとあっくんの元に歩いていくと、巨体を屈めてすり寄った。まるで犬が主人に甘えるように三つの頭を押し付けている姿は、飼い慣れた愛玩動物ペットそのもの。すり寄る頭をあっくんが優しく撫でると、サーベラスもまた光の粒となって消えていった。

 そうしてバズリティーを収めたあっくんはパソコンのモニターを眺めると、

「ステ娘教師」

 その切れ長な目でステ娘教師を見据えた。

「今回はあなたに頼まれたので仕方ありませんが、次からこういうのはお断りしますよ」

「……そうか」

「こんな、ボクにとって得のないバトルは想定外です。報酬のリンクシステムが得られないなんて、ボクのブログ運営には無用の試験でしたよ」

 まるで吐き捨てるように言い放つと、さっさと舞台を降りてしまった。

 ――得がない? リンクシステム?

 あっくんの言っていることはよく分からなかったけど、パラメーターの低い僕を相手にしたことで気を悪くしたのだろうか。勝負というよりは、僕のバズリティー(コインちゃん)が一方的にやられただけだから。
 何ともいえない引け目を感じながら舞台を降りた僕に、修子が近寄ってきた。

「イツキ、よくやったな」

「はは……まるで勝負にならなかったけどね」

「いや、勝ち負けじゃない。イツキは初めて自分で前に進んだんだ。アタシには見えたぞ、イツキのやる気が」

 興奮気味に喋る修子から、たかぶった想いが伝わってくる。僕はこっちに来てから初めて修子に褒められたような気がして、少し照れ臭い。

「だからアイツの言うことは気にするな。あれはきっと、損得で物事を考える人間だ」

 そう言って修子は、あっくんの後ろ姿に冷ややかな視線を向けた。

「でもさ……同じ新入生で一年生なのに、あのパラメーターはすごいよね。バズリティーもとんでもない強さだったし」

 ドッグマスターあっくんはちょっとお堅くて機械的な人間だけど、あれだけのパラメーターと、あれだけのバズリティーを持つには、どれだけ本気でブログに取り組んでいるんだろう。
 しかし修子は、あっくんの態度が相当気に食わなかった様子だった。バカにされたのは僕なんだけどね。

「たしかにアイツはなかなかのブロガーだ。けどな――」

 試験舞台の向こう側。

 修子は他の生徒たちに紛れていくあっくんを見やり、

「――あの程度、アタシが一撃で剥いてやるさ」

 ニヤリと笑ってみせるのだった。
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